第十四話 約束
いきなり一年後です。その間のお話は別に書く予定ですので、宜しくお願いします。
この一年色々な事があった。
何度も挫折しそうになった。
様々な妨害があった。
死にそうな目にもあった。
しかし、そんな中でも生き抜き『あの日』からもうすぐ一年になる…。
明後日卓也は十七歳になる。
卓也は『宮』の家に居た。
『組織』から『宮』の『名』を継ぐのは確定しているから、『家に戻っていい』と、知らせが有ったからだ。
「これが最後だ」
卓也が部屋を片付けていると樹が箱を抱えて来た。
「サンキュー。そこらに置いといてくれ」
「ああ」
樹はドアの近くに箱を置き、卓也のそばによった。
「どうだ?」
「片付けは大体終わった。本当は必要な物以外全部捨ててもよかったんだけどな…さすがに勿体ないし、惜しくてな…」
「そうか」
「手伝ってくれてありがとな。おかげで昼前には終わりそうだ」
卓也は笑顔で礼を言った。
樹はそれから卓也に頼まれた細々したものをやり、卓也は未だ手付かずの荷物を分類していった。
「あれ?」
卓也は最後の箱を開けしばらく中をゴソゴソしていると、何か見つけたのか樹に話かける以外の声をこの部屋に入って初めて出した。
「どうした?」
樹は卓也のそばによると、手元を覗きこんだ。
卓也が箱から取り出したのは少し薄汚れている白い封筒だ。
「それが?」
樹は封筒を不思議そうに見た。
「分からないんだ…でも、気になるんだ…」
卓也は少し茫然としながら封筒を見つめた。
「気になるのなら中身を見ればいい」
樹は事も無げに言った。
「そうなんだが…」
卓也は封筒を握り締めてなかなか中身を見ようとしない。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「…貸せ。開ける」
そう言うと樹は封筒をひったくった。
「あ…」
卓也は力なく封筒を目線で追った。
樹は躊躇することなく糊付けされてない封筒をあけ、一枚の便箋を取り出した。
「『いつかあの人に笑顔を』?」
「え?」
「そう書いてある」
卓也は便箋を受け取った。
(ああ…そうだ…なんで…)
「忘れられたんだろう…」
「?」
「八歳だったかな…約束したんだ…決めたんだ…絶対にって…」
卓也は頭を下げながら深く深くため息をついた。
「…それで?」
「ああ…約束したんだ」
卓也はあの後、部屋の片づけを手早く終わらせ樹を伴って居間に来た。
樹は卓也が落ちついたのを確認すると話を促した。
「子どもの頃、父に連れられある施設に行ったんだ…」
卓也は語り始めた。
忘れていたのが嘘のように、まるで昨日の出来事を友達に話して聞かせるようにしゃべり続けた。
「…その後の修行の忙しさと厳しさですっかり忘れてた…」
「そうか…」
卓也は話し終えると自称気味に笑った。
「で?」
「え?」
「どうするんだ?」
「どうする…」
「もうじき十年になるのだろう?」
「ああ、そうだな…」
卓也は少し考えると言った。
「忘れていたとはいえ、約束は守る…明後日の継承式が終わったら動く」
「そうか」
「ああ。樹、ありがとう」
卓也は純粋な笑顔で言った。
「いやいい」
そして、この日を迎えた。
「卓也。この一年よく勤め上げた」
一年前と同じ場所に同じ面子がそろった。
「この一年間でお前に『名』を継がせるのに反対していた者達も殆ど居なくなり、後はやっかみの声だけ。それは気にすることでない」
「はい」
卓也は深く頭を下げ言葉を待った。
「卓也、そろそろ面をあげよ」
「はい」
卓也はゆっくりと顔を上げた。
「卓也。『宮』の『名』は『宮』の字を入れれば好きな姓に出来る。今ここで皆に示せ」
「はい。私のこれからの姓は『宮神』…『宮』とそして、神様の『神』で『宮神』。神を恐れ敬う事を忘れない『名』とします」
卓也は真っ直ぐ大神を見ていった。
「ハハハ…神を語るか。いいだろう。その『名』今日これより背負うがいい」
その後、卓也は『名』の継承式と書類上の手続きを終わらせ、翌日の午後には『組織』の本部から出て行った。
卓也は家に戻るとまず、今の卓也に集められるだけの情報を集めた。
それによると、『筒』の中にいた『女性』はすでに『外』に出ておりそろそろ『組織』の仕事をやらせるために、後見人を探していた。
(…ナイス・タイミングと言うか…仕組まれてんのか?)
そう思うほどの情報が集まった。
(ま、いいか…)
卓也は『組織』の後見人候補リストに自分の名前を潜り込ませた。
事あるごとにアプローチしていった。
『彼女』がいる施設にも、足を運んだ。
そして、事情を知っている父親に後押ししてもらい、十八歳の誕生日を過ぎた頃『彼女』を試験的に引き取ることが決定した。
「約束を果たせるな」
「はい。尽力ありがとうございます」
「忘れていると分かったときはハラハラしたぞ…」
「そうでしたか…ご心配おかけしました」
父親で無くなってしまったからか、卓也は十六歳の誕生日からたとえ二人きりになっても父親を師匠としてしか接しなかった。
父親も卓也の並々ならぬ決意を感じ取っていたが、子ども半分弟子半分で接していた。
卓也は再び人生の節目を迎えた。
思えは何度目だろう。
まだ十代の人間が背負うにしてはあまりに重過ぎるかも知れない。
しかし、卓也は自分の意思で背負い続けてきた。
これからもきっと卓也は、背負い続ける。
運命を。
卓也は幼い頃父親に連れられてきた施設にきた。
今度は自分一人で、自分の意思で。
卓也はここでも様々な書類に目を通しサインした。
そしてとうとう、一つの扉の前に立った。
「ここから、出してあげる・・・一緒に行こう」
卓也は約束を果たすために『彼女』を日の光の当たる所に連れ出した。
かなり飛び飛びな話になってしまいました…すみません。
この話は連鎖シリーズの第二を読めば詳しく分かります。