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第十三話 話

 しばらくの月日が経った。


 卓也はこの日十六歳になる。

 そしてこの日は、卓也の一本立ちの日でもある。




 卓也は前日から『組織』の本部に泊り込み色々な雑用をこなしていた。

 その中に異世界の住人イツ・キの後見人になるための雑務もあった。


 イツ・キはしばらくこちらの世界に留まることを宣言し、霊力と異世界の物であるがそれに関する知識があると言うことから、『組織』と契約し術者としてしばらく過ごすこととなった。

 しかし、イツ・キは今回卓也に協力し山神をこちらに渡らせた実績はあるが、異世界の人間と言うことでなかなか『組織』から信用を得られなかった。

 そこで、卓也が後見人になり万が一の場合全ての責任を取ると言うことで決着がついた。




 卓也はイツ・キの後見人になるための資料作成、一方イツ・キは数日前から『組織』の書庫にで一日中こちらの世界の勉強をしていた。





「これより審議を始める」

 卓也は誕生日当日広い座敷に朝から座っていた。

 両脇には二十人近くの様々な格好をした人間。

 座敷の上座には三人…。

 そのうちの一人中央に座っている人間が『組織』の総帥、大神(おおがみ) 長名(おさな)

 大掛かりな組織を束ねるには少々若い感じがする、四十代の男性だ。


「これまでの仕事の経過、結果を考慮し卓也を一人前の術者として認めることとす。異議があるものはここで発言すること。その後の異議申し立ては認めない」

 大神は周りを見回しながら言った。

 皆、何を言わずに卓也を見た。


「我らに異議はありません。ただあるとすれば、若すぎると言う点でしょうか…」

 しばらくの沈黙の後上座の方に居る一人が言った。

「それも時が解決する。しばらくの間は様子を見る必要はあるでしょうが、それもたまにでいいだろう」

 大神は発言者のほうに向って言った。

 皆それに同意したのか幾人か頷いた。

「卓也、本日これより貴公を正式な術者として認める」

「ありがとうございます」

「おめでとう」

 大神は皆から異議が無い事を再び確認し、卓也に正式に宣言した。


「会長宜しいでしょうか?」

 卓也が認められた後、卓也の父親が軽く前に出て行った。

「いかがした」

「はい。卓也に私は今この場で『宮』の『名』を継承させたいと思います」

 その一言で今まで身じろぎ一つしなかった者達までざわめいた。

「それはあまりにも…」

「おい、いくらなんでも…」

「そんなことをしたら…」

「出来るわけ無い…」

 口々に反論が始まった。


「落ちつけ」

 大神が静かにそしてこの騒音の中でも皆の耳に届く声で言った。

 座敷は水を打ったように静まり返った。

「なぜそのようなことを?」

 大神は卓也の父親に向っていった。

「卓也は、親の欲目かもしれませんが年齢と経験度以外の条件はクリアしていると思います。さらにこの前『空名(くうな)』が出ました。卓也が『宮』の『名』を継げば私がその『空名(くうな)』を継げます」

「考えは分かった。しかし、『空名(くうな)』は他にもある…そう急ぐことも無い。卓也に四〜五年経験をつませてからでも遅くは無いだろう」

「いいえ。『空名(くうな)』となったのは『塚』…その役目をたとえ一度でも他の『名』が行った事はありません。古いと言われるかも知れませんが、どうにか出来るのであれば避けたいのです」

「…確かに『塚』の役目は重要だ…しかし、他にも候補者はいる」

「…宜しいでしょうか?」

 今まで黙って事の成り行きを見ていた卓也が始めて発言した。

「『名』とは一体なんですか?」

「『名』のことは術者として認められたものだけが知ることの出来る『組織』の情報の一つだ…ちょうどいい『名』に関して教えよう」

 大神が答えた。

「皆、話が終わるまで余計な言葉は慎め」

  大神は皆が了承するのを確認すると、少し間を空けて話始めた。


「この『組織』が十二人の人間が最初に結成したことは知っているだろう。そして、その十二人はそれぞれに役割分担を決めた…一人は全てをまとめあげ、一人は守り、一人は神事をとり行い、一人は後始末をし…」

大神はフッと何かを思い出す用に視線をそらした。

「そしてその人たちの『役割』と『名』の一部が今に伝わっている…ちなみに、『塚』は神事をとり行なう『名』だ。理解したか?」

 卓也は頷き、大神が続けるであろう言葉を続けた。

「はい。分かりました…そして、『名』が継承されていない事を『空名』…さらに、最近『空名』になってしまったのが『塚』…」

「その通り。そして、『名』を継承するには幾つかの条件がある。おまえの父親は『宮』に『塚』、その外幾つかの『名』を継承する条件を満たしている…どの『名』を継承させるか決定する時、『宮』の『名』が一番よかったのだ」

「…『名』とは一生背負うものでは無いのですね?」

「そうだ。かつては四度も『名』を変えた者もいる」

 卓也は少し考える仕草をした。

「会長。『宮』を『空名』にすることは出来ないんですか?」

 卓也はしばらく考えた後言った。

「『宮』をか…出来なくは無いが…」

「何か問題があるのですか?」

 今度は大神が考え始めた。

「卓也よそうなるとお前は家を出なくてはならなくなるが、それでもいいか?」

 卓也の父親が始めて口を出した。

「…家を…?」

「そうだ。『名』を継ぐと役割とその『名』に受け継がれている財も継ぐことになる。『宮』には今住んでいる家がその財にあたる」

「なるほど…そういった利点があるわけですね…父さん俺は別にかまいません。別のところに住めばいい」

「お前は、それでいいのか?」

「はい」

「二人で会話をまとめないでほしい」

 二人の話し合いが終わると大神が口を出した。

「卓也、一つ聞きたい」

「はい」

「『宮』は裏方のサポートや後始末が役割の『名』だ…『力』と『経験』がものを言う…それを踏まえた上で卓也に聞きたい」

「何でしょう」

「もし『宮』を継げと言われたらお前はどうする?」

「『名』を下さると言うのなら喜んで役目を果たしましょう。しかし、先程『経験』が無くは…と、おっしゃていました。なので、おそらくしばらくの間助言、助力を求めてしまうでしう…」

卓也はそう言うと、少し目をふせた。

「そうか…卓也、しばしの間控えの間に居るがよい。後で呼ぶ」

大神は卓也の返事を聞くと微笑し言った。

「分かりました。失礼します」

卓也はスッと立ち上がると座敷から出ていった。











―――――スッ―――――


「久ぶりだな」

卓也が控えの間として用意されている和室に落ち着いてしばらくすると、イツ・キが来た。

「そうだな、俺がお前の後見人になるって宣言して以来だから、約半月ぶりか・・・」

卓也はイツ・キに対しての態度があれから何度も合っているうちに、だんだんと砕けた物になってきた。

「勉強の方はうまく行ってるか?」

「問題なく進んでいる」

卓也は自分の正面に座ったイツ・キに話し掛けた。

「それにしても不思議だな。言葉は同じなのに文字が違うなんて」

「言葉が同じだけで驚くべき事だ。文字が違うのは許容範囲内だ」

「なるほどね」


イツ・キはこちらの世界に来てから様々な事を調べ勉強した。

まず、言葉の意味が同じかどうか確認し、文字をみた。

言葉は問題なかったが、文字がまったく異なっていた。

その頃にイツ・キはこちらの世界にしばらく滞在したいと卓也に申し入れ、卓也が『組織』にその旨を伝えた。

『組織』は、それに困惑しイツ・キをどうするべきかしばしば話し合いが持たれた。

その間、卓也は父親と母親に許可を貰い家にイツ・キを居候させ、文字の勉強を開始した。

イツ・キは飲み込みが早く、『組織』が『誰かが後見人になり全責任を負うならば許可をだす』との結論に達するまでに呪術書の読解に必要不可欠な古文までもほぼマスターしていた。


「今は何をやっている?」

「変わらず地下の蔵書室で本を読み、時々英語の授業とインターネットと言うものをやっている」

「へ〜もうそんな事まで…すごいな」

「まあな」

「あ〜そうそう、今度あったら聞いておこうと思った事が有ったんだ」

 卓也はそう言うとポケットから折りたたまれた紙を取り出した。

「何だ?」

「コレ。戸籍登録するのにお前の名前を決めなきゃならないんだ」

「名前」

「そう。一応日本人として登録するからイツ・キだと少し都合が悪いんだ…で、俺が一つ考えて来たのがあるんだ。それがコレ」

 卓也が広げた紙には一つ名前が書かれていた。

「『二海道(にかいどう) 樹』?」

「そう。どうかな、イツ・キを繋げて名前にして見たんだけど」

「それはいいが、卓也この『二海道』は本来『二階堂』と書くものでは?」

 イツ・キは紙に文字を書きながら言った。

「よくしってんな。その通り。でも、コレでいいんだ」

「なぜ?」

「お前はあちらとこちらの海を自由に繋げられるんだろう?だから『()つの()()を繋げられる者』だから『二海道』でいいんだ」

「…なるほどね」

「まあ、自分の好きに名前決めていいし。一つの候補として覚えておいてくれ」

「いや…考えることは無い。コレがいい」

「いいのか?」

「ああ」

「分かった。じゃぁ、コレでやっとく」

 卓也は少し意外そうな顔をした。

「そうしてくれ」

 卓也は紙を再び折りたたみポケットにしまった。

「…にしても遅いな…」

「何が?」

「座敷の方。話し合いが終わったら呼びに来るって言ってたんだけどな…」

「そうか、では、私はこれで行く」

「そうか。じゃぁまたな」

「ああ」

 そう言うとイツ・キ…いや、樹は部屋から出て行った。











―――――コンコンコン―――――


「どうぞ」

 しばらくして部屋をノックしたのは卓也は見覚えは無いが着ている服からココに住み込みで働いていると分かる人だ。

「お待たせしました。卓也様をお呼びするよう申し付かりました」

「分かりました」

 そう言うと卓也は座敷の方に戻っていった。











「失礼します。卓也です」

 卓也はふすまの前で声をかけた。

「入れ」

 卓也はふすまを開けさっき座っていた場所に座った。

「卓也、単刀直入に言う。お前に今日から一年間で十の課題をやってもらう。その課題を無事やり遂げることが出来たら、お前に『宮』の『名』を継いでもらいたい」

 大神は卓也が座ると前置きも無く喋りだした。

「課題はお前の『名』の継承を最後まで反対したものが『組織』を通して依頼の形で提示する。この一年は家を出て行ってもらうが、課題を終了した後『名』を継承したら戻ることが出来る。お前の父は『塚』の名を継承し『宮』及び卓也、お前との親子関係から完全に縁を切る事となった」

「…そうですか」

 卓也は表情を動かさず全てを聞いた。

「あまり驚かないのだな」

「『名』を継ぐ、継がせるというのはそれなりの覚悟が必要だと推測しました…多少の覚悟はしていました」

「そうか。やはりお前は私が思っていた通りの人間のようだ。これからの成長が楽しみだ…本日より一週間以内に家をでよ…一年後またこの場で会おうぞ」

 大神は寛げていた顔を急に引き締め高らかに宣言すると、音も無く立ち上がり両脇に居た人間と共に座敷を出て行った。

 卓也は深く頭を下げた後、一言もしゃべらずに座敷を出て行った。






次回は一年後のお話です。一年間のお話と十の課題については別に書こうと思います。どうぞ楽しみに待っていてください。

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