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前編 チート主人公は卑怯か否か?

             〜〜 登場人物紹介 〜〜


先手:グーグル検索で毎回のように、

   シュミレーション

    →シミュレーション<もしかして>

   をやらかす東海一の弓取り。


後手:六六六円の買い物に一〇〇〇円札を手渡し、

   三三三円のお釣りを受け取って帰宅した剛勇鎮西(ちんぜい)一。




             ※※ 前提 その一 ※※


『チート』には大きく分けて、


<A>……まるでTVゲームにおけるチートコードを使った"ような"圧倒的力量、     優位性を持っている事。厳密には『不正チート』を働いている訳ではない。


<B>……『不正チート』の原義通り、何らかの『不正行為』を働いた結果得られた力や     立場、その他優位性の事。


 ……の二つの意味が用いられている。

 本文は主に<B>の『不正行為』を主眼に置くものとする。


             ※※ 前提 その二 ※※


 個人の趣味嗜好に関する点、個人の感情に起因する点、及び該当する作品そのものの評価については、

『お前がそう思うんならそうなんだろう。お前ん中(・・・・)ではな』

 ……の姿勢を筆者、読者問わず標準のものとする。


 上記前提にご納得の上、お読み下さい。



        ※        ※        ※



「チート主人公は卑怯だ! 人の風上にも置けぬ!」

「いや、俺は全然卑怯とも何とも思わないんだけど……。そもそも、何で君は彼らの事を"卑怯"だなんて思うんだ?」


「だって、彼らは一切何の努力もせず、強大な力を獲得しているじゃん! 普通の人間は努力をして力を得ていると言うのに! まさしく『不正な手段』で得られた力じゃねーか!」


「そんな事言われてもなぁ……。それだったら『一切何の努力もせず、"ショッカーからの改造手術"によって強大な力を得た』ヒーローである『仮面ライダー』はどうなるんだよ? あれも不正行為って事になるよな?」


「一切何の努力もせず、力を得る奴は卑怯だ! ただし、仮面ライダーは"悲劇的な境遇"だから良いんだよ!」


「『一切何の努力もせず強力な力を持ち』、『特別何の悲劇的境遇もない』、"ドラゴンボール"序盤の『孫悟空そんごくう』は? 育ての祖父が亡くなってこそいるが、深刻な様子も見せず、山で明るく楽しく生活していた。『悲劇的』とまでは言えないんじゃないか? 物語の途中からは、修行とか境遇に関する秘密とか出て来たけど、『それ以前』の段階において、君が彼を卑怯者とそしらないのは何故だ?」


「一切何の努力もせず、力を得る奴は卑怯だ! ただし、悲劇的な境遇なら良いんだよ! あと、ドラゴンボール序盤は"コメディー系"の話だからそれもOK!」


「『一切何の努力もせず』、『特別何の悲劇的境遇もなく』、『コメディー系とも言えない』、ただ"団子食べただけ"で圧倒的な力を得た『桃太郎』は? それと

『金太郎』とか『力太郎』とか」


「悲劇的なら良し! コメディーもOK! あと、桃太郎とかは"おとぎ話"だからセーフ!」

「『努力しておらず』、『悲劇的でもなく』、『コメディーでもなく』、『おとぎ話でもない』、なのに生まれつき強い、子供達の人気者な『アンパンマン』は?」


「そ、それは"子供向け"だから良いんだよ!」

「『努力なし』、『悲劇なし』、『コメディーでなし』、『おとぎ話でなし』、

『子供向けでなし』、なのに生まれつき強くて特殊な能力を持っている、"東方

Project"の『博霊霊夢はくれいれいむ』は? ちなみに、君が言うところの"卑怯者"な彼女、某所のファン人気投票で六年連続で一位に輝いた事あるけど?」


「……いや……と、東方は"大元が同人ゲーム"だからセーフ!」

「世界的にファンの多い"BLAMブラム!" の『霧亥キリイ』とか」


「あ……あれは"SF"だからOK!」

「同時に十人の話を聞き分けた『聖徳太子』」


「れ……歴史上の人物の逸話だから良し!」

「……あのさあ」

「ん?」


「そこまで自由自在に"例外"設け放題な規則なんだったら、いっそ『ラノベなら良し』『漫画はセーフ』『フィクションだからOK』とかの"例外"設けたら? そうすれば、スッキリと問題解決するんだけど?」

「」


「……根本的な事を尋ねるぞ。そもそも『努力しないで強くなる、力を得る』行為が"不正"に当たると言う『法的論拠』が一体どこにあるんだ? まずそれを提示しない事には、そもそも何の話にもならないぞ?」


「い……いや! 『普通に考えて』卑怯だろ!?」

「『普通に考えて』不正行為だと言われる以上、何らかの形で明文化された法的、あるいはルール的な論拠が存在するはずなんだが? まず真っ先にそれを提示するべきだと思うぞ?」


「い、いや、だって! 『普通に考えて』み!? 何も難しく考えず、ただ『普通に考えりゃ』卑怯だって丸分かりだろ!?」


「『普通に考えて』糾弾を受ける程に許し難い、卑怯な行為であるにも関わらず、何で『悲劇的』な程度で無罪放免になるんだ? 情状酌量による"減刑"こそあり得ても、"罪の消滅"はあり得ないだろ。


『万引きダメ、ゼッタイ! だけど悲劇的な人はセーフ、商品()り放題!』

『サッカーのルールでは、相手選手にタックル仕掛けるの反則! だけどあの選手は悲劇的だからオールOK! バンバンかましちゃって!』


 ……なんて事、考えられるか? いいや、『普通に考えて』あり得ないと断言出来る」


「」

「むしろ『何も難しく考えず』とも、真っ先に疑問が出て来る。『根拠は?』と。丸分かりどころか、俺には全く分からん。是非とも尋ねさせてくれ。『あなたの言う"普通の考え"の、根幹をなす論拠を提示して下さい』……と」


「」

「これが『知識チート』ともなると、そもそも"前提その二のB"が成り立たん。


 一応補足すると、『知識チート』とは異世界などに行った人物が、現代知識を用いて農業、学問、軍事などの面で圧倒的優位に立つ事だ。例えば『五世紀〜十五世紀、いわゆる中世ヨーロッパレベルの技術水準の世界で、十七世紀後半の農業技術であるノーフォーク農法を用いる』……とかな。


 "知識として実践"する以上、本を読むなりネットで調べるなり、何らかの形で

"本人の努力"が存在するからな。『生まれつき各種知識が備わっている』『ハッキングなどの、法律で禁じられている手段で得た知識』とかなら、話は別だが……」


「ち、知識チート! それも駄目じゃねーか! だって、『本人が生み出した訳でもない知識や技術を使って得られた成果を、本人の手柄にしてる』じゃん!」


「その理屈だと、『本人が生み出した訳ではない理論なり知識なりを答案用紙に書き写し、"得点"や"合格"、"資格取得"と言う形で本人の手柄とする』試験全般がアウトじゃないか。


 もっと言えばその理屈、『教育学習』や『技術指導』の、ひいては人類が連綿と続けて来た『先人達からの知識や技術の継承、伝達』の全否定にも繋がるんだが。例えば俺らが今現在日常的に活用している文字や単語、慣用句などの内、一体いくつ"自分で生み出した"ものがあるんだ? 『3に8を掛ければ24となる』と言う理屈を、君は自分で考え出した上で利用しているのか?


 世間で『新発明』と呼ばれるものだって、既存の知識や技術の積み重ねの果てに到達したものだ。『偶然の発見(セレンディピティ)』の結果であるペニシリンやX線、スクラロースですら既存の知識や技術、理論を使わなければ、実用化と言う"成果"を得る事は不可能だっただろう。


 ……俺はそれらを"盗作"や"特許権侵害"とは、全く別次元の話だと認識しているんだが」


「」

「それと、実例による反論。


 敵将ハンニバル・バルカの生み出した戦術である"包囲殲滅陣"を拝借した上でアレンジを加えて、逆にの名将を撃破し救国の英雄となった『スキピオ・アフリカヌス』は?


 近江六角(おうみろっかく)氏の生み出した政策である"楽市楽座"を拝借した結果、政治面で高い評価を受けた『織田信長』はどうなるの?


 俺は問題ないと思っているんだが」


「」

「先人達の英知に感謝と尊敬の念を覚えこそすれ、俺は自身の得た知識を有効活用し、その結果を自身の手柄と誇る事に関して、一切何も恥じ入る事はない。もちろん、卑怯と感じる気持ちも一切ない。何よりもまず、そうしなければならない理由が全く分からない。


 それが問題となるのは『本来、他人が生み出したはずの知識なのに、"自力で考えた"とウソを吐く』……みたいなケースじゃないか? それだって『"自分は異世界人である"と明かす訳にも行かないから、自分で考えたと言う事にしておく』

……とかの理由が考えられるし」


「……う、うっさい! さっきから自説に都合の良い例ばっか挙げやがって! そんなんいくら挙げても卑怯じゃない理由にはならない!」


「『自説を分かりやすく説明する』ために、該当するものを選んで挙げるのが、すなわち"例"なんだ。だから、『自説にとって都合の良いもの』が例として選ばれるのは必然なんだが……まあ、問題はそこじゃないか。


 俺が聞きたいのは、君が"卑怯"だと認識している事に関して、何故今まで例として挙げたものは良いのか? ――もっと分かりやすく表現すれば、『何であっちは良くて、こっちは駄目なの?』……って事だ」


「……い、いやだって、普通に考えて……」


「……一つ答えてみてくれ。とある人物が、目の前にいる人間を思いっ切りグーで殴ったらどうなる? その行動の結果、相手が怪我でもしたら、殴った方は一体どうなる?」


「……? それ、普通に犯罪じゃん」

「そうだ。傷害罪に問われる。……では、重ねて尋ねる。上記の行為を練習中、試合中問わず日常的に行っている『ボクシング選手』が、『試合中に相手選手を殴ったから』と言う理由で罪に問われる事があるか?」


「……ある訳ないじゃん。それ、ボクサーだったら普通の事じゃん」

「その通りだ。行為としては『全く同じ』であるにも関わらず、前者はNG、後者はOKとなる。


 その判断の根拠となるのが、刑法第三十五条『正当業務行為』だ。ボクシングで相手を殴るのは、"相手を傷付ける"事が目的じゃない。"ルールに従って勝利条件を満たす"事を目的としているんだ。


 だからボクサーが試合中に相手選手を"殴った"としても、その結果として相手選手に怪我を負わせたとしても、ルールに則っている限りそれは『業務のための正当な行為』として判断され、傷害罪に問われる事はない。仮に当たりどころが悪く、相手選手を死亡させてしまった場合であっても、傷害致死罪に問われる事はない。『正当業務行為』と言う判断基準が存在するからこそ、『相手を殴る』と言う表面上は全く同じ行為であったとしても、"暴力"と"スポーツ"とに明確な区別がなされるんだ。


 同様に、法的に"正当な業務"であると見なされているからこそ、医者は傷害罪に問われずに外科手術を行えるし、『警察官は、犯人を強制的に檻の中へと閉じ込めている! 逮捕監禁罪だ!』……なんて言う理屈だって通用しない。そこには、

『法的論拠』と言う明確な境界線が存在しているからだ」


「はあ……」


「……上記を踏まえて尋ねるぞ。

『努力しないで強くなる』と言う、表面上は全く同じ行為を行っているにも関わらず、一体何故『"悲劇的"であれば正当な行為である』と判断されるんだ? 何故

『悲劇的』である事が、"有罪"と"無罪"とを分ける境界線足り得るんだ? その法的根拠は?」


「」


「……そろそろ、こちらからハッキリと指摘しよう。『そんなものは存在しない』と。『全くの根拠レス』であると。『個人的な感情論を元にした言説』であると。『"結論ありき"で構築された論』であると」


「」


「明文化された『法やルール』と言うものが存在するからこそ、『OKとNG』、『合法と違法』、『正当と不正』が区別される。ルールによって守られているからこそ、人は自分の行動が正しいと主張する事が出来る。


 ……いや、この言い方こそ正しくないな。正確に訂正しよう。『人間は何をやるのも自由』なんだ。これは日本国憲法第十三条によって保護された、国民の"正当な権利"であり"基本原則"だ。


 ただし、『その自由を認めてしまうと、正常な社会秩序が維持出来なくなり、結果として大多数の他人に大迷惑を掛ける』行為に対してのみ、『他に解決手段がないから、仕方なく最小限度の範囲で自由を制限する』事が許される。それが"法律"であり、"ルール"だ。これを『謙抑けんよく主義の原則』と言う。


 ……もう一度言うが、『人は自由』だ。その自由を制限するからには十分な、いいや、それ以上の理由が必要になる。


 アルコールは『犯罪発生の原因になり得る』事が科学的に証明されている……つまりは『お酒の存在は社会に悪影響を与えている』事になるが、それは『社会秩序を壊す』程に重大なものではないため、禁止されていない(当然、『お酒は二十歳はたちになってから』は大前提)。仮に『犯罪の原因になるから』……なんて理由で現代日本で"禁酒法"なんて施行したら、間違いなく"違憲"、すなわち『国民の自由を不当に侵害する法律』であると判断されるだろう」


「」


「……で、先程から何度も何度もしつこく述べている事を、もう一度言うぞ。


 "努力しないで強くなる"事を規制する法律、またはルールがあるか? それら行為を禁止し、"卑怯な行い"であると認識しなければならない十分な理由が提示されているか?


 ない。少なくとも俺は、見た事も聞いた事もない。


 チート主人公は不正行為を働いていない。従って、『チート主人公は卑怯ではない。"チート"は前提その一の<A>の意味で用いるのが妥当である』。


 ……これが、今回の結論だ」


「」

「予想以上に長くなったな。続きはまた次回に」


日本国憲法第十三条


すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。


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