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唐揚げに世界の壁はない!

 




「シンディ、今回はどんな情報だい?」

「叔父様、この前頼んだ醤油と味噌の出来はどうです?」

「ヴェルテから技術提供を受けてからは瞬く間に完成したよ。それを使うのかい? ショーユとミーソはシンディのワガママかと思っていたのだが?」

「叔父様、さり気に酷いですわよ。欲しかったのは事実ですが、私だけなら取り寄せますわ。わざわざ技術を求め領地で造って欲しいなど言いません。今回はそれと鶏肉を使った料理のレシピです。叔父様が渋って安く買うつもりなら別に売りますからね?」


 半年前から領地で情報提供で収入を得るようになっていて、今回も新しく情報をだし、いくらか巻き上げるつもりです。


 ある日、行商の商人がやって来ました。

 本来なら許可なく公爵家に売り込みにくるなどありえないとたたき出されるのですが……。

 門番に商品説明を必死にしてる男の手に有り得ない物が握られているのを見て私が許可をだした。

 男の手にあったのは壺でその中の茶黒い物。

 普通の人間ならこれを食べ物として認識することは不可能だが、私にとってはこの世界のご馳走よりも魅力的な物だった。


 それは“味噌”、日本人の心とまで言われる伝統的な発酵食品である。


 男はヴェルテという島国から来た行商だったが、遠く離れていて外交もないこの国にとってヴェルテの商品は見た事のない奇妙なもの達だった。

 しかし、売らないと帰りたくても帰れない状況に陥り、訪問販売を繰り返し結果貴族の家で門前払いをされ続けていたそうだ。


「木綿……あぁ、この手触り本物だわ……。それに味噌に醤油まで……」


 サロンで机に並べられた商品達に涙を流しそうになりながら手にとっていく。


 木綿、こちらではコットンやガーゼとして使われるけど反物として存在はしてないし、少し手触りが違う。


 そして1番の目的であった壺に入った味噌、更には醤油まであった。

 記憶にあった匂いに本気で泣きそうになった。

 曖昧だった日本料理と言うか、家庭料理の味が思い出されていく。

 出汁を用いる料理法がなく、ブイヨンすら存在しないと知ったのは最近である。

 確かにシチューを出されて、一味足りないような気がするとは思っていたが、それで育ったのだから異を唱える事もなく過ごしていた。


「これ、昆布ですか?それに鰹まで……ヴェルテ国は素晴らしいですね」

「よ、よくご存知ですね」


 横に避けられていた麻袋に入っていたものにキャーと悲鳴を上げ無かったことを褒めてほしい。


 そこにあったのは乾物屋などでしか見ないような大きな昆布とけずり節になっていない塊の鰹、しかも削り機まであって軽く説明するのに削ってくれるがその瞬間に素晴らしい香りが鼻をくすぐってくる。


 日本食にとって大切な出汁に必要不可欠の昆布に鰹。

 前世では面倒くさくて市販のだしの素を使ってたけど、昆布や鰹節を使った出汁も作った経験はある。

 それがまた美味しかった。


 あぁ……何が良いだろう。

 やっぱり味噌汁かしら……煮物も捨てがたい……。

 魚の煮付けなんかも食べたい。


 あぁ……なんて素晴らしいの!!


 その日、行商の提示する金額よりも多めに払い男の持つ商品全て買い上げた。

 次に来る時も是非売ってほしい。

 もし、貴方が来ないとしてもヴェルテ国の商人がこちらに来る時はウチに声をかけて欲しいと伝えれば、必ず自分が来ます!半年後に必ず!と約束して帰っていった。


 父様に内緒で台所に立ち、料理人と二人でコソコソと日本の家庭料理を作った。

 最初は『本当にこんな物が食材なのですか?』と怪訝な顔をしていた料理人も探究心と日本の繊細な味に負け途中からは私よりノリノリになって手伝ってくれた。


 食材じゃなくて調味料なんだけどね?


 黙って食卓に私の作った料理を並べれば父様は『今日は見た事の料理が並んでるね?どうしたのかなぁ』と言いつつ一口食べて、動きを止めたと思ったら無言で味噌汁と肉じゃがをかき込んでいき、商人がこれは売れないだろうけど……自分用に持ってきた物です。と見せて大興奮の私に譲ってくれた物……それが米!!


 この国の米は少し細長くパサパサした物でリゾットなど、病気の時に食べる物という認識でそれも一地方の物だった。

 でも、今日貰った米は日本同様の物で土鍋や釜がない中どうにか炊いたご飯も父様が消費していった。


 私も久しぶりの日本の味に満足しつつ、これは行けるかもしれない。と元々知識でチートする予定だったが料理をメインにしようと決意した。


 そして今に至る。

 その後、以前うちに来てくれた行商の人を拉致ーー招待をして私の料理を食べてルンルンになった叔父様に仕入れなどの為に取り引きをする事になり、結果味噌や醤油も造る事になったのはすぐの事だった。


「これは……美味いな。ボリュームも悪くない……領地でレシピを売り出すか……」

「高く買ってくださいね?」

「ーーシンシアは兄上と俺の血が濃く出たのだろうな」

「ーーなんでしょう。褒められた気がしませんわ」


 今日作ったのは唐揚げ。

 唐揚げは魔の料理だと思う。アレンジも様々で、材料や調味料を変えれば別物と言いたくなる程に代わり、トッピングもなんでも来いと言う。


 そして食べだしたら止まらない。

 酒にも合うし、夜のおかずとしても満足出来るボリュームまである。

 子供から大人にまで人気の料理で嫌いだと言う人を見つける方が難しいと思う。

 これまではちまちまやってきたが、それでも充分貯まってきてはいるのだが、タイムリミットが近づいて来てるから少し大胆に動く事にした。


 料理を筆頭に魔道具造りなどの情報も提供してるので、貯金だけなら目標達成まで後少しなんだよね。


 金貨二百枚。その半分は既に結界をして色んな所に隠してもいる。

 追放されても領地のあちこちにお金を隠しているので大丈夫。


 後、父様は気づいてそうだが……時々、王都で働いたりもしてる。

 兄様と一緒に冒険者登録をして冒険者としても頑張ってはいるが……

 命大事にと言う事で色んな職を経験しておいても良いだろうと飲食店などでギルドから短期雇用で紹介してもらい働かせてもらってる。

 準備は出来てる……大丈夫。


 そう言い聞かせてきた。


「姉様……姉様は何故、レオナルド様と仲良くなさらないのですか?」

「ーー第一王子殿下にパッとしない、婚約者として自分に恥をきさぬように励めと言われたからですわ。良好な関係も大切なのは分かっているけど……それよりも第一王子殿下が満足いくような人間になる事を優先した方が良いと思ったの」

「ーーそうですか。わかりました」

「ルーカス。世の中には貴方の知らない真実が存在します。それは我が家でもです。ルーカスの知らない事、私や兄様達の知らない事、だから見える物だけを信じ盲目になってはいけません。わかりますか?」


 学園入学を目前に控えたある日、ルーカスが聞いてきた。

 私は顔合わせ以降、婚約者を伴う行事以外で第一王子に会っていない。

 故意的に会わないようにしている。

 妃教育は王妃様と王太后様に合格をもらい終わらせた。


 私が第一王子を見限り、関わる事を拒否した事実をルーカスは知らない。

 父様はルーカスに父様の思惑を明かしていない。


 父様はルーカスを信頼していない……と言うか、真実を明かすに値しないと決定した。


 国王陛下をはじめとする王子を除く王族の皆が知っていて納得している。

 私と兄様、ルーカスは時間稼ぎであって本当に仕えているわけでも婚約したわけでもない。

 現に私と王子の婚約は正式に書面にて婚約していない。

 それを知ってるのは一部の人間だけだけどね。


 父様が話さないと決定した事を私が言えるわけがない。

 いくら私に前世の記憶や知識があるとは言ってもミルナイト公爵家の娘として生まれ、育った。

 父様の決定は絶対だ。


 ルーカスは育ちが理由なのか、良くも悪くも素直で従順でミルナイト家の人格は正直、常人からしたら破綻してると思うんだよね。

 それに忠誠心ってものは存在しない、父様は戦闘狂で自分の楽しいなど琴線に触れる事にしか動かないし、叔父様もそうだ。叔父様はお金稼ぎにしか興味がない。ルド兄様は父様と似ているが、父様程何を考えてるか分からない事はないけど……それでも戦闘狂で身内が最優先、リュコス兄様は金稼ぎも好きだが、人間を手玉に取るの方が好きそう。

 ただ共通するのがルド兄様を筆頭に身内が最優先で、害されればミルナイト公爵家全てを持って報復するって事だ。

 これは血なのか……環境なのか……。


 だからルーカス……お願いだから、敵にならないで……。

 お願いだから気づいて……自分で破滅へ向かわないで……。


 遠回しにしか忠告出来ない私を許して……。


 私の破滅まで後、一年と少し……。












「叔父様、今回の情報料……ケチってません?」

「ん? そんな事ないよ? それにしても美味しいなぁ」

「ーー今度から叔父様じゃなくてリュコス兄様にお話しましょうか」

「え!? それはダメ! まだリュコスに負けるわけにはいかないんだ! 最近、私よりリュコスを頼る人間が増えたんだよ……。フルムーンだって実質リュコス主導だし……」

「なら、ケチらないで下さいね? 次、ケチったと思ったらレシピを全て兄様に流しますから」

「ーーはい」

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