プロローグ
プロローグは少し長めですが、1話目は三千文字程度にしていこうと思っています。
月明かりに照らされる中、木々を手でかきわけながら森の中を進んでいく。街灯などあるはずもないので、スマホのライト機能を駆使して歩く。
春になったばかりの季節ということでまだ涼しく、虫が少ないので進みやすいといえば進みやすいが、木々が邪魔をして手等を切ってしまう。それでも俺は先に進む。目的がある限り。
森に入るなら夜に行く必要ないだろ、朝なら前も見えやすく、容易に歩けるだろ。と、思った人は多いと思うが、夜に行くことに意味がある。
なぜなら……。
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現在、トゥイッターでバズっている情報がある。発信源は誰かわからず、怪しい情報であるにも関わらず、ニュースでも取り上げられる程の情報。
本文に『誘拐ガチャ』と書かれており、ガチャガチャ本体の映像と、どういったものなのかがこと細かく説明されていた。
ニュースでは誰か試すわけでもなく、ただただこれは危険だから、遊び半分でやるな。という忠告だけだった。そんなニュースに対して鼻で笑いながら思った。
何を馬鹿なことを言っているんだこのニュースは、と。重度のアニメオタクで、クラスで浮いている俺がこんな面白そうな情報を目の前にして食いつかないはずがない。
と、そうこうしているうちに学校に行く時間になっていた。一人暮らしをする俺の家にはうるさい両親も兄妹もいない。つまり、静かで怒られないが故の遅刻の多さが目立っていた。
だが今日はチャイム鳴る十分前に着き、平然とした表情で席に着く。浮いている分、誰一人として俺に話しかけてくる者はいない。
……いや、前言撤回、一人いた。
「やあやあ、今日はちゃんと学校に来たんだね。ということは観たいアニメがなかったと見える!」
この元気に俺に話しかけてきたのは、幼馴染の椎名神子。俺のアニオタに対しての唯一の理解者である。
「神子か、おはよう。……あんまり俺に話しかけない方がいいぞ、神子まで変なヤツに見られるかもしれないから」
「ん〜? 幼馴染である私に気を使ってるのかな? タッキーは人の目を気にしすぎなんだよ、もっと人生明るく生きてかなつまらないよ」
タッキーとは、増山龍樹という名の俺のこと。神子のように陽キャラではなく、完璧なまでの陰キャラな俺に話そうと思う神子の気持ちが理解できない。……話しかけてくれないと寂しいと思ってしまう、めんどくさい性格をしている俺。
自分ではもう少し話しかけられやすい人間だと思っている。アニオタであることを除くと、身だしなみはちゃんとしてるし、髪の毛も黒く短髪でそれなりに筋肉もついているから運動神経もいい。テスト点も平均取っているのに……。
考え込みすぎて落ち込む俺の肩を神子がポンと叩き、軽く微笑みながら。
「もー! 元気だしなよ! あ、タッキーならこのトゥイッターの情報を見たら行きたくなったんじゃない!? 私も付き合うからさ、今日行ってみようよ」
「あれは危険らしいから来ない方がいい。俺に何かあったら警察にでも伝えてくれ。ちゃんと連絡は入れるから」
その俺の言葉に神子は眉をひそめた。なぜかわからない俺が、訝しんでいると。
「もっと私を信用してよ! 危険なことくらいニュース観れば分かる。けど、それでも行こうと言ったのは――タッキーが好きだからだよっ!!」
唐突の告白に戸惑う俺。きっと今は顔が赤面していて、人様に見せるには恥ずかしい姿になっていると思う。
周りの視線を俺が独占していて、過去に無いくらいに目立っている。俺が告白されたことに対して目立っているのもあるが、そんなことよりもあの神子が告白をしたことにより目立っているのだと思う。
神子は俺の幼馴染で、恋愛対象として見たことなかったが、周りの声を聞くと。
「可愛いよな、神子ちゃん。この学校で一番可愛いと思うんだけど、みんなはどう?」
「「「「異議なし!」」」」
といった感じで、ものすごくモテるらしい。
神子は綺麗で肩までの長さの茶髪。顔が小さく、モデルと間違われてもおかしくない……ということに最近気がついた。
そんなモテモテの神子に告白された俺は、一体今どういった顔をしていればいいのだろうか。返事は? もちろん「いいよ」と言いたい。……が、周りからの反感、俺へのいじめよりも神子に対するいじめが酷くなってしまうかもしれない。
それなら自分の意思は殺して――
「また私に気を使おうとしてる? 何を考えてるのかは分からないけど、気を使おうとしてるのは分かるよ。答えがどっちでも落ち込まず、いつも通りに話そうよ」
きっと神子は振られると思っているのだろう。でも振ってしまえば傷つき、これまでと同じように話せなくなってしまう。……相変わらず甘やかされているなあ。
だけど、違うんだよ! 実際ものすごく付き合いたいし、結婚だってしたいさ。だけど、俺みたいな不釣り合い男が、幸せに出来る目処が立っていない男が付き合ってもいいのだろうか。
「無理なら無理って正直に――」
「無理じゃない! 本当に俺でいいかを考えていたんだ。……今訊くが、本当に俺なんかと付き合っていいのか?」
「もちろんだよ! やった、前々から付き合いたかったんだけど、タッキーは二次元ばかり見てるから私とは付き合ってくれないと思ったけど……! じゃあ今日の誘拐ガチャも一緒に行けるね!」
満面の笑みで話す神子はとても可愛い。十六年間、高校二年になるまで彼女が出来たこともないのに、初の彼女が学校一の美少女なんて……!
今日は本当にいい日になるな――と、この時は思っていた。
――夜十一時半、家の近くの公園に神子と集合していた。付き合ってその日にデート……したいが、今は興味本位で誘拐ガチャの場所へと向かおう集まったのだ。
「なんかワクワクするねぇ! 本当に誘拐とかされたら面白いよね」
「えっ! 面白い……かな? でも、ワクワクはするよな、楽しみだ」
ここでこの誘拐ガチャの説明をしよう。
県内の森で有名な所の奥底に誘拐ガチャというのが存在するらしい。写真を見た限り、レトロな雰囲気を醸し出した下半分が赤く、上半分が透明なガチャガチャだった。内容で唯一太文字で書かれていたことがある。それは、知り合いも一人いなくなる。というものだった。
ガチ情報ならとてもやばいが、実際に拐われた人を見たわけでもないので信用はしていない。それよりも早くガチャを見つけて引きたい。何が出るか分からない誘拐ガチャを。
十二時ピッタリに引けとのこと。だからこの時間に集合し、間に合うように今向かっている。……はずなんだが。
「これ、間に合うか? 少し時間がやばい気がしてきたな」
「そうだね、もっと急いでいこうか!」
木々が邪魔すぎて前が見えず、スマホを駆使して進んでいく。先がわからないのはやはり恐怖でしかないのか、先程から神子が震えている。一肌脱ぐか。
「神子、こっちを見て!」
「ん?」
これまで誰一人として見せなことのない俺の変顔。家にいることが多い俺は、鏡の前で面白い変顔の研究に明け暮れ、今は変顔で俺に勝てる者はいないだろう。
そんな究極の変顔に神子が笑ってくれた。震えも収まり、これでもっと早く先に進める――と思った矢先、目的地へ到着した。
「なんか……恥ずかしい!」
「あはは、面白い変顔が出来るなんて知らなかったよ。彼女として、もっともっとタッキーの事を学んでいくからね! 浮気なんてさせぬようにさ!」
絶対に浮気をすることはない。神子より美少女のヤツなんていないだろうから。
現在五十七分、後三分後に俺はガチャを回す。ガチャの値段は一回千円。何回回すか決めていないから、とりあえず五千円持ってきた。
また神子が震えている。でも今回は、恐怖で震えているわけではなく、表情から察するに楽しみなんだと思う。俺も楽しみだし……気が合うなあ。
「いよいよ十二時だ。心の準備はいいな? ……なった! 回すぞ!」
「いいよ、何が出てくるのか――」
お金を入れ、ガチャガチャの回す部分に手を掛ける。回すと中から真っ赤なカプセルが出てきた。大きさは手のひらサイズで、これに千円はやはりぼったくりなのでは? と疑っている。誘拐もされてないし。
「神子はどう思う? やっぱりこれって……神子?」
さっきまで俺の隣にいた神子が、いつの間にかいなくなっていた。周りを見渡しても神子の姿はなく、呼びかけても返事がない。
これが誘拐の意味なのか? と恐怖に陥っていると、手の上にあった赤いカプセルが動き出した。カタカタ動くカプセルがなぜか苦しそうに見えたので、開けてあげると中から白色のビキニ姿の金髪碧眼美少女が現れた。
「なっ……なっ……」
言葉にならない言葉を発する俺にエロい姿の美少女が微笑みながら、
「こんにちわ! 私の名前はルスです。いやー、助けていただきありがとうございます。ところで、どうしたの? 腰を抜かして」
いきなり現れた金髪美少女のルスが俺に手を差し出す。その手を握って立ち上がり、目をそらしながら顔を赤面させた。
胸が大きく、背丈が俺より少し低く160センチくらいで、引き締まったお腹をしたルス。ボン・キュッ・ボンとは正しくルスの事をいうのだろう。
「もしかして知り合いがいなくなった?」
「何でそれを……?」
「やっぱりかー、じゃあもう貴方は参加してしまったんだ」
先程から何を言っているのか分からず、訝しんでいると、ルスは俺に抱きついて「貴方をお守りします」と告げた途端、意識が飛んだ。
なるべく早く投稿するつもりですが、遅かったらすみません。