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なりゆき勇者の生業  作者: 神無月はづき
7/7

ダンジョン攻略しました(その五)

「モ、ラ、ク、スゥウウウウウウウウウウウウウウ!!」

 

 俺は頭の中が真っ赤に染まった。モラクスが憎い、憎い、憎い、憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いっ!!

 

「さぁて、この男の遺体を使ってあの結晶が解放されるか試してみましょうか。もしかしたら実験材料が手に入るかもしれませんしね。ん、おやおや、そんな状態で動こうとするとは……これは面白い。貴方は絶望の淵からどの様な可能性が……おや?」

 

 モラクスの動きが止まった。何かの魔法がかけられたのか知らないが丁度良い。

 

「駄目だ!!」

 

 飛び出そうとした俺を誰かが後ろから羽交い締めにした。

 ユノか。邪魔をするなよ。アイツをこの手でぶちのめさないと気が済まねぇんだから。

 

「僕だって憎い、でもいくら飛び出しても駄目だ。落ち着いてくれ、レイジ! 今の君の状態じゃ危険だ。動ける状態じゃないんだぞ本当は、だから今はミルティに回復してもらうんだ。今はバインドで魔力が少なくなっているモラクスは一次的にだけど動けない。その間に回復して逃げて。僕が時間を稼ぐから!」

 

 時間を稼ぐ? 無理だ。お前だってボロボロじゃないか。それにどうせ無茶してもしなくてもこのままじゃ……。

 

「頼む、君を失うわけにはいかない。今、君を失えば僕達は全滅だ。どうしてかは解らないけど君を失ってはいけない気がするんだ。だから――」

 

 それはお前、死ぬ気だろ? 俺とミルティを逃がすための時間稼ぎなんだろう? 馬鹿な俺でも流石に解るぞ。でもそいつは却下だ。ザイクンさんを喪って、更にお前までいなくなったら俺はもう立ち直れない。俺はもう生きていけない。

 

「駄目……だ」

 

 俺はぎゅっとユノの手を握る。今出来ること、親友を無駄死にさせないこと。言ってることやってることがもう訳解らないことになっているが、この手を離したらもう二度とユノと会えなくなる気がする。

 だから、さぁ。

 頼むよ。

 仲間を助ける力をくれよ。

 

「ありがとう、でもこればかりは譲れないよ。僕は落ちこぼれだけど……一応人々を守る希望の一族なんだから」

 

 俺の手を優しく離そうとするユノ。駄目だ、ユノ。お前がここで死んでいいわけがない! 俺は、お前を、お前達を失うわけにはいかないんだ。だから、俺の中にあるかもしれない力とか、ご都合主義でも何でも良いから解放しろぉおおおおおおおおおお!!!

 

 

 『承認。ブレイブハート、解放条件クリア。先のヒーラー、ミルティ、の治癒魔術を完全解放し、ブレイブハートを一部解放します』

 

 はい? 何の声?

 

 『解放者の選択を要求。対象者、ユノ、で宜しいでしょうか?』

 

 えっと、何が何だか解らないが、それで頼む。

 

 『了解。また、ビーストテイマー、の解放条件を一部クリア。時間結晶を解放します。宜しいでしょうか?』

 

 なんて? 時間結晶ってあの子のことか? ならそれも頼む。

 

 『了解、対象者を≪解放≫します』

 

「ユノ、俺の手を握れ!!」

 

 何か解らないが、今俺の不思議な力が覚醒したっぽいぞ。もう少し早く覚醒しろよチクショウ!!


 困惑しながらも俺の手を握るユノ。モラクスはザイクンさんに気を取られていたお陰で反応できなかった。

 

「お前の力を解放する! だから、ザイクンさんの仇を討ってくれ!」

 

 俺からユノへと力が流れていく。これが、ブレイブハート。そしてミルティが俺から力を貰ったのか目を覚ます。ご都合主義的な感じになってきたけど、これで逆転してやる。

 

「これは!? まさかレイジ、君は……」

 

「頼むぜ俺達の勇者様、ソイツでモラクスをぶっ飛ばしてこい!」

 

 ユノの手には何処から現れたのか、神々しく光る剣が握られていた。まさしくそれは聖剣。聖剣ブレイブハート。対魔族用の聖騎士もしくは勇者の装備だ。と言うのが頭の中に流れてくる。どうなってるんだ俺は?

 

「何ですかその剣ハ? まさか聖剣? 何故そんなものがここにあるのですかネェ!!」

 

 慌てて襲いかかってくるモラクス。だが、残念だな。うちの勇者様はたった今覚醒したんだ。お前如きじゃ追い付けない。

 

「フッ!」

 

 モラクスが大剣を振り回すが、危なげなく避けるユノ。元々早さ重視の戦い方だったが、更に磨きがかかっている。モラクスの攻撃を避け続ける。そして聖剣を構え、モラクスへと一太刀浴びせる。

 

「ギィ、馬鹿な! 何故このような場所で聖剣が!?」

 

 モラクスがたった一太刀で後退りをする。ザイクンさんの攻撃でもここまで怯むことはなかったのに。

 

「レイジ様、すぐに治癒を!」

 

 そう言ってミルティが駆けつけて回復をしてくれる。ユノがモラクスを抑えている間に、俺はあの子を迎えに行かなくては。ザイクンさんじゃないけど、俺でもあの子を迎えに行くことは出来る筈だ。

 

 ある程度回復した俺は、ミルティにお願いをする。

 

「もう意味はないかもしれないけどさ、ザイクンさんにも治癒魔術を施してやってくれないか。あんな状態のザイクンさんをあの子には見せたくないんだ」

 

「……解りました。任せてください!」

 

 目に涙を溜めた状態ながらも笑顔で応えてくれるミルティの頭を撫で、俺はあの子を迎えに行く。

 本当ならザイクンさんがやりたかったこと。本当なら、ザイクンさんこそがするべきこと。

 俺が、代わりにやる。

 

「俺が、君を迎えに行く!」

 

 そして全速力で走る。あの子の下まで。モラクスがこちらに気付いたがもう遅い。お前はもう、ユノから逃げられない。ざまあみろ!

 

「行かせはしませんヨォ!」

 

「お前の相手は僕だ!!」

 

 頼んだぜユノ。今のお前なら余裕だ!

 

 

 

 そして、俺は時間結晶と呼ばれているモノの前まで来た。あの子の下に辿り着いた。そして、目の前で傷付いた体を盾にして、狼は俺を睨む。

 

「我は、姫君に救われた。姫君だけが、我の存在に気付いてくれた。姫君は、我の全てだ。お前に、姫君を守ることが出来るか?」

 

 狼の問いに俺は答えた。

 

「俺の命に代えても、彼女を守ることを誓う。それが恩人であるザイクンさんへの恩返しだ」

 

「……そうか、ならば任せよう。我が姫君、イオ様を……」

 

 そう言って、狼は倒れると同時に子犬の姿になった。俺は子犬となった狼を持ち上げ、服の中へと入れる。

 結晶を見上げると所々にひびが入っていき、ゆっくりと崩れていく。そして、彼女がゆっくりとまるで重力を感じさせないようのに俺の腕へと落ちてくる。俺は彼女を抱き上げ、ミルティの元へと歩く。

 

「その娘を、渡せェエエエエエエエエ!!」

 

 その途中でモラクスが襲いかかってくるが、その手は俺には届かなかった。

 

「はぁあああ!!!」

 

 俺の前に現れたユノがモラクスの右腕と右足を一刀両断する。

 

「ガァアアアアアアアアアアア!!」

 

 苦痛の末の叫びを上げ、俺の横を通りすぎて地面に叩きつけられるモラクス。俺はそれを無視し、ザイクンさんの待つ場所へと歩みを進める。そうしてやっと、ザイクンさんが眠っている場所へ。

 

「ザイクンさん、本当ならザイクンさんがすべきことだった。でも、俺が代わりに迎えに行ったから。だから、帰ろう。あの街に」

 

 ミルティにイオを預け、ザイクンさんを背負う。ボロボロの鎧はすでに意味を為さず、だけどまるで眠っているかのようなその姿に、俺は涙を流さずにはいられない。でも、まだ終わりじゃない。俺達の前にボロボロになりながら立ちはだかる、モラクスがいる。

 

「いやはや、こんなになるまで追い詰められたのは初めてですヨォ。流石にこの状態ではワタシも長くはないでしょうネェ。ですが、ですがですがですがですが! ワタシも魔王七十二将の一人として、このダンジョンごと貴方達を滅ぼしましょウ!!!」

 

 モラクスがそう叫ぶと、ダンジョンが揺れだした。そして壁や地面が崩れ出す。こいつ、自爆する気か!

 

「アハハハハハハハハ、さぁ、さぁさぁさぁ、一緒に死んでくださイ!!!」

 

 このままじゃこいつもろともダンジョンの崩壊に巻き込まれてしまう。急いで緊急脱出用の魔方陣を!

 

「時間結晶の所まで走れ!」

 

「行かせはしませんヨォ。その娘の居た場所にこっそりと転移魔方陣を敷いてきたみたいですが、ワタシがそこまで行かせると思いますカァ?」

 

 く、バレている。モラクスが邪魔をして魔方陣へと辿り着けない。このままじゃ――

 

「……なら、死体は置いていくべきだね」

 

 俺の背中から声が聞こえたと思ったら、背負っていた重みが急に無くなった。本の一瞬の出来事だった。ザイクンさんが、俺たちへと向かっていたモラクスへと飛び掛かっていた。

 

「ザイクンさん!!」

 

 俺の呼び掛けにも振り返らず、ザイクンさんはモラクスを掴みながら俺達から離れていく。

 

「レイジ君、申し訳ないが頼まれてくれないだろうか」

 

「貴様ぁああああああ、ワタシの邪魔を!!!」

 

 暴れるモラクスを押さえつけながら、こちらへと振り返る。

 

「娘を、頼む」

 

 そして、ザイクンさんはモラクスと共に崩壊するダンジョンの奥へと消えていく。

 

「ザイクンさんっ!!」

 

 その光景を目に焼き付け、ザイクンさんの頼みを叶えるべく……俺達は転移魔方陣へと走り、ダンジョンから脱出したのだ。

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