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なりゆき勇者の生業  作者: 神無月はづき
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ダンジョン攻略しました(その二)

――私はそこに置いてきてしまった。

 後悔はある。しかし、我が娘をこの手にかける勇気はなく、物のように放置した。深い深いダンジョンの階層、今頃は凶悪な魔物達の餌食になっているかもしれない。希望があるとすれば、ダンジョンの主が我が娘に共鳴することだ。昔から娘は魔物と言葉を交わせる稀有な能力を持っていた。

 私や妻の前で動物と話している分には問題なかった。だが、この娘はその力をついつい近所の子達の前で見せてしまったのだ。そこから私達一家の生活は一転して地獄になった。

 『悪魔の子』と揶揄されることもあった。石を投げられ、家に近づかないように柵が作られた。そんなことを続けられた結果、娘は家に引きこもってしまった。妻は娘の相手をしながら、私は遠くの町へ出稼ぎに出た。近くの町では噂が広がり、職になかなか就けなかったからだ。

 そんなある日、家に帰宅すると妻が死んでいた。……いや、これは殺されていたのほうが正しい。鋭利なもので背後から一突き。大量の血痕で床が赤く染まっていた。家具や食器も散乱していて、金目の物が盗まれていた。妻の亡骸にこみ上げる嗚咽を我慢しつつ、娘を探した。

 娘はすぐに見つかった。崩れた食器棚の陰に隠れるように身を丸くしていた。我慢していたのであろう、私の姿を見るなり瞳から次々に涙があふれて止まらなくなっていた。その日は妻の骸を埋葬し、二人で泣いた。

 

 そして――男は復讐者になった。妻の仇を討つため、娘を守るため、この手を犯罪に染めた。裏の仕事は報酬が良かった。人身売買、奴隷売買、殺人、強盗、恐喝、暗殺。特に奴隷売買は大金が入った。獣人、亜人、龍人ドラゴニュートから貴族諸侯の令嬢、名のある魔法使い。多少の危険リスクは犯してでも、入ってくる大金リターンがでかかった。

 だが、どうやらついこの間、大切な商品が一斉に逃げたらしい。獣人達が大暴れしたとか。奴隷商と雇われた者達は既に殺されたことだろう。まぁ、手間が省けて良かったと思うことにしよう。

 手間が省け多少稼ぎが減るのは致し方ないが、商品の中に”希少種”が混じっていたとなれば追うしかない。それに見慣れない格好の少年、ありゃ高く売れる。そして大物を釣り上げることが出来る。

 近郊の町を探したが、トゥノークで情報を集めてみるとしよう。災厄(カラミティ)アイズを束ねる長としては今後の取引を考えて、何とか生け捕りにしたい。そう思っていたのだが、そう簡単にはいかないらしい。





 この店には不釣り合いなほどに厳つい風貌の黒い鎧の大男。その男が俺のテーブルまで向かって来た。


「おい、あれ……」


「何で災厄カラミティアイズのギルド長がここに来てるんだよ」


 何やら凄い注目を受けているが、何でだ?


「ザイクンさん、有名人だったんですね」


 俺は大男ことザイクンさんに話しかける。ザイクンさんと俺達は、街に着いて冒険者登録した後に出会った。正直この出会いは最悪な形であったが、今はそれなりに仲良くしている。まさか、あの奴隷商の片棒を担いでいたのが災厄の瞳で、更には俺達を売った後すぐにその買い手を潰そうとしていたなんてな。詳しい話を聞いたわけじゃないが、誰かに復讐する為に今の生業をしているらしい。そこら辺はあまり踏み込まないようにしている。誰だって知られたくない事ってあるしね。


「まぁ、ね。こんな事をしていれば自ずと目に付くさ。それも悪い意味で」


 俺達がある程度有名になったのも、災厄の瞳とのいざこざのおかげである。だけど絡まれた時は本当に焦った。黒い鎧の大男にそれなりのガタイの兄ちゃん達数人が襲ってきたのだから。もしかして奴隷商達が追いついてきたのかと思った。危なくお互いに怪我人を出してしまうところだった。やり合ったとしてもこちらが負けていたのは目に見えているけども。でもザイクンさん達が敵じゃないっていうのはすぐに判明した。

 まず最初に奴隷となっていた人たちの安否を確認したこと。勿論商品が的な事を言っていた可能性も考えられたけど、奴隷商達に関しての質問は全く出なかった。

 次に俺達のことだ。どうやら俺を使って奴隷商の取引相手の大物を釣り上げる予定だったらしい。災厄の瞳の表は奴隷売買や黒い事を色々しているギルドだけど、裏ではそういったことを旨味にしている貴族や悪徳商人達を裁いている組織だった。


「私は自分の為に色々と悪い事をしてきたからね。黒い事にも手を染めている、どちらかと言えば悪側の存在だよ」


 そう言うザイクンさんだが、災厄の瞳のメンバーは殆どがザイクンさんに救われたり拾われた人達だった。見た目怖い兄ちゃん達だけど、滅茶苦茶良い人達なんだ。それもこれも全部ザイクンさんの人徳の賜だと思う。


「ははは、そう言ってもらえると救われた気がするよ。ところで先程の話を聞かせてもらってもいいかな? 確かダンジョンに潜るとか言ってたと思うんだが」


 俺達はザイクンさんにダンジョンに潜る理由と予定日を説明した。それを聞いたザイクンさんは俺達に付いて来てくれると言ってくれた。何でもザイクンさんはこのダンジョンに潜ったことがあり、つい最近もダンジョンに潜ってきたと話してくれた。そうして教えてくれたのが、やはり最近ダンジョンの魔物の強さが異常だということと、本来このダンジョンにいるはずのない魔物が現れているとのこと。そんな所にまだダンジョンに潜ったこともない俺達が行ったら死んでしまう可能性があるとも言われた。


「確かに死ぬのは怖いな。でも、今までだって討伐依頼なんかでも何回も死ぬ思いもしたし、今更かな」


 あっけらかんとした態度の俺の態度に、ザイクンさんは少しの間の後に大笑いしていた。


「なるほど、確かにそうだな。奴隷商に捕まっていた時だって君達は死ぬ思いをしてきたんだったな。今更と言えば今更だ」


 厳つい鎧姿の男であるザイクンさんが嬉しそうに笑っている。それは他の人から見れば表情が見えないから怖いと思うかもしれない。だけど俺には本当に嬉しそうに笑っているように思えた。


「よし、なら君達がダンジョンで生き残れるよう私が徹底的に指導しよう。喜びたまえ、災厄の瞳のギルド長、ザイクン直々に鍛え上げてやろうじゃないか!」


 そうして、ザイクンさんの指導の下、ダンジョン探索兼修行の日々が続いた。最初はダンジョンの浅い階層で罠の見分け方やダンジョン内に生息する魔物の対処法を学んだ。

 次に、ミルティの治癒魔術の修行と魔力の増強の為のトレーニングを俺達も一緒にやった。自分ではどうかわからなかったけど、ミルティの魔力が上がったおかげか、食費が少しずつではあるが抑えられてきた。

 ダンジョンの対処法も大分覚えてきたところで、既に三週間が経っていた。その間も他の中堅クラスの冒険者ギルドによるダンジョンの調査が行われていたのだが、最深部まで辿り着く事が出来ないでいた。


「未だにダンジョンの謎は解明されない、か。最深部にも到達出来たギルドもいないし、中堅ギルドでさえ怪我人が続出と」


 ザイクンさんが代表的な中堅ギルドが悉く怪我を負い、とうとうダンジョンに挑む冒険者ギルドがいなくなってしまったと教えてくれた。そうして次の調査隊に白羽の矢が立ったのが、俺達と災厄の瞳だった。


「俺達まだそこまで深く潜っていないのに大丈夫なのかな?」


「確かに、俺達ではどうなるかわからないけど、災厄の瞳と一緒なら調査くらいならいけそうだけど。それにもう少ししたら王都の冒険者組合から上級ギルドが来てくれるから、それまではいける所まで調査しないとね」


 ユノはイケメンスマイルでそう言った。本当にこいつはイケメンである。


「さて、どうやら私達がこの街で残っている中堅ギルドとなるのか。リベレーターズもいよいよ中堅ギルドの仲間入りだな。さぁ、上級ギルド達が来る前にある程度調査を纏めておこう」


 そして俺達は、ダンジョン調査に向かうのだった。

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