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□「そーだよ?」
桐生先輩が発した一言目はあまりにも意外で、思わず「は?」と思わず声が出てしまった。
この人は、あんな言われて怒らないのか?
「確かに、そう思われるのも仕方がない部分はあるよね。人には人の、理解出来ない事だってあるし、好き嫌いだって必ずある。もちろん、我々が行ったことは決して褒められることではない」
鳥羽さんも、想定していた答えと180度違う答えが返ってきて呆然としている。
当然だ。
誰だってこの状況なら怒られると思うだろう。しかし、返ってきたのはまさかの肯定。
これで驚かない人はいるだろうか?
いや、きっといない。
「じゃあこのサークルは……」
「——でも、間違ってることが2つある」
先輩の雰囲気が一変した。
「……間違っていること?」
「そう、間違っていること。まず1つ目は私たちはただサークル活動をしてるわけじゃない。これでも一応、プロとして活動している」
年々、プロゲーマーと呼ばれる人たちの活動人口は増加している。
プロゲーマーの目的は、プレイしているゲームで賞金を得ることで、オリジンはその他のゲームに比べるとその比率はだいぶ高い。
理由は簡単。
単純に、他のゲームよりも金が手に入りやすい。
クランというシステムが存在する。
50人以内でチームを作り、ランキングを毎月、世界中のクランと競い合うというものだ。
これだけ聞けばよくあるゲームと一緒だが、オリジンでは一味違う。
毎月の最終日、ランキングの上位100チームには賞金が配られる。
下位でもそこそこ遊べる程度の金が貰え、上位10チームともなれば1ヶ月は生活できる資金が手に入る。
世界中には1万以上のクランが存在するなか、上位1%に入るのは当たり前だが厳しい。
1%は廃人や天才、化け物の巣窟。
中には、所属人数が1桁で、毎月のように1%を維持しているクランすら存在する。
「CGCの今の順位は? 」
「私たちの順位はねー……確か…84位だったかな?」
84位!
大学生のサークルのとしては、ありえないほど高い順位。
確かにこれならプロと名乗るのも恥ずかしくない。
いや、十二分に誇れるレベルだ。
「よくわかりませんが、凄いことは何となくわかりました。でも遊びであることに変わりはーー」
「遊びじゃねぇ」
言葉を遮ったのは、ここまで黙っていた平松先輩だった。
「遊びじゃねぇんだ。俺たちは本気だ。どんなに馬鹿にされようと、蔑まれようとも、そこだけは揺るがない。今はまだ順位は低いが、必ず……必ず1位を取る」
瞳の奥の熱が、身にまとう空気が、彼の言葉が嘘ではないと証明する。
「だけど、今のままじゃダメだ。戦力も、人材も、何もかも足りない。だけどな、俺はそんなことで諦めない。どんなことをしても1位にたどり着く」
「あっちゃー。良いところ全部言われちゃったか。まぁ、つまりはそーゆーこと。それにしても……源治がここまで熱くなるなんて久しぶりだね~」
「ニヤニヤしてんじゃねーよ! 俺だってたまには、1つや2つ話したくなることくらいあるわ!」
シリアスな雰囲気はどこへ行ったのか。
桐生先輩の一言で完全に空気が変わってしまった。
「どーすんだよこの空気!」
「まぁいいじゃん! とりあえず!私たちのサークルは!プロとして本気で1位を目指す!以上!!」
締めちゃったよ。
……だけど、このサークルの印象はだいぶ変わった。
それは俺だけではなく、彼女もだろう。
「ーー先ほどは失礼なことを言ってしまいすいませんでした。輩方のことを少し誤解していたみたいです。少なくとも……遊びではなかったようですね」
「うんうん! いやー、わかってもらえてなによりだよ!
これでようやく移動できる」
ん? 移動?
「ここは仮の部室だからな。本拠地は別の場所にあるんだよ」
それになぜ俺らが付き合わなければいけないんだ?
「えっ? だってもう同じクランの一員でしょ? 」
「「入るとは言ってないです(よ)」」
なぜ入ると思っていたんだろうか?
「えーーーー!! 何で今の流れで入らないの!? 普通感動して入る場面だよね!?」
確かに、感動はした。
納得もした。
だが、入るか入らないかと言われれば話は別だ。
「まぁ、そりゃそうだわ。仕方ねぇ……おい、出番だ」
「「「はい!!!」」」
この声、この集団は。
「ラグビー部の皆さんだ。先月の賞金を分ける約束で手伝ってもらっている」
……なんのお手伝いなんですかね……。
「なんのって、……拉致?」
桐生先輩の整った顔が、今日1番の笑顔を咲かせた。
「認めた! 今この人拉致って認めたよ!?」
鳥羽さんの顔がみるみる青くなっていく。
そして、俺の顔も。
「じゃあ速やかに車に乗せてくれ。桐生も行くぞー」
「はーい! じゃあ行こっか、二人とも!」
□こうして俺の大学生活は、1時間前には想像もしていなかった形でスタートすることになった。
理想とはだいぶ……いや全く違うけどな。
可笑しな仲間と、可笑しな先輩と、可笑しなサークルで。
1つのゲームを通じて。
--これは、ゲームで繋がる俺たちの青春の物語。
「誰かーーー!!!助けてくれーーーーーー!!!!」