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第12話 大切な君へ

 あの決闘から、さらに二週間ほどの時が過ぎた。

 夏の日差しが鬱陶しく肌に絡みついてくる。今日も太陽は元気にアスファルトを焼き焦がしていた。暑さは日に日に増すばかりで、上限なんてないのではないかと思えてくる。

 例によって授業の内容は覚えていないので以下略。

 放課後である。

 今日はいつもより教室が浮き足立っているというか、ソワソワしている感じがする。

 それも当然。今日は、年に一度の大イベントである七鳴島ななきじま夏祭り当日なのだ。

 島総出で開催するこの祭りは七鳴島ななきじまの中でも最大規模のイベントで、島の外からもたくさんの人が集まる。学校も午前授業になるほどの特例ぶりである。

 ということで、まだ中天に太陽が居座っている昼下がり。


「夏乃」

「んー?」


 俺は、ノートやら筆箱やらを片付けていた夏乃に声をかけてみる。


「お前今日祭り行くのか?」

「私? 私は行かない、というか行けないかなあ。だって蓮太、用事があるんでしょ?」

「ああ、ちょっとな」


 姫宮との約束である。あれから細かい集合時間や場所などの連絡は来ていないが、大丈夫なのだろうか。

 ……いや、きっと大丈夫なのだろう。なぜなら、さっきからチラチラと姫宮がこっちを見ているから。


「蓮太がついて来てくれないと自由に動き回れないし……私は今年はパスかな」


 夏祭りは島の中央付近にある七鳴ななき神社が中心となって行う。島は中心に行けば行くほど標高が高くなる(と言っても山と言えるほどではないが)ので、神社に行くためには登校する時と同じように坂を登らなければならない。夏乃が夏祭りに行くためには、誰かの助けが必要なのだ。


「他の人に連れて行ってもらえばいいじゃないか」

「いやあ、そうじゃなくてさ、こう……うーん、なんていうか、蓮太じゃないと意味がないっていうか……」

「…………?」

「あ~~~~! もう! なんでもない! 私は行かないから! 代わりに焼きそば買ってきて!」

「焼きそば? わ、分かった。分かったから落ち着け」


 何を怒っているのか分からないが、ぽこぽこと殴ってくる夏乃をなだめる。


「せっかく……新しい浴衣…………」

「なんて?」

「だからなんでもないって!」


 このように聞いても教えてくれないのだから、解決法がない。


「蓮太はせいぜい夏祭り楽しんでくるといいよ!」


 ちゃっかり焼きそばを要求しているくせに怒り心頭の夏乃嬢。臣下の俺はどうにかして機嫌を取らないといけないのだが……。

 ──焼きそば、特盛しかねえな。

 おまけにかき氷でもつけておこうか。


「はいはい、帰りますよお嬢様」

「……ん」


 そういうと夏乃は素直に手を差し伸べてくる。俺はその手をとって、車椅子への移動を手伝う。


「帰ろうか」

「うん」


 俺たちは学校を出て、坂を下っていく。町並みは祭り一色だ。まだ昼なのに、至る所に浴衣やはっぴを着た人たちが歩いている。

 夏乃を家まで送り届け、自宅に向かっている最中、スマートフォンにメッセージが届いた。

 姫宮からだった。


『17:00、七鳴ななき神社前で!」


 文面は簡潔に、時間と場所だけが記されていた。俺はそれに『分かった』とだけ返しておく。

 結局、大切な話とは一体なんなのだろうか?


☆★☆


 約束の時刻を目前にして、俺は七鳴ななき神社の鳥居前に来ていた。人がとても多く、参道の両脇には出店が軒を連ねている。

 姫宮の姿はまだ見えない。この人の量では、合流するのも一苦労──かと、思われたが。

 隙間を縫ってこっちにやってくる少女の姿に、俺は見惚れていた。

 薄紫色の浴衣。ショートヘアの髪にはきらりと光る髪飾りが揺れている。慣れない下駄に苦戦しながらこちらに歩いてくるその姿を見た瞬間、目を奪われた。


「あ、いた!」


 控えめに手を振る姫宮。俺もそれに応えようとは思ったのだが、それどころではなかった。


「お、おい、どうしたんだそれ……?」


 合流して最初の一言がこれとは、なんとも情けない話だ。


「それ? 浴衣のこと?」


 姫宮はくるりと一周回って、恥ずかしそうに笑った。


「どうかな? 似合ってる?」


 ──おいおいおいおい。お前本当に姫宮凛子か?

 俺は思わず口に出しそうになるのをなんとか抑えた。普段口を開けば罵倒が飛んでくるようなヤツなのに、今日に限ってどうしてそんなにしおらしい?分からない。分からないが……一つ、言えることがある。

 この女、実は超美人だ。

 口が悪い、目つきが悪い、性格も悪いと思っていたのだが、それがなくなるとあら不思議。綺麗に「可愛い」の部分だけが残された。


「これは、ちょっと、すごいな……」

「ふふっ」


 なんだその笑い方は。お前の笑い方はもっとを「あっはっはっは」って感じのおっさんみたいな笑い方だっただろうが。そんな小悪魔みたいな笑い方をするんじゃない。


「それじゃあ、行こ?」

「ど、どこにいくんだ?」

「いいからついてきて!」

「ちょっ、おい!」


 姫宮に手を取られ、連行される俺。


「なんなんだ? 今日のお前、ちょっと変だぞ」

「そうかな。……そうかも」


 姫宮は浴衣の裾を揺らしながら、サクサクと進んでいく。


「……今日だけでいいから」


 姫宮はこちらを振り返らず、聞こえるギリギリの音量で言った。


「今日この時間だけでいいから、凛子って呼んで」

「えっ……!?」


 どういうことだ!? 本当に何が起こってる!?


「……お願い。理由は聞かないで」


 今日の姫宮はおかしい。間違いなくおかしい。

 だけど。

 その切実な思いだけは、伝わってきて。

 俺は。俺は──


「……分かった。り、凛子。これでいいか」

「うん。……うん、ありがとう」


 その一瞬だけ振り返った凛子の表情は、嬉しそうなのになぜか泣きそうな、切なそうな表情をしていた。


☆★☆


「ね、私あれ食べたい! イカ焼き!」

「その手に持ってるりんご飴とお好み焼きをなんとかしようぜ」


 次々に屋台をめぐり、美味そうに頬張る凛子の姿を見ていると、俺も幸せな気持ちになってくる。


「んー」


 右手(りんごあめ)を見て、左手(おこのみやき)を見て。

 何を血迷ったのか、凛子は右手を差し出した。


「食べる?」

「ぶふっ」


 りんご飴を、食べろというのか!?


「食べ、べ、た……?」


 半分くらい減っているりんご部分に、きっちり歯型がついているのだが……。


「食べないの?」

「食べます」

「よろしい」


 りんご飴は好きなので貰うことにした。


「美味しい?」

「ああ、うまい」

「よかった」


 眩しいほどの笑顔。凛子の笑顔は、周りも幸せにするような不思議な力がある。


「なあ、凛子」

「なによ?」

「結局、話ってなんなんだ?」

「……、」


 イカ焼きの店に向かおうとする足が、止まる。

 まるで魔法が解けるのを恐れるように、あと少しだけ夢の世界を見せてくれと懇願するように。


「……もうちょっとだけ」


 凛子は、苦しそうに言った。


「もうちょっとだけ、このままで」

「あ、ああ」


 今はまだ話したくないということだろうか。

 何か、嫌な予感がした。


☆★☆


「はぁ~、疲れた」


 ふとスマートフォンを見ると、時刻は7:30を示していた。二時間半近く祭りを堪能していたということになる。

 俺たちは買った食べ物を少しずつ消化しつつ、見晴らしのいい公園のベンチに二人並んで腰掛けていた。眼下には、星明かりに照らされた七鳴島ななきじまの街並みが広がっている。


「ふぅ~、満足」

「もう、いいのか」

「うん、堪能した」


 時が来たのか。凛子は長く息を吐き出し、空を見上げた。


「足が痛いわ」

「慣れない下駄で歩き回るからだ」

「そうね。慣れないことしちゃった」

「そんなんで帰れるのか? おぶってやろうか?」

「ダメだよ。それは──その役割は、私じゃない」

「どういうことだ? 姫宮、ちゃんと全部説明してくれ」

「…………っ、」


 自分の名前が呼ばれた瞬間、姫宮はビクッと跳ねた。そして、何かを諦めるような憂いを帯びた表情で、ぽつりぽつりと語り始めた。


「今から私、最低なこと言うよ」

「……あ、ああ」




「夏乃がね、大会で優勝したら……HD辞めるって」




「……は?」

「そのままの意味よ。夏季大会、優勝したら、HDはもう辞めるって、本人が、そう言ってたの」

「な、なんで……?」

「私に聞かないでよ。理由までは教えてくれなかったの」


 何でそんな、苦しそうに。

 何でそんな痛そうにしながら、言葉を続けるんだ。

 酸素を求めて浅い呼吸を繰り返す姫宮の姿は、本当に辛そうだった。


「ただ本人にはね、誰にも言うなって言われた。特に、蓮太には絶対にって」

「じ、じゃあ何で俺に?」

「分からない?」


 姫宮は天を見上げていた視線をチラリとこちらに寄越し、


「本当に分からない?」

「…………」


 沈黙を返すと、姫宮は「はぁ……」と息を吐き出し、小さく震えた。

 そして──

 突然ガッと俺の胸ぐらを掴んで、怒声を上げた。


「あんたしか夏乃を救える人がいないからよッッ!!!!」

「ぐ……っ」

「夏乃の気持ちを分かってやれるのは、一番長く隣にいたあんたでしょ!? 夏乃がどれだけHDを好きか知ってるでしょ!? そんなあの子が、辞めるなんて……あんたが止めてやらないで他に誰が止めるって言うのよ!」

「お、俺は……」

「この前初めて、君の試合を見て思った。『止められるなら、君しかいない』って。だから私は話したのよ! 親友との約束を破って! 友情よりも大切なものが失われようとしているって思ったからっ!!!!」


 その目には、溢れんばかりの涙が浮かんでいて。

 それを拭ってやることが、俺にはできなくて。


「だから、お願い。私の親友を、大切な親友を……救ってあげて」


 夏乃がHDを辞める。

 そんなこと、考えてもみなかった。

 だって彼女は、いつだって俺の前を泳いでいて。

 ずっと彼女が、憧れで。

 彼女みたいに綺麗に泳ぎたいと願って、ずっと後ろをついて回っていたのに。

 そんな彼女が、いなくなる、なんて。

 じゃあ俺は、何を目指して進めばいいんだよ。


「ぅ、ぇぐっ……ぅう……」


 姫宮は、必死に涙を零すのを堪えている。全力で抗っている。まるで、答えを聞くまでは泣かないと言わんばかりに。

 親友との約束を破ってまで、俺に伝えてきたその意味。

 姫宮が失いたくないと思った、大切な何か。

 そして、舞原夏乃のためにここまでしてくれた、彼女の気持ち。

 全てが、俺の中に流れ込んでくる。

『負けられない理由』として、胸に宿る。


「姫宮。……いや、凛子」

「……何よ」

「お前って、本当に友達想いでいいヤツだな」

「っ、……褒めたって何も出ないわよ」

「でも今は、言わせてくれ。ありがとう」

「…………っ」


 胸ぐらを掴んでいた力が、徐々に弱まっていく。


「大丈夫。後は俺に任せろ。全部、なんとかしてみせる」

「もう任せていいのね?」

「ああ」

「もう私一人で抱え込まなくていい?」

「ああ。よく頑張ったよ」

「……じゃあ、私の役目はここで終わりね」


 それを聞いて安心したのか、凛子は元の笑顔に戻った。


七鳴ななき神社のさらに奥、この島で一番高いところ。分かる?」

「? 灯台のあるところか?」

「そう。今すぐそこに行って。そこで、待ってる人がいるから」


 皆まで言わずとも分かった。俺は立ち上がり、


「凛子」

「なに?」

「本当にありがとう。お前も試合、観に来いよ」

「……うん。行く」


 早く行きなさいと厄介者を追い払うように手を振る凛子。俺は突き動かされるように走り出した。


「もう。なんでそんなにカッコいいのよ」


 去り際に聞こえた一言が、しばらく耳から離れなかった。


☆★☆


「あーあ」


 一人残された姫宮は、足をふらふらさせ、星空を見上げていた。


「夏の大三角だ」


 一際目立つ星を繋げ、空に三角形を描き出す。

 ずっとそれを、見上げている。

 空虚な時間だけが、過ぎていく。




「なんにも、なくなっちゃった」




 姫宮の心の中は、空っぽだった。

 ──夏乃に嫌われただろうか。優しい彼女の事だから許してくれるのかもしれない。でももう、私の方が夏乃の前に立てないよ。

 信頼を裏切ったのだ。彼女の前に立つ資格が自分にはないと、姫宮は感じていた。

 そして。


「浪川君……」


 一日限りのデート。

 今日という日を、姫宮は決して忘れないだろう。全てが満ち足りたような幸福と、すべてを失ったような絶望が、一日の間にやってきたのだ。

 ぐちゃぐちゃな感情のまま、ひたすら空を見上げた。

 下を向いたら、声を上げて泣き出してしまいそうだったから。

 頬を滑り落ちる、一筋の涙。

 長いため息。

 姫宮の元に残されたのは、強い孤独感だけだった。


「失恋って、こんなに辛いのね」


 入学したての頃だった。

 こんなにも絵に描いたような冴えない男子がいるのか、と目を疑った。

 前髪が長く、いつもぼんやりしている。車椅子の彼女と仲よさげに話しているのは見かけるが、それ以外に友達はいないようだ。誰とでも仲良くできる姫宮からしてみれば、違和感満載の男子だった。


『ねえねえ、あの子と知り合いなの?』


 最初は車椅子の彼女──舞原夏乃に話しかけてみた。


『そうだよー。一緒にHDやってるんだ』


 HDのことは知っていた。ローカルテレビで話題になっていたし、舞原という少女がそのきっかけを作ったということも、当時七鳴島(ななきじま)中でニュースになったからだ。


『とっても強いんだよ。私も負けそうになる時あるし』


 それから、少しだけ気にかけるようにしていた。だが、「強い」という割には……あまりにも覇気がない。冴えないというか、もはや生きてるのか死んでるのかさえ分からないような。

 だが。

 ある夏の日のことだった。テレビで、HDの大会が中継されていた。

 美しい七鳴ななきの海を舞うのは、二人の男女。一人が夏乃だということはすぐに分かった。その頃には、夏乃と姫宮は親友になっていたからだ。

 だが、それに対する男の子。それが誰かは、しばらく分からなかった。

 だって、あまりにも普段とはかけ離れていたから。

 あの何事にもやる気のなさそうな男の子が、海を縦横無尽に駆け回っている。にわかには信じがたい光景。

 今思えば、その頃にはもう惚れていたのかもしれない。

 不器用な姫宮は、その気持ちを伝えることができない。いつも辛く当たっては、厄介者扱いされるだけ。でも姫宮にとっては、そうやって会話できているだけでも幸せなのだった。

 だから、今も。

 ──こうして一日浪川を借りることができただけで、私は満足なんだ。

 そう自分に言い聞かせて。

 言い聞かせて。

 でも。


「結局、告白もできなかった」


 未練がないなんて、嘘だ。

 今だって飛び出して、背中を追いかけたい。

 でもそれはできない。だって浪川蓮太は、舞原夏乃のものだから。

 遠くで花火が打ち上がり始めた。

 今頃二人で花火を見ている頃だろうか。


「生きてるか、凛子」


 背中に声がかかった。振り返るまでもなく、海老沼だった。


「頼まれてたことはやっておいた。あとはあいつら次第だな」

「そうね」


 姫宮は海老沼に、「夏乃を連れ出してほしい」と頼んでいた。一番見晴らしのいい灯台の下まで舞原を連れ出したのは、海老沼だ。


「俺たちは……帰るか」

「そうね」

「…………どうした?」


 背を向けて帰り始めようとする海老沼だが、姫宮は立ち上がれなかった。


「……ごめん、足が痛くて立てない」

「どんだけ無理したんだよ」

「歩いてる最中は気がつかなかったわ。夢中だったから」


「仕方ねえな」と、海老沼がしゃがみ、背中を差し出す。


「ほれ」

「……」

「はよしろ」

「なんで遼なのよ」

「こっちのセリフだ。なんで凛子なんだよ」

「…………」

「…………」

「失恋って辛いよな」

「……ぁ」

「俺さ、この間失恋したばっかりなんだよ」

「……誰?」

「言うかアホ」

「……ズルい」

「お前だって言ってないだろ」

「言わなくてもこの状況なら分かるに決まってるでしょ!」

「お前だって俺の好きだった相手くらい分かるんだろう?」

「……まあ」

「ほら見ろ」


 坂を下る。祭りは今からが本番だ。活気付く参道を逆走する二人は、なんだか世界から孤立したように感じられた。

 やがて参道を抜け、人気がない坂道に出る。

 祭り会場に人が集まっているからか、この辺りには人の気配がしない。静寂が二人を包み込む。


「なあ、凛子」

「何よ」

「ちゃんと泣いたか?」

「……っ」

「俺もそうだったから分かるんだよ。人間ってさ、ちゃんと泣かないと、なかなか気持ちの整理がつかないんだ」

「……ぅあ、ぇぐっ……」

「今はもう、泣いていいんだぜ」


 そして、堰を切ったように、大粒の涙が姫宮の瞳から零れ落ちた。


「…………ぅぁぁぁぁぁあああああああああああああああっ!!」


 海老沼の大きな背中に、一つ、また一つと雫が落ちていく。海老沼は無言でそれを受け止めた。

 胸の奥底に隠していた思いが、涙となって溢れ出す。


「ぇぐっ……ぅぁ……ずっと、ずっと好きだったのに……っ、敵わないよ、あんなの」

「そうだな」


 二人、まるで傷を舐め合うように。


「でも、ぇう、夏乃のためだって、あの二人にしか分からない世界があると思って……だから……だから……っ、ぅあぁぁっ」

「そうだな」


 お互いが、支え合うように。


「私は邪魔だから、いなくならないとって……」

「そうだな」


 寄りかかって、寄りかかられて。


「こんな惨めな思い、人生で初めてだよ……っ」

「……っ、そうだな」


 倒れてしまわないように。


「でも俺たちはさ」


 そして、明日からまた前に進めるように。


「……」

「思ったよりあいつら二人のことを、気に入ってんだよ」

「……うん」

「だからさ、清々しい気持ちで前に進もうぜ。まだ人生始まったばっかりだ。きっと新しい出会いの一つや二つある」

「うん」

「何の憂いもなく、あいつらを応援してやれる俺達でいよう」

「……そうね」


 ──浪川君、今日一日付き合ってくれてありがとう。最後にいい思い出ができたよ。

 ──夏乃、あとは頑張ってね。ずっと応援してるよ。

 そして──


 さようなら、私の初恋。


 姫宮は、その言葉を胸にしまいこんで、海老沼の背にもたれかかった。


 そして、少女の長い恋は終わった。


 ──それでも、夏は終わらない。


 いくつものドラマを経て、少年少女は成長する。


 様々な思いを秘めて、慌しい日常せいしゅんを過ごしていく。


 たとえそれが辛いことでも、楽しいことでも、どれもが大切な青春の一ページだ。そしてその本には、まだいくらだって書き込める。


 だから夏は、終わらない。


 だって、まだ始まったばかりなのだから。


 ──きっとこれから、忘れられない夏が始まる。


 そしてまた一つ、大きな花火が空を彩った。


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