tears
泉喪は目を疑った。
成田国際空港である。
一週間前の晩。
つまり招き猫に襲われたその晩に。
泉喪は境間に連絡をとった。
「境間です。」
「泉喪っす。
すいません夜に急に。」
「いえいえ、私は基本夜行性ですからね。
で、どうされました?」
「休暇終わりたいです。
案件やりたいっす。
強い奴と戦闘たいです。
弱い者いじめじゃない、きついとこできつい奴と
戦闘たいです。」
「ふむ。
…先生からちらっとうかがいましたが、やけになってますね。」
「あ、えっと。…はい。
でも、戦闘たいんです!
強い奴と!!」
「結構結構。
若い時は元気であるべきです。
…そうですねえ。
海外の案件になりますが、行きますか?
きついですよ。」
「はい。」
…航空券は前の晩に、久しぶりの境間から手渡された。
「今回は
ペアで行動してください。
相方さんは空港で合流する手はずです。」
「一人がいいっす。」
「駄目です。
1人だと、やけになりますから、ね。」
にっこりと笑顔を作る境間に、泉喪は何も言えない。
図星だからである。
…
「なんであんたなのよ?」
「俺が訊きたい。」
藁卑がいた。
「八幡さん、どうしたんだよ。
頑張って助けたのに、別れたのか?」
藁卑は目を背けた。
「…振られたのよ。
意識が戻ったら、
『出家する』
とか言って、本当に出家しちゃった。
て、あんたは?
日本語しかできないやつが、何で海外案件なのよ?」
「そりゃ、…・まあ。
色々あったんだよ。」
…色々あった。
過去形である事に悲哀を感じる。
とても辛い。
「藁卑。」
「何よ、改まって。」
「俺の、手を握ってくれないか?」
「は?何言ってんのよ童貞。」
「頼む。」
泉喪はその大きな手のひらを
亜麻色の髪の幼馴染に差し出して
差し出された彼女は
色々迷った挙句
「八幡を助けてくれた、お礼、だから。」
と言って、そっと彼の手を握った。
柔らかい体温。
に。
さぷりちゃんとの記憶が蘇る。
彼女との時間。
日々。
夜。
空気と音楽。
日差し。
それらが全て蘇り
かつ。
その全ては、過ぎ去りし過去にすぎない。
泉喪は瞼をぎゅっとつむった。
すきまから涙が溢れてとめどなくその頬を伝う。
それは止まらず。
やがて嗚咽となる。
彼に
「なに、よ。
馬鹿みたい。
ほんと、ばかみたい。」
と藁卑はもらい泣き混じりに言うが。
その手をはなすことはなく。
伝わり続ける温かさに
泉喪は号泣を続ける。




