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翌日。
一篠会から大型の空気清浄器が一台収まりそうな段ボールが一箱届いた。
中にはさぷりちゃんの着替えと、彼女用の薬品、それと彼女の取り扱い説明書が入っていた。
とてもありがたかった。
特に説明書が。
泉喪は一晩、彼女と屋根を同じくしただけで、ほとほと、彼女との
かかわり方
に困り果てていたからである。
彼女は人格のない人形だが人体なので、
いやむしろ、人体だが人形なので、
色々な問題を起こした。
例を挙げると。
・一人で用が足せない。
限界を超えて我慢する。
・たえずなめてくる。
そのままにしておくと、それ以上をしてくる。
・眠らない。
・時折痙攣し、叫ぶ。
説明書にはこれらの問題に対する
一篠会なりの解決法が記載されており
その方法は青年にとって
好ましいものと、あまり好ましくないもの
に分かれていたが、あくまでマニュアルはマニュアルである。
自分なりのかかわり方を、探せばいいと
彼は思いつつ、天井の白い板に這う糸くずのような模様を見上げた。
なぜ糸くずなのだろう。
けど、あらゆる場所でこの模様はみかける。
なぜなのだろう。
と、泉喪はこのアパートに越した時に思ったのだが。
― 何で、かな? -
一人であるときは気にもならなかったのに
二人でいると、あらゆることに疑問符がつく。
足元で親指を舐めてくるさぷりちゃんの黒髪がフローリングの床にばらけている。
なぜこの子は舐め続けるのだろうか。
何を求めているのだろうか。
どういう戒律がこの小さな頭蓋の奥で作用しているのか。
― 何で、俺はこの子を、助けたいと思ったのか、な? -
性欲を処理したいわけではない。
死体など山ほど見てきた。
命を殺めることなど、村の案件では、ざらである。
それは大いなる謎なので、泉喪はとりあえず
記録をつけてみることにした。
先生の言葉を思い出す。
『分からないことがあったら、まず書き留めてみよう。
後で色々な角度から眺めてみて、分かるかもしれないし
少なくとも、眺める練習にはなるからね。』
眺める、という行為は嫌いではない。
泉喪は近所の大型スーパー
アエオンに出向いてA4ノートを購入し、その日から、
さぷりちゃんについての記録をつけ始めた。




