morning
その晩。八幡会は壊滅した。
新宿のビルに戻ると酒盛りが始まり、どんちゃん騒ぎの後で
空が白んだので泉喪はセブンまで歩き、新聞を確認する。
『新宿区神楽坂のガソリンスタンドで爆発』
と、大見出しが出ていたが。
八幡邸については扱いが小さく。
『新宿区水道町で発砲音。』
もう、扱いですらない。
どういう力学が働いたのか。
おそらくは、一篠の客の力技なのだろうけれど。
真偽が判然としないまま、青年は新聞をたたんで、
店に備え付けのダストボックスの鉄の容器にほおりこむ。
捨てる、ということ。
新聞をダストボックスにほおる。
煙草を路上にほおる。
どちらにせよ、ほおり捨てることに変わりはない。
病院でチューブに巻かれて息を引き取るのも
邸宅で肉塊になるのも、
死は、死だ。
マイムマイムは盛大だった。
60人以上が物言わぬ肉になった。
バイキングで食べ散らかされた皿まみれの席が店員のお姉さんの細腕によって
綺麗に片づけられるみたいに。
とても整然極まりなく整理整頓されたのだ。
『新宿区水道町で発砲音』
という言葉に、綺麗にくるまれて。
60人以上の構成員の命が。
…始発はすでに動いている。
朝の新宿には、何かが立ち込めている気がする。
この街で眠らずに夜を渡った人々の
時間が、感情が、記憶が臭気が。
光に解けて白く蒸散していくように、泉喪は感じた。
― 寝よう。 ―
ビルに戻ると東寺以外は、
ソファに埋もれるようにだらしなくよだれを垂らしていびきをかく我妻を筆頭に
全員爆睡していた。
そんな彼らをはた目に、初老は窓際で紫煙をくゆらせている。
― この人は、摘みの対象から外れた。
それは嬉しいけど、さ。
なんか複雑だな。―
目が合い、背筋がびくっとなる。
「強いな。
助かった。」
渋い声がブラインダー越しに差し込む光と共に届いたので
泉喪は小さく照れ笑いをした。
「なんもっす。」
東寺は煙草を灰皿で潰して黒い殻にしてから
「寝てくる。」
と言って青年の胸の前を通りざま、見上げてきた。
「…一緒に寝るか?」
「あ、俺そういう趣味ないんで。」
「そうか。」
初老はその瞳に何の感情も浮かべず、そのままドアの向こうに消えたが、
泉喪はちょっと眠気が飛んだ。




