roles
八幡邸の地下は意外と広く、入り組んだ真暗い通路の至るところに
資材やら何やらが転がっている。
越智も転がっている。
通路最奥のシェルターを無理やりこじ開けようとしたら
電撃が走ったらしい。
暗視スコープを額に上げて
東寺が救命しているところに、
我妻、愛染、泉喪は到着した。
「生きてんのか。」
問う我妻に東寺は首を振り、泉喪と目が合い、顎で口元を指したので
「はい。」
と言って
泉喪は越智の首のそばに膝をつき、大きく口を開けて息を吹き込み始める。
東寺のマッサージの波動が、心停止中の心臓から胸、首を伝って唇から
青年の唇にも及ぶ。
「この型は、電源切らないと無理ですね。
福建マフィアが使ってました。
最近はやってんのかな。」
愛染は越智に眼もくれず、シェルターの錠、とても分厚い鉄、にしゃがみ込んでつぶやく。
手は触れない。
「C4爆弾でも行けますけど。
つけてる間にびりってきたら、越智さんになります。」
我妻は眉をしかめ、東寺は無言で越智の救命行動を続ける。
びくん
と、越智の大柄な肉体全体が痙攣した。
戻ってきた。
呼吸も回復し、唾液が泉喪の口腔に入った。
― 良かった。
さて。 ―
見取り図を思い出す。
電気系統図に電気ショック的なアンペアは記載されていなかった。
つまり、
狂犬と同じく。
― 情報が旧い。 ―
この先に八幡がいることは間違いがなかった。
が、届かない。
― 天の岩戸みたいだなあ。
違いは神様と組長。
でも、さ。―
時間がある、ということだ。
扉に仕掛けられたショックの電源は、十中八九、シェルター内部にある。
外に置いておいていじられたら意味がない仕掛けだ。
機械仕掛けの扉の奥で、警察なり不動会の救援なりを待つ。
戦略的にはとても正しい。
そして、とてもありがたい。
我妻達は、手が出せない。
出せるのは。
「俺、ダクト見てきます。」
我妻はうなずき、
愛染は
「つけとけ。」
と言って泉喪にほおる。
暗視スコープだった。
「ありがとうございます。」
「お前が罠にはまっても俺は助けねえ。
芋づるは避ける。」
― なんつうか。
愛染さんって、つんでれ、だよな?―
喧嘩に同行して分かった。
一番の手練れは東寺だが。
一番、周りを見ているのは愛染だ。
つまり我妻の采配は正しい。
移動の要は越智。
情報は東寺。
警護は愛染。
そして統率は我妻。
よくできている。
― 見込みが違ってきたなあ。―
折れて戻した鼻骨の痛みに涙目になりながら思いつつ
ため息をついて、ダクトに続くそこまで高くもない天井を開くと
堆積していたホコリが大量に落ちてきて、
泉喪は盛大にむせた。




