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我妻が彼女にどういう懸想をしたのかは問題ではなかったが、
懸想をしているということが問題だった。
一條の催す乱痴気騒ぎの客と同じ類の獣性を感じる。
つまり、目の前の肉体相手に自らの暴力と性的欲求をどう満たすか、という思考。
それは若干の遊び心も含む。
如何に手早く二つの衝動を満たすかという命題。
嗜虐的思考に二つの瞳を輝かせる我妻に、泉喪は突然言った。
「俺、こいつとやりたいっす。」
「お?」
「先行ってて下さい。手早く済ませます。」
愛染の豪速を避けた。
今は受けている余裕などないのだ。
金髪の追いすがる拳をひたすら避けつつ、
『制圧』
という言葉も脳裏をかすめるが、さすがにそれは駄目だ。
とにかく、組長から視線を逸らさない。
我妻は、きょとんとしている。
「俺、こいつとやりたいっす。」
もう一度言った。
時間がない。さすがに、、これは無理だ。
― くっそ。
守り切れない…!! ―
我妻が小さく手のひらを振ったので、愛染は止まった。
「組長、こいつナメてます。」
「ああ。だが、面白えじゃねえか。泉谷あ。」
「はい。」
「念のため、訊く。
お前、こいつとやりたいんだよな?
で、俺らに先に行けと。」
「はい。人前でやるの苦手なんで。
でも、こいつとやりたいんす。」
泉喪も我妻も女の額に指をさしている。
彼女はベッドの端に腰をかけたまま微動だにしないが、
月光の中でかすかにその眉をしかめた。
我妻は泉喪の瞳をまじまじと覗き込んでから笑いはじめた。
とても可笑しそうだ。
そして不吉である。
場にそぐわないだだをこねていることは承知している。
が、引けない。
不意に、我妻は笑いを止めた。
「…いいぜ。
わんころ退治の褒美だ。
楽しめよ。
お前とこいつの因縁は問わん。
安心しろよ。」
「ありがとうございます。」
「ま、どういうつもりだろうと、だ。
やる、って言ったんだからよ。
ちゃんとやれよ。
三こすり半で終わらしたら承知しねえぞ。
愛染に確認させっかんな。
気合入れて楽しめ。」
愛染は露骨に嫌な顔をして、泉喪をにらみ舌打ちをしてから、
すでに通路の向こうに歩きだした我妻の背中に向かって身をひるがえした。
泉喪は後ろ手で扉を閉めて、女に向き直る。
「なんで、藁卑。
お前がここにいんだよ?」
言いつつ、へなへなとしゃがみ込んだ。
「それ、あたしが言いたいんだけど。
ばっかじゃないの?
ほんと、バカみたい。」
中性的でハスキーな声。
室内の闇には、色々な匂いが満ちている。
すえた鉄のような粘液の香り。
アンモニア臭。
汗。
血液。
泉喪は納得した。
― つまり、八幡邸は藁卑の
餌場
なんだ、な。―
彼女、藁卑は泉喪と同じ、村人である。




