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witch

風の精霊の加護。

ファンタジックな表現が似合うほど、彼らは(はや)い。

戦闘(やりあい)は通用門付近から始まった。


通用門は解錠されている。

愛染が吹き飛ばしたのだろう。

彼は我妻の援護をしている。

組長は正面から通用門(せんじょう)に立ち入り、構えた散弾銃で手当たりしだい、撃つ。

愛染は彼の前で、端から隠れ撃ってくる八幡会、我妻が残した分を、両手で構えた拳銃で丁寧に掃除する。

弾はマグナム44だ。

破壊力があり、八幡会(てきさん)の防弾チョッキの隙間を正確に縫い砕いているのが遠め目にも分かる。

越智と東寺は、泉喪が犬を祓った前庭を、通用門から勝手口に向かう通路に向かって

斜めに進んでいる。

越智は構えたハンドガンで、我妻を狙う八幡会を手当たりしだい撃ち

東寺は屋敷二階の狙撃手を、長銃で狙撃する。


通用門には川が近いので、水の匂いが漂ってくる。

火薬の煙も風に乗ってくる。

血の香りも。


初めは拮抗(きっこう)していたその撃ち合いも

あっさりと我妻組に形勢は傾いた。

配置されていた人員数は八幡組が圧倒的だった。

35人である。

暗視ゴーグルに黒の防弾チョッキに身を包んでいるにしても

約9倍の彼らにたいして、挑むなど、そもそも無謀だし

普通は壊滅、よくて劣勢の喧嘩(かちこみ)なのだが。



ー 踏んでる場数と戦術かあ。 -


単純な話だった。

前庭から通用門通路に追いたて袋のネズミにする。

ために前庭に準備されていた狂犬たちは泉喪がひきつける。

結果、広大なフィールドが我妻たちの自由になり、側面攻撃を可能にした。


通用門通路方面で構えていた八幡会は、

正面の我妻、愛染

斜め前方から襲撃してくる越智、東寺

によって


袋のネズミ


になった。

囲んでしまえば、人数はあまり関係がない。

傾いた形勢はやがて圧倒的になり

最終的に、我妻組の一方的な殺戮に終わる。

直前に、泉喪は


ー あ、ぼーっとしてたら怒られる、よな。ー


と思い、邸宅に正面から侵入する。

蹴破るとかそういうドラマ的な入り方ではない。

足元で昏睡している男前のベルトのキーチェーンから

屋敷の鍵を拝借するという、紳士的な侵入を選んだ。


屋敷内の見取り図は頭に入っている。

通路をゆきつつ、監視カメラに目をとめては

レンズに会釈をする。


カメラの向こうの、八幡組長(おやぶん)の心境を思い図ると

苦笑いしかでないが、

とりあえず、勝手口方向に向かう。

戦闘(やりあい)が起きているかもしれない。

その場合は、我妻組と対峙する八幡会残党の裏を泉喪がつく。

これは青年の判断である。


通路の果てから響く発砲音が向かうにつれて大きくなる。

が、角を曲がって戦闘の場に着くと

ちょうど最後(とどめ)の一発を打ち終えた我妻と目が合った。


「おう。」

「お疲れ様です。」

「お前ほど、じゃねえよ。

たいした活躍だ。

おかげで鼻歌も歌えたぜ。」


我妻はまぶたを柔らかく落として笑った。

つられて笑う。


硝煙と流血にフローリングの床やクリーム色の壁は赤や茶色に汚れている。

肉の塊である元人体がそこらかしこに

転がっている。


見慣れた景色だ。


「とりあえず、皆さん無事で良かったです。」

「・・・・たりめえだろ!!なめんじゃねえ。」


愛染が割り込んできた。


「あ、どうも。

前庭は終わりっす。犬使いもつぶしました。」

「見りゃ分かる。噛まれたか?」

「いえ。犬は慣れてるんで。」


我妻が破顔。

「ははは、大したもんだ。」


とても照れる泉喪から、愛染は視線を

向かいの角から現れた東寺と越智にうつす。

二人も丁度

掃除

を終えてきた。

挟み撃ちの予定だったらしい。

予定は外れて終わったが、良いはずれ方だ。


「怪我はないですか。」

「ない。」

東寺は愛染に短く答え、越智がにやにやする。


「危なかったくせに。」

「あれは、そう見えただけだ。

おまえなら死んでた、かもしれんが。」

「はいはい。」


軽口を叩き合う二人は

別の窓から侵入し

通路の組員を掃除してきたらしい。

黒の防弾チョッキが二人とも血まみれで

仕事を終えた後の塗装工のように真っ赤である。


「とりあえず、揃ったな。

じゃあ、行くか。八幡探しの始まりだ。」


我妻に全員うなずく。

泉喪ももちろん、つられた。



…その部屋は二階の最奥にあった。

部屋の前には男が二人。

真近から見る愛染の射撃に泉喪は感心した。

反射と言っても良いそれは、

両手で構えから狙いを定めて打ち込む、一連の動作をとても正確に

していた。

ロサンゼルスで習う射撃の教本に出てきそうな綺麗なフォームだった。

彼の放ったマグナム44は正確に組員の頭部を撃ち抜いて後ろの壁にめり込んだ。


のと同じ刹那に

我妻が散弾銃を構える。

フォームは荒い。

肩と首の肉を赤くえぐり飛ばす。

むき出しの骨と血は屠殺の場の牛肉を彷彿(ほうふつ)とさせる。

むせるような血の臭みが廊下の空間に満ちる。


我妻は


「こっちが正解か。」


と呟いた。

越智と東寺は我妻から分かれて地下の捜索に向かっていた。

我妻達とは逆方向である。



壊滅状態の八幡組が最後に守る部屋の両脇に我妻と愛染が構えて控える。

金髪が目配せした。


― はい。この場合は俺ですよね。―


どういう反撃(りあくしょん)が部屋からくるのか分からないのだ。

が、突入の必要がある。

というより、そのために来たのだ。


泉喪はうなずいて

全身をばねにして、肩から扉にぶち当たり

当たられた扉は(きし)んで、奥に開いた。


桜色のネグリジェの女。


室内に灯りはともされておらず

窓から左斜めに差し込む月明りに照らされながら。

女は。

室内の闇に浮かぶように、ダブルベッドにその腰を下ろしている。

組んだ脚から白い太ももが覗いている。

ベッドの端についた両腕は細く、開いた襟元から鎖骨がくっきりとしたラインを形作っている。

華奢で、胸はそこまでないものの着衣の上からでも、その形の良さは分かる。

髪は亜麻色のセミロングの先が肩や首元にかかっている。

鼻筋がすっきりと通った鼻梁。

のしたの、厚く、肉感的というより(みだ)らな唇。

自然で長い眉の下の黒めがちな瞳は目じりが上がっている。

月光の銀糸に浮かび上がる彼女の輪郭は

魔女のような印象を与える。

それは女が二つの瞳に宿す光は暗く、

感情の光というものがほとんどないというのもあるが。

とても…



「なんだよ、不正解か。

…だが、まあ。。

上玉だな。」


泉喪の隣で室内を覗き込みつつ

我妻は言った。

その声の響きは、肉食獣の舌なめずりに近い何か

つまり

欲望をはらんでいるのが分かったので

泉喪の血の気は引いた。




































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