trust
便器に顔を突っ込む。
今朝に続いて二度目だ。
食道をあがり口腔を怒涛のように過ぎる胃の内容物からは、まだアルコールの香りがする。
口元を左の甲、涙目の目元を右手の甲と交互にぬぐって一息ついてから、会議の場に戻る。
昨日と同じ新宿のビルの一室。
違いはガラステーブルの上の酒瓶が片付けられ、八幡邸の見取り図が毛布みたいに
テーブルを覆っていること。
見取り図を囲む形で
我妻組の皆さんがソファに鎮座していらっしゃる。
泉喪は室内と外界をつなぐ扉を背にして、テーブルの前に直立した。
手は後ろ手で組む。
正面のソファには我妻。
窓を背負って腰を前に投げ出している。
眉間にしわが、微かに寄っている。
右のソファ手前には愛染。
不機嫌に金髪を揺らして、親指の爪を噛んでいる。
同じソファ、奥の越智のこめかみにはうっすら筋が走っている。
左の東寺はソファに腰を深くして、両ひざに両肘を乗せ
両指を組んでいる。
照明が当たらないうつむき加減な分、迫力がある、というか怖い。
…行動を共にしてまだ24時間もたつかたたないかの彼らだが
分かったことがある。
酷薄さを極めた彼らだが、連携は良い。
相互の信頼が強いのだ。
強い信頼が、自由な連携とあうんの呼吸を可能としている。
昨日からの新入りが彼らの計画に異を唱えること自体、その信頼への
冒涜
なのだ。
が、ここは引けない。
引いたら仕事は失敗する。
「失敗します。
暮の情報は間違ってるっす。」
ガラスのテーブルの前で身体の芯に力をこめて
泉喪はそう言い放った。




