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freeks

なんだかんだで我妻組の皆さんは

気を許す許さないはともかくとして、

意外とすぐに泉喪に慣れてくれた。


とてもありがたい。


組長の我妻は黒髪が昔一世を風靡したアイドルさんみたいで、

服の端からのぞく刺青は龍のうろこの照りがいい。

蛇みたいな眼力だが仲間と笑う顔は無邪気だ。

さすがにたたずまいは組長なだけあって、野生的な男臭さがぷんぷんするが

不快ではない。

よくアルバムに見入っている。

これは戦利品だ。

つまり、彼が(なぶ)り殺した一家の


後片付け


のときに彼が必ずくすねる品なのである。

もちろん今時の家族はアルバムがなかったりもするが、そういう場合は

スマホを奪う。

そういったスマホやアルバムの中の彼らは、写真や画像ファイルの中で

生きているし、とても幸福そうだ。

そして我妻は彼らの幸福に目を細める。


犠牲家族の驚くべきは、SNSでは彼らは未だに生きていることになっている

ということだ。

我妻は酒の注がれたグラスを片手に犠牲者たちののスマホを操作し

彼らに成り代わり、日々SNS的交流を継続している。

おそらく、その交流先が次の犠牲者となるのだろう。

もちろん、彼の食指が動いた場合だけれど。



…東寺、越智、泉喪の三人組が八幡会の暮をカタにはめている間中ずっと

我妻は常日頃しているように、犠牲者

その日は享年33歳1男1女朝ドラのサブヒロインに激似、好きだったブランドはカルティ-エ

のスマホをいじりながら、新宿御苑のベンチに腰をかけてチューハイを飲んでいた。


ベンチというよりはちょっとした小屋で、雨よけもできる。

木の香りを嗅ぎながらたまに足元に転がってくるボールを追いかけてくる幼児に返してやる。

会釈をしてくる母親に口角を上げる。

彼の周囲を愛染が警戒している。

が、たまに遊歩道を行く女子高生のラインに視線を飛ばす。

いい感じなぷりぷり加減に口元を半開きにしつつ

組長に突進する八幡組組員のあごを砕いたり

騒がないように小屋のほとりの池に沈めたりするが、(たま)は取らない。

昼だし、公衆の面前だし。

これは陽動だからだ。

それに、何より若い女たちの眺めが悪くなる。

愛染は尻フリークである。

世の中の胸フリークは頭がおかしいとしか思えない。

尻というか、下半身の実用性と美の前には

脂肪の塊にすぎない乳袋など、無価値なことこのうえない、と思う。

愛染は彼自身をこういった感じで

理論的で冷静な人間であると常々思っているのだが、そこは周囲と温度差があるらしいが。




「ざっけんなよ!!」

と新入り、応援員の若造をまっすぐ睨む時も、愛染は冷静だった。

現場もよく分かっていない馬の骨に好き勝手させないという役目をはたしているのだ。

ちゃんと、睨む前に一発

新入りのみぞおちに強いブローを入れている。

馬の骨の口の端からはゲロが滲んでいる。

つまり、効いているわけで、お灸はちゃんとすえている。

はずなのだが、新入りは動じない。


- 可愛げがねえ -


「ふざけてないっす。

真面目っす。」


「てめえはマジメにフザケテんだよお!!」


さらなる一発が必要だ。

這い(つくば)らせて、話はそれからでいい

と、右脇を引き左でアッパーの刹那、

愛染の肉体は横に



の字に曲がり、そのまま吹き飛ぶ。

回し蹴りの主は越智だった。


「すまないね。

あ、昨日もこういうやりとり、したね。」

「はい。でも気にしないっす。」

「うん、助かる。で、どうしてなんだい?」」

「あ、はい。

その前に吐いてきていいっすか?

愛染さんの一発、きつかったんで。」

「どうぞ。」


泉喪は便所に向かってきびすを返した。

背中に刺さる越智の視線が痛い。

が、駄目な物は駄目だ。


- 俺の仕事っすから。 ー


便所の後に控える修羅場を想像して、青年の体温は2度下がる。

しかし、修羅場も仕事の一部なのだ。




















 

 

 


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