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LUCK   う~ん・・・勇者?  作者: ススキノ ミツキ
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第9話 ギャドリグ公都

 ギャドリグ公都に着くとリクスでも賑やかなイメージがあったのだが、こちらはもっと多種で多くの種族も住み、洗練された街並みという感じである上に人が奏でる音楽や町を歩く人の声で至る所、お祭り状態の様である。獣の耳や尻尾の付いた獣人族、エルフ族やドワーフ族等もかなり住んでいた。貴族も沢山住んでいるようで、その中でも7貴族がギャドリグ公都の領主で一等貴族として住んでいる。


 街もかなり大規模で宿泊できる大きな宿も50件を優に超えていた。


--ん~・・これだけ沢山宿があると迷うなぁ。お腹も空いてきたし取り敢えずギルドでお薦めの宿情報を聞いてみるか。あっ!そういえば王子が預金所へ行けって言ってたな。え~と、こっちか。


 クラウドはマップを開き場所を確認して預金所へ行き、中に入って受付で名乗ってみる。


「あのぉ~、ウィン・クラウドですが・・・。」


「いらっしゃいませ!お引き出しでしょうか?」


「はい、そうです。」


「それでは御本人確認致しますので、その石板へ右手を載せてください。・・・はい、御確認できましたので引き出し金額をどうぞ。現在、クラウド様からは10000デロお預かりしております。あと手数料は引き出し金額の1パーセントとなっておりますが最高手数料は10デロまでです。ご不明な点はございますか?」


「なるほど、だいたい分かりました。10000デルか。いくら引き出すかなぁ~。」


「いえっ、お預かりしておりますのは10000デ!ロ!でございます。」


「10000デロ!?」


「はい。」


--日本円で1・・・・億・・・・円!?さすが王子! 太っ腹だなぁ。いきなり金持ちになってしまった。預金所はどの町にもあるって言ってたけど、カジノもちょっとだけ興味あるし20デロぐらい下しておくかな.


「20デロでお願いします。」


「はい、かしこまりました。」


 お金を受け取った後、ギルドへ向かって歩いていると子供を一人の男が追いかけている。


「誰か~!そいつを捕まえてくれ~!ぬすっとだぁ~!」


--お腹空いてるんだけど仕方ない・・・。


 クラウドは、ほんの少し早く動いて子供の襟の部分を捕まえる。


「はっ、はなせ~~!」


「ハァ・・ハァ・・・この坊主!俺のお宝奪いやがって!」


「何言ってんだぁ!?これはおいらが奉公してる貴族のイレナお嬢様から友達のプレゼントを届けてくれって頼まれたものだぞ!あんたがおいらに当たって来て盗んだものを取り返しただけだい!」


「全く嘘の上手いガキだぁ。それは俺のだぁ。返しやがれ!」


--う~ん、調べてみるか・・・・なるほど、嘘つきはこっちの男みたいだな。確かに現在の所有者はイレナとなってるし。それにこの男、スリやら詐欺やら罪欄に書かれている。


 その時一人の身なりのいいお嬢様がこちらへ小走りで駆け寄って来た。


「カンボ!危ないから、もう取り返さなくていいって言ったでしょ!」


「あっ、お嬢様!コイツだよ!オイラから盗んだ奴!」


「へへへ、ばれちゃしょうがねぇな。こうみえて俺は元冒険者でレベル16の高レベルだぜぇ。そこの青い奴、痛い目に遭いたくなければその小僧をこちらによこしな!」


--この前もそんな事言ってた奴がいたなぁ。レベル16って高レベルなのか?


 クラウドは子供を守るように前に出る。


「人の忠告は聞くもんだぜ!てやっ!」


--遅すぎる・・高速移動で動体視力鍛えられたからなぁ。


 クラウドはそんなことを考えながら男のパンチをゆっくりと避け、足を引っかけて転倒させる。


「グワァァ~、くそっ・・強い。覚えてろよ!」


 男はそのまま逃げ去って行った。


--あなたが弱いだけです。どうしようかなぁ、捕まえた方がいいか?


「あのぉ~、有難うございます。このプレゼント、私の尊敬する友人に渡す予定だったのです。申し遅れましたが私はファールド家当主の娘イレナと申します。」


「これはどうも初めまして。クラウドと申します。良かったですね、戻って来て。」


「はい、御礼を差し上げたいのですが、宜しければ屋敷にいらっしゃってください。」


「いえっ、それには及びません。ただ、ご飯を食べれる美味しいお店と手ごろな宿を探しているのですが御存知ありませんか?」


「あっ、それでしたら父が経営するホテルへいらしてください。美味しい料理も出ますので。」


「そうですか、それでしたら場所だけ教えて頂ければ伺います。」


「いえっ、御礼に御馳走させてください。私にお支払いさせて頂けませんか?お願いします。」


 そう話されながらお辞儀をされてしまう。


「分かりました。それでは御厚意に甘えさせて頂きます。」


 イレナとガルボに付き添って歩くと、着いたのはかなり大きく豪華な三階建てのホテルであった。


--ここかぁ、高そうだなぁ。お金はあるけど、こんな高そうなところに泊まった事がないから、ちょっとドキドキするなぁ。


「クラウドさん、こちらへどうぞ。」


 イレナは受付でクラウドの食事と宿を早急に用意するように伝えた。そのあとこちらへ戻ってくる。


「クラウドさん、宜しければ私達も食事をご一緒させて頂いて宜しいでしょうか?今日は父と母は私用で出掛けて留守にしていますので。」


「ああ、もちろんどうぞ。」


 ガルボが「ヤッタ~!」と叫ぶ。それを見てイレナは微笑しながら会釈をした。


--なんか姉弟みたいに仲がいいなぁ。


 その後レストランのテーブルに案内させて少し待つ。ガルボは食事用の服に着替えさせられていた。暫くしてスープから始まり沢山の高級食材を使われた料理が並べられた。


「クラウドさんはどちらにお住まいなのですか?」


「え~と、自分は遠い国の日本という所から来ました。」


「ごめんなさい、聞いた事がありません。」


「いえっ、いいんです。そう言えば聴いていいのか分かりませんがイレナさんは貴族でいらっしゃるのに語尾に「ですわ」とかつけられないのですね。」


「えぇ、貴族と言っても3等貴族ですし、この方が私も話しやすいものですから。公式の場所以外はこの話し方なんです。他の貴族の方も多くの人が、同じ様にされていますよ。」


「そうなんですね。先程おっしゃられていた、ご友人の方も貴族の方ですか?」


「はい、ユリア様も貴族で一等貴族グラッド家当主の長女です。ユリア様は大変素晴らしいお方です。一等貴族でありながら私達、下の等級貴族にも、お優しくして下さいますし私が一等貴族の令嬢達から嫌がらせを受けた時もこちらの味方をして下さっています。」


「尊敬している理由は他にもあるんです。このギャドリグ公都の貴族令嬢たちから羨ましがられるほどの美貌と容姿をされているんです!まだあります!王都の魔法騎士学校には及びませんけれど、このギャドリグ公都にも魔法騎士学校があって、そこの魔法学科全学年で実力も一番なんです!」


「それは凄いですねぇ。」


 イレナはユリアの事を心底尊敬しているらしくクラウドが凄いと褒めると自分が褒められたかのように喜んでいる。そのあと食事を食べ終えてイレナ達と別れた。


--さ~て、生活資金は出来たけどカジノもちょっとだけ興味あるんだよなぁ。今まで頑張って来てるし自分へのご褒美に少し行ってみよう!


--え~っと、ここかぁ!街の明かりもギャドリグ公都はリクスより華やかって思っていたけどここは飛びぬけてるなぁ。


 カジノの外観は沢山の色とりどりの光る装飾を魔法で構築されていて、この辺りだけ違う世界に見えるほどである。カジノの内部はというと、かなり大きく東京ドームを1階と2階に分けたぐらいの広さがあり、賑やかな音楽隊の演奏が全体に響いている。2階は売店やレストランもあって静かな曲が演奏されている様だ。常連客用の宿泊施設がカジノの横に併設されている。


 クラウドは早速受付に行き説明を聞くことにした。受付には色っぽく胸元をさらけ出したミニスカートのドレスを着ている兎獣人族と猫獣人族、また普通の人族の計15人の女性がいる。


「あのぉ~、初めてなのですがカジノで遊ぶにはどうすればいいのでしょうか?」


「いらっしゃいませ。この横のカウンターでお金とコインを交換して頂いてから、それぞれのゲームに賭けて頂くようになります。また、ゲームには掛けられる最低金額と最高金額がございますがゲーム横に表示されていますので、それをご覧ください。なお、イカサマ防止用の魔法装置がそれぞれ設置されていますのでゲーム傍で魔法や魔法道具はご使用されないようお気を付けください。ゲーム内容とルールはそれぞれのゲーム傍にある石盤に手を置いて頂ければこちらも表示される様になっております。その他、2階には直接コインで購入できる商品や利用できるレストラン等もございます。もちろん、現金でもご利用頂けます。説明は以上ですが何かご不明な点はございますか?」


「いえっ、分かりました。」


「それではゆっくりお楽しみください。」


--ん~、ゲームによって賭けれる最低金額と最高金額があるって言ってたし、取り敢えずどんなゲームがあるのか見てからコインに換えるかな。


--なるほど、あれはカードゲームのブラックジャックみたいなものだな。


「ぐわっ、また負けた!今日はついてねぇ~な。よし!最後にもう一回だけだ!」


--あれ?この人さっきも「最後にもう一回」って言ってたけど大丈夫だろうか・・・。


--おっ、こっちは何かクルワットっていうイタチみたいな動物のレースしてる。


「行け~!何休んでんだ!走り終えてから休め!」


「やったわ!!15倍で4デロ5デレになったわ!」


--みんな、すごく楽しんでるなぁ。ゲームの種類も40種類ぐらいはありそうだな・・。ちょっと喉が渇いたし、2階で飲み物でも飲もうかな。


 クラウドは中央にある魔法のエレベーターから2階へ上がってレストランへ行く。その向こう側には商品コーナーがあって食事や飲み物を頂きながら、ゆっくり商品購入も検討出来る様になっている。


--うわぁ、商品がたくさん並んでるなぁ。


 魔法道具に剣、鎧、掃除機や冷蔵庫等の家魔法製品、雑貨用品、食料まで多種多様な製品が置かれている。


--何だあれっ?


多くの商品の並んだかなり先に牢屋が沢山あり、人が入れられている。その中で一際目立つ、遠くから見ても超美女と分かる女性が入れられていた。クラウドは望遠で確認してみる。牢屋の下の部分にはグラッド・ユリア50000デロと書かれている。


--あれっ?あの女性もしかしてイレナちゃんが言っていた人かも。貴族の娘がまた何故?


 クラウドは隣の席でカジノで勝っているのか上機嫌なおじさんに聞いてみた。


「すみません。あの牢屋って何なのですか?」


「おう、兄ちゃん。知らねぇのか、ありゃあ、イカサマした奴だったり金がなくなって自分を担保にして借りたのに、それでも負けちまったって連中よ。あの額は借りたお金の倍額で誰かが払えりゃ、そいつの者だし、払えなけりゃいずれ奴隷商人が引き取っていくんだ。でも見たか!兄ちゃん!さっき俺もみてビックリしたんだが、あそこに入っている女性。美人の中の超美人・・なかなかお目にかかれねぇぞ。俺も全財産払ってでも買いてぇが、あの額じゃ到底無理だな。」


「そうなんですか・・・。」


--何か事情があるのかな?イレナちゃんも悲しむかもしれないし何か助けにならないか聞いてみるか。


 クラウドはユリアの傍に行き問い掛ける。よく見れば泣いた後も見れる。服は高級生地素材で作られた白のブラウスを着ていた。容姿はイレナの言っていた通り容姿端麗で髪は黒く長く、顔は小さい。目が特別大きい訳でもないのだが全てのパーツが完全に調和されており完璧なバランスから来ている美女である。日本人顔の超美人であった。もし、美女を集めたとしても一瞬でこの女性を見つけられる自信がある。まるでこの女性の周りが輝いている錯覚を起こしそうだ。


「あのぉ~、お金を借りたのは何か事情でもあったんですか?」


「お願い致します!グラッド家を助けて頂けないでしょうか!私の叔父が1等貴族の紋章欲しさに策略して父に多額の70000デロの借金を背負わせたのです。それで借金の支払いを待つから紋章を渡せと言っておりました。」


「元は叔父が希少価値のあるウェボル鉱石が多量に手に入ったので買わないか?と父に持ちかけて来たのです。それまでの叔父は凄く優しくまじめな人間であると父も私も信じておりましたので父はその話に乗ったのです。」


「その二日後、叔父は荷馬車を夜中のうちに運んだと言っていて翌朝確認しましたが鉱石を積んだ馬車は何処にもありませんでした。それを叔父は馬車が盗まれたのは父の土地管理が足りないせいだと言って誓約書にある金額をすぐ払えと、それが出来ないのであれば返済を少し待つから一等貴族を譲れと言い出したのです・・・私の事はいいのです。どうかグラッド家を助けて頂けないでしょうか?」


「なるほど、事情は分かりました。お力になれるか分かりませんが頑張ってみます。」


「本当ですか!有難うございます!有難うございます!」


 ユリアはクラウドに何度も頭を下げていた。クラウドは会釈しながらそこを離れた。


--ん~、どうするかなぁ?70000デロと50000デロかぁ。預金所の10000デロで12倍ぐらいになるゲームに賭けるのが一番確率が高いはず。よし!それなら運の良い自分なら勝てるかも。


 クラウドはそう思い預金所へ向かおうとする。すると一台だけ目立つスロット台が何故か気になってしまう。他のスロット台は殆ど打っている人がいるのに、その台には目もくれない。ちかくのスロット台を打っている人に聞いてみる。


「これは何故みんな打たないのですか。」


「あっ!?そんなことも知らねぇのか。たまに大勝ちした奴が打ってる事もあるけどな。その台は高額の10デロコイン2枚限定の上に、回ってる絵の種類が50種類もあるんだぞ。まぁ、要するに回収台ってやつさ。当たれば小さな国でも買えんじゃねぇのか。」


「そうなんですか。有難うございます。」


 クラウドは預金所へ行くのをやめて何故か気になる、あのスロット台を打つ為、お金を10デロコイン2枚にして戻ってくる。


--ゴクッ!・・・よし、二枚と。


 スロット台には正面に船の舵の様な円形状の物が付いていて、それを右に勢い良く回した。台からコミカルな音が出てきて気持ちを盛り上げてくれる。そして一つ目が止まる。


--1つ目はこれはえ~と・・王家の紋章か・・2つ目あっ!また来た!3・・・よし!4!・・・よし!・・・・・!


 7つ目辺りから台から出る音が変わる。すると周りにはいつの間にか人だかりが出来ていた。


--8!・・・・9!・・・・・・・・・10!!来た!~~~~~~!!


「「「「「「「「「おぉお~~~~~~!!」」」」」」」」」


 台の音がファンファーレに変わる。スタッフ10人がかりで出て来るコインの回収装置を取り付けている。取りつけた後、その中のスタッフリーダーが話しかけてきた。


「あのぉ~、お客様宜しければこちらへ。」 


 クラウドが通されたのは店長室で、そこには頭を抱えている店長が居た。こちらに気付いて立ち上がりお辞儀をしている。


「あっ、お客様申し訳ございませんが、この魔法石盤の上に手を置いて頂いて、簡単な質問にお答え願えますでしょうか?」


「はい、分かりました。」


 クラウドは言われた通りに石盤に手を置いた。


「それでは宜しいでしょうか?」


「はい。」


「あなたは魔法を使いましたか?」


「いいえ。」


「あなたはイカサマをしましたか?」


「いいえ。」


「あなたはイカサマをしましたよね。」


--おいおい。


「いいえ。」


「あなたはイカサ~マをしましたよね。」


--言い方変えても同じですけどね。


「いいえ。」


「店長!もう諦めてください!お客様に失礼ですし何回お聞きしても同じですよ!」


「もう私はクビだぁ~!王国になんて報告すればいいのか!」


「仕方ないじゃないですか。まぁ、確かに利益の一部は税金として納めないといけないのに5000万デロ当てられて、暫く儲けが出ませんっていう報告は・・・勇気が要りますよね。」


--えっ?5000万デロ!?という事は・・・・5000億円!?


 クラウドは少し考えてユイアレスに連絡を取ろうとする。


「まっ、まさかそれは煌輝紋章石では!?ははぁ~!!今までの失礼大変申し訳ございません!」


「あっ、大丈夫ですから。椅子に座って下さい。」


「はい。」


「ユイアレス王子様、応答願います。」


「ど・・・・・・・・。」


--あれっ?今少し応答あったよな・・・・。


「ユイアレス様、聞こえてますよね。」


--まったく・・・。


「ユイアレス!応答してください。」


「おっ、クラウドか!?どうしたのだ?」


--聞こえてたくせに。


 クラウドは今までの経緯を説明する。


「・・・ということで、ある程度お金を返そうと思ってるのですけど。」


 店長の顔がパァ~っと明るくなる。


「本当に欲の無い奴だなクラウドは。いいから貰っておけ。王都へ来た時に酒でも奢って貰うとしよう。あと、クラウド!出来るだけ、そのお金は王国内で使用してくれ。それだけのお金を大量に持ち出されると王国が困ってしまうのでな。」


 店長の顔が暗くなる。


「ここの店長が困っているのですけど。」


「ん?そうか。私がクビにならぬ様、口添えしておく。クラウド相手では仕方ないとな・・クッ・・クッ・・・。」


--どういう意味ですか?


「ああ、そうだ。シャアラ殿とグラヌス殿が戻って来てな。クラウドの事を話したら王都へ来るよう伝えてくれと言っておったぞ。少し遊んだらこちらへ向かってくれ。それではな。」


「分かりました。」


「お気遣い、誠に感謝申し上げます。クラウド様!」


「いえっ、あの2階の牢屋に入れられているグラッド・ユリアさんを解放したいので手続きをお願いします。」


「はい!直ちに!」


 しばらくしてユリアとスタッフ2名が入って来る。


「クラウド様、お待たせいたしました。」


 スタッフが文字の入った首輪をユリアへつけようとする。


「それは何ですか?」


「はい。所持者の首輪と言って主人の命令に逆らったり、約5キロメートル以上勝手に離れると激痛が全身を襲う物です。」


「それは必要ありません、外してください。」


 その時ユリアから意外な言葉が出る。


「いえっ、それを着けてください。お願いします、私はクラウド様に買われたのです。」


「・・・あとで、外すのは可能でしょうか?」


「えぇ、主人であるクラウド様でしたら着けたり外したりが可能です。」


--それなら後で説得して外そう。

 

「それでは取り敢えず着けておいてください。手続きが終わればすぐにユリアさんの家に向かいましょう。」


「助けて頂けるのですか!?ありがとうございます!」


 ユリアは泣きながらお礼を言っている。


「クラウド様。手続きは完了いたしました。お聞きした通りに70000デロはこちらに用意して御座います。残金は預金所から、お引き出し出来ますので。」


「有難うございます、それでは。」


 クラウドはそう言うと70000デロをリングボックスに収納する。その場の全員が驚いている様子であったがクラウドが煌輝紋章石ホルダーと知っているものは、それほど驚いていない様子だ。


 クラウドはユリアとカジノを出てユリアの屋敷へ向かおうとする。カジノの外にある時計台を前にユリアが声を発する。ちなみにこの世界の1日は23時間である。正午は12時で午後が一時間少ない。


「大変ですわ!もうすぐ叔父が屋敷に到着する時間です。私の屋敷までは馬車で一時間はかかります。もう間に合いませんかも。」


 ユリアの落ち込みながら話す様子を見てクラウドはユリアをお姫様だっこで持ち上げる。


「失礼します。」


「クッ、クラウド様?何を・・・。」


「今から早く動きます。ユリアさんは怖かったら目を閉じてしっかり私を持っていてください。あと、舌を噛まないように閉じていてください。」


 ユリアは何をするのか不安に思いながら頷き言うとおりにする。


「それじゃあ、行きますよ!」


 クラウドはゴッドグランシーズを構築した後、ユリアの屋敷と人通りの少ない道をマップで確認して高速移動を始める。


「きゃあ~~~!クラウド様~!」


「大丈夫だから!舌を噛まない様、気を付けて!」


「はい!」


 ユリアはクラウドを信じて抱きついていた。


--そんなに抱きつかなくても大丈夫なんだけど。豊満な胸が当たります・・・。このお嬢さん腰も細いなぁ。顔も見れば見るほど美人で可愛いし・・・いけない!いけない!よそ見してるとぶつかる!


 ユリアは少し慣れて来たらしく周りの景色を楽しんでいた。


「クラウド様!風になった気分を味わえるなんて感動ですわ!」


 約10分ほどで大きな屋敷に到着した。小さなお城と言っていいほどの大きさがある。


「間に合ったのかな?」


 クラウドはそう話しかけながら優しくユリアを降ろす。


「はい。叔父の馬車は、まだ来ていないようです。こちらへ、クラウド様。」


--こんなお城みたいな屋敷住んでて70000デロぐらい簡単に出せそうだけど現金限定だと、そうもいかないないのかな。


 クラウドが中へ入るとグラッド家当主のレファルムと執事が出迎える。


「お父様、ただいま戻りました。」


「うむ、急に居なくなるから心配したのだぞ。また弟のレンドの奴の仕業かと・・・。ん?そちらのお方は?」


「それよりもお父様!お金の工面は!?」


「それがレンドの奴があちこちに手を回して妨害している様なのだ。」


「そうですか。クラウド様、お願いして宜しいでしょうか?」


「もちろんです。」


 クラウドは近くのテーブルへ行き70000デロを出す。


「なっ!?これは?どこから?・・・ユリア!そういえば、その首輪まさか身売りしたのではあるまいな!」


「お父様、申し訳ございません。私これしか思いつきませんでしたの。でも、私は後悔しておりません。」


「いえっ!ちょっと待ってください。自分はクラウドという者です。自分も小さいころから詐欺の様な酷い目に遭ってきたので他人事とは思えなかったのです・・・そのお金は自由にお使いください。ユリアさんの首輪も勿論外させて頂きます。」


「いいえ、クラウド様!私はクラウド様が助けて頂けるとおっしゃっていた時、その恩を一生かけてご奉仕させて頂くことで必ず返そうと決心しておりました。それを違えるという事は私自身をも騙すことになります。お願いします!傍に置いてください!・・それに殿方に抱いて頂いたのも先程が初めてですし・・・。」


--えっ!?抱いて頂いたって、お姫様だっこしただけですけど!


「な!?なんとそこまで進んでおるのか!」


--あっ、この人も勘違いしてる!?


 その時、扉がバーン!と音を立てて開かれた。そこから現れたのはバーコードハゲの中年太りの男であった。


「レファルム兄さん、お金の用意はできたのかい。まぁ、無理だろうねぇ~。さっさと引退して一等貴族の紋章を継がして下さい!あ~ついでに、第8夫人としてユリアも頂いてあげましょう。」


「ふざけるな!レンド!70000デロならそこにある。私との付き合いも今日で終わりだ!絶縁させてもらう!」


「!?そんな!金は集まらないように手筈していたのに・・・何故だ?」


「やはり貴様の仕業であったのだな!よくも詐欺を働いた上にそのような真似をしおって!!」


「・・・・・ははは。そういえば兄さん。忘れていました。借金には利息が付くものでしょう。今はもう利息合わせて10万デロは支払って貰いませんと。ほら、契約書も利息はこちらで決められると書いてあるでしょう。」


「それは貴様が兄弟で利子とか、ありえませんからと言っておったからではないか。」


「おや?そんなことを言いましたか?とにかく契約書にある以上、今すぐ10万デロを払って頂きましょうか?」


--こいつ最低だな!あまりひけらかすのは嫌だったけど仕方ない・・。


「レンドさん。その契約書は無効とさせて頂きます。」


「なんだ?貴様は!私は殆どの貴族の顔を覚えておるが貴様の顔など知らないぞ!平民が貴族にたてつくなど、私のコネで一生鉱山働きにしてくれるわ!」


--駄目だコイツ、本当に酷過ぎる!


「これを見てもその口が叩けますか?」


「そっ、それはまさか!煌輝紋章石!?・・・そんな馬鹿な・・・今まで上手く行っておったのに・・・もっ、申し訳ございません!私はきっと兄に魔法を掛けられて操られていたのだと思います!」


「どの口が言っておるのだ!レンド!!」


 ユリアが両手で口を覆いながら驚いている。


「クラウド様が煌輝紋章石ホルダー様!?」


「とにかく操られていようと、あなたは私を鉱山へ送ろうとした。立派な反逆罪です。まぁ大目に見て、あなたも鉱山送りで許して差し上げましょう。契約書は私の権限で白紙とさせて頂きます。」


「そんな・・・・・・・。」


 レンドは床に、へたり込む。執事に衛兵を呼んできて捕えるように話をする。衛兵が来たのちレンドは連れていかれグラッド家は皆、ホッとしていた。


「クラウド様、グラッド家を助けて頂き誠に感謝申し上げます。」


「気になさらないで下さい。」


「助けて頂いております上に、お願いを申し上げるのは大変気が引けるのですが50000デロは必ずお返し致しますのでユリアを解放して頂くことは出来ませんでしょうか?」


「もちろんです。先ほども申しあげた通り、こちらが勝手に助けたいと行動しただけですので。」


「クラウド様!お父様!私も申し上げたはずです。一生クラウド様に付いていき御恩を返させて頂きますと!」


 レファルムはユリアの固い決意と表情を見て話し出す。


「・・・・・クラウド様!娘をどうかよろしくお願い申し上げます!!願わくば、いずれ第何夫人でも構いません。娘を幸せにして頂けないでしょうか?」


「お父様!大丈夫です。私クラウド様といれば、きっと幸せになれます。」


「・・・お父様の言うように夫人にして頂ければ、もっと幸せになれるかもしれませんけれど。」


 ユリアがボソッと呟く。


「しかし、自分の旅は危険ですので。」


「クラウド様、私は魔法騎士学校のトップと言われております。きっとお役に立って見せますわ!」


--ん~、なら大丈夫かなぁ。


「・・・それじゃあ、ユリアさん行きましょうか?」


「はい!私の事はユリアとお呼びください。」


 クラウドはレファルムから何度も頭を下げられ、ユリアは母親と兄弟たちに別れの挨拶を済まして屋敷を出ていく。


--王都へ行かないといけないけどユリアさんの実力を見ておいた方がいいよな。あと首輪が目立つからスカーフでも買って着けておいてもらおう。


 クラウドは今後の資金として預金所で30000デロ下してリングボックスに納める。ユリアが常連である服店がまだ開いていることを確認してから行き、ユリアに今後必要となる衣服を買い揃えるよう話をする。ちなみにギャドリグ公都では、夜も人通りが多く夜11時まで開いているお店がほとんどである様だ。

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