第6話 バウモラ遺跡
既に辺りは薄暗くなっていたがウデントの家に向かう。家に着くと心配していたリアンナが涙を浮かべながらクラウドへ駆け寄り、いきなり抱き着いて首に手を回してくる。そして背伸びをしながらクラウドに口づけをする。
--えっ?急に何!これはどうすればいいんだろう。
「よかった!クラウドさん。無事で」
--あっ、また唇を・・・。
クラウドは柔らかい唇と柔らかい胸の感触を感じ、リアンナの裸体を透視をしてしまったことを思い出してあそこが大きくなってしまう。密着していた為、リアンナもそれに気づき真っ赤な顔をして耳元で囁いた。
「いいですよ。クラウドさんなら、いつでも何回でも・・・処女ですけど・・・。」
--もうビンビンです。
ウデントとウデントの妻のケイナは少し離れた所で見ていた。
「あらあら。」
「こりゃ~!リアンナ!さっき話したじゃろうが。クラウド様に失礼するでない!」
どうやら心配して右往左往するリアンナを見かねて全て話していた様だ。ただそれを聞いても少し落ち着いただけで右往左往は止まらなかったらしい。
抱き着いたままリアンナが話し出す。
「私を助けて頂き有難うございます。凄く格好良かったです。あっ、クラウド様ってお呼びした方がよろしいですか?私、何番目の夫人でも構いませんから。宜しくお願いしますね。」
--えっ、え~~~~~!!何番目の夫人って何?というか結婚して一緒に魔神退治に!?いやっ、無理があり過ぎるな。もし結婚するにしても魔神退治してから・・って、いやいや!
この世界では王族や貴族が多数の奥さんを持つのは普通の事らしい。稀にリクスの領主の様に妻が一人だけという者もいる。
「あの、リアンナさん。今まで通り、さん付けで普通に話して頂けますか。」
「あと、私はこの世界の各地を回り危険なところも沢山行かないとならないので。」
--うん。リアンナさんみたいな美人・・・惜しい・・・けど仕方ないよな。
「分かりました。でも早く迎えに来てくださいね。」
「はい。」
--あれっ?断った筈なのに「はい。」って言っちゃった。・・・まぁ、いいか。
「でもしばらくはリクスに滞在出来るの?」
「あっ、一応そのつもりです。」
「やったぁ~!!じゃあ、早く御馳走食べましょ!私もクラウドさんに食べてもらうために煮物作ったのよ!」
--さっきの流れで違うものを想像してしまった。
「はい、楽しみにしてます。」
「クラウドさんは普通に話してくれないの?」
--顔を斜めにして見上げながら話すリアンナさんもかわいい~。
「あっ、いやっ。楽しみにしてるよ。」
「うん。」
ウデントの家は結構広く日本でいう一軒家の1.5倍ほどはある。広い食卓には楕円形の大きなテーブルに豪華な食事が並べられていた。
「さぁ、クラウド様!どうぞ遠慮なくお召し上がりください。」
「有難うございます。頂きます。」
クリスマスに出てくるような七面鳥より一回り大きなリリンク鳥の丸焼やたくさんの野菜が入った色鮮やかなスープ、パンの間に豆腐の様に柔らかいのに牛焼肉の味のハンバーグ?が挟んであるサンドイッチ等どれも絶品で美味しい。もちろんリアンナの作ってくれた煮物も美味しくいただく。
「すごく美味しいです。」
「それは良かったわ!どんどん食べてください。」
「はい。あっ、聞くのを忘れていたのですがレイドックさんは大丈夫だったのでしょうか?」
「ええ。町の外壁に衝突して気絶していたらしいんじゃが、暗示も解けとるし怪我も大したことはないと救護所の者が言うてました。」
「それは良かったです。」
--あっ、本題忘れてた。早くレベルアップしないと。あとは生きて行く資金か。そうなるとまずは、やっぱり定番のギルドかな。身分証明書のギルドカードの発行もして貰わないと。
美味しい食べ物を頂きながら、この世界の事をたくさん聞いて時間が過ぎウデントがお風呂を勧め出す。
「クラウド様。お風呂の準備ができましたけぇ、どうぞお先に。」
「有難うございます。」
「それなら私も入って背中を流すわ。」
--えっ!
「え~と、それはまた今度で。」
「そうじゃ、リアンナ!クラウド様は疲れておるんじゃ。風呂で一人、ゆっくりと浸かりたいじゃろうから邪魔するんでねぇ。」
「は~い。」
お風呂につかり、寝る場所を用意して頂いたところに案内してもらった。布団に寝ころびながらギルドの場所や泊まれる宿を探す。
--このままここで住んでリアンナさんと一線を越えて、世界を救う意欲がなくなると困るしな。地球に住む母さんへ被害が及ぶ前になんとかしないと!
そう考えていると部屋の扉からノックする音が聞こえてきた。
コンコン!--これはもしかして・・と思い、そぉ~っと上半身を起こし扉を透視する。そこにはお風呂上がりのリアンナがまだ少し乾いていない濡れた長い髪を横で束ね、立っていた。
バスタオルは少し小さめで上はふっくらとした双丘の半分が出ている。下側は少し屈めば大事なところが見えそうだった。いやっ、よく見れば少し見えている・・・。
--んっ、寝たふり寝たふり。
再度、コンコンとノックされる。
「クラウドさん。起きてる?」
--寝てますよ~~~。
「なんだぁ、もう寝てるのかぁ~。折角、身体を綺麗にしてきたのに・・じゃあまた、明日ね。私のだ・ん・な・さ・ま!フフっ。」
--聞こえてますって、リアンナさん。お休みなさい。でも悶々として寝れるだろうか?
何とか睡眠をとったクラウドは、朝起きて用意してくれた朝食を頂いて昼食用の弁当を受け取り、マップを開きながらギルドへ向かう。
--え~っと、ここかぁ。思ったより大きいな!
小学校の体育館並みの大きさで中は2階建てになっている。まだ開いていない。
ギルドの内部は一階も二階も半分は沢山のテーブルと椅子が並べられ、お酒と料理も堪能でき、町の人や冒険者たちの情報交換の場所ともなっている。
--まだ開いてないのか。時間確認してから来たら良かったなぁ。え~と、開く時間はお昼少し前ぐらいからか。大分あるな・・・。
--時間あるしリアンナさんから聞いたバウモラ遺跡かエッキシ鉱山でも行ってみるか。
--問題は装備だよな。剣はゴブリンの石のナイフか極端に短い神剣レナスしかないし。装備を買うお金もないしな・・・。武器商人のウデントさんに甘えるのも・・・やっぱりあの方法しかないのか・・・?
--まぁ、なんとかなるか。えっと、マップによるとバウモラ遺跡の方が近く、歩いても2時間ぐらいで着きそうだな。
リクスを出る際、身分証明のギルドカードをまだ発行して貰ってないので後でもいいのかを、町の出入り口に構えられた検問所で確認しようとする。
話しかける前に衛兵たちに「おはようございます!クラウド様!どうぞお通り下さい。」と言われ挨拶だけして通り過ぎた。
--さてと行きますか。マップで確認したところ、南へ進んで丘を二つ越えた辺りにある筈だ。
マップを見ながらどんどん進んでいく。かなり歩いた所で遺跡を確認してみるとマップに赤い点が無数に見える。
遺跡から這い出してきた魔物だ。鑑定を併用し調べてみると、LV1~5のダウゴウラという見た目はダンゴムシを大きくしたような形をしていて襲ってくるときは丸まり、自身に薄い膜の防御結界を施して回転しながら襲ってくるようだ。
--初めての魔物退治かぁ。この石のナイフ通用するのかな?
クラウドはまず一匹のダウゴウラを狙えるように少し左へ迂回する。右手にナイフを握り目を閉じて近づいていく。ダウゴウラはそれに気付いて丸まり回転しながらクラウド目掛けて襲ってきた。
クラウドはゆったりと紙一重で避ける。その瞬間に何げなく持っていたナイフが間接の隙間に引っかかった。そのままダウゴウラは転がっていく。転がるたびに深く突き刺さって行き、やがて倒れる。
--あれっ?ナイフ取られた!って思って目を開けたらやっつけてる?・・・・ラッキー!
倒れているダウゴウラの近くへ行くと透明がかった白い玉が落ちている。
--もしかしてこれが魔元核石だろうか?
親指を2本近付けてみる。すると白い球がほんのり光って灰になる。何か少し左手の親指から体の中を通り右手の親指へ抜ける感触があった。
--まぁ、そんな上手くはいかないか。経験値もレベルアップには必要だし、よ~し!次々!
倒れているダウゴウラからナイフを引き抜こうとするがなかなか抜けない。
--ぐっ、ぐぅぬぅ~~~!
パキン!
--あっ!折れた?ええっ!!
頑張って引き抜こうとしている内に、いつの間にか周りをダウゴウラに囲まれていた。
--さっきまではこんなにいなかった筈なのに!
ナイフは折れ、戦うには素手かナイフより短い神剣レナスしかない。
ちなみにダウゴウラは遺跡の周りに、この時期に異常発生するクールギの花と、それを主食とする虫が大好物で集まってくるという。
一週間ほどで枯れるらしくダウゴウラの堅い甲殻と防御膜で武器を痛めることが多いため、それらを知る冒険者たちはこの時期には遺跡に近付かない。
--まずいなぁ。素手で倒すなんて無理だろうし短すぎる神剣レナスじゃあな・・。まぁ、無いよりましか?
クラウドは目を閉じてレナスを右手に持つ。多くのダウゴウラに囲まれている不安からかガンギス軍と戦った時の様に激しく避けるフリをする。
--こんな感じでいいのか?あとは神剣レナスが届いてくれてれば・・・振ってるけど、う~ん、短いから当たってないのか感触がないな。これは逃げるしかないか。
避けながら少しづつ移動しようとする。すると周りでしていたドゥドゥドゥ・・・・やジャジャジャ~等の音が少なくなっていく。暫くして音が消え去ると不思議に思って目を開いてみる。
そこには大量のダウゴウラの死体とその数だけ魔元核石が一面を満たしていた。
--あれっ?当たってたの?
届いていないと思っていた神剣レナスは当たっていた。殆どのダウゴウラは頭の急所が切れており一撃で倒していた。試しに堅いといわれる甲殻を神剣レナスで切ってみる。
--えっ、何これ?
ゼリーにスプーンを入れるより感触無く剣が入っていく。近くにある岩でも試してみると、先程同様に感触無く切れてしまう。
--怖っ!この剣を仕舞わずに寝るのは・・・絶対やめよう。あと、人前も禁止だな。いつの間にか人殺しをしてても困るし。
--この大量にある魔元核石だけど、これ絶対魔物の数だけ出ているよな・・・?やっぱり運がいいからだろうか?まっ、これだけあればスキルか魔法をゲット出来るだろう。
早速、魔元核石に触れる。するとまた先程と同じ様に光って灰になる。
--これもダメかぁ。メニュー切ってたけどレベルアップはどうかな?二匹分の経験値じゃまだ無理かな。
メニューのスイッチを入れる。するとプロテクトシートの魔法を得たと二回表示している。
--えっ!?壊れるのは経験値を得た時だったよな?
念の為ステータスも確認してみる。
--レベルも2になってる!?どうして?・・・・何だか分からないけど両方貰えるのであればその方がいいか。同じ魔法を得たと二回表示しているのは何故だろう?・・考えても分からないし取り敢えず一個ずつ吸収していくかな。
次々と吸収して現在60匹目を吸収したところだが40匹を吸収してレベル5となった時点から上がっていない。やはりLV1~3ダウゴウラの魔元核石では限界がある様だ。
メニューには何故かプロテクトシートの魔法を得たと、毎回出ている。
試しにプロテクトシートを唱えてみる。表示されている文字を読むだけで簡単だ。しかもメニューで魔法欄から無詠唱を選べるようにもなっているので急な対応も可能らしい。
「クルルッツ・・・・レドガ・・・・プロテクトシート!」
目の前に2メートル×1メートルの長方形の盾が現れる。
--んっ?ダウゴウラの張ってた防御結界より色が濃いし形が違うなぁ。
--ダウゴウラは身体の形状に薄い膜張ってたけど、やっぱり魔物と人では違うのか?・・・う~ん、でも何故か出来る気がするなぁ。
--こんな感じかなっと!
クラウドは勘に任せてイメージしながらプロテクトシートを唱えてみる。すると体に合わせた膜が出来た。
--なるほどイメージも大事なんだ。
通常、初歩防御魔法のプロテクトシートでは形を変えることはできず、クラウドの使った魔法は他の人が使う魔法とは掛け離れていた。
クラウドはプロテクトシートを重ねて覚えていった為にプロテクトシートは、どんどん強化され変化していった。この時点ではまだ気づいていない。
この世界の常識では魔元核石はモンスターを倒しても中々出現しない為、かなり価値のあるものとして取り引きされている。二回重ねて覚えれても1.1倍の効果にしかならない。その上、重ね覚えは覚えれる確率がかなり減ってしまう為、試そうとする者はいなかった。
弱い魔法を1.1倍しても、たかだか知れているが60回もの重ね覚えは基の1に59回1.1倍していく。つまり1×1.1^59=276で元の魔法の276倍となっており、この時点で効果だけでいうと上級魔法以上の威力を発揮した。これでステータスが上がって行けばどうなるのか・・・?
魔法を強化するのはレベルアップして魔法の威力を増していくか、プロテクトシートであれば、その上のプロテクトリクなど、上の魔法を覚えていく方が効率がいいと、この世界ではされていた。
--まっ、今日の成果はこんなところかな。取り敢えず残りの魔元核石はお金に換えるとしよう。
残りの魔元核石をリングボックスにしまう。お昼も過ぎてお腹が空いたため、リアンナが持たしてくれたお弁当を食べながら思いだす。
--そういえばウデントさんが魔物の肉も食べられるのもあるし、日常道具や冒険者の装備の一部として利用されることもあるって言ってたなぁ。
--魔元核石も沢山あったし、この大量のダウゴウラ入るのかなぁ。そもそも死体って入るのか?
--おぉ~!すごい!全部入った。
全て収納し終わり、リクスの町へ戻っていく。すると道中に小柄な体でブカブカの装備に身を包んだ人が、ダウゴウラの一匹と戦っていた。
--この人傷だらけだなぁ~。助けた方がいいのか?
「大丈夫ですか?」
すると予想外のかわいい声が聞こえてきた。
「だっ、大丈夫です。」
どうやら女の子の様だ。
--あっ、危ない!プロテクトシート!
ダウゴウラの体当たりが女の子に当たりかけていたが、クラウドが手から伸ばしたプロテクトシートを堅固な棒に換え、ダウゴウラに当て方向を変えた。
プロテクトシートを女の子に掛けなかったのは、それで防ぎきれるのか自身が無かったからだ。
ダウゴウラは方向を変えて通り過ぎるが、また少女の方へ向かおうとしている。
--う~ん、どうするかな?この子じゃダウゴウラを倒せそうもないし。神剣レナスは人前禁止の誓いを立てたばっかりだし。
さっき咄嗟に行った変形させたプロテクトシートを思い出す。
--もしかしてこうイメージすれば・・・よし!イケそうだ。
クラウドはプロテクトシートの一部を細く鋭く堅固なイメージで凝縮させ手の先に剣を作り出した。
--来たな、よっと!
クラウドは少女に近付こうとしているダウゴウラの頭にある関節部分を狙い、振りぬいた。
バシュッ!と頭を切り落とす。ダウゴウラはそのまま少し転がって倒れる。それを見た少女がクラウドの傍へ駆け寄って来た。
--獲物を横取りされて怒ってるのかな?魔物も魔元核石も良かったらあげるよ、沢山あるし。
「お願いです。ダウゴウラを少し分けて頂けないでしょうか?」
女の子は深くお辞儀をしながらそう語りだした。子供は黒髪のおさげに眼のぱっちりした可愛い12歳の女の子である。
「もちろんです。全部持って行ってください。それより何故こんな無茶な真似を。」
「はい、私はユーリという者です。母は病気で2年前に亡くなり、父はこの付近で狩り師を営んでいたのですが数か月前に魔物に怪我をさせられて寝込んでいるんです。傷は大分よくなってきたのですが家のお金も底をつき、食べ物も殆ど無くなってしまって・・・。」
「それで・・思い切って父の装備を持ち出したんです。ダウゴウラは食材屋で高く売れると聞いていたので狩りに来たのですけど上手く行かないですね・・・。」
ユーリは怖かったことや色々辛かったことを思い出したのか泣きだした。クラウドは、そっと頭を撫でながら自分の母親を思い出して話す。
「大丈夫だよ。今は上手く行かなくても頑張れば必ず幸せもやって来るから。」
「ウクッ・・・ウ・・・ワァァァ~~・・・・」
ユーリはクラウドに抱き着いて、泣きじゃくる。・・・・暫くして落ち着いたのかスッと少し離れる。
「ごめんなさい。」
「大丈夫だよ、自分はクラウドという者です。取り敢えず重たいだろうから、ダウゴウラは自分が代わりに食材屋へ運んでおくよ。代金はお店の人から後で受け取ったらいい。さぁ、お父さんが心配しているだろうから早くお帰り。」
「ありがとうございます!」
ユーリは再度深くお辞儀をして町へ戻っていく。マップで町まで魔物が居ないことを確認してダウゴウラと魔元核石を収納した。
--さて自分も帰るか。
ゆっくりとユーリを見守るように歩いて町へ戻ると町中、お祭りの様な賑わいで人が騒いでいる。不思議に思って町の入り口の検問所で聞いてみる。
「何かあったのですか?騒がしいみたいですけど。」
「これはクラウド様!お疲れ様です。クラウド様のおかげです!町長がグリフィスさんに戻ってよっぽど嬉しかったのでしょう。町の皆、はしゃいでお祭り騒ぎですよ!」
「そうなのですか。お役に立てて何よりです。」
食材屋へマップを見ながら向かう。
--ここだ。
入り口を入るなり店主からこちらへ、つんのめる様にして聞かれる。
「食材を売ってくれるのかい!?」
「はい。そのつもりで来ました。」
「助かるよ!!このお祭り騒ぎでもう食材が尽きかけてんだよ。入り口を出て裏に食材置き場あるから並べといてくれ。」
--ナイスタイミング!って所だな。
クラウドはダウゴウラを80匹並べて置いた。
--う~ん・・結構広かったけど、あとの32匹は置けないな。残りは・・・食べれるらしいし、非常食用にするか・・。
「並べ終わったかい?なっ!なんだこりゃ!どうやってこれだけ持って来たんだ。まぁ、いい!これだけあれば十分だろう。助かったよ。」
店主が数と質を見定めた後、加工場の方へ若い男性が数人がかりで運んでいく。
「よし、そうだな。今回はかなり儲かりそうだし色を着けさせてもらうとして1匹7デレでどうだい。」
お金の価値もウデントさんに聞いていた。品物によって価値の差はあるが日本円にすると1デラが1円、1デリが10円1デルが100円1デレが1000円1デロが1万円ぐらいとみていい。つまり7デレは7000円という事だ。
「はい、それでお願いします。あと、70匹分の代金は狩り師の娘さんのユーリちゃんが後で取りに来るので渡して頂けますか?」
「なんだい!あんたグリグさんの知り合いかい?常連さんだったんだけど怪我をして寝込んでるって聞いて私も心配してたんだよ。よし!分かった。必ず渡しておくよ。」
「それじゃあ、残りの代金の7デロだ。また頼むよ。」
--あとは宿の確保とギルドカードを発行して貰わないとな。
ギルド傍の一泊3デレ2デルの手頃な宿を予約してギルドへ向かう。町は夕方前にも関わらずお酒を片手に肩を組みながら乾杯している人を多く見かける。
ギルドへ入るとテーブルは、殆ど満席状態でお酒を酌み交わし賑わっている。
--うわっ、人多いなぁ。
受付に並びクラウドの番がくる。受付をしているのは元冒険者である口ひげを生やした屈強な男性だ。
「はい、どうぞ。」
「あのぉ~、ギルドカードを発行して貰いたいのですが。」
「あぁ、それじゃあその石板に手を置いて。よし、もういいぞ。レベル5かぁ、新人さんってところか。」
石板の上に運以外のステータスが表示され所属国もいつの間にかヴェルタス王国となっているようだ。
「よし、出来たぞ。無くさない様にな!1デロ出してくれ。」
--えっ、お金要るんだ。そりゃそうか。
「これで。」
--ちょっと飲み物飲んで休憩していくかな。夕食はウデントさんが用意してくれるって言ってたし。え~と、空いてる席はと・・・あった!」
席に座り、給仕が近くを通るのを待つ。色っぽい服を着たお姉さんにお勧めの飲み物を一杯お願いしますと頼んだ。
暫くして持ってきて、お金を払い飲み物を受け取る。ここのお薦めはかなりアルコール度数の高い強いお酒であった。
--お酒は好きだけど結構強いなぁ。・・・んっ?あの子は・・・・。
「ハァハァハァ・・・・・クラウドさん!良かった!やっぱりここにいたんですね。」
ユーリが駆け寄って来た。
「有難うございます!食材屋のおじさんに聞きました。クラウドさんが私に大金を渡してくれと言ってくれたことを。本当にどうやって御礼をすればいいのか・・・。」
「いいんだよ。お金が目的じゃないし。」
--この世界で強くなって早く魔神を倒さないとな。
「か・・・身体ですか?」
--何でそうなるの?・・・なんか言い方まずかったか誤解してる?・・・お兄さんはロリコンではありませんよ。
「いや、違う!違うよ。そうじゃなくって、お兄さんが戦っているのはお金が目的では無くってレベルアップが目的ってこと!」
「なぁ~んだ。」
--ちょっと!ユーリちゃん。残念そうに言わないの。
給仕にユーリのジュースを追加注文をする。
「だから気にしなくっていいんだよ、お父さんの怪我が早く良くなるといいね。」
「有難うございます。」
「そういえば、ユーリちゃんのお父さんは狩り師って言ってたし、魔元核石も知っているよね。自分が聞いたのは経験値の取得の場合は玉が壊れて、スキルや魔法の取得の場合は壊れないって聞いたんだけどさぁ。光ってその後、灰になると両方取得出来るとか聞いた事ないかな?」
「いえっ、私の父から聞いたのでは灰になる話は聞いた事はありません。父からは経験値の場合は壊れますけど灰ではなく、何個かの欠片に割れてしまい、スキルや魔法の場合は黒く濁るんだって聞いてます。」
「そうなんだ。」
「それよりクラウドさんの手から剣を出す魔法なんて全く聞いた事がないって、父が言ってたんですけど高レベルの珍しい魔法かスキルなんですか?」
「いや~、恥ずかしながらまだレベルは5なんだ。ユーリちゃんに会う前にバウモラ遺跡でダウゴウラ100匹ぐらいに囲まれてね、そこで覚えたプロクテクトシートを変化させたものなんだ。」
「ガハハハハ、聞いたか?お前ら!この横のロリコン兄ちゃん!女口説くために、法螺を吹きやがって。この時期にバウモラ遺跡だとよ。高レベルの俺でさえ避けるってのによ。あと初級魔法のプロテクトシートを変化させただぁ?グジャドルの花粉でも吸って頭おかしくなってんじゃねえのか?ガハハハハハ。」
横のテーブルに居たガラの悪そうな三人組の男に笑われてしまう。ユーリがそれに応える。
「失礼なことを言わないでください!」
「なんだぁ!嬢ちゃん?そんな弱そうな兄ちゃん相手しないで、こっち来て酌しろや!なんなら夜も相手してやるぞ!ゲヘヘヘヘヘ。」
--どっちがロリコンだ。
リーダー格の一人がユーリちゃんの腕をつかみ引っ張った。
「痛い!」
「やめろ。」
クラウドはユーリの腕を引っ張る男の手をつかみ、プロテクトシートを針の様にして少しだけ突き刺した。
「グワァ!いてぇ、何しやがった。てめぇ~レベル5の癖にレベル14のデッグ様に喧嘩売るとはいい度胸じゃねぇか。ぶっ殺してやる!」
デッグは腰にある剣を出してこちらへ構える。他の仲間も立ち上がる。
「ユーリちゃん少し下がっていてくれる。」
「はい。」
クラウドはゆっくりと目を閉じる。
「何だぁ!今更怖気づきやがったのか。やっちまえ!」
まず二人を地面に投げ飛ばす。クラウドが避けた拍子に体勢を崩して勝手に飛んで行っただけである。その後、デッグが振る剣をするりと回転しながら回避して、右手に剣を作ってデッグの首筋にピタッと当てる。首筋から一筋の血が流れだす。
「まだ、やりますか?あと、あなたが嘘だと言っていた剣はこれです。納得いただけましたか?」
「あ・・・あぁ。すまねぇ・・・・俺が悪かった。」
そう言葉を言い残して3人は逃げる様にギルドから去って行った。
それを見ていたユーリはボソリと「かっこいい~。」と誰にも聞こえないように呟きテーブルへ戻ってきた。ギャラリーたちは慣れているのか、そのまま何もなかったかの如く食事を楽しみだす。
「クラウドさん!私、決めました。今の私にできる御礼!」
お酒を飲んでいるクラウドの耳元にすっと顔をよせ「私のカ・・ラ・・ダ。」と囁く。クラウドはそれを聞いて咳込む。
「ユ、ユーリちゃん?悪いけど本当にお礼は大丈夫だからね。それよりお父さん一人で寝込んでるんだから早くお帰り。」
「んもうぉ~、分かった。これ私の住んでる場所。いつでもあげるからね。ア・・ナ・・タ・・チュッ。」
ユーリはクラウドの手に住所を書いた紙を渡して頬にキスし去って言った。
--いやっ、ユーリちゃん行きませんよ。
残りの飲み物を一気に飲み干してウデントの家に向かった。町中の大騒ぎは未だに続いている。ウデントの家に着くとリアンナが待っていた。
「もう、クラウドさん遅い!はいっ!」
リアンナはクラウドの近くで目を閉じて見上げる。クラウドは軽く口づけをして離れようとする。リアンナは逃すまいと、しがみついて口づけをし口の中へ暖かい舌を入れていく。クラウドの舌を探す様に絡ませている。
「リアンナ、そろそろ中へ入りなさい。皆に見られてるよ。」
ケイナさんが呆れながら話している。それにクラウドは乗ってチュポンと口を離す。
「あん、もう!お母さん邪魔しないで。」
「あんた見てると怖くなるよ。しまいには道でエッチしだすんじゃないかって。それに折角作ったご飯が覚めてしまうよ。」
「やだぁ~、お母さん!流石にこんなに人がいる所でしないわよ~。」
--えっ、人が居なければ道でもするの?・・・んっ、聞かなかったことにしよう。
ウデントの家で御馳走を頂きリアンナの猛攻を何とかキスで誤魔化して宿へ向かった。
辺りは暗くなっているが、まだまだお祭り騒ぎは続きそうな様子であった。
アイテムをギルドで換金していないのを思い出してギルドへ再度向かう。ギルドに着くと2階の交換所へ向かい受付の男性に尋ねる。
「あのぉ、ダウゴウラの魔元核石を買い取って欲しいのですが?」
「あぁ、その中へ置いてくれ。・・・・・よし、1デロ2デレだな。はいよ!」
--結構高い。魔元核石の相場はほとんど変わらないって聞いているから、あと2つほど売って後は持っておくか。
「あと二つあるのですが、これもお願いします。」
「すげぇ運のいいやつだなぁ。3つも一気に持ってくるなんて。それとも長い間根気よく倒して溜めたのか?それも2つ一緒にその中へ置いてくれ。・・・・・はいよ、2デロ4デレだ。」
--いやっ、もっと沢山あります。
「有難うございます。ところでギルドの依頼は下の受付でしたよね。」
「ああ、こちらでも今日は忙しくないから受けれるよ。これがリストだ。」
確認してみると今持っているGランクのカードでは雑用しか受けれそうにない。ギルドのカードはGランクが一番下で、その次FランクからAまで上がり、最高ランクはSランクである。
--雑用していても強くは、成れないよな。やっぱりここはバウモラ遺跡へ行って魔物を倒すか。
クラウドはそのまま宿へ戻り寝ることにした。