第5話 リクスの町
リクスの町に着くと避難していた町の住人達も、もう大丈夫との連絡もあって少しずつ戻って来ている。その中にはウデントの家族もいた。ウデントの家に向かっていると偶然会えることが出来て、お互いの顔を見るなりホッとした表情で抱き合っている。
「お前達!無事で良かった。」
「あなたも無事で良かったわ。ちょうど帰ってくる頃のはずだったから心配したわよ。」
「そうよ、お父さん!もう歳なんだから。商品の卸は、若い人に任せるようにして!」
「おいおい、そんなに年寄り扱いするな!まだ50だし若いもんには負けんわい!」
娘は肩より長いストレート髪を後ろで束ねていて少し垂れ目で背は低く156センチ程しかないが、かわいい系美人だ。歳はクラウドより1つ年上の23歳である。その娘が父親の発言に溜め息をつきながらこちらをチラッと見る。
「それで、お父さん。こちらの方は?」
「おう!そうじゃそうじゃ。こちらの方はクラウドさ・・・んと言って魔物から助けてくれた命の恩人じゃ。」
「まぁ!それはそれは。うちの主人が大変お世話になったみたいで有難うございます。」
奥さんと娘さんに深々とお辞儀をされてクラウドは恐縮してしまう。
「いえっ!こちらこそウデントさんには、お世話になったんです!」
「いや~、干し肉ぐらいでそんなに有難がられると困りますですじゃ。」
--また変な敬語になってる。
「お父さん、何?その変な言葉使いは?」
「おっと、こりゃいかん。なんでもないんじゃ・・・とにかくクラウドさんには家に泊まって貰ってお礼をしたいと思っとるんじゃよ。」
「それはいいわねぇ~。それじゃあ、腕によりをかけて豪勢に行きましょう!」
「どうもすみません。お世話になります。」
「こちらこそ。リアンナ、準備が出来るまでクラウドさんを街に案内してあげて。」
「分かったわ。それじゃあ、いきましょ!クラウドさん。」
「あっ、はい!」
町のお店は屋台がほとんどの様で大きさも30人ほどが座れる大きな店等もある。また串焼きや美味しそうなスープ屋、子供たちが集まる魔法のおもちゃ屋等、沢山のお店が建ち並んでいる。日本の露店を大きくした感じでクラウドは懐かしさも感じていた。ただし・・その思い出は外で実際に体験した物でなくテレビの中の世界だけであったが・・・。
「ここのリリンク鳥の焼き鳥はリクスの町の名物で絶品なのよ!」
「確かにいい匂いがしますね。」
「ほう、リアンナ!今日は珍しく男連れでデートかい!」
その屋台の店主が話しかけてきた。
「そんなんじゃないわ!こちらはお父さんの命の恩人でクラウドさんって言うの。変なこと言ったらクラウドさんに迷惑がかかるでしょ!」
--顔を真っ赤にして照れているリアンナさん・・・うん、かわいいね。
「いや、別に迷惑では。」
「そうなの、いやだっ!クラウドさんったら!」
より顔を赤くしながら腕を押された。その時リアンナさんへ、高そうな生地の服を着た、ずんぐりッとした青年から声をかけられる。
「リアンナ!僕という婚約者がいながら何をしている!」
「誰が婚約者よ!エリゴ!付き合ってもいないし、そんなの誰も認めていないわよ!」
「次期町長である僕が決めたんだ!素直に従わないと、いずれウデントの商売にも不都合が出るかもな!」
「本当~~~~~に!あなた最低ね!!ほっといていきましょ、クラウドさん!」
リアンナは見せつけるようにクラウドの腕を絡ませて引っ張り、歩き出した。
「そこにいる青い奴!誰かは知らないが覚えておけ!私に逆らったらこの町で生きていけなくしてやるからな!」
--青いのは神様に言ってください。あと、この町に来たばっかりで住んでいませんけどね。
リアンナも無視をして、どんどん歩いて行く。
「嫌な思いさせてしまってごめんなさい。」
「いえっ、大丈夫です。」
--前の世界で慣れてますから。
「本当はね、グリフィスさんっていう凄く皆から慕われている人が町長をずっとしてたんだけど、エリゴの父親のエルドが、この町の領主で貴族のグラハット・リンドル様にお金で取り入って町長になったの」
「それからはもう好き放題にしてて、皆住みにくくなって困ってるの、まったく。」
「そうなんですか・・。」
それから少し歩いて話題を変えようと、おもちゃ屋で立ち止まる。
「このおもちゃは、何を動力として動いているのですか?」
「えっ、クラウドさん知らないんですか?どこの国にもある筈ですけど。」
どうやら、この世界では常識の話を聞いてしまったようだ。
「いやっ、あの~かなり遠い国の辺境から来たものですから。恥ずかしながら良かったら色々教えて頂けませんか?」
「そうなの・・え~と、これは魔元核石っていう魔物を退治した時に落とす事のあるものを動力に動いているのよ。」
「魔元核石ですか?」
リアンナが言うには魔物を傷つけて倒せば魔元核のエネルギーを取り込めるらしい。つまり経験値となるのだろう。
更に、運が良ければ経験値とならず魔元核石として落とす。強い魔物ほど等級が高くなり魔法道具や冒険者が使う装備に利用されている。その為に魔元核石は高価なものとして取り引きされるそうだ。
また何故か両手の親指二本のみで触ると素質やステータスなどの条件を満たしていればスキルや魔法も覚えられるらしいのだが稀に、これまた運良くステータスも関係なくスキルや魔法を使えるようになったという人もいるとの事だ。
もし失敗したとしても石は壊れてしまうが経験値は取り込めるとリアンナから聞く。
--運が良ければかぁ。多分物のたとえだろうし、そう上手くはいかないよなぁ。
「そうなんですか。リクスの町付近では魔物とか出るんですか?」
「そうねぇ、この町付近ではあまり魔物が出ることはないけど一番近くで魔物が多く出るのは、少し南にあるバウモラ遺跡とその東にあるエッキシ鉱山かしら。」
「バウモラ遺跡みたいな遺跡は世界各地にあって出て来る魔物をどれだけ倒しても減る様子がないから噂では魔族の住む帝国とつながっているんじゃないか?って言われているわ。」
「鉱山も鉱石を食べる魔物が住み着いていて強い魔物とか出ると、ギルドに退治依頼されるの。ギルドも世界各地にあるわ。このリクスにも当然あるわよ。」
--おぉ~、やっぱりギルドってあるんだ。
「そういえば、クラウドさんは辺境から来たって言ってたけど、もしかして街に入る際の検問受けてないんじゃない?」
「えっ、そんなのあるんですか?」
「大変!早く手続きしなくっちゃ!クラウドさん、こっちこっち。裏道を行けば早いからついて来て。」
「あっ!それと身分を証明できる、どこかの国民証かギルドカードを持ってる?」
「いえっ、持ってません。」
「じゃあ、手続きする時に今証明出来るものがないので、また後で持ってきますって言えば大丈夫だから。」
人通りの少ない裏道を進んでいく。レンガ壁の家の裏道であったり家事などで出る汚水の流れる溝を跳び越して進む。
裏道にベンチもあり少し広くなった所を通り過ぎようとすると、その場を抜ける道を塞ぐ三人が現れた。
「ちょっと!そこ通りたいんですけど。」
「悪いけどここは通れませ~ん!お嬢さんは少し眠って貰って、そこの男は魔物の餌にでもなってもらおうか。」
似たりと笑いながら真ん中の男が背中からナイフを出しこちらへ向ける。それが合図の様に後ろにも二人のナイフを持った男たちが現れた。
--おかしいなぁ?運が良くてもトラブル体質は直ってないのかなぁ?まぁ、運が良いから結果は問題ないんだろうけど。
--前の世界であればこんな時、謝ってダッシュで逃げてたけど今はリアンナさんがいるから無理だな。う~ん、ちょっと不安だけどあの手で行くしかないか。
クラウドは静かに目を閉じながらリアンナを後ろへ出来るだけ遠ざける。
「へへっ!観念したか。」
「クラウドさん!」
「大丈夫です。後ろに下がっていてください。」
クラウドは暴漢達へ右手を差し出し手招きするように威嚇する。
「ふざけんじゃねぇ!やっちまえ!」
目を閉じながら避けたフリをしておく。暴漢共の攻撃はすべて読み切った様に、全く当たらない。
「はぁはぁはぁ、どうなってやがる!目を閉じながら闘えるなんて化け物か!」
--失礼な!たまたまです。う~ん、このまま避け続けるのも疲れるし手を出してみるか。
何気なくたまに手を出してみる。ちょうどそこに暴漢者共の顎が来てヒットしていく。
脳を揺さぶられながら立つことが出来ず、地面へつんのめる。地面に伏して喚きだす。
「くそっ!割に合わねぇ仕事受けちまったぜ!」
--このまま放置しておくと自分がこの町を出た時にリアンナさんが危ないな。
クラウドは目を開けて暴漢に問いかけた。
「誰に頼まれたのですか?」
「けっ、言うかよ!」
--どうやって白状させるかなぁ。あっ!身元確認出来るの忘れてた。
「えーと、この町の北西に住むボンリ・ジェドさん答えてください。」
「なっ、何で・・・。」
聞きながらジェドの詳細欄を確認していく。
--んっ?ジェドの右ポケットに入っている小さな緑色の宝石の元持ち主がエリゴとなってる?
念の為、透視で確認してみると男の裸の右横腹付近に緑の石が見える。
「ジェドさん、右ポケットに入っている宝石は今回の報酬としてエリゴから貰ったものでは?」
「ど!どうしてそれを・・・!?」
「あっ、クラウドさん。そういえばそいつエリゴの取り巻きに最近入った奴だわ!この前チラッと見かけたの!」
「やっぱりそう・・・うぁっ!」
「クラウドさん?」
「い、いやっ・・・そうですか?」
リアンナの声で振り向くと、そこには20代前半の極め細やかな柔らかそうな裸体があり、身長156㎝と小柄でありながら抜群のプロポーションであった。
胸はDカップで腰はくびれていて足はスラッと細い。大きな双丘の右下には小さなホクロもあり、それが更に艶っぽさを醸し出している。
急いで透視を切にする。
--リアンナさん、ごめんなさい。人間誰しも間違いはあります。うんうん、まぁ・・たまに間違えるのもいいかも・・・。
「あの・・クラウドさん?」
「あっ、すみません。自分が見張っておくのでリアンナさんは、この人たちを捕まえる人を呼んでもらえますか?」
「はい。すぐに衛兵さんを呼んで戻ります。」
暫くして剣を腰に備えた衛兵が来る。衛兵たち自身は王国軍の一部として機能していて町や都の検問、防犯、罪人の逮捕などを行っているらしい。
暴漢達は目を閉じていても強かったクラウドを前に大人しくしていた。
「衛兵さん!この人たちです!」
「分かりました。さぁ、立て!」
暴漢達は大人しく捕まるのだが、何故かクラウドも両脇の衛兵に挟まれ、付いてくるように言われる。
「衛兵さん!その人はさっき説明した通りお父さんの命の恩人で、誘拐されそうになった私を助けてくれただけなんです!!」
「ウデントさん所のお嬢さん。悪いがちょっと前にね、検問受けていない青い服着た怪しい奴がいるから、念入りに調べてくれ。と匿名の封書が届いたんだよ。こちらも仕事上仕方ないんだ。まぁ、身元と悪さしていないか確認するだけだから。」
--何となく誰の仕業か分かる。
「リアンナさん。安心して戻っていて下さい。すぐに帰りますから。」
リアンナの不安そうな顔に笑顔で声をかけ、衛兵所へ付いていく。
衛兵所に着くと暴漢達はすぐに牢屋に入れられ一人ずつ尋問を受けているらしい。クラウドも個室に入れられ、今尋問を受けていた。
「はい!名前と所属国言って。あと、この断罪石に手を置いて。」
この断罪石は魔法が掛けられていて、その人の記憶から、いつどこで罪を犯したかを表示することが出来るらしい。
--名前は言えるけど所属国かぁ。王子様に紋章石を貰ったしヴェルタス王国でいいかな。
「名前はウィン・クラウド。所属はヴェルタス王国です。」
「はい、いいよ。断罪石から手を降ろして。罪は犯していないようだね。さっきのも正当防衛だろうし。ただ、まぁ見慣れない青い服着てるし、あいつらの取り調べが終わるまで泊って行ってもらおうかな。」
--えっ!そんな。青い服の文句は神様に言ってください。
クラウドが尋問されている部屋近くの衛兵の詰所では、王国軍の連絡係スタッドが魔物襲撃後の町の様子を書類にまとめ終わり、ヴェルタス王都へ帰ろうとしていた。
「それでは皆、元気でな!」
「はい!スタッド様も道中お気をつけて!」
あとで知ることだが王国軍の連絡係は重要な情報を正確に伝えるため、優秀なエリート貴族が配置されることが多くエファード・スタッドも貴族であった。
「うむ!ところでレグドにも挨拶をしておきたいのだが、どこにいる?」
「それでしたら、目立つ青い服を着た怪しい男を尋問していますよ。」
スタッドの顔から血の気が引き、青くなっていく。
「そっ、それは何処だ!?」
「はっ、はい!隣のその部屋でございます。」
先程の温和な空気がスタッドの大きな声で一転し、詰め所に居た多くの衛兵たちが何事かと固まっている。スタッドは隣の部屋に入りクラウドの顔を見て床へ土下座をしだす。
「もっ!申し訳ございません!クラウド様!!私が衛兵たちにクラウド様の事を伝えていれば、このような失礼は無かったはず。申し訳ございません!」
「いやっ、お立ち下さい。私が出来るだけ内緒にして下さいとお願いしましたので、そのように謝られると困ります。」
「えーと、スタッド様?何があったんでしょうか?」
「馬鹿者~~~!!こちらにいらっしゃるお方は煌輝紋章石ホルダー様なのだぞ!!」
「ひっ!ひえ~~~~~!もっ、申し訳ございません~~!!」
レグドもスタッドの傍で床に顔を着けて土下座をしだす。扉を開いたまま大きな声を出していた為、外にいた衛兵達もそれを知り、失礼を詫びるために土下座をしだす。クラウドの周りを上から見ると土下座の花が咲いていた。
「ちょっと、皆さん!落ち着いてください!皆さんは真面目にお仕事をされていただけで、私自身が失礼を受けたと思っておりません。」
「「「「「「「ははぁ~!有難きお言葉~!!」」」」」」」
「まぁ、取り敢えずお立ち下さい。」
「はっ!」・・・衛兵達が一斉に言葉を発しながら立ち上がり背筋を伸ばして固まっている。
「まぁ、そう固くならずに。」
「はっ!発言をお許しください!クラウド様。」
--いやっ、物凄く固いよ。レグドさん。
「どうぞどうぞ。」
「クラウド様はもしかして、先程のリクス魔物襲撃において、他の国でいくつもの町を破壊してきた魔将軍ガンギスを倒されたお方でございますか?」
そこへこちらへお辞儀をしながらスタッドが割って入る。
「うむ、そうだ。クラウド様よりできるだけ内緒にという事で先程は話していなかったが私が戦いに戻った時には、もうガンギスを倒された後だった。
「軍の者に詳細を聞いたところ、聖水の雨を降らし、ほとんどの魔物達を一掃しガンギスをも超高等魔法のメテオを無詠唱で連続構築され、倒されたという事だ。」
「「「「「「「おぉぉ~~~。」」」」」」」
--ですから、たまたまです。
「あの~、それよりこの町の領主のグラハット・リンドルさんを誰かご存知ないですか?」
「あ~、それでしたら少し前に私が挨拶に寄った所です。リンドルとは王都の魔法騎士学校の同期でして。」
--スタッドさんの知り合いなんだ。
「そうなんですか。実は・・・。」
スタッドに今の町長が町を悪くしている事や出来れば前の町長に戻して欲しい事、今までに起こったことを話した。
「リンドルの奴をお許し下さい。あいつは多分、今の町長に騙されているのだと思います。昔から人を疑うという事を知らないやつでして。今は奥さんが病で伏せているらしく特にここ暫く、自らも看病しているらしいので町の現状も把握出来ていないように思えます。」
--リンドルさんはいい人みたいだな。
「町長の変更は私にお任せください。リンドルに伝え変更させます。あっ、リンドルの奴がクラウド様に、もし会うことがあれば街を救って頂いて感謝している事と、すぐにお礼に伺えない事をお詫びしたいと申しておりました。」
「そうですか、分かりました。お気になさらずとお伝えください。」
「有難きお言葉。感謝申し上げます。」
「それでは、これで失礼してよろしいですか?あっ、出来るだけ内緒というのは引き続きお願い致します。」
--早く帰らないとリアンナさんが心配しているだろうし。
「了解致しました。それでは衛兵に送らせます。さぁ、どうぞ。」
クラウドが護衛の四人に囲まれながら衛兵所を出るとスタッドは早速クラウドたちを襲った首謀者エリゴとその父親エルドを断罪にかける様、命令していた。
衛兵所を出てウデントの家へ護衛と共にしばらく歩いているとエリゴが姿を現した。
「へへへ、衛兵さんお仕事ご苦労様です。罪人の送りですか?やっぱり怪しい服着ていますもんね。とことん懲らしめてやって下さい。」
--あぁ~4人の護衛さんに囲まれてるのを勘違いしてるのか。
「「「「無礼者~~!!」」」」
すぐにエリゴは地面へ叩きつけられ、腰につけた白いカバンから取り出した縄で体を縛られていく。
「なっ、なんだ~~。僕は町長の息子のエリゴだぞ~!罪人は向こうだろ~!」
「無礼者~!!」
--あっ、顔を地面に叩きつけられてる。痛そう~、まぁでもリアンナさんを誘拐したり人を殺そうとした悪い奴だから助けないよ。
「先程の発言だけでも貴様は斬首刑だ~!」
--えっ!?そうなんだ。
煌輝紋章石を持つものに逆らうものはテロリストとして重罪となるようだ。ただ、クラウドは自分関連で人が死ぬのも嫌なので、死ぬこと以外に変更してもらえるよう頼んでおいた。
それでエリゴは別の刑になるのだが死ぬまで鉱山で強制労働させられる事となる。父親のエルドも自身で行った罪は詐欺程度であったが、他の罪に関与していたりクラウドへ無礼を働いたエリゴの父親という事で暴漢達と一緒に別の鉱山に送られていった。