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LUCK   う~ん・・・勇者?  作者: ススキノ ミツキ
39/40

第39話 母、彩音。中編

・・翌朝、彩音は風雲が生きている事を知り部屋に籠もらず出掛けていた。人通りの多い高級デパート、越之屋の前でバッタリと会いたくも無い人物に出会う。それは風雲の小学生時代のPTA会長であった中年女性である。風雲がイジメに会っていると学校側に訴え掛けていた際、学校側とグルになり何も無かった様に工作していた女性であった。自身の息子も風雲をイジメていたからである。彩音はデパートではなく、その先にある商店街の安売りセールへ向かっていたのだが、その中年女性に声を掛けられた。


「あら!?誰かと思ったら佐々木さんじゃないの!アナタもこのデパートで買い物かしら?」


「いえ、私はこの先の商店街へ・・。」


「でしょうねぇ。」


 中年女性は彩音の服や靴を半笑いで下から上に見ている。彩音は頭を下げて直ぐに去ろうとするが止められた。


「それでは失礼します。」


「良いじゃ有りませんか!?入りましょうよ!私も今日は旦那のボーナスで58万の安物バッグを買いに来たのだけど!アナタにも是非見て貰いたいわぁ!さぁ!さぁ!」


 中年女性は彩音の腕を引っ張り、その後はデパートへ押し込む様に背中を押した。彩音を貧乏とからかう為である。彩音は溜め息を吐きつつ、仕方無く進んだ。


「はぁ〜・・。」


 2人がデパートの入口の自動ドアを入ると、上に用意されていた大きなクス玉が割れて10万人目のお客様!おめでとうございます!!と書かれた垂れ幕と大量の風船が下りて来る。それと同時に一列に並んだスーツ姿のデパートスタッフ達20人が拍手をして近付いて来た。中年女性は自身への拍手と喜んでいたが、スタッフ達は佐々木彩音を見ながら近付いていく。


パチパチ!!パチパチ!!


「「「「「「おめでとうございます!」」」」」」


 中年女性は佐々木彩音に拍手をしている事に気付いて、不機嫌そうに大声で悪態をついた。


「何なの!?この人は私の付き添いで来ただけなのよ!見たら分かるでしょ!この人の貧乏そうな服装見てみなさいよ!この人は客じゃないのよ!気分悪いわ!私はこんな失礼なデパートもう!絶対来ないから!!」


 周りで見ていた客達は、又あのババァかと思っている。セールをすれば他人がしっかり掴んでいた物を横取りして、嫌なニヤケ顔をワザと見せて来ていた。このデパートでは有名な嫌がらせババァである。但し、デパートにとっては沢山買ってくれる女性でもあり、多少クレーマーであるが感謝するべき客であった。女性の大声を聞いたデパートの支店長がスタッフ達を見て、慌てて首を振り中年女性へ話し掛ける。


「大変!申し訳御座いません!私共のミスで御座いました!貴女様が10万人目のお客様で御座います!コチラは御祝いとして10万人に因んだ、10万円相当の当店の商品券を差し上げますので!ごゆるりと、お楽しみ下さいませ!」


「あらあら!そうなの!悪いわね!」


 中年女性は喜んでいるが支店長以外のスタッフと他の客は、支店長の掌返しに引いている。副支店長が小声で支配人に耳打ちした。


「・・それはマズいですよ、支店長。社長から不正をせず、どの様なお客様でも公平に御祝いをする様に言われていたのに。」


 支店長も小声で返すが、普通の人が聞いていれば気分の悪くなる様な話である。


「バカ・・コチラのお客様はウチのデパートのお得意様だぞ。客でも無い貧乏人を祝ってコッチに何のメリットがある。良いからここは、俺に合わせろ。」


「はあ・・。」


「では!どうぞ!」


 支店長が商品券の目録を渡そうとした所で、目録を横から奪いとる男性が現れた。


パシ!


「コレは、こちらのお客様の物だ。」


 そう話をして男は取り上げた目録を佐々木彩音へ、丁寧に頭を深々と下げて渡しだす。


「大変、申し訳御座いません!当店のスタッフが間違えまして!失礼致しました!」


 それを見て周りにいる客もウンウンと頷いたが中年女性は怒り、目録を彩音に渡しているデパート関係者らしき男に文句を言い始めた。


「ちょっと!アンタ!見たら分かるでしょ!この人は客じゃ無いの!貧乏そうな服装、しているでしょ!何回も言わせないで!!」


 支店長が、佐々木彩音に頭を下げている男に対して中年女性への謝罪を求めた。支店長は、その男を多く居るデパートの部下と思っている。


「こら!!高橋様に謝りなさい!コチラの方は当店を多くご利用頂いている御得意様だぞ!」


 支店長に叱られた男は、頭を彩音に下げたまま話しだした。


「君は何を言っているんだ?私は何時(いつも)も言っていた筈。どんな小さな買い物でも御客様は御客様であるし、何も買われなくとも、いつか買って頂けるかも知れない御客様であると。」


 男は顔を上げて支店長に振り向いた。その顔を見た支店長が驚きの表情で話す。


「神崎社長!?北海道にいらっしゃる筈では!」


「そんな事はどうでも良い。今はこちらの御客様を御祝いしなさいと言っているのだが、君には日本語が通じないらしいね。」


 支店長は青い顔に急変し、彩音に振り向き謝った。


「大変!申し訳御座いませんでした!」


 中年女性はまだ納得しておらず喚き散らす。


「アンタ達!私がいつもこの店で幾ら使っていると思っているのよ!」


 神崎社長と言われた男が、中年女性に振り向き話した。


「御客様、いつも当店を御利用頂き感謝を申し上げます。当デパートでは御客様を差別せず、全ての御客様を大事にする事をモットーとしております。これ以上騒がれるのであれば、他の御客様にも御迷惑と成りますのでお帰り頂きたいのですが?」


「な!何て言い草よ!?もう!絶対、こんなクソデパートに来ないから!!」


「有難う御座います!当店も他の御客様に御迷惑の掛かる方を排除出来て嬉しい限りです!」


 神崎社長が中年女性に頭を下げ続ける。


パチパチ!!パチパチ!!パチパチ!!パチパチ!!


 他の客達が、デパートの公平さと中年女性への仕打ちに盛大な拍手を贈った。中年女性はボリューム満載の身体を揺らしながら怒りと悔しさの混じる表情で帰っていく。デパートのスタッフ達や他の客を睨み付けながら出て行った。神崎社長は彩音に再び頭を下げるが、その後顔を上げると驚きの表情に変わってしまう。


「本当に!当デパートのスタッフが失礼を致しました!」


「いえ!大丈夫ですから!頭を上げて下さい。」


「有難う御座います!・・え?彩音さん!?」


「え?」


「僕!僕ですよ!中学校で一緒だった神崎賢治です!」


「・・もしかして!賢治君!?久しぶりね〜!若いのに、凄く立派になっちゃって!」


「彩音さんは、変わらずお綺麗なままですね。」


「フフフ、お世辞も上手になったわね。」


「いえ!本当です!それよりも時間がある様ならお詫びも兼ねて最上階のレストランで御馳走させて下さい!勿論!その後、商品券でゆっくりとショッピングも楽しんで頂ければ!」


「そんな!良いわよ!この庶民的な服で歩くのも恥ずかしいし。」


「だったら私もラフな格好に着替えて来ますから!お願いします!」


「う〜ん・・だったら、ちょっとだけお呼ばれしようかな?」


「ちょっと待っていて下さい!直ぐに戻りますから!」


 神崎賢治は副支店長を見て話した。


「君は松谷副支店長だったね。今日から、この支店の支店長として頑張ってくれ。」


「本当ですか!?」


 元支店長が慌てて割って入る。


「ちょっとお待ち下さい!それじゃあ私は!?今年度の売り上げも私の力で伸ばしておりますのに!」


「君は、そうだな・・鍵原常務に今度聞いてくれたまえ。何処か田舎のスタッフとして勉強をし直すのだな。」


「そ!そんなぁぁ・・。」


「松谷副支店長。いや、松谷支店長。」


「はい!」


「この方を丁重に応接室まで御案内差し上げてくれ。」


「畏まりました!」


 佐々木彩音は18階にある従業員専用フロアの1番高級な応接室に通された。広いフロアに高級ソファー、高級絨毯が敷かれていて裸足になりたいぐらいのフワフワ感が足下から伝わって来る。


「凄い部屋!私やっぱり場違いじゃないかしら?」


 彩音の発言に松谷新支店長は焦りだす。ココで帰らせては降って湧いた支店長の座が泡となり、消えてしまうのではと思った。


「とんでも御座いません、お客様!私なんか、ここででんぐり返しをした事があるぐらいですから!」


 松谷新支店長は焦りから、意味の分からないフォローをして彩音は可笑しくなり少し笑った。


「フフ、ごめんなさい。気を使わせてしまって。」


「いえ!只今!お茶とお菓子を御用意致しますので!少々お待ち下さいませ!」


「お構いなく・・。」


 松谷支店長は応接室用に置いてあるお茶やお菓子を使わずに自腹でデパートのお菓子売り場と、お茶売り場を回って大量に高い物を仕入れた。計約ニ万円五千円を払い、従業員フロアに戻ると女性従業員に話し掛ける。


「小原君!松本君!悪いけど綺麗なお盆に載せて応接室へ持って行ってくれないか!?急ぎでね!」


 松谷支店長の大量の菓子とお茶を見て女性従業員は不思議そうに話した。


「副支店長?応接室に入られたのは、女性お一人様ですよね?試食会か何か、されるのですか?」


「説明している暇は無いんだが!あのお客様は、神崎社長の大事な人らしいんだ!頼むから、早くしてくれ!」


「大事な人!?聞き捨てなりません!誰なんですか!?その人!」


 神崎は41歳だが、未だ独身でイケメンの上、性格も良い為に女性社員の注目の的となっている。怒りの女性2人を前にした松谷は、彩音に何かあってはイケないと、女性社員を放って置いて直ぐ傍の男性社員の呉良に話した。


「頼む!呉良(くれよし)!これを私と一緒に応接室まで持って行ってくれ!」


「えぇ!俺、今この書類を急いでるんですけど!」


「それは明日で良い!私が許す!頼む!この前、居酒屋を奢ってやったろ!」


「分かりましたよぉ〜!」


「副支店長!こちらの話に答えて下さい!」


 女性社員が必死に話すが松谷は、それどころじゃ無いと無視して呉谷と一緒にフロアの台所の様な所へ入って行く。女性社員2人が頻りに彩音の情報を聞き出そうと追い掛け話してくるが、相手にしない。見よう見真似でお茶と御菓子を添えた大きなお盆を2枚ずつ持ち、応接室に運んだ。


「申し訳御座いません!お待たせ致しまして!」


「ごめんなさいね。私がココに来たばかりに、気を使わせてしまって・・。」


「何を仰るやら!全く気にされないで下さい!私が勝手に行っているものですから!」


・・そこに後から、急いで応接室に飛び込んで来たのは神崎社長である。近くのスーパーで水色のジャージを買ってトイレで着替えて入って来た。従業員達が応接室に入って行く神崎社長を見て誰だ?と止め様としたが、顔を見て神崎社長と分かり呆気に取られている。いつもビシッとした姿しか見ていないからだ。


「お待たせしました!彩音さん!」


 支店長が驚きの声を発する。


「社長!?そのお姿は!」


「ん?あぁ、似合っているだろう。悪いが最上階のレストランをコレで使わせてくれ。」


「・・・。」


「駄目か?」


「滅層もございません!直ぐに連絡し予約を入れて参ります!少しだけ御時間を頂けますでしょうか?」


「ああ、頼んだ。」


 元松谷副支店長は、急ぎ各フロアへ社長と彩音が庶民的な服装で通るが粗相の無い様にと通達してレストランの予約まで抑えた。


・・彩音はレストランに着くなり、27階の素晴らしい展望に感動している。今までは、風雲が生まれてから危険なので高い所は避けて来た。久しぶりに見る高い場所から見る景色に感動して窓際に寄り、声を上げている。


「うわぁ!凄い!絶景ね!」


 周りの目が大きな声を明けている彩音に気付き、庶民的な服装の彩音を見て庶民が来る場所じゃ無いと、嘲りの目を向けた。小さな声で、心を傷付ける声をカップルや家族が出している。


「何なの!あれ!?」


「ん?あぁ・・たまに居るんだよな。自分の身の丈を分からずこのレストランに来る客が。」


「だよね!どう見てもヤッすい!服を着てる女だし!男なんか見て!ジャージって、有り得なくない!・・。」


「まぁ、見てなって!どうせ、追い出されるかメニューの値段見て帰るから!」


「それは見物ね!フフフ!」


「・・お父様!あれ見て頂戴!」


「ん?何だ?あれは?おいおい・・早く摘み出せよ。貧乏人が払える様な値段じゃないぞ。ここは・・。」


 2人は、ホールスタッフに案内されて窓際の良い位置に座った。それを見た先程のカップルが驚いている。男が眉間に皺を寄せて突っ込む。


「案内するのかよぉ〜!お金を持って無いの、分かるだろう?」


「あれじゃない?メニューの値段見させて驚いて帰る姿を、私達に見せてくれようとしてるんでしょ?」


「それっ!面白いな!ククク・・。」


 父娘の方も同様の話をしている。神崎と彩音の下にメニューを持って来たホールスタッフが手渡すが、彩音はそれを見た途端にメニューを閉じた。


「賢治君、やっぱり私の身の丈には合わないみたい。悪いと思って食べた分は払おうと思ったけど、とても払えなさそうだから。」


 それを盗み聞いたカップルと父娘が笑い出す。因みにカップルの男の方は医師の卵で、父娘の父親の方は中小企業の社長をしていた。


「やっと分かったみたいだぞ。ククク・・。」


「そんなに笑ったら悪いわよ、フフフ。」


「まったく!貧乏人が!」


「本当ね!」


 近くから聞こえて来る声で神崎は彩音に謝罪し、ある行動に出る。


「嫌な思いをさせて申し訳ない、彩音さん。私の考えが足りなかったみたいだ。」


 彩音は気にしていない表情の笑顔で首を振るが、カップルは更に突っ込む。


「だろうよ、ククク。」


「フフフフフ。」


 神崎は彩音に話した後、ホールスタッフに話す。


「彩音さん。ここからは、私に任せて欲しい。嫌な思いをさせた分、更に御馳走するから!私が馬鹿にされるのは構わないが、彩音さんを馬鹿にされるのは許せないからね。」


「え?」


「君、このメニューにある1番高いロマネ・コンティをボトルで頼む。」


「はい。」


「後は、特別な御客様だけに作る裏メニューがあっただろう。それを頼めるか?」


「畏まりました、神崎社長。」


ガチャン!


 突然、中小企業の社長をしている父親が青い顔でフォークを床に落とした。落としたフォークには触れず、19歳の自身の性格に似た高慢知己娘へ話す。


「思い出した・・一度だけ遠くから御見掛けした事が・・・。」


「何をよ?パパ?それより恥ずかしいからフォーク落とさないでくれる?」


「横を決して見るなよ、真理子。」


「ん?あの貧乏そうなのが、どうかしたの?」


 中小企業の社長は声を圧し殺して、強い口調で話す。


「しぃぃ〜〜!馬鹿!黙れ!静かにしろ!」


「酷いじゃないの!そんな言い方!意味も分からないし!」


「だから、静かにしろ!あの水色のジャージを着ているのは、この高級デパート・・いや、越之屋グループの社長で神崎社長だぞ。私の会社は食品貿易なんだから、あの社長の一言でウチの会社は吹っ飛ぶんだ!頼むから、これ以上失礼な事は話すな!向くな!息も止めろ!絶対に気付かれるな!」


「え!?え、えぇ・・。」


 2人は存在感を消す為に、首をカクカクと神崎から遠ざけて行く。コース料理の途中で帰ると目立つ為に、そのまま食べ続けるが次の美味しい料理が来ても恐怖から味も分からず、顔を背けたまま食べている。カップルの女性は、神崎が頼んだメニューに目を通すと顔をメニューに当たるぐらいに近付けて驚いていた。不思議に思った彼氏が女性に聞いている。


「どうした?早紀江。そんなメニューに顔をくっつけて?」


 早紀江は、そのまま曇った声で話し出す。


「・・三百・・二十、七万・・円・・・。」


「何が?」


「聞いて無かったの!?向こうの人が注文してたワインよ!」


「ん?ワイン?安物ワインでも頼んでたのか?俺達が早紀江の誕生日に特別に入れた12万のワインを少し分けてやるか?ククク。」


「アンタねぇ・・じゃあ、もう一度向こうが頼んだワインの値段を教えて上げる。」


「何、言ってるんだよ?だから安物だろ。」


「三百二十七万円よ!こっちのワインなんか分けて欲しい訳無いでしょ!」


「う!嘘だろう!?・・あ!・・あの人!?そう言えば親父の持ってる経済誌の表紙になってた人だ。イケメンのやり手実業家として載ってた・・。」


「あ〜あ、向こうのワインが飲みたかった・・。」


「無茶言うなよ!院長の親父だって、あんなの飲めねぇし。」


「ねぇ!ねぇ!ワインでそれなら、裏メニューって何だろうね!?」


「本気(マジ)で!?そんな事言ってたのか!」


「どうかしたの?言ってたわよ。」


「親父が院長仲間に連れらて、此処で特別な裏メニューを食べさせてやるって言われて来た事が有るらしい。なんか幻の高級食材で作った凄い料理を食べて感動したって言ってたけど・・まさか!」


「間違い無く裏メニューって言ってたよ・・。」


「げ!?あの裏メニューな。確か一人73万円払ったって言ってたぞ・・。」


「あの人達って、本当は凄い人達だったんだよ。そう言えば女性の人も綺麗だし、こっちが騙されてたんだ・・。向こうからしたら、こっちが貧乏人。どんな高級な服を着ても中身は貧乏人だって言われた感じ・・。」


「確かに・・。」


ガクッ!


 2人は折角の誕生日に勝手に他人を中傷して、そのまま自身達に中傷を戻して項垂れている。彩音は見た目も華やかで芸術とも言える料理が出て来るが、神崎を窘めた。


「賢治君!美味しい料理食べさせてくれるのは嬉しいけれど、お金を沢山持っているからって無駄遣いしたら駄目よ!」


「ハハハハハ!彩音さんには敵わないな!でも大丈夫、今日は特別です。彩音さんとの再会を自身でも祝いたかっただけですから。」


「・・ありがとう。じゃあ今回だけは、遠慮なく頂くわね。」


「どうぞ、どうぞ!・・あの、失礼な事をお聞きしているかも知れませんが、彩音さんは御結婚されていますか?」


「えぇ。」


 神崎が彩音の言葉に対してガックリと肩を落としている。


「そうですか・・。」


「でもね、一緒には住んでいないの。」


「そ!それはどういう!?」


「実はね、話にくいんだけれど・・・。」


 彩音は自身の人生を語り出す・・・夫はダメ男でDVも酷い上に働きもせず、息子の雷も夫に似て暴力を振るい、何を言っても聞かなかった事。既に二人には愛情も無く離縁したいが、夫が彩音を金づるとして見ていて離婚を認め無い事。唯一、愛している息子の風雲は運が悪くて今までトンデモナイぐらいの大変な事があった事を多く話した。神崎は中学生の頃から彩音に想いを馳せていて、何度か他の女性とも付き合った事はあるが彩音と、どうしても比べてしまい別れていた。彩音の話を聞いて神崎はどうして直ぐ助ける事が出来なかったのか!と自身に怒りを感じ、強く拳を握り締めている。


「・・・付き合う原因になったのは、私に酷い事をしようとした人から助けてくれた時に好きになったのだけど・・後で分かった話、酷い事をしようとした人とも、元々グルみたいだったらしくて・・ふぅ〜・・。」


 それを聞いていた神崎が急に大声を上げた。


「彩音さん!」


「はい?」


「離婚しましょう!」


「え?」


「弁護士を立てて裁判を起こせば!直ぐに離婚出来ます!」


「それも考えているんだけど、費用をまだ貯めれていないの。」


「私が出します!」


「それはダメ!これは、私がケリを付けないと駄目なの。」


「どうしてですか!?お金は返さなくても良いですから!」


「あのね、賢治君。気持ちは嬉しいけれど私も人間なのよ・・そりゃあ、賢治君みたいに立派では無くても自身で起こした事は、自身で片付けたいの。」


「そうですか、申し訳ない・・。」


--彩音さんを守りたい!今直ぐにでもプロポーズしたいけれど、この流れで話すと断られそうだな・・。


「大丈夫よ!私の愛する風雲が、今は運も良くなって幸せみたいなの!私、それが嬉しくて!嬉しくて!風雲が帰って来るのが待ち遠しい!あの子ならきっと、幸せの報告する為に戻って来てくれる筈だから!」


「・・もし!もしですよ?風雲君が幸せになって戻って来たら、彩音さんの幸せも考えて頂けますか?」


「ん?風雲が幸せになっていたら、私も幸せだけど?」


--ダメだ・・風雲君が戻って来たら、仲良くなって彩音さんを再婚させる為に説得して貰うしか無い!


「彩音さん!私も、風雲君が早く帰って来る様に祈ります!」


--独自に風雲君を探さなくては!


「ありがとう?・・。」


・・風雲の旅立った先を、彩音に聞くが当然何も分からなかった。彩音は神崎に連絡先を聞かれて自宅の電話番号を教え、商品券を貰ったものの買い物をせずに商店街へ向かいだす。


・・商店街へ後100mの所で、少し手前にある交差点が点滅しだした。車側は赤信号になり、横断歩道は青信号に変わった所で反対側に居た5歳の男の子が母親の手を放して走りだした。そこへ赤信号にも拘わらず、白い普通乗用車が突っ込んで来る!母親は大声を出すが、身体が膠着して動かない!


「コウちゃん!!ダメ!!やめて!!イャァ〜〜〜!!」


--!?助けないと!!


 彩音は咄嗟に道路へ飛び出して子供に覆い被さると、車との間に入る様に屈み込んだ!


キィ!キキキキ〜〜〜!!


 車が子供と彩音に気付いて、急ブレーキが踏むが間に合わない!!近付く車を前に彩音は自身の命は此処で終わりと、風雲の幸せの報告を聞く前に逝ってしまう事を謝った!


--ごめんなさい!!風雲!


 近くの歩道を走っていたストリート系の服を着て、道路交通法無視のスケボー青年が、その派手なブレーキ音に驚いて派手に転ろぶ!スケートボードが道路に投げ出されて、車の片側の前輪がそれを踏み、車の急ハンドル操作も重なって車は18度傾むく!彩音と子供の上スレスレを車は通り過ぎて、反対側のガードレールに衝突した!


ガシャン!!


 車はガードレールを曲げて、フロント側のエンジンルームは煙を上げながら潰れている。56歳の運転手の男性は、頭から血を流して気を失っていた。彩音は自身が生きている事に不思議を感じる。


--・・・助かったの?そっか・・ありがとう、風雲。


 車に引かれそうになっていた子供の母親が泣きながら、子供に駆け寄って来る。彩音は信号が変わる前に歩道へ行こうと、子供を抱きしめている母親の肩を右手で押して左手で歩道へ促した。母親は泣きながら少し会釈して子供と共に歩道へ歩く。歩道に移った後に彩音に何度も深々とお辞儀を繰り返した。


「本当に有難う御座います!!本当に!本当に!・・・。」


「いえ、でも子供は急に突拍子も無い事をしますから気を付けて上げて下さいね。」


「はい!!うぅ!・・。」


・・彩音は、目的の商店街に入って一番安いと評判のスーパーに向かっていた。商店街は活気もあり、沢山の人が行き交っている。彩音が歩いていると、道中で一際大きな声を出して揉めている若い二十代の夫婦がいた。


「偶(たま)には息抜きさせてくれよ?」


「ダ〜メ!!先週2万円も、負けた所でしょ!小遣いの範囲内でパチンコするって言うから結婚したんだから!約束破るんだったら離婚よ!!」


「分かったよぉ〜。」


「パチンコかぁ・・まさかね。やった事無いけど、ちょっとだけ・・。」


 彩音は、カップルが争っていたパチンコ店に入ると空いていた扉近くの席に座った。初めてのパチンコで、やり方も分からずキョロキョロと他の人達を見ている。何故、パチンコ店に入ったかと言うと、信じていない訳では無いが風雲が本当に幸せになれているか確かめたかったのだ。


 エステナが言っていた事が本当であれば、パチンコも勝てるかも知れない。幸せで居てくれれば問題無いが、それを確かめたかった。勿論、パチンコが勝てるだけで風雲の幸せが訪れているとは決め付けられないが、兎に角心配なのである。もしかすると、エステナを見たのは自身が望んだ幻覚かも知れないと少しだけ思っていた。


--ここに入れたら良いのかしら?・・千、五千、一万と書いてあるし千円も入ると言う事かしら?千円でも勇気が要るわね。


「えいっ。」


 彩音は呟きの小さな声を出して千円を入れる。玉が出て来て見様見真似で右下にある丸いハンドルを回してみた。次々と目の前のガラス内部へ玉が運ばれ、一つ目の玉がスタートチャッカーに入る。派手な演出のデジタルが周りだし、彩音は戸惑っていた。口に手を当てて驚いている。隣の若い男性は彩音の動きに、まさか座った瞬間で当たりは無いだろうと見ると、思った通り普通の演出であった。


--そんなので驚くなよ・・え!?


 突然!彩音の画面が消える!彩音は勘違いして画面を軽くペチペチと触った。家のテレビは、それで良く直っていたからだ。隣の若い男性は驚きつつ、初心者か?と思い助言する。彩音の画面を指差しながら話した。


「お姉さん!壊れてないから!それ!プレミアムな演出の大当たりだよ!」


「え?」


・・少し経ち画面が点くとド派手な演出でデジタルの数字も大きくなったり小さくなったり入り乱れ、最終的に数字が揃ったまま回転して止まった。大入賞口が開いて右打ちする様に促される。


--こっちかしら?


 次々と下の皿へ玉が放出されていくが下の皿は満杯になり、画面には更に下の箱へ出す様に指示され、慌てて放出スイッチを押して箱へ入れていった。箱が一杯になるが、どうしたら良いのか分からない。店員を呼ぼうとするが、店の音が大き過ぎて伝わらない。


 横に座っていた若い男性が見かねて彩音の座っている台の、店員呼び出しボタンを指差す。彩音は男性に会釈しながら、そのボタンを押した。ボタン近くのデジタル表示に呼出し中と出ている。店員が直ぐに来て下の満杯の箱を空箱と替えてくれた。彩音はお辞儀している。隣の男性も一万円で2回当たり、ニ箱目を出しているが彩音の一玉目での大当りに驚いていた。


--ビギナーズラック!?怖っ!俺も千円以内で当たった事はあるけど、さっきの多分10玉以内で当たってんじゃね〜の?しかもプレミアム大当りって?・・。


・・・数回転での大当りが続き、既に彩音の箱は7箱まで積み上げられている。隣の若い男性は未だ当たりが出ずに一箱を切っていた。男は彩音の箱をチラリと見て、溜め息を吐きつつ立ち上がり、自身の持ち玉を持って離れて行く。


・・・彩音の快進撃は止まらず、既に37箱も出ていた。周りの羨ましさとは反対に彩音は飽きている。


「いつ終わるのかしら・・ふ〜。あ、そろそろ帰って夕飯の支度をしないと。」


--でも良かった・・これだけ出たら風雲は、きっと幸せよね。


 彩音は、席を立つとパチンコ店を後にしようとして、呼び止められる。先程の若い青年である。他の台で打って調子を取り戻しつつある青年であった。今は、出口傍にある自動販売機でコーヒーを買っていたのだが彩音が店を出ようとしている所を見て話し掛けている。


「ちょっ!ちょっと!お姉さん!そのまま帰るつもりじゃ!?」


「ええ、そろそろ帰らないとイケないの。」


「いや!いや!あの玉どうするつもり!景品に変えた方が良いって!凄い額だよ!」


「元々、そんなつもりで座った訳では無いので。良かったら、どうぞ。」


「え?どうぞ・・って。俺にくれる訳じゃ無いよね?」


「差し上げます。」


「マシで!?凄い額だよ!良いの!?」


「ええ、では。」


「ちょ!ちょっと待って!だったらこれ!持っていってよ!」


 男はポケットから財布を出して、中から全てのお札を彩音に渡そうとした。金額にして5万2千円もある。


「そんな、悪いわよ。」


「いや!いや!こっちの方が悪いって!あれ!こんな金額じゃ全然足りないから!」


「そうなの?じゃあ遠慮なく頂くわね。」


「どうぞ!どうぞ!」


・・彩音は、店を出ていった。商店街を歩いていると、いつも寄る魚屋の前に立つ。粋のいい62歳の主人と、2歳下の奥さんが経営している店だ。


「お!彩音ちゃん!良い魚入ってるよ!この魚!焼き魚にしたら最高だよ!一匹250円の所を200円にして上げるから買っていきな!女房には内緒だけどな。」


「聞こえてるよ!!いつも有難うね!彩音ちゃん。この前、息子の事で、彩音ちゃんに相談に乗って貰っただろ。」


「えぇ・・?」


「そしたら!急に魚屋を継ぎに帰って来るって言うんだよ!嬉しくて!嬉しくて!」


「ああ!帰られたんですね!息子さん。」


「そうなんだよ!!アンタ!彩音ちゃんに、もっとサービスして上げな!!」


「何だよ!母(カア)ちゃん!いつもは、サービスしたら鬼の様に怒るくせに!」


「彩音ちゃんは特別なんだよ!あんた!俊一が帰って来たのが嬉しく無いのかい!?」


「そりゃ嬉しいけどよ。」


「あんなにブラブラして!趣味の気味悪い人形にお金なんか使って!カードローン地獄でヒイヒイ言ってた俊一が、人形売って借金も返したって言ってんだ!本当に彩音ちゃんの助言が無かったら、どうなってた事やら!」


「いえ、ウチにも恥ずかしい話で借金取りが来ていた時の話をしただけですから。助言したつもりなんて。」


「いいの!いいの!ウチが勝手に思ってるだけで良いのよ!コレも!コレも!持って行って頂戴!」


「おい!おい!母ちゃん!赤字だって!」


「うるさいわね!赤字分は箪笥(タンス)の下にあったアンタのヘソクリから出すからいいのよ!」


「母ちゃん!いつの間に!」


 彩音は店主に悪いと思い、断わろうとするが店主も手際良く魚を詰めて幸せそうに笑っている。店主も息子が真面目に成ろうとしている事が嬉しかったのであった。


「彩音ちゃん、母ちゃんの気が変わらない内に持っていきな。ほらよ。」


「すみません。有難うございます。」


・・・彩音は商店街で幸せのお裾分けを貰うような形で手に持つ食材も大量となり、家へ戻った。テレビの電源を入れると、丁度風雲の事故が取り上げられ、映像には事故にあった会社の前の道路が映っている。

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