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LUCK   う~ん・・・勇者?  作者: ススキノ ミツキ
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第35話 ボルドア王国 前編

《・・・ボルドア王国では・・。》


「えぇ~い!!オルランドはゴルドア超兵器を起動させる鍵のありかをまだ吐かんのか!?」


「申し訳ございません!あらゆる拷問に掛けているのですが・・。他の方法として優秀な魔法具師と軍の魔法団が手を尽くして鍵の解読も進めている所です!」


「サッサと吐かせろ!!アレさえ見つかれば隣国であるリドバドル王国もセルテラン王国も私の物!!その後はグラディアル帝国!次々と他国を支配して私がエイ・デファーリスの統一王となるのだ!!」


 王の間で宰相に叫んでいるのは52歳の現ボルドア王国の王ビアロテルドである。二年前、ビアロテルドの兄であった前国王オルドレンドは王国軍遠征一斉訓練の観覧途中、キャンプ地にて寝ている所を何者かに襲われて殺害された。その第一王子オルランドも事件と同時に行方不明。その妹、有力貴族に嫁いだ元王女ソレアとその家族も旅の途中、野盗に襲われ殺されたとボルドア王国の公表ではされている。


 ボルドア王国の人々は国民を愛してくれたオルドレンド王が亡くなり、更にオルランドとソレアまでもが行方不明となった事で深い悲しみに囚われた。その後、ビアロテルドが王となるが税金の殆どを王国軍の増強に注ぎ、国民の意志を汲み取ろうとしない王に国民の不満は爆発寸前である。


 ビアロテルドが手に入れようとしているゴルドア超兵器とは故ベルトラータのトラスデリア超魔砲と並ぶ大きな山をも消し去る事の出来る兵器であった。その昔、ベルトラータ王国の国王の妹がボルドア王国の王に嫁ぐ事となり、王は妹の身を心配して天才魔法具師ゴルドアが派遣され、秘密裏に作られた。強力過ぎる威力の為に王のみが起動する鍵を受け継いでいく。ビアロテルドは20年前、オルドレンドが父王から鍵を受け継いだ際、隠れてその話を聞いていた。オルドレンドと違い、小さな頃から強い野望を抱いていたビアロテルドは超兵器を使用し世界征服の野望を更に強くしていく・・・。


・・・密偵を使い鍵を盗もうと考えたが、盗聴した時に聞いた場所には既に存在していなかった。ボルドア城を徹底的に調査するが鍵の在処は分からず、オルドレンドがオルランドに鍵の隠し場所を話す機会を密偵をそれぞれに付けて待つ事とする・・。


《・・・ボルドア王国の現在より二年前の事。》


 遂に王の間でその時が来た!オルドレンドが自身の元気な内にとオルランドに次の王の後継者証であるペンダントを渡し、話し出した。


「・・鍵の場所は分かっておるな。お前が小さな頃から少しずつ教えていたから覚えておる筈・・だが、ボルドア王国の危機以外では決して使用してはならぬ!!あれは人の身には過ぎる兵器だ!分かったな!」


「はい!父上!・・・それよりも!以前お話させて頂いた件・・」


--何だとぉ~!!?既に教えていただとぉ~!!


 ビアロテルドが密偵と共に王の間の柱の陰で聞いていた。右手に持った魔法具を強く握りしめがら俯き、怒りで顔を真っ赤にしている。


--わ!・・た!・・し!・・は!!何の為に長い間を待っていたと思うのだ!!許さぬ!!


ビィィ~~~~!!


 ビアロテルドは床に俯いたまま密偵と共に姿を現して、強く握りしめていた警報魔法具を起動した。


「何事じゃ!・・!?・・ビアロテルド!?何故ここにおる!!今は大事な儀式の途中だ!決して誰も近付いてはならぬと申した筈!!」


 ビアロテルドが何も言わずに待っていると王と王子直属の近衛騎士団30名が魔法具の警報を聞きつけ、王の間に入って来た。オルドレンド王が近衛騎士隊長バルンに命令する。バルンは3年前、ボルドア王国に侵入し国を荒らした魔竜ドルアルンに立ち向かい国から追い出した事で英雄の称号を授けられている。当時31歳の若さで既にレベルが65であった。


「ボルドア王国一の英雄バルンよ!!大切な儀式を妨げたビアロテルドとそこにいる怪しい者を捕らえるのだ!」


「はっ!」


 バルンはビアロテルドと密偵を通り越してオルドレンド王の傍に駆け寄り、炎の魔剣ウィアスリンユを抜いてビアロテルド達に振り向いた!オルランドも剣の師匠であるバルンの横で聖剣カーレスタディアンを抜く!怒りの収まらないビアロテルドは俯いたまま声を上げた!


「殺れっ!!」


 バルンは守るべきである筈のオルドレンド王にバッ!と振り向き、下段から斜め上部へ剣を放つ!!オルドレンド王は胸から血飛沫を上げながら後ろへ倒れていく!


「がぁぁ~~~~!!オ・・ル・・・。」


ドサッ!


「父上ぇぇぇ~~~!!」


 横にいたオルランドはオルドレンド王の血飛沫を浴びながらバルンを敵と見做し、剣を横一閃に放った!


「貴ッ様ぁぁ!!裏切者め!ハッ!!」


 バルンはそれを上段へ弾き、そのままオルランドの首に剣を返し峰打ちで当てる。


キン!!ドォ!


「オルランド王子よ。心を乱したその様な剣では、剣の師匠である私には効かぬ。王子の聖剣カーレスタディアンは私が大事に使わせて貰おう。」


 オルランドは意識を失いつつ呟き、前のめりに倒れていった・・。


「・・な・・ぜ・・だ・・・?」


「王子よ・・私はこの小さな王国の英雄に収まる器ではない。オルドレンド王も貴方も野心が足りぬ!私は新たなビアロテルド王の下でエイ・デファーリス一の英雄となるのだ!!」


 バルンは倒れたオルランド王子から聖剣を奪う。そしてビアロテルドに跪くと他の全ての近衛騎士達も跪いた。近衛騎士団は既にビアロテルドによって支配されていた。バルンがビアロテルドに、そのまま問い掛ける。


「・・オルランド王子も殺しますか?」


「待て・・・城の秘密の地下牢に幽閉しろ。秘密の地下牢へは夜を待ち、私が案内する。そこで拷問して兵器用起動キーの在処を吐かせろ。吐いた後は殺せ・・元王女のソレアと、その子供も殺せ。私の子供以外の王に連なる血を全て断つのだ。」


「は!・・ではその様に・・・。」


・・・その数時間前、ソレアは自身の住む屋敷で夫のラスティスから手紙を渡された。オルランド王子が書いた手紙である。


[ソレアよ。今のボルドア王国には不穏な空気が流れておる。以前、父上にご相談したが聞いて貰えなかった。国が安定するまで私の友であり、お前の夫のラスティスと家族全員で安全な場所で隠れていてくれ。場所はラスティスに話してある。幸運を祈る・・・。]


「あなた!?・・。」


「うむ!馬車はもう用意してある!オルランド様が言うにはここ最近、軍幹部の多くが原因不明の重い病に罹り倒れていっておるらしい。そして秘密裏にその空席にはビアロテルド宰相の手の者が軍幹部として就任している。国家転覆を狙っているとすればオルドレンド様の血を引くお前とアーセアも危ない!直ぐにここを発つ!」


「貴方の御両親と御兄弟はどうなさるの!?」


「多分、大丈夫だろう。そう簡単に大公爵である父上は負けぬ!いざとなればボルドア王国一の公爵私兵団を動かす筈だ。まともに戦えば王国軍とは言え大打撃を負うからな。」


「私兵団に守って頂くのは!?」


「それは出来ぬ。父上を狙って来るのであれば別だが、むやみに喧嘩を買えば逆賊扱いされるだけであろう。私兵団が強いとは言え、真っ向勝負となれば規模からして勝てぬ・・・。」


「分かりました・・。」


・・・・・その後・・・ラスティス達は大雨でも気候に関わらず馬車を走らせ続けた。エステナ神聖国の東にある目的地のブラタロッサ公都手前にあるビラスロセ山脈の曲がりくねった道を走っていく。山には小雨も降っている。


ドドドドドドド!!


 馬の足音が山に鳴り響く。その時、後方から違う馬の足音が重なった。


ドドドドドドドド!!!


「はいやっ!!」


 馬に乗ったバルン率いる23人の追っ手により、雨の降る暗い山道で追いつかれてしまう!集団の後方を走るバルンが叫んだ。


「ようやく見つけたぞ!手間を掛けさせおって!モロンド!前に回り込んで、御者を狙え!!」


「は!!」


ゴロ!ゴロ!ゴロ!ドォ~ン!!


 辺りに雷鳴が鳴り響き、馬の足音が一瞬だけ掻き消された。


「・・・・・ウインドカッタ~!!」


「ぐぁ!」


 御者は首から血を大量に流し頭が傾くとズルリと横になり意識を失う。馬車は山道を逸れ、左斜め前の大きな大木に激突した!横に倒れてそのまま滑っていく!


ドガ!ズザザザザァ~!!


 ソレアとソレアに抱かれたアーセアが悲鳴を上げる。


「キャァ~~~(キャッ)!」


 馬車の中にいたラスティスは妻のソレアと子供のアーセアを守る為に抱き締め、馬車の天井に頭を強く打った・・・頭から血が流れる。


「ググゥ・・・ソレア・・アーセア・・大丈夫か?」


「あなた!頭から血が!!」


「これくらい、どうという事は無い!それよりも私が時間を稼ぐ!アーセアを連れてブラスタロッサ公都にいる大教会長アトラス殿を訪ねてくれ!話はついてある!」


「いけません!貴方も!!」


「早く行くのだ!!アーセアと無事に逃げてくれ!!」


ダン!


 ラスティスは勢いよく扉を上に開け、魔法強化タイプの杖を持って馬車を出た!ソレア達を馬車の外に引っ張り上げながらデアアイスランスを構築して氷の矢を放っていく!馬車から降ろすとソレアの背中を強く押した!ソレアはアーセアを抱え雨と雷の音の中、必死の表情で駆け出す!ラスティスの放った氷の矢が一番近くにいたモロンドの乗る馬に一本の矢が刺さり、馬は暴れモロンドを振り落とした!


「ヒヒィ~~ン!」


「グァッ!」


「全員!馬から降りて近付け!!」


 バルンの命令で追手たちは馬から降りてラスティスの魔法攻撃を盾で防ぎながら近付いて行く!ソレアはまだ3歳のアーセアを抱きかかえ駆け出した!バルンがラスティスの魔法を聖剣で叩き落しつつ、ラスティスへゆっくりと向かっている。


「ラスティス殿!馬車も無い上、英雄である私からは逃げられぬ!もう諦めなされ!!」


「ふざけた事を抜かすでない!貴様は断じて英雄では無い!!只の人殺しだ!!・・・・・デアアイスランス!!」


 ラスティスは馬車を盾にしながらバルンに再度5本の氷の矢を放った!


「それを決めるのはお前ではない・・・死ね。」


 バルンは氷の矢を見切って避けながら一瞬でラスティスに近付いた!ラスティスの腹に聖剣が突き刺さる!


「グアァァ~~!!」


 ラスティスの絶叫が山をコダマする!!ソレアは遠くからその声を聞いて振り向き様、叫んだ!


「あなたぁ~!!」


 ラスティスは血を吐きながらソレアに向かって少し微笑む・・。


「ぐ・・お前達だけは守る・・・。」


ドォォ~~ン!!


 ラスティスは腰袋の中に忍ばせていた改良型爆発魔導具フェアドロを起動させた。ラスティスの居た場所が強烈な爆風と炎で包まれる!!


「いやぁ~~!あなたぁぁ~~~!!」


 ソレアはラスティスに向かい駆け寄ろうとしたが立ち止まった。炎と煙の中から、剣を抜いたバルンがで薄笑いを浮かべて出て来たのである!


「フ・・・自爆とは・・無駄死にであったな。」


 バルンはラスティスが腰袋に手を入れた瞬間に危険を察知して飛び離れ、後ろを歩いていた自らの部下を盾にして爆発と炎を防いでいた。部下は盾を構えるのが遅れ、全身火傷で瀕死の状態である。他の部下たちは盾と共に吹き飛ばされていたが離れた場所で直撃を避けれた為、擦り傷を負っている程度であった。バルンは瀕死の部下をチラッと見て惜しげもない口調で呟く。


「そうも言えぬか・・私を護った部下は死んだしな。だが・・結果は同じだ。」


--後は二人を始末するだけ・・。


 ソレアはラスティスへの思いをその場に残しながらアーセアを守る為に再び駆け出した!・・・がバルン達に高さ15メートルもある崖へ追い詰められてしまう。後ろには大雨により荒れ狂う濁流と化した川があるだけで逃げ場が無い!追手はソレア達を半円に取り囲み、徐々に距離を縮めてくる。中心にいるバルンがソレアへ、何の感慨も無く話した。


「夫の下に送って差し上げよう!」


 ソレアは涙を流しバルンをキッと睨みつけた!


--あなた!!アーセアだけは守って見せます!!


 ソレアは荒れ狂う濁流へ、アーセアを護る様に抱きしめながら身を投げた!


ドボン!!


「待て!!・・ファイヤーアロー!!クッ!」


 バルンが放った炎の矢は濁流に掻き消され、ソレアとアーセアも一瞬で見えなくなる!


「・・・まぁいい。この濁流では二人共助かるまい。任務完了だ!引き上げるぞ!」


「「「「「ハッ!」」」」」


 ソレアは濁流に吞まれながら緊急用バックから簡易呼吸魔法具を二つ出して一つをアーセアに咥えさせ、その後自身も咥えた。濁流内の木々や草で身体を傷つけられながら片手でアーセアの簡易呼吸魔法具が外れない様に、自身の胸に魔法具を咥えたアーセアを抑えつけている。もう一方の手は自身の魔法具を押さえながら・・・。この簡易呼吸魔法具はオルランドがラスティス達の身を案じて用意周到に渡していた物でソレアの腰袋には他に白煙魔法具と閃光魔法具が入っていた。濁流の途中で腰袋は外れ流されている。


・・・ソレアは記憶を失くして孤児院へ、アーセアは川岸で目を覚ましてレンステルス公都に辿り着いた・・が検問所で3歳のボロボロになった服を着た子供が元王女の娘と言っても信用して貰えない。アーセアは空腹で限界が来ていた。出荷前の馬車に積まれていたドントクス所有のマストチを食べてしまい、奴隷に落とされてしまう。


 そしてドントクスの工場で死ぬまで働かされる事となった・・。休みなく働かされ少しでも身体を休めていると鞭や棒で叩かれる。食べ物は少量のパンしか与えられず、酷い時には何も与えられない事もあった。

・・・ある時、空腹の限界を感じたアーセアは目の前にある加工前のマストチを再び口にしてしまう。見張りの男に見つかり、目が見えるから美味しそうに見えるのだ!と、サディストの笑みを浮かべながら近くにあった焼きごてを目に当てられた。痛みに泣き叫ぶが誰も助けてくれない・・・。


 目の見えなくなったアーセアは更に失敗する事が多くなり、より強い拷問の様な仕打ちを受けて足も折れてしまった。何も手当されず曲がった状態で歩くのも覚束ない・・。

 少し良くなると、再び工場で働かされた。そこに視察の為のドントクス夫人が乗った馬車が来て、アーセアは重い荷物を運ばされている途中によろめき肩が馬車に当ってしまった。その事にドントクス夫人は怒り公開処刑を命じたのであった・・・。


《そして今に至る・・・。》


「アーセア?・・・うぅ・・・。」


 ソレアはテーブルの横で蹲っている。孤児たちが心配してソレアの傍に寄って行った。アーセアが手を前に動かしながらソレアに声を掛ける。


「母様?・・どこ!?何処なの!?」


--何とかして記憶を戻して上げれないかな・・。


 突然、外で曇っていた空から雨が降り出す!!


ザザザザザ~~~!!


 そこに馬車と馬の騒がしい音も重なった!


ドドドドドド!!


 孤児院の周りに2台の馬車と47名の武装した兵士達が孤児院を取り囲みだす!大きな一台の馬車の中では3人の貴族が話していた。


「ここみたいですな。目の見えない子供を見かけたという場所は。ドントクス殿、お望みどおりにお連れしたのですからマストチを今年は多く売って貰いますぞ!」


「仕方ありませんなぁ。高いですぞ!」


「それよりも貴方!・・早く私の馬車を傷つけた子供を処刑して頂戴!雨も降って来ましたし私はこの馬車から見ていますわ。」


 そう話しているのは南地区領主の大きな馬車に乗った南地区領主のベイカルンとドントクス、ドントクス夫人であった。


 もう一台の馬車から執事2名と使用人2名が降りて来て赤い長絨毯を馬車の前に引き出した。執事は大きな傘を持って馬車の前に広げている。馬車の扉が開けられベイカルンとドントクスが降りた。ドントクスが執事に顎で命令すると執事が兵士長に話す。


「西地区第二兵士団長殿、ドントクス様の前に例の子供を連れて来て下さい。」


「は!」


 雨に濡れた兵士達5人がノックも無く孤児院の扉を開き入り込む。アーセアを見つけ駆け寄ろうとする前にクラウドが立ちはだかった。


「あなた方はどちら様でしょう?何の用ですか?」


--大体、分かるけど・・飛んで火にいる夏の虫って奴!・・お仕置き開始!!


 兵士団長が話す。


「そこにいる子供は西地区領主であるドントクス様の奴隷だ。罪を犯してこれから公開処刑する。分かったら邪魔をするな!」


「嫌です。」


「何!?」


「聞こえなかったですか?嫌と申し上げたのです。これから感動の対面予定です。そちらこそ邪魔をしないで頂けますか。」


 兵士団長が腰の剣を抜く。それを見てミオルアが悲鳴を上げた。子供達は恐怖を感じ部屋の隅へ移動していく。


「ヒィ!こ!この孤児院は関係ないよ!」


「ミオルアさん、孤児院には迷惑を掛けません。アテナ、この人達に退場頂こう。」


「・・変身する?」


「無しで。」


「オッケ~。」


 アテナが動く。それに合わせクラウドも動いた。5人の兵士達の鎧は一撃で凹み全員気絶して、そのまま脚を持って引きずり孤児院の外に放り投げられていく。5人が積み重なっていく様子を見てドントクスが声を上げた。


「何が起こっておる!?」


 孤児院ではミオルアがクラウドの行動を非難する。


「あんた!なんて事をしてくれるんだい!!貴族の兵士達に手を掛けるなんて!外にも大勢の兵士達が居るみたいだし!もうお終いだよ!孤児院も潰されちゃうよ!」


「落ち着いてください。孤児院も貴方達も全て守って見せます!」


 クラウドが孤児院を出て行こうとした瞬間、雷が近くに落ちた!皆を守る為に出て行こうとしたクラウドの背中がソレアの目には、あの日のラスティスと重なる!!


ゴロゴロゴロ!・・ドォ~ン!!


「ラスティ~~ス!!・・・あ!・・あぁ!!思いだしたわ!」


 ソレアがアーセアに駆け寄り、泣きながら抱きしめた!


「あぁ!アーセア!!目が!なんて酷い!あぁぁぁ!!」


「母様なの!?うぁぁぁ~!母様!!母様!!母様の顔が見たいよぉ!!」


 外に出て行こうとしたクラウドがアーセア達の傍に一瞬で移動する。


「了解!!直ぐに治してあげるからね!アテナ!外の兵士が入ろうとしたら蹴散らしておいて!」


「オッケ~!」


「エターナルヒール!」


 クラウドの前に魔法陣が現れ、光を放った!アーセアの焼け爛れた顔が見る見るうちに、元の美少女へ戻って行く!


--うんうん!良かった!ラッキーだな。記憶も戻ってアーセアが目も治したいと思うなんて!・・後は外の外道共をお仕置きして一件落着っと!


「何だ!!?この子供!!化け物か!グァ~~!!・・・。」


 アテナが、一斉に襲い掛かって来た兵士達の剣や魔法を余裕で避けて殴り蹴り飛ばしていく!兵士達はそれでも何とか孤児院へ移動しようとしたがアテナの残像30体に邪魔され動けない。ドントクスが苛立ちを見せる。


「何をしておるんだ!?早くやっつけろ!それでも西地区兵士団の精鋭か!?」


 苛立つドントクスに南地区領主のベイカルンが声を掛けた。


「ドントクス殿、お困りの様ですな。私があの者を捕らえれば今年のマストチを半額で売って頂けますかな?」


「半額!?それは!・・ググ・・。」


 ドントクス以上に苛立ったドントクス第二夫人が馬車から声を上げた!


「あなた!ここに居るのは飽きてしまいましたわ!早くして頂戴!!」


「・・ベイカルン殿に助力を願おう・・ただ、どうするつもりですかな?子供ながら、かなりの実力見たいですぞ。」


「影騎士10人衆よ!参れ!!」


スタッ!!


 10人の黒に染められたライトアーマーを着けた者達が何処に隠れていたのか、ベイカルンの傍に現れた!その中の黒騎士長が跪いて話した。


「御呼びですか?ベイカルン様・・。」


「うむ、あの子供を殺せ。」


「ハッ!!」


 騎士長が指で合図するとビュン!と全員駆けて行き、アテナの残像を鋭い剣で次々と斬っていく!ドントクスが驚きの表情でベイカルンに尋ねた。


「おぉ!!凄いですな!あの者達は!?」


「フフフ、私の自慢の私兵です。あの中の二人はS級冒険者ランクを持ってますからな!」


「なんと!!羨まし過ぎる!」


「その分、かなりの費用が掛かっておりますので。あの十人で王国の三中隊、いや!一大隊でも作戦次第では勝てるでしょうな!」


 ドントクスが自慢話に苛立ちを隠せず左足で地面を擦りながら踏みつけている。


--ケッ!自慢しおって!私もギルドにS級冒険者を紹介して貰えばそれぐらい!!・・だが雇うとなると毎年かなり費用が掛かるな・・。それは勿体無い!!用のある時マストチを餌に利用させて貰うか?


「・・おう!それが良い!!」


 急に声を出したドントクスにベイカルンが問い掛けた。


「何が良いですのかな?」


「いや・・只の独り言で・・・。」


 黒騎士達がアテナの残像を全て消し終わると、それぞれの魔剣を持った者達がニヤリと笑う。3人が杖を構えアテナの周りで凄まじい魔力を込めた魔法の炎、氷、雷の矢を魔法陣から解き放った!逃げ場を失ったアテナが避ける事が出来ても7人の手練れがその間に待ち構え、剣でアテナに止めを刺す予定である・・が!アテナは魔法も構築せずにニコッと笑うと両手に強烈な魔力を纏う!紫色に光った手を使い、矢を叩き落していく!!


 7人はそれも問題無いとの表情で詰め寄り、逃げ場の無いアテナへ一気に上段から斬り降ろした!斬られたアテナが他の者達に見えると同時に、周囲にはアテナの残像が勢いよく増えていく!始末したと思っていたアテナが50体近い残像を一瞬で作り、クラウド以外の全ての者が驚いていた。


--アテナの遊び相手にもならないか・・。でもこの程度じゃ懲らしめがいも無いな。


 クラウドは周りの全ての者がドントクスの手下であり、悪者と思っている。ゆっくりと闘いの中心へ歩きながら叫んだ。


「皆さん!子供ばっかりを追いかけて恥ずかしくないですか!ま!!心の小さなドントクスに仕える様じゃ力も知れているみたいですね!」


 それを聞いたドントクスとベイカルンが怒り、アテナの残像を気にしながら黒騎士達はクラウドへ標的を変える!


「「「「「何を~~~!!」」」」」


「奴を殺せぇ!!」


 強力な魔法をクラウドへ連続して放っていく!クラウドはその場を動かずゴッドグランシーズの鎧を纏い全てを受け止めた!強烈な炎や雷、風刃、氷攻撃を受けて姿が見えなくなっていった。


ゴォ!!ドォ~ン!!ガガガガ!シュイン!!ズガガ!!


 ベイカルンとドントクスは黒騎士達の凄まじい魔法に驚いていた!10㍍以上吹き上げる炎や眼が眩む程の上級雷魔法等で、一瞬にしてクラウドを消し去ったと思っている。


 しかし・・・予想と反して光と砂煙の舞った場所から、ゆっくりとクラウドが現れる!


「さてと・・そろそろ遊びは終わりにしましょうか?」


 それを聞いたS級冒険者ランクの黒騎士が怒りを露に隊長が副隊長へ声を上げた。


「私達は舐められるのが嫌いでね!ビアンド!!あれをやるぞ!!」


「本気か!ローコスタ!!暫くこの土地の周囲は駄目になるぞ!!」


「構わん!!ベイカルン様の土地だ!何とかしてくれるだろう!」


「分かった、では!」


 ビアンドと言われた副隊長がクラウドとアテナから離れた場所で背負っていた弓矢を構えた!腰に付けた筒から出した弓の先には、それぞれ魔法具が固定されていてそれを次々と放って行く!


 クラウド達の周りに落ちると矢は魔法陣の形を取り、地面の魔法陣から黒い光が上がった!黒騎士の他の部下達が巻き込まれない様に隊長の後ろへ下がって行く!!クラウドが動こうとすると地面の魔法陣から無数の黒糸が出て来て腕と足を絡めとった!アテナにも絡みついている!隊長はニヤリと笑うと詠唱を始めていく!


「かかったな!これで貴様たちは終わりだ・・・・トバングラ・・・ゲーテゲカ・・・・ゴグンドガス・・・・・・・・・ベーガ・・・・ゲラヴォデファンラ!!」


 魔法陣から黒い靄が現れてクラウドとアテナを包み込んだ!!地面に生えていた草花は一瞬にして枯れ地面を這っていた虫たちも干乾びていく!地面から這い出してくる沢山の黒糸が足に絡み付き、二人を地面に繋ぎ止めようとしている。S級ランク冒険者のローコスタが使用した魔法は土魔法の一種で暗黒魔法と呼ばれ上級魔族が好んで使用していた。強烈な毒と生気を奪う黒い靄は一瞬にして生き物の命を奪ってしまう!一度使用するとその土地と周辺は黒く染まり、近付くだけで病気となり2年は浄化される事もない。多くの魔力を必要とする上、世界では禁じ手とされていた。クラウドは魔法陣を真眼で確認すると念の為、アテナと自身に二重のゴッドグランシーズ膜を張っていく! 


--なるほど・・こんな危険な魔法を・・お仕置き追加だな!


--効かないけどね!・・孤児院の子供達が危険だから念の為と・・エターナルヒール!


 黒い靄は急激に少なくなり黒くなった地面は元の地面に戻って行く!二人を縛り付けようとしていた黒糸も薄れている。枯れた草花も元の花の状態より元気な開花を見せた!!黒騎士達が驚いている所へ何事も無かったかの様にクラウドは近付いて行く。ローコスタの前にある魔法陣に手を近づけると真眼を発動して別の魔法陣を作り重ねた。以前、シャアラが行っていた方法で魔法陣を乗っ取る!ローコスタとビアンドを覆う魔法陣が現れて二人は地面から伸びた黒糸により動けなくなった!ローコスタとビアンドは有り得ない状況に対応出来ていない!


「これはまさか!!?」


「乗っ取ったのか!」


 地面の魔法陣から黒い靄が出て来てローコスタとビアンドを包む!ローコスタとビアンドは干からびる様に顔も身体も皺だらけとなっていく!


「や!!やめてくれぇぇ~~!!」


「誰か助けてくれぇぇぇ~~!!」


 二人が恐怖の表情で叫び、クラウドは話し掛けた。


「二度とこの魔法を使わないで下さい!!エターナルヒール!!」


 二人は以前の健康な姿に戻るが腰が抜け地面に崩れ落ちた。他の黒騎士達がクラウドとアテナへ何時仕掛けるか剣や杖を構えて迷っている。


「貴方達は、まだやるのですか?」


 腰を抜かしたS級冒険者の黒騎士隊長ローコスタが隊員達へ話した。


「お前達!もう止めろ!!死ぬぞ!・・私達は手を出してはいけない存在に手を出してしまったのだ!」


 クラウドが思う。


--何か化け物扱いだな・・。


 隊員達は動かず立っているがローコスタの様にクラウド達の実力が分かっていない。黒騎士達が攻撃を開始した!その瞬間クラウドが風高速移動して動く!


「後が閊えていますので貴方達は退場の時間です!」


 クラウドは周囲の者には分からない程の速さで動き首に手刀で衝撃を与え倒していく!


バタ!バタ!バタ!バタ!・・・・!!


 ドントクスの兵士達は離れて見ていたが、ドントクスの命令で再び動き出した。


「えぇい!!何をしている!?お前達も動いて、あの青い奴を殺せ!!毒を持っているみたいだから気を付けろ!!」


 クラウドの素早い動きで何をしているか把握の出来ていないドントクスが、勝手に倒れていく黒騎士達を見て毒を使用したと思っている。


「「「「「「「うぉ~~~!!」」」」」」」


--・・面倒だな。


「アテナ、遊んであげて。」


「・・オッケ~!」


 アテナは向かって来ている兵士達の群れにジャンプした!そして兜を踏みつけながら縦横無尽に駆け抜けている!


「「「「「「ゴッ!ガッ!グ!(首がぁ!!)」」」」」」


 兵士達は首を痛めて、痛みに耐えられず座り込んでいく。我慢してアテナが再び走り込んで来た所を捕まえようとした者は更に強く踏まれていた。


「グガァ!!」


--痛そうだ・・。


 クラウドは兵士達をアテナに任せてドントクス達の傍に向かうと、ドントクスとベイカルンは執事達を置いて馬車に逃げ込んだ。乗り込んで直ぐに強化された窓をガシャン!と閉める。この馬車は特殊仕様で頑丈なシェルターにもなると、ベイカルンは孤児院に来る途中で自慢をしていた。


 ドントクス達が馬車内部で怯えながら、隠れていると不意に馬車が傾いて車輪を使わずドスン!!ドスン!!と大きな音を立てて転がり出した!クラウドは大きな馬車に手を掛けて軽々と転がしていく!!執事達がクラウドの後ろから傘で攻撃しようとしたが馬車を持ち上げた所を見た瞬間、悲鳴を上げながら逃げている。馬車内部ではドントクス達がもみ合いながら中で転がっていた。


「「「ぐぁぁ!!(キャァ!!)」」」


--よ!それ!よっと!!


ダン!ドン!ダン!ダン!!・・・・!!


「痛いではないか!!ベイカルン殿!わしに乗らんでくウワォ!!」


「痛っ!!そちらこそ!ブチュ!!」


「キャア!!」


「こら!ベイカルン!!儂の妻に何をしてグァオゥ!!」


「不可抗力でウワ!ブチュ!!」


 今度はベイカルンがドントクスに圧し掛かり口にキスしていた!


「「グエェ~~~!!」」


 二人はお互いに顔を背けて気持ち悪さを表現している。


--さてと・・気を付けないと刺さるよ。


 クラウドは転がすのを止めて、今度は手品師が刺す様にゴッドグランシーズの長い剣を馬車に突き刺していく!クラウドは透視して中の様子が見えていた。


ザシュ!!


「うわ!!」


 一本目はドントクスの被っていた帽子に突き刺さる。


ザシュ!


 次はドントクス夫人のスカートに突き刺さった。


「キャア!!」


 ベイカルンが慌てて外に出ようとするが既に扉にも剣が刺さっている為、開かない。


「は!早く出るんだ!!・・開かん。」


「嘘だろう!どうしてくれるんだ!!ベイカルン!貴様がこの馬車が頑丈だからと自慢していたから乗ったんだぞ!!」


「勝手に乗ったあんたが悪いんだろう!!」


「何を!!」


ザシュ!ザシュ!


「ぐわぁ!もう止めてくれぇ!!そうだ!止めてくれたら100デロやる!!どうだ!」


ザシュ!ザシュ!ザシュ!


「私はドントクスみたいにケチな事は言わん!!1000デロでどうだ!!」


ザシュ!ザシュ!


「お前こそケチ臭い!!えぇ~い!一万デロで!!」


ザシュ!ザシュ!ザシュ!


「グワ!!」


「ウォ!!」


「キャア!!」


 既に三人は剣により身動きが取れない。ドントクスは大の字に、ドントクス夫人はアルファベットのIの文字に、ベイカルンは深くお辞儀をした状態で固まっていた。クラウドが外から話し掛ける。


「思いやりの欠片も無い人達!そこで十分反省して下さい!!」


「何を言っておる!私の奴隷をどう使おうが私の勝手だ!!」


「皆、大切な命を持ってる!それに奴隷以外の人達もあんたは処刑しているでしょう!」


「それは貴族の私に逆らったのだ!当たり前であろう!!そうだ!貴様も覚えておけ!私にこんな事をしたのだ!必ず処刑してやる!」


ザシュ!


 剣がドントクスの鼻先を掠めて血が流れる。


「ヒィ!!」


「貴方は余計な事を言わないで頂戴!!外のあなた!何処の御方か分かりませんけれど、これぐらいで許して頂戴!今許してくれたら、この仕打ちを忘れて差し上げますわ!」


ザシュ!


 ドントクス夫人の髪がパラパラと落ちていく。


「ヒッ!!」


「お前達は話すのをやめろ!!外の高貴な御方!大変私は貴方様の強さに感動している!!年間3000デロで私の黒騎士隊に入って頂けないだろうか!?」


ザシュ!


「ミ!!」


--ミ!って何!?


 ベイカルンの口髭がパラパラと落ちた。


--そろそろ終わりにするか・・。


「どうぞ馬車から出て下さい。」


バコン!!


 クラウドは剣を全て消して壊れた扉を引き剝がした。三人共腰が抜けていて、濡れた地面へ転がりながら出て来る。ドントクスはまだ懲りずにクラウドに向かい地面から話し掛けた。


「こ、こんな事をして只で済むと思うな!貴族に手を出したんだ!貴様は王国軍全てを敵に回したんだ!」


「王国軍に追われるのは貴方達の方ですよ。煌輝紋章石ホルダーの自分に手を出したのですから。」


「ひょえ!?」


「聞こえなかったですか?お初にお目に掛かります。煌輝紋章石ホルダーのウィン・クラウドと申します。」


 クラウドが煌輝紋章石を見せると、三人共悲鳴を上げながら土下座の態勢を取る。


「「「ヒェ~~~!!ははァ~~!!」」」


「ではドントクス一族の財産は全て没収!!ドントクスは鉱山で一生働いて貰いましょう!当然、一族全員平民となって頂きます!」


「「そんな!!」」


「それとベイカルンもドントクスの悪行に手を貸したとして2等貴族落ちを命じます!」


 ベイカルンが頭を下げ項垂れている。すると横に居たドントクスが急に立ち上がった!


「その煌輝紋章石は偽物だ!!私は騙されんぞ!!」


 その瞬間、煌輝紋章石から声が発せられる!アテナが兵士達を蹂躙している最中にユイアレスと連絡を取りドントクスを罰していいか聞いていた。ユイアレスは興味を示し現在も通話が繋がったままである。


「愚か者め!!本物の煌輝紋章石を偽物と称する等!!」


「「「ユイアレス様!!?」」」


 ドントクスが粘りを見せる。


「ユイアレス様!お待ちください!!これは何かの間違いです!!」


「くどい!!クラウド、もうその場で処刑して良いぞ!」


「え~と・・では遠慮なく!」


 クラウドがゴッドグランシーズの剣を出して構えるとドントクスが素早く土下座態勢に戻った。


「申し訳ございませんでした!喜んで鉱山で働かせて頂きます!!」


「・・ユイアレス、西地区の領主は?」


「直ぐに適任者を送る。暫くマストチ農園は王国に返還という事だ。アテナと好きなだけ取って食べてよいぞ。それよりも先程の話だがボルドア王国の元王女とその娘が何故そこに居るんだ?」


「ソレアさんの記憶も戻ったし孤児院に戻って聞いてみるよ。」


「そうだな。」


・・・孤児院ではソレアがミオルアに今までの経緯を全て話していたらしくミオルアはソレアとアーセアにかなり恐縮していた。クラウドとアテナが孤児院内に戻るとミオルアが焦りの表情でこちらへ駆けて来る。


「外はどうなったんだい!?この孤児院は終わりなのかい!やっぱりソレア様の力をお借りした方が!?」


「ミオルアさん!落ち着いて下さい!孤児院は全く問題ありません。私の知り合いで王国のお偉いさんが居るのですが、その方からルレス魔法具で話を付けて貰いましたので。」


「・・ふ~・・良かったよ。一時はどうなる事かと。あ!それよりも大変なんだ!!ミラスがソレア様で!あんたが連れて来た子はアーセア様なんだよ!」


--ミオルアさん・・それでは全く分かりません。


「そうですか・・ソレアさん達と話をしたいので奥の部屋をお借り出来ませんか?」


「あんた!ソレア様って言いな!後で怒られても知らないよ!」


「すみません・・奥の部屋でソレア様とお話させて頂いて宜しいでしょうか。」


「そうだね。王国のお偉いさんと知り合いなら、あんたに任せた方がいいね。あ!!という事は二万デロは無し・・かぁ・・・。」


 ミオルアはガッカリして肩を落としている。


「いえ、二万デロは御迷惑をお掛けしましたのでお支払い致します。子供達を立派に育て上げて下さい。」


「本当かい!?いやぁ!どうぞ!どうぞ!!奥の部屋なんかいくらでも使って頂戴!なんなら私も付け」


「要りません!」


「そうかい!?」


・・・孤児院の奥の部屋でクラウドはソレアとアーセアの今までの経緯を聞いていた。アテナは他の子供達と余った夕食を分けて貰い食べている。


「・・・・・そうだったのですか。」


「はい・・兄のオルランドも行方不明とミオルアさんから聞きましたが、どうにか捜し出そうと思っております。きっと!生きてくれている筈です!」


「私も今まで大変な目に遭って来たアーセアちゃんの為に、お力になれればと思っています。私の友人を紹介致しますので話してみて下さい。ユイアレス!今までの話は聞こえてた?」


 クラウドが煌輝紋章石を身体の前に出した。既にユイアレスとの通信は繋がっている。盗聴の様で気が咎めたが生の声をユイアレスに届けた方がより協力してくれると思ったからだ。


「ああ。ソレア殿、始めまして。私はヴェルタス王国の第一王子ユイアレスと申します。」


「まさか!ユイアレス様!!?お初にお目に掛かります!わたくしはソレアと申します。御高名は本国にも届いておりました!先程の話を聞いて頂いておりましたら何卒ユイアレス様のお力をお貸し願えないでしょうか!?」


「・・申し訳ない・・ソレア殿。それは内政干渉となり下手をすれば戦争になるやも知れませぬ。ヴェルタス王国として出来る事は貴女とアーセア殿の何不自由無い生活と身の安全を保障出来るだけ・・誠に申し訳ない・・・。」


「そんな!!ユイアレス!何とかならないのか!?自国にも戻れないなんて可哀想じゃないか!!」


「クラウド・・一つだけ方法がある。」


「それは!?」


「ヴェルタス王国が干渉している事を悟られず動く事だ。」


「そんな事が可能なのか?」


「可能だ・・クラウドならな。」


「自分が?・・そうか。寄り道になるけれどそうも言ってられないな・・分かった!オルランド王子は自分が捜してみるよ!今のレベルなら、かなり広範囲を検索可能だから。」


 ソレアは何の話をしているのか分からないが黙って聞いている。


「クラウド!必要な事がまだある!国が既にビアロテルド王に完全支配されているのであれば王子を見つけ出せたとしても他国に亡命せざるを得なくなる。」


「どうすればいいんだ?」


「第一後継者のオルランド王子が実は生きていたと認めさせるには力のある隣国の後ろ盾が必要になる。グラディアル帝国の様なな!」


「じゃあ、簡単じゃないか!同盟国だしユイアレスが頼めば!」


「いや、戦争ともなりかねん話だ。同盟国でも簡単ではないぞ。それより忘れておらぬか?クラウドはグラディアル帝国の勇者だと言う事を!」


 ソレアがかなり驚きクラウドを見ながら声を出す!


「え!?」


 クラウドはそれが何か分からずユイアレスに問い返した。


「それが何?」


「そうか・・やはりクラウドは知らずに受けたのか。グラディアル帝国の勇者の称号は、我が国であれば大臣レベルの権限を持っておる。勇者のクラウドが頼み込めば私がお願いするよりも力を貸してくれる筈だ。」


「え?勇者ってそんな権限もあるんだ?受ける前に教えて欲しかったな。」


「知っていたら受けなかったであろう。クラウド、お前はこの世界の救世主となる者だ。何かあった時に使える力は出来るだけ多い方が良い!もしクラウドがグラディアル帝国に頼み込んでダメであれば私もローラフィナ殿に話をしてみよう。クラウドでダメなら私が何を言っても無理だろうがな。それでは健闘を祈る!」


・・ユイアレスの通信を切った後、早速ルレス魔法具でローラフィナへ繋いでみた。ローラフィナの皇帝の間では大きくクラウドの場所も映し出されている。通信が繋がると直ぐにローラフィナから声が発せられた。


「お久しぶりでございます、クラウド様。」


 クラウドがお辞儀をして話す。


「お久しぶりです。突然の連絡申し訳ございません、ローラフィナ様。」


「何を仰っているのです!?忙しいのは分かりますが、逆にもっと連絡して頂きたく思っております!ところで!そちらの女性はどちら様でしょうか!?」


 少し怒った表情でローラフィナが話した。ローラフィナはヴェルタス王国と同盟を結んだ後、クラウドがエイ・デファーリスを救う為に世界を奔走しているとユイアレスから既に聞いている。


「実は・・・・・・・・です。という訳で、出来ればローラフィナ様にオルランド王子の後ろ盾になって頂きたいのです。」


「・・なるほど。話は分かりましたがソレア殿とは本当に何も無いのですね!」


「え?はい、勿論です?」


「いいでしょう・・・もしオルランド王子が生きておられたら正統後継者として王の変更をボルドア王国へ要求致します!」


「ありがとうございます!それではこれで。」


「お待ち下さい!久しぶりに話せたのに、直ぐに切ろうとなさるなんて!」


「すみません、ボルドア王国へ直ぐに発とうと思いまして。」


「クラウド様!・・これは貸しです!時間のある時覚悟して私の所に来て下さい!」


「何か・・怖いのですけど。」


「・・私も怖い・・・。」


「え?」


「・・何でもありません。それではクラウド様、早く時間を作って会いに来て下さる様、祈っております。」


「やるべき事を終えたら必ずお伺い致します、それでは。」


「はい。」


 ローラフィナとの通信を終えてクラウドはソレアに向き直った。


「・・という事でソレア様、オルランド王子は私が捜してきます。」


「クラウド様はグラディアル帝国の勇者様でいらしたのね。兄上をどうぞ宜しくお願い致します!」


 ソレアが深々とお辞儀をする。アーセアが左袖を裏返すと、そこに縫い付けていたペンダントを引き剥がしてクラウドに差し出した。


「お兄ちゃん、これ。」


「ん?これは?」


「私を助けてくれた御礼とオルランド伯父上を捜して貰える御礼。昔、父様に頂いた形見なの・・。」


「そんな大切な物貰えないよ!」


 クラウドはアーセアの手を押し返そうとするがアーセアは首を振って再び力強くクラウドに差し出した。


「いいの、父様の面影は心の中で大事に残ってる。私は私の出来る御礼がしたい!お兄ちゃん屈んで!」


「ん?」


 クラウドが屈むと頬にキスをしてきた。


「チュッ!」


「え?」


「フフ!・・これも御礼。ペンダントは私と思って大事にしてね。」


 クラウドはアーセアの頭を撫でながらニコッと笑い返した。


--お父さんの形見か・・気持ちは受けるとして、いずれ返して上げないとな。


「では、ソレア様。」


「え?私も御礼にキスを?頬ぐらいであれば・・。」


「違います!」


--ミオルアさんの悪影響だな・・。


「ユイアレスに腕利きの護衛と馬車を用意して貰います。グラディアル帝国ヘ、その馬車で出発なさって下さい。グラディアル帝国からであればボルドア王国に戻る事となった時、楽でしょうから。」


「すみません!はい。」


 その後・・・クラウドはアテナをデクトノフに預けてボルドア王国に飛び立っていく。アテナは一緒に行こうとしたが美味しい料理の出る大会までに戻れないかも知れないと話すと悩みながら承諾していた。・・・デクトノフの屋敷へ移動すると屋敷前でチェキデアを生み出し、軽く飛び上がり弱点へパンチを埋め込む!見た事もない程大きく新鮮なチェキデア二匹と大量のマストチをデクトノフに渡すと喜んでアテナを預かって貰える事となった。

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