第3話 大いなる力をゲット!
10㍍程離れた建物の更に中心部には、辺り一面の青い空間を凝縮した様な光輝く直径3メートル程の球体が浮かび、その周りをゆっくりと兜、鎧、小手、盾、剣、指輪、マントの装備が球体の周りをゆらゆらと回っている。
風雲が近付き暫く不思議に眺めていると、その装備が人の形を取りだした。
人の形となったものから洞窟全体に響く低音で発せられる!
『ようこそ我の力と装備の後継者よ!』
--えっ!?いきなり何!
『我は異世界レイ・ラトスの神でありこの世界エイ・デファーリスでは人として生き、勇者レイティスと呼ばれレイ・ラトスより渡りし悪しき神を討伐し役目を終えたのだ・・・。』
--また異世界の神・・か?
『我の残した力と装備は人には過ぎたるもの。使い方を誤れば世界を滅ぼしてしまうものなのだ。しかし・・こうしてお前が来たという事は何処かにまた悪しき神が生まれ必要となったのであろう。』
--すごい!当たり!!あっ!もしかして色々貰えるのかな?どうやったら運だけで世界を救うのかと思ったけど・・・こういうことなのか・・?
『我の多くの試練を乗り越えし、優しく強き心と身体を持つお前であれば力も装備も難なく使いこなせるはず。』
--ん?そんな試練受けてないぞ?落ちて来ただけだし。
『我の装備は普段は目立たぬ様、姿を変える。他の装備はその指輪より取り出せばよい。』
・・・ポワッと右中指に鳥が翼を広げた様なブルーの指輪が現れた。
『それでは行くがよい!!』
ブォンッ!という音と共に中心部にあった球体は消え、辺り一面の青い空間も消え去った。
風雲の姿は一瞬にして様変わりしてしまう。兜が何故かブルーの枠付き眼鏡として、鎧は大きな鳥の片翼が斜めに入ったデザインのブルーの服。背中にまたもや少し濃いブルーのマント、ほかの装備は指輪の中へ吸い込まれるように消えていった。
--あれっ!!使い方は?どの神様も言いたいこと言って急にいなくなるし。しかもブルー尽くしの姿って目立たないの?こっちの世界では流行ってるのか?っていうか、ここどこ!?・・・う~ん。
取り敢えず周りを見渡し出口を探すよう行動し始める。すると建物の四隅に竜の像があり、その中の一つは巨大な口を開き、今にも襲い掛かって来そうだが人が十分通れそうな空間がある様だ。
他の出口らしき場所を探し廻ったが見当たらず、先程の口を開く竜の像へ戻り恐る恐る左足を前に出してみる。地面をトントンと足で叩きながら進み、身体半分通り過ぎた所で一気に駆け出す!
--ほぉ~~~。何もないんだ・・良かった。
通路はゴツゴツとした岩肌の一本道で、光る苔が辺りを薄らと照らす中を進んでいく。
その一本道を約30分ぐらい上り坂を進んだ所、先の方に明るさが増し、もうすぐ出られるのではと希望を持ちながら駆けていく。するとそこには野球場ぐらいの大きな空間があった。
--やっぱりまだ洞窟・・だよな・・・?そういえば山の崖からかなり落ちたし地下深くに居るのかもな。はぁぁ~・・お腹すいた。
広場の反対側にみえる出口へ向かう為、進んでいく。
・・・中央辺りまで進んだ所で不意に周りが明るくなり目が眩む。藍色、金色、銀色、白色、緑色の光のカーテンが揺らめきながら降り注いでいく。気付いた時には周りをそれぞれのカーテン色に染まった巨大な竜達に囲まれていた!
「うぁっ!」
--もっ、もしかしてさっき神様が言ってた試練?試練受けてなかったから今!?
--・・いやっ!待てよ・・・ふふふふふっ。神様の力を頂いた私に勝てるかなぁぁ~~~!!
「いでよぉっ!我が装備よぉ~~~!」
--・・って、あれっ!?
「いでよっ!!剣よ!鎧よ!兜よ!盾よ!出てっ!早くっ!!」
--あっっ!そういえば神様が強き心と身体であれば使いこなせるって言ってたっけ、と・・いう事は・・・。
サァー!と血の気が引き、顔が青くなっていく風雲であったが何とかして力を引き出そうと試みる。
「あらわれよ!!!じゃじゃーん!!ポンッ!ピロピロリン!!ごごごごごごぉ~~~~」
--まずい!まずい!!まずい!!!
周りの竜はゆっくりと大きな口を開く。その口の前には、それぞれの竜の色に染まった輝く魔法陣が現れた!
今までに感じたことも無い強烈な威圧感に包まれながら、何とか力を引き出す事に集中する。
「うおおおおおおおおォ~~~~~~!!!ソードよっ!!!」
指輪が少し輝き、右手に剣を持つ感触が生まれる。
--来たぁ~~~~~~~!!・・・って、短っ!?
右手に現れたと思われた剣は刀身の長さが通常のナイフより短い5cm程しか無かった。
--だめだ!・・・もうだめだ!!
やはり今の風雲には力と装備を使えそうもなく、間もなく襲ってくるであろう洞窟が吹き飛ぶのではと思われる様な輝きを放つ魔法陣から顔を隠す様に役に立ちそうもないナイフを手に腕を挙げている。
--・・・・・・ん?・・・あれ?・・・。
もうすぐ来ると思われていた攻撃の予兆も何もなく数秒が過ぎ、恐る恐る腕を降ろすと竜達は地面すれすれまで首を下げ垂れていた。
すると頭の中に声が響き出す。
「「「「「イダイナルゴシュジンサマ。ゴメイレイヲ」」」」」
--あれっ!どうやらさっきの神様の剣?ナイフ?を出せたからかな・・主人と勘違いしてくれてるみたいだ・・・よしっ!!
「食べ物ある?」
「「「「「ゴザイマセヌ」」」」」
「いやっ!ハモらなくていいから。それなら人が住む近くの町付近まで送れる?」
--いるかどうか分からないけど竜の背に乗って魔物狩りに遭うのも困るしな・・・。
「「「「「カシコマリマシタ」」」」」
「「「「「モウシワケゴザイマセン・・・」」」」」
--うーん・・ハモらないとしゃべれないのか・・・。
「「「「「モウシ」」」」」
「いやっ!もういいって。」
ゆっくり竜達が頷くと魔法陣が私の足元から浮かび上がりそれと共に身体も浮き上がる。円錐状の光に包まれ1m程浮き上がった状態で時速30km程にて移動を始める。
--うわっ!ビックリした。移動の合図ぐらい出して欲しい。というか竜が運んでくれると思ってたけど細い通路は、まぁ無理だよな。
移動する中、風雲は気付くが竜達がいた場所の他に、広場が何十箇所もあり黒光りする立方体がいくつも浮かぶ部屋や、壁に沢山の目がついた不気味な部屋、生き物すべてが一瞬で凍り付いてしまいそうな極寒の部屋等々、風雲が受けれる試練としては何千回、何万回と死を招くものである。
--やっぱり神様の言ってた試練を自分はショートカットしたんだな。まぁ~、しょうがないよな。向こうが勝手に勘違いしたんだし。
--うーん・・・あと問題は装備と力の使い方が分からない事か。神様は強き心と身体であれば使いこなせると言ってたから目標はゲームでいう所のレベルアップだな。折角、運が良くなったらしいし友達を作って冗談を言って笑いあったり、恋人と手を握ってデートとかもしてみたい!
--よしっ!頑張るぞぉ~~!!・・ちなみに前世では不運のおかげで一人も友達は作れなかった。あの孤独感はいつもの事であったとはいえ、今思いだしても涙が出てくるよな・・・。
以前の世界で風雲は、何度も何度も何度も・・・・・誰も居ないところで、どうして自分だけと悔し涙を流し、目を腫らしては母に気付かれ慰められていた。
沢山の試練の部屋を通り過ぎて出口から出る。どこかの高い山の頂上であったらしく外へ出た瞬間、日本にいた時にはテレビでも見たこともない様な広大な草原、色鮮やかな花々の密集地や山々、遠い先には小さく見える町や西洋風に似た城らしき建物も見えた。
「うわぁ~~~~!すごい!」・・思わず声が出る。
高い空から斜めに降下して行く。暫くすると小さく見えた町がどんどん大きく見えてきた。人が通っているらしき道も見えて来る。
農家の人達が畑で働いている傍の道も通り出した。
--そろそろ何かと目立ちそうだし、降りた方がいいかな?
そう思った瞬間、魔法陣がゆっくり下がり始め速度を落とす。そして地面についた瞬間消え去った。