第27話 闘技大会 本戦編
その後、全員で闘技会場に向かう。豪華に散りばめられた芸術性の高い模様と上級魔法や様々な攻撃から守れる様になっている防御構造の王族専用馬車で移動していく。先頭を走る馬車にはユイアレス王子、シルティア王女が乗っている。サレアス国王は先日起きた事件のせいか体調不良のため、暫く療養する事にしたようであった。2台目にユリア、ルシルが乗っている。
ケイシスとアトスは2台の馬車を挟むように位置して、馬車を20人の部下と共に守りを堅めていた。王族の馬車を見た国民たちから王や王子、王女を称える声が多く聞こえて来る。当然、美男美女であるケイシスとアトスにもファンがいて歓声が上がった。ただし護衛として付いている為に、その歓声に二人が応える事はなく周囲を警戒しつつ馬を進めている。ルシルがユリアに話しかけた。
「ユリア様・・・こんな豪華な王族専用の馬車で移動するのは緊張致しますわ。」
「そうですね・・・実家の馬車も豪華でしたけど、これと比べますとね。まぁでも、もうすぐ到着致します。」
闘技場までは城から、そう遠くなく少し走るだけで到着した。ルシル以外は王族専用の閲覧席に案内される。ルシルは護衛二人を連れて学生女子部門の闘技大会本線出場者控え室に向かった。女子部門の為、控え室内は女子学生達が付ける香水の香りが立ち込めている。
控え室の前で護衛の兵士と別れてルシルは入る。他の者達はイメージトレーニングや戦闘の為に身体を温めたり魔法装備のチェックをしていた。ルシルも用意された席に向かう。クラウドから貰ったスティアシの杖、アデイストドレス、イシルスティアラを装備していく。それらの装備はルシルの意向に添い攻撃力は殆ど強化せず、いざという時のみ凄まじいほどの防御魔法を構築できる様に作られていた。
・・・暫く経つと係の者が出場者を闘技場に呼んでいく。ルシルも呼ばれて闘技場に向かった。
「第一試合、ルシルとミンク!・・・はじめ!!」
審判員が開始の合図をする!同時に一般部門の闘技も行われていて会場は熱気に包まれている。ルシルの本戦最初の相手は王都にあるストルマイデ学院の6人の代表者の2番目に強い実力者であった。剣と杖の両方を持った攻撃型である。
「いくよ!・・・・イーミルファ・・・・ステイグ・・・・・・デアミアロスレイド!!」
ミンクがルシルに向かって3つの20cm幅もある水刃を飛ばす!飛ばすと同時にルシルへ走り詰め寄る!ルシルは水刃の間を縫って避けた。ミンクは近づき剣をルシルに向かって斜め下から振り上げる!その間にルシルは身体一部防御魔法ラナプロテを構築して足元の防御を強化した。膝下に長靴の様な薄く透明な膜が出来上がる。
「はっ!」
ルシルはミンクの振り上げようとした剣の柄を踏み台に空へ飛び上がり後方へ回転しながら魔法を唱えていた。宙に舞い上がったルシルに逃げ場が無いと考えたミンクが下方に蹴り飛ばされた剣に再度力を込めて振り上げる!
--よし!あの態勢だと、こちらの方へ安定した攻撃魔法は放てない筈!
「取ったぁ~!!」
ミンクが勝利を確信する!
ルシルはミンクに向かって魔法を放っていない。宙に浮かぶ魔法陣から自らの足元に向かって1つの大きな岩を出現させ、それを蹴り飛ばし逆回転してミンクが剣を振り上げるよりも速くミンクの右肩に踵落としを決める!
「な!?ぐあっ!く!」
ミンクは踵落としの衝撃で右肩を痛め剣を落とすも杖で魔法を構築しようとする。しかし、その間にウインドカッターの魔法陣を至近距離で構築済みであるルシルを見てミンクは降参した。
「・・・参った。」
「勝者!ルシル!」
「杖を持っているから魔法がメインだと思っていたわ。」
「メインは魔法ですわ。」
「そっか・・・確かに魔法の構築速度も尋常な速さじゃなかったしね。だったら私では全く歯が立たないわ。格闘術まであんなに凄いのでは・・。やっぱり魔法と格闘術の両方を長く修行しているの?」
「多くの魔物と闘っている内に自然に近接戦闘も出来る様になったんですの。」
「魔物!?もしかしてギルドの仕事もこなしているの!?」
「え~と、そんな感じですわ・・・。」
「学院以外でそんな事も?多くの魔物に囲まれる様な危険な仕事って、もしかしてランク証もC以上を持ってるんじゃないの!?」
--うぅ・・・。そんなに聞かないで下さい。答え辛いですわ・・。クラウド様が魔物を生み出せるのは絶対に言えませんし・・・。
「無言という事は肯定という事ね。私も次回は魔物を倒すような修行を増やさないと!それじゃあね!」
「はい・・・・。」
--勘違いされてしまいました・・。
ルシルはその日の全ての試合を勝ち進んで、次にある準決勝は後日となった。一般部門は出場者が多い為に、まだ3分の1も終わっていない。長引くこともあるが、今までは平均5日間で終わっている。闘技場を降りると一人の学生が近づいて来た。ルシルと同様にドレス型の鎧に身を包んだ女学生がルシルの前で立ち止まる。
「初めまして、ルシル。私はファンデア。」
「え!?あの優勝候補と噂されている?初めまして!ルシルと申します。」
「良い闘いだったわ。出来る事なら同じリンクディスレイア学院のあなたと決勝で闘いたかった・・。」
「それはどういう意味ですの?」
「次の相手には、きっとあなたでは勝てない。次のあなたの相手であるレッダは7つもの上級魔法を使えるらしいわ。普通学生ではありえないと思うけど今までの試合で使う所を皆、見ているらしいの。」
「そうなんですの・・。上級魔法を7つも。でも、私頑張ります!私、早く強くならないといけませんから!」
「そう・・では気をつけなさい。上級魔法をまともに受ければ死んでしまうわ。危ないと思ったら直ぐに降参するのよ!いいわね!」
「分かりました・・ご心配ありがとうございます。」
「それじゃあね。」
ファンデアは去って行った。・・・ルシルは次の準決勝戦に向けて城に戻りケイシスの訓練を受ける。
「そうなの。ファンデアがそんな事を・・・。本当に上級魔法を7つも使えるのかしら?ルシルであれば、あと一年もあれば可能でしょうけど、それもクラウド様あっての事。でも、上級魔法と言っても魔力をどれだけ込めれるかで威力が全く違う。本来の威力で上級魔法を7つも使えるのであればファンデアの言う通り勝ち目は無いわね。棄権した方がいい。」
「始める前に棄権はしません。闘えそうか見極めてから、どうしようも無ければ棄権致しますわ。」
「分かりました。私も全ての上級魔法を使える訳では無いけど対策を練りましょう。」
「ありがとうございます。」
ケイシスはルシルに上級魔法を次々と見せていく。流石に上級魔法の連発は厳しく魔力量が足りなくなる為、魔力回復薬を服用しながら構築していくが一度に幾つも飲んでいると副作用がある為に回復薬をやめる事とした。そして、クラウドから貰った鎧が魔力及び体力回復魔法を常時行えると聞いていたので更衣室へ行き聖鎧エーディアグレンスに着替えてみた。着けた瞬間に急激に周囲のエネルギーを取り込んで変換し減った体力、魔力を回復していく!筋肉疲労の欠片も無く体が軽く感じられた。更衣室からルシルの所に戻る少しの間に全ての体力、魔力が回復する。
「回復薬の足しになればと思って着てみたのですけど・・国宝装備って、こんなに凄いのですね!ルシルが前に言ってた事が分かりました。疲れが一気に吹き飛んだ感じが確かにするわ!」
「やっぱり!私の勘違いではありませんのね!」
ケイシスは覚えている上級魔法を全て構築していく。本来のケイシスであれば上級魔法でも平均3回連発が限界であったが、次々と構築していった。構築しているケイシスは国宝装備の性能に驚いている。
--どうなってるの!?魔力が尽きない!?これが国宝装備という物なの!?現実に、こんな物が存在するなんて!?・・・というか、クラウド様は一晩でこれを作ったと言ってましたけど信じられない!!・・・。
「流石、ケイシス様です!信じられない威力の上級魔法を沢山使えて!やっぱり私、棄権した方が良いのでしょうか・・・?」
ケイシスは自身の使える全ての上級魔法を見せた後、自ら起こした上級魔法の信じられない数の連続構築にボ~っとしていた。
「・・・・あっ!ごめんなさい!考え事をしていて・・・ルシル、いつも言ってますけれど上級魔法と言っても魔力の込め方や波長と構築リズム、それによって作られる魔法陣の正確さによって威力は全く異なります。それと、こちらにはクラウド様が付いているわ。まず、そのルシルの着ている今の装備は国宝装備では無いけど尋常な防御力ではないの!一回、ルシルが訓練を終えた後にどのくらいの防御力か確認させて貰ったけど私の攻撃では一切傷一つ付けれなかった。それを利用することね。ただし、ちゃんと相手の魔法の威力を見極める事と装備が無い場所に当てない事。」
「はい。」
「後はクラウド様のおかげで覚えられた唯一の上級魔法である大楯魔法テスタプロンツを使いなさい。その後は相手に出来るだけ上級魔法を構築させない様に余裕を与えずに攻撃していく。上級魔法を構築する為には時間もかかる筈!そこを狙うのよ!」
「はい!」
「それじゃあ、復習ね。私が上級魔法を構築するからテスタプロンツで防いでみて。でも、危険だから鎧は国宝装備に着替えてから。あれなら、上級魔法を受け損ねても大丈夫でしょうから。」
「はい、分かりました。」
ルシルは国宝装備に着替えてケイシスの放つ上級魔法を防ごうと訓練している。構築した盾は大きいが魔法である為に非常に軽い。その盾で防いでいくが、やはりルシルとケイシスの魔法ではかなり実力差がある為、威力を殺しきれない。
「く!キャー!」
ケイシスの魔法の威力に何度も何度も吹き飛んでいく。
「ルシル!まともに受けては駄目!衝撃を斜めに受け流すの!避けれそうなものは避けるのよ!」
「はい!!」
衣服は焦げ付き、聖鎧で覆われていない箇所はかなり深い傷も負う事もあるが聖鎧イティセアドレスの効果で瞬時に治される。
・・・夜まで訓練した後、準決勝に向け訓練を切り上げた。
「それじゃあ、明日頑張ってね。くれぐれも過信して闘わない事!無理だと思ったら直ぐに棄権するのよ!いいわね!この大会で負けてもルシルはもっともっと強くなれるのだから!」
「大丈夫です!無理はしません。ただ、やれるだけの事はやってみます!」
ケイシスはルシルを見ながら少し微笑み頷く。
・・・翌朝、闘技大会の会場に到着して会場の入り口でリエスと合流し選手控室へ向かって行く。二人で向かっていると、ちょうどデネアが選手控室で待ち伏せをしていた。
「あ~ら、田舎貴族と勘当された落ちぶれさん!仲がお宜しい事!お似合いだわ。それにしてもルシルさん!準決勝まで進むなんて、どんな汚い手を使ったのかしら。」
「リエス、行きましょう。」
ルシルは無視して通り過ぎようとリエスの腕を引っ張る。リエスは何も卑怯な事をしていないルシルを罵られデネアを睨みつけるが、後ろ盾の元大臣がいる為にデネアは涼しい顔をしている。
「あら、リエス!何か文句があって?勘当されたあなたに何が出来るのかしら?私に手を出せば元防城大臣のアクライ様が黙っていませんわよ!ルシルとリエスはどうなるのかしらね?まず強制退学?」
デネアは二ヤつきながら左手を腰に当てて右手の指を少し揺らしながらをルシル達に向ける。リエスはそれを聞いて笑った。
「フフフ、そんな事をすれば貴女。私の二の舞ね。」
「何を訳の分からない事を言ってますの!?本気ですわよ!」
「お好きにどうぞ。ルシル!控室には私は入れませんから観客席で応援してるわね!」
「ありがとう、リエス。」
そう言ってリエスは立ち去りルシルも控え室に入っていく。
「二人とも、無視しないで!覚えてらっしゃい!」
・・・・少し時間が経ち、ルシルは準決勝の闘技場に係の者に案内される。闘技場はまだ一試合も始まっていないのにも拘わらず既に誰が勝つかの予想や応援で盛り上がりを見せている。隣の席でも大声を発しないと伝わらない。
その会場の中、ゆっくりと闘技場へルシルの対戦相手であるレッダが上がる。レッダはビエントロ学院の生徒でS級冒険者の父親レドの娘である。レドは炎の双剣士という異名を持つ。二本の魔剣を巧みに操り、炎の魔法やスキルを好んで使う為に付いた異名である。その娘レッダの装備は女子学生らしい華やかさの欠片もなく重厚感溢れる男性の着ける様な魔物の皮を加工した鎧を着ていた。肩にはエンロスという、魔物の角が幾つも突き出ている。ルシルはそれを見て驚く。
--凄い鎧!?あれで素早く動けますの!?
「それでは、女子学生部門の準決勝戦・・・始め!!」
ルシルは素早い動きは難しいだろうと思いレッダの後ろへ回り込むため、ウインドカッターを構築しながら走り出す。それに対抗するレッダは両手を前に出すと無詠唱で下級魔法を連発してルシルを牽制する。ルシルは更に驚いていた。
「そんな!?無詠唱で構築出来ますの!?」
ルシルは距離を取り、それを避けていく。その間にレッダは上級魔法エレクスファイヤーを構築していく。王族専用観覧室で、それを見ているユイアレスが眉をしかめる。ケイシスとアトスはレッダの魔法構築に驚いていた。
「そんな!威力は別として構築速度が速過ぎる!?」
「とても学生とは思えぬで御座るな。」
「ふむ・・・お前達でも分からぬなら審判にも分からぬかも知れぬな。」
ユイアレスの言葉にケイシスが問い掛ける。
「どういう意味で御座いますか?」
「上手く隠しておるが、あれは多分魔法具による構築だ。魔力の流れが通常構築とは、ほんの少しであるが違う。」
シルティアとユリアも気付いていたのか頷く。
「お兄様の言う通りですわね。」
それを聞いたケイシスが椅子から立ち上がる。
「そんな!違反ではありませんか!?私が行って直ぐに止めて来ます!」
「待て!闘技大会では審判が一番の権限を持つ!その審判が反則を取っていないのであれば、それは有効という事だ。恐らくあの重そうな装備に沢山の魔法具を埋め込んでおるのだ。指摘しても魔法装備と言い張るつもりだろう。まぁ・・ある意味、魔法装備の内とも言えなくもない。微妙な所だがな・・・。」
「そんな・・・。」
「だがあれは危険だ!大型魔力供給装置の近くに大量の魔法具を近付けているなど!いつ魔法具が干渉しあって暴走しだすか分からぬ。下手をすれば観客席にも死傷者が出る恐れもある。ここにある選手情報では父親がS級冒険者とあるから、そこは何らかの工夫をしているのだろうが・・・。万が一の事を考えて軍に広範囲防御魔法を構築できる様、用意をしておいてくれ。」
「かしこまりました!アトスは、ここでユイアレス様の警護を続けておいて。」
「分かったでござる!」
ルシルはエレクスファイヤーを阻止する為に素早く近づこうとする。レッダはそれに反応してエレクスファイヤー構築を止め下級魔法を連発していく。
「ファイヤーアロー!ウインドカッター!ロックボール!」
--・・・無詠唱であれだけ連発されると、とてもじゃないけど近付けませんわ。
その後もルシルは上級魔法を使わない様に下級魔法を構築しながら走り込もうとしてレッダに無詠唱下級魔法で牽制される事を繰り返す。観客席で見ている父親レドに一人の男が声を掛けた。
「どうですかな。お嬢様に作らせて頂いた装備は?」
「ボンソフか。今の所は、役に立っているが相手の娘も中々やる。あれは多くの魔物相手に何度も闘った事がある動きだな。」
「ほう!炎の双剣士にそう言わせるとは!ですが、これを勝てば決勝ですな。まぁ、あの装備があれば楽勝ですよ。」
「だったら良いが。闇商人のお前には6万デロも支払っているのだからな。」
「あまり闇商人と大きな声で言わないで下さい。私は他の闇商人と違って犯罪には手を染めていません。ただ、売っている物の中には非常に強力な魔法具や魔法装備があって、危険を伴う物もありますがね。それに、あの装備には多くの魔力供給装置と攻撃、守備魔法具を埋め込んであるのです。高くなるのは当たり前ですよ。あれでも旦那には、かなり割引させて貰ってます。」
「どうだかな?」
レド達の会話を余所にルシルは鉄壁の魔法装備にどう切り込めば良いか悩んでいた。
--このままの攻撃では通用しない・・・だったら!
ルシルは近付くふりをしてレッダの下級魔法を避けつつ攻撃魔法ではなく上級大楯魔法テスタプロンツを構築する。
「・・・・・・リデンデリ・・・・・・ビカウェントゥ・・・・・・・・・テスタプロンツ!」
ルシルの左手に銀色の身体全体を隠せる大楯が現れる。今まで上級魔法を使用して来たレッダであったが、相手が使って来たのが初めてであった為に動揺を隠せない。それ程、学生の身で上級魔法を使えるのは珍しい事であった。
「え!?上級大楯魔法!?使えるの!?・・・ファイヤーアロー!・・・・ダメ!上級大楯魔法に、これでは全く効かない!くっ・・・・。大楯魔法の弱点はこれよ!!・・・・・・・・・ブラスタ・・・・・・・・アスタデットボルト!!」
大楯で下級魔法を防ぎながら近づこうとしたルシルの上空に小さな雲が発生して幾つかの稲妻が襲ってくる!それをルシルは盾を空に向けて受け止めた。
「そう!いくら上級大楯魔法でも全方向を守れる訳じゃない!アイスロック!ロックボール!」
ルシルは盾で上空からの稲妻を防ぎながら、まるで沢山の目があるかの如くレッダの放った下級魔法を避けていく。
「そんな!?盾で上空を気にしながら横から来る魔法を避けれるなんて!・・・。父さんには止められたけど上級魔法同時起動しかない。父さん!見ていて!制御して見せるから!」
観客席では父親のレドがそれを見て声を上げるが他の観客の声援に搔き消される。
「ダメだ!レッダ!お前には、まだ早い!!上級魔法を二つ同時起動するな!!」
「あらら、私はそれではこれで失礼致します。」
「何処に行く!?」
「あれが暴走しだすと観客席も危ないのでね。先に避難させて貰います。」
「暴走した場合の止め方は無いのか!?」
「ございません。」
ボンソフは振り向きもせず応えて立ち去っていく。
「待て!」
「いいのですか?こちらを気にしていて。暴走しだせば真っ先に危険なのはお嬢様です。早く助けに行かれた方がいいですよ。」
そう言い残して観客の海に消えて行った。
「くそ!ボンソフめ!!」
「・・・・・・・・・エデルギリエント・・・・ビアシタ・・・・・・サイクロンデッド!アイスグランデ!」
レッダはルシルから距離を取りつつ出来る限り素早く魔法具を起動させる。レッダの傍で二つの魔法陣が発光し、ルシルとレッダの間で凄まじい冷気と竜巻が構成されつつある。
「そんな!上級魔法を同時構築出来るの!?」
--妨害しないと!あ!もう間に合わない!
--避けながら大楯魔法で防ぐ・・・。ダメね。そんな事、私には出来ない。・・・降参するしかないわね・・・。
ルシルが降参の合図を出そうとした時、それは起こった。途中まで構成されたアイスグランデとサイクロンデッドは、あらぬ方向の宙へ飛んで行き、鎧から21もの魔法陣がレッダの意志と関係なく周りに出現する。21もの魔法陣は個々の魔法陣より色々な光とエネルギーを発し、魔法陣から魔法陣へ反射していく。それを繰り返しながら全ての魔法陣は歪みだし空へ昇りだした。その魔法陣の中の一つがレッダに稲妻を落とす!
「キャァ~~~!!」
強烈な稲妻を受けてレッダは舞台の上で倒れ動かない。その間も魔法陣から下方へ氷の岩や稲妻、炎の矢が放たれていく!
--大変!レッダさん、気絶しているのでは!?助けませんと!!
「レッダ!!」
レドが叫び、観客席の壁を観客と共に一気に飛び越してレッダのいる闘技場へ走り出す!ルシルはレッダの傍に駆け寄り大楯で上空から降り注ぐ魔法を防いでいく。
--く!だんだん多くなってますわ!
審判員がルシルの勝利を宣言した後、多くの審判員が集まって防御魔法を作るが歪んだ魔法陣からの大量の攻撃魔法により避難せざるを得ない状況となっている。空に浮かんでいる歪んだ魔法陣は少しづつ大きくなっている様だ。
「お嬢ちゃん達!!早くそこから降りろ!!避難するんだ!」
「レッダさんが気絶して動けないんですの!」
「その嬢ちゃんには悪いが君だけでも避難するんだ!!二人とも死んでしまうぞ!私たちの防御魔法も、もう保てない!!」
「そんな事出来ませんわ!!」
どんどん激しさを増す攻撃魔法に審判たちは防御魔法を止めて一人づつ避難していく。闘技大会にいた選手達も危険を察して素早く避難している。観客席でも歪んだ魔法陣があちらこちらに攻撃魔法を飛ばし、その範囲が広がっていくのを見て不安になった観客達が逃げていく。つまずいて踏まれた者達が悲鳴を上げ、人の圧力に子供達が泣き出す。
「いかん!ケイシス!応答せよ!」
「はい!ユイアレス様!」
「広範囲防御魔法デリエンシスプロテアの準備はどうだ!?」
「闘技場の上空全てを覆える魔法を構築起動させるには、後10分は掛かります!!」
「出来るだけ早く頼む!」
「分かりました!!」
「アトス!非常時の避難警報を鳴らす様に伝えよ!!その後は警備兵と共に観客を避難させるのだ!私も出来る限りの防御魔法を構築する!」
「はい!分かったでござる!」
「ユリア!私達はルシルを助けに行くわよ!」
「はい!」
「シルティア!あの嵐の様な攻撃魔法の中に入っていくつもりか!無理するでない!」
「大丈夫ですわ!お兄様!!ユリアも私も国宝装備を着けてます!クラウドが守ってくれますわ!!」
「・・分かった!二人とも、気をつけるのだぞ!!」
「「はい!」」
避難警報が鳴り観客たちが騒ぎ出す。警備兵が「ゆっくりと順序良く避難して下さい!」と叫ぶが我先にと避難しようとしている者がいて余計に動けなくなっている。その中をシルティアとユリアは通路の鉄枠や鉄のポールを利用してサーカスの様に凄まじい速さで駆け抜けていく。レドが先に到着してレッダに近付いたかと思うとルシルに声を掛けて、そのまま片手でレッダを抱え魔剣で魔法群を切り裂きながら駆け抜けていった。
「悪いな!!・・・嬢ちゃん!」
取り残されたルシルは烈しく攻めて来る魔法を大楯で防ぐが徐々に盾も薄くなっている。
--レッダさんは避難出来たけど私はダメですわ!このままじゃ移動も出来ない!クラウド様・・・使います!!
クラウドは、もしもの場合を考えてエルフの真森に発つ前、ルシルに話していた事がある。
「ルシルちゃん、どうしても危険な状況になった時の為に一回だけ使える防御魔法を教えておくから良く聞いて。そのドレス、ティアラと杖は3対で少ない魔力でも超強力な防御魔法を使えるんだ。だけど、人に使う場合は危険だから自分から100㍍と相手から10m離して使ってね。あとは魔力を注ぎ込めば注ぎ込む程、防御魔法の威力は変えられる。それとこの魔法は高威力防御魔法を構築出来るけれど魔晶石が一回で壊れてしまうから、それを覚えておいてね。」
「分かりましたわ、クラウド様。」
「魔法言語は・・・・・・・デアスピロウド!右手を伸ばし狙いを定めて、そう唱えるんだよ。」
「はい。」
・・・ルシルはクラウドの言った事を思い出しながら上空に浮かんでいる沢山の歪んだ魔法陣の中心へ狙いを定めて唱える!
「・・・アーファイ・・・・ジフイ・・・・・・ロアキ・・・・デアスピロウド!!」
ルシルのティアラから一つ、ドレスと杖からそれぞれ二つの魔法陣が現れる。5つの魔法陣は回転しながら舞い上がり4つの魔法陣が中心を線で結んでいくと正方形となる様に位置し、ティアラから出た大きな魔法陣は4つの魔法陣の真ん中の少し高い所に位置した。レッダが暴走させた時の様に真ん中の魔法陣から光が放たれた!その光は他の4つの魔法陣の一つに当たると他の魔法陣へと更に反射増幅させていく!ユイアレスは上空にあるルシルの魔法陣に気付く。
「ルシルは何をしておる!?まさか故意に魔法陣を暴走させる気か!?いや!何故あのような事が出来るのだ?魔法陣が安定しておる・・・?もしかしてクラウドか!?よし!」
「ケイシスよ!広範囲防御魔法は中止だ!それぞれ今、被害に遭いそうな観客席だけを防御しろ!」
「しかし!それでは全員を守りきれません!!」
「ルシルがクラウドの作成した装備を使って何かしておる様なのだ!広範囲防御魔法では、それの妨げになるやもしれぬし魔法を防ぐのみで暴走を止める事が出来ぬ!賭けだが、ここはクラウドとルシルを信じよう!!」
「分かりました!」
--ルシル!!頼んだわよ!
魔法陣の光は増幅を続けピラミッド型の光るシェルターが出来上がる!その中心には巨大な黒い球が見える。黒い球が出現すると同時に玉を中心にあらゆるエネルギーを吸収していく!既に玉の直径10メートル程は荒れ狂っていた炎や氷、稲妻の嵐が消え去り無くなっていた。
--ぐ!・・・・クラウド様は少量の魔力って言ってましたけれど私には、かなり大変ですわ!私の魔力・・お願い!もって!
「痛っ!!」
真上から落ちて来る魔法は無くなっていたが未だに他の場所からは振って来ていた。素肌が出ている所は傷だらけとなっている。
--ダメ!!やめて!魔法陣が保てなくなる!!
ルシルを挟む様に巨大な氷と大岩が落ちて来る!
--ごめんなさい・・クラウド様。もう無理ですわ・・・魔力も・・もう・・・。
ルシルは魔力を注ぐ事を止めようとする。ルシルへ二つの岩が5㍍に迫る!
「「・・・・・・・レストルクロンプト!!」」
ドォ~~~~~ン!!シルティアとユリアが間一髪の所で現れ、頑丈な沢山の太い針が付いた大きな防御壁を立ててそれぞれを防いだ!二つの岩は砕け飛び散っていく。
「何してるの!?ルシル!!早く魔力を注ぎなさい!!あれは起動した貴女しか魔力を注げません!あなたに向かって来ている魔法は全て私達が防ぎます!!」
ユリアが頷く。防御壁以外から向かって来る魔法を、シルティアとユリアが下級魔法を素早く同時構築して撃ち落としていく!
「シルティア様!?ユリア様!?しかし、魔力がもう!!・・・。」
「精神集中して捻り出しなさい!!そんな事では、いつまで経ってもクラウドの旅に付いて行けませんわよ!!」
ルシルの表情が変わる!!力強く両手を挙げて魔力を注いでいく!
「私!やります!!」
シルティアとユリアがルシルを見ながら頷く。
「はぁ~!あ~~~!!」
ルシルが更に魔力を注いでいく!ピラミッド内にある黒い球は吸い込む力を増して広範囲から地面へ放たれた多くの魔法が全て方向を変え、球に吸い込まれていく!近くを飛んでいた鳥が2羽、エネルギーを吸い取られて落ちてしまう。もっと近づいていれば身体ごと、球に吸収されてしまった事であろう。最後に歪んだ魔法陣も吸い込んで空が晴れ渡っていく。それを確認したルシルはホッとした表情で、気を失い地面へ崩れ落ちる。シルティアとユリアが地面に倒れ込む前にルシルを支えた。
「良くやりましたわ!ルシル!」
シルティアがルシルを褒めている横でユリアはクラウドの作った国宝装備を見ていた。
「シルティア様・・・この国宝装備?」
「ええ・・信じられませんわね・・・。下級魔法であれば、どれだけ同時構築しても永遠に構築出来そうな感じでしたわ。それにルシルの傍に来る途中、急ぐために何度か装備以外の箇所に傷を負ったけど痛さも分からないぐらい一瞬で治ったわね・・・。」
「部屋に保管してある聖杖アルセードレイシャスを使うのが怖くなって来ました・・。」
「そうですわね・・聖杖は滅多な事で使わない様に致しましょう・・・。」
「はい。」
黒い球がピラミッド内で徐々に消えていく。そしてピラミッド型のシェルターと共に消えてしまった。上空2km先では強烈な光を発して爆発が起こっていた。クラウド以外、誰も知らない事である。
晴れ渡った空の下でルシル達を見ているユイアレスが思う。
--まったく・・・クラウドもそうだが、クラウドの婚約者達も大したものだ。しかしルシルは気を失っておる様だし、この後の決勝戦は無理か・・。出来れば日を変えてやりたいものだが、今まで延期された例はない。これだけ多くの者達を救ったルシルには何か褒美を与えんとな・・・・ふむ。
その後、怪我人たちは治療され闘技大会が再開される。観客の中には帰ってしまう者もいたが殆どの者は残っていた。学生女子部門ではルシルの棄権によりファンデアが優勝となった。
・・・一般部門は、まだ終わっておらず二日後まで続けて優勝が決まった。優勝が決まり直ぐに表彰式が開催される。ユイアレス王子から三位までの者達に目録とトロフィーが渡されていく。表彰台の様子は観客席の前に大きな魔法映像で映し出され音声も観客に届けられる。
「良くやった!ルシル!」
「お褒めのお言葉、光栄にてございます。」
「うむ。」
それぞれに手渡された所でユイアレスが閉会する筈であったが、いつもと違い観客である国民たちへ話し出す。
「皆の者よ!この度は大きなアクシデントがあり、多くの国民がその犠牲となる所であった!今後、この様な事がなき様に装備の中に魔法具を隠す事を禁止する!また!・・・多くの国民を救った強き英雄ルシルに特別賞としてアドキスの腕輪を授ける!!」
・・・・・「「「「「「「おぉ~~~~~~~!!」」」」」」」・・・・・
アドキスはヴェルタス王国にいた昔の英雄で闘技大会を13年連続優勝した強者である。それから闘技大会を10年連続優勝した者には強さを讃えるとして貴重な鉱石と宝石を使用して作られた高価な腕輪が贈られてきた。もし売りに出せば素材だけの価値で3万デロはする物だ。腕輪の模様はアドキスがいつも着けていた模様となっている。腕輪を与えられた者は今までに既に他界した二人だけであった。更に腕輪を与えられた者には特別な褒美も与えられる。国が叶えられる望みであれば、どんな事でも一つだけ叶えるというものだ!軍総司令官は無理だが、その下の軍の大隊長になりたいと言えば2000人以上もの部下を持つ者にもなれる。
「ルシルよ!そなたの今、一番叶えたい望みを申すがよい!」
国民たちはルシルがどんな凄い望みを言うか、真剣な表情で聞き入っている。
「はい!私の一番の望みは決まっております!!早くクラウド様の旅に付いて行ける強さを身に着けてクラウド様に御奉仕しながら一生を添い遂げる事です!!」
・・・・・「「「「「「「!!??・・・・・」」」」」」」・・・・・
それを聞いた観客達は静まり返って、全員の頭にクラウド様??とマークが浮かんでいる。ユイアレスも、その望みが出るのは予想外であったらしく暫くボーっとしていたが口を開く。シルティアとユリアはそれを見て笑っていた。
「・・・・・ククク・・・そなたの望み!王国で支援させて貰う事にしよう!!それでは、これで今年の闘技大会は閉会とする!!」
全ての観客が立ち上がり、拍手をして闘技大会は終った。
・・・次の日、リンクディスレイア学院で優勝したファンデアと準優勝したルシルへの表彰式も執り行われた。学院長の挨拶が始まる。
「二人には闘技大会で優秀な成績を納めた事、誠に感謝致します!特にルシルさん!英雄アドキスの腕輪を王国より贈られるなど、この学院で永遠に語り継がれる事となるでしょう!皆さん!この二人に盛大な拍手を!!」
ファンデアが横にいるルシルの腕を少しつついた。
「主役取られちゃったわね。」
「そんな。」
「次回、闘える事を楽しみにしてるよ。」
「はい!」
二人に盛大な拍手が送られる。リエスもそれを凄く喜んでいたのだがデネアだけは負けた事を根に持っている様であった。リッテと話し合いルシルとケイシスへ仕返しをしようと画策していた。
--何よ!あれの何処が凄いのよ!?下級魔法しか使えないルシルがアドキスの腕輪をなんか与えられる訳ないわ!!どうやって王国を騙したのかしら!見てなさい!リッテ様と協力して学院から絶対追い出して上げますわ!!
デネアは試合で負けてから養生の為、次の試合を棄権したリッテと共に屋敷に戻っていた。一度だけ嫌がらせをする為に試合会場に戻ったが、その後のルシルの活躍を二人は一切見ていなかった。
学院の授業が終わった後にリッテと共にリッテの祖父アクライの屋敷を訪ねる。そこでアクライへ学院側へルシルを退学させる事と、大臣の知り合いにケイシスとルシルの父親を第2貴族落ちさせる話を持ち掛けた。リッテとデネアに罵詈雑言を吐いたり怪我を負わされたという出鱈目の理由としてだ。アドキスの腕輪の事は一切話していない。屋敷を出て腕を組み二人は帰っていく。
「これで良いだろう。やつらめ!私とデネアを怒らせた事を後悔させてやる!・・・ハハハハハ!」
「ありがとうございます!リッテ様!」
・・・二日後、祖父のアクライに二人は呼び出される。豪華な家具や貴重な絵が飾られた居間で立派なハの字の髭を生やした一人の老人が座っていた。老人であるが身体もがっちりしていて昔、大隊長から異例の出世で大臣ともなった時の鋭い眼光も衰えていない。二人が入ると豪華な椅子に座ったままのアクライが話し出す。
「お前達、儂に隠している事は無いか?」
アクライの低い声に対して少し怯えながらリッテが答える。
「な・・何をでしょうか?」
「ケイシス殿には儂も会った事がある。お前たちを無意味に傷付ける等、信じられぬでな。そこで儂なりにルシルという女学生を調べさせて貰った。闘技大会では見事な成績を上げユイアレス様から学生の身でアドキスの腕輪まで賜ったそうだな。」
「それは!きっと王国を騙して貰った物と思いますわ。」
「黙れ!!儂の目は節穴では無いぞ。デネア!お前はリッテの婚約者の立場を利用して学院を我が物顔で歩いているらしいではないか!ルシルという女学生にも嫌がらせをしていたとも聞いておる!お前たちの言っていた事とは反対だ!!」
「き、きっとそれもルシルの陰謀・・」
デネアが反論しようとするが、それをアクライが許さない。
「黙れ!!まだ言うか!リッテ!お前は一年間の謹慎処分とする!デネア!リッテとの婚約は解消だ!下がれ!」
「「そんな!」」
デネアとリッテはアクライの住む屋敷を出た。デネアは涙を流しながら歩いている。リッテはデネアの肩を抱きながら話す。
「くそ!なんて事だ!このままでは弟に家長を継承させると言いかねん!奴らのせいだ!・・・このままでは済ませんぞ・・・。」
「リッテ様・・・?」
「デネア・・・こうなれば御祖父様とルシルには私達の未来の為に亡き者となって貰おう。」
「え!?」
「デネア、覚悟を決めろ!それしか私達が一緒になる方法は無い。」
「・・・わ、分かりましたわ!でも、どうなさるおつもりですか?」
「明後日から御祖父様の護衛騎士とメイドが一週間程、慰労で屋敷から離れると話を聞いた。執事も3日後だけは、御祖父様の友人に贈り物を届けるとかで、ちょうど屋敷には御祖父様一人しかおらぬ。そこを狙おう・・・この様な時の為に役立つ者達へ、今までお金を渡して来ておった。依頼金額がかなりの高額なのでな。」
「もしかして・・それは!?」
「そうだ・・探すのは苦労したが悪の裏ギルド・・・ディエズマだ。」
「噂だけでなく本当に存在しましたの!?でも、その様な者達の力を借りて大丈夫でしょうか?」
「まぁ・・・かなりリスクはあるが私が後継者になった暁にはどうとでもなる。殺人、誘拐、強盗、爆破等何でも引き受けてくれるそうだ。二人の片が付けば次はケイシスだな。奴ら実働部隊は最低レベル50以上の猛者達で構成されているらしい。昔、大隊長をしていたとは言え今はただの老いぼれだ。老人と学生の二人を片付けるなど容易い事だろう。」
「私はどうすれば・・・?」
「3日後の夕方、御祖父様の家に連れて来るのだ。不本意だろうがルシルと仮にでも仲良くなってくれ。準優勝の祝いがしたいからとでも言ってな。」
「・・・・分かりました。」




