第24話 ルシルの闘い
その頃、王都にある一番大きな学院リンクディスレイアではルシルが学校の第三訓練場で魔法訓練を行っていた。リンクディスレイアは一等貴族の子供たちが多く在籍しており、リンクディスレイアを卒業する事は王国の者達にとって名誉な事であり貴族でない者であっても卒業後、色々な面で有利に働くことになる。日本であれば東〇大学を卒業する様な感じであろうか。
第三訓練場には魔物に似せて作られた鉄の置物などがある。そこに向けてルシルは魔法詠唱していた。
「・・・シャーテ・・・・フィルフィ・・・・・・ウィンドカッター!」
--まただめですわ・・・こんな事ではいつまで経っても、あの方に恩返しが出来ない!
ルシルはウインドカッターを構築しようとするが、そよ風が吹くだけで失敗した。そこに3人の女学生が訓練場に入って来てルシルに近付く。
「あらら、ルシルさん。まだやっていますの?あなたは訓練するだけ無駄だと前に申し上げたでしょう!」
「「くす・・・・くす。」」
「リエス・・・ほっといて下さい!私は強くならなければなりませんの!!」
「何ですの!!その口の利き方は!あなたの父親は一等貴族とはいえ、ただの田舎貴族ではありませんの!私のお父様は王都第一議会議員ですわよ!!口の利き方を覚えなさい!それとも私を怒らせて父親を二等貴族落ちさせたいのかしら?」
「ごめんなさい・・・。」
「ふん!本来なら伝統あるリンクディスレイア学院に入る前から、魔法を勉強してくる事が当然ですのよ!学校に入る前は剣も魔法も勉強していなかったなんて!学業が出来ても、この王国一の文武優秀な学院に相応しくありませんわ!今度の闘技大会の予選選抜大会で一回も勝てない様でしたら学院を止めて頂きます!」
「そんな!・・・今は駄目ですけど頑張って強くなりますから!」
「どうぞ、今すぐ強くなりなさい!行きますわよ!」
三人はルシルを貶しながら去って行った。
--そんな・・・次の予選までなんて無理ですわ・・・。もう10日間しかないのに・・。でも、諦めない!あの方に早く相応しくなるためですもの!
ルシルは学院の授業が終わっては訓練場で他の者達が帰っても訓練を行っていた。
一方クラウド達は・・・。
「ユイアレス!ちょっと飲みすぎだよ!」
「ああ、そうだな・・・。ふ~、風が心地よいな。このまま暫く何も縛られずに旅行でもしたいものだ・・・。」
「・・・ユイアレス、もし良かったら自分の修行に付き合って一緒に旅でもどう?」
「いや、大丈夫だ・・済まぬな。魔族がこれからどの様な攻撃をして来るのか分からぬ。故に私が王国を抜ける訳にはいかぬだろう・・・ふぅ。」
「お兄様・・少し、眠られた方が宜しいですわ。」
「ああ。」
・・・それから少し経ちクラウドの煌輝紋章石にシャアラから連絡が入る。
「はい、シャアラ様。」
「クラウドか、連絡魔法を妨害していた装置は排除したぞぃ。シルティアは無事かの?」
「はい、シルティアは無事助けました。ただ、マストリア王子は崩れた塔に巻き込まれてしまい・・・。」
「そうか、ユイアレスは落ち込んでおろうの?ユイアレスは傍におるのか?」
「今、疲れて眠っています。」
「そうか・・・ユイアレスは小さい頃から、どうしようもない弟たちを叱るものの・・可愛がっておったからな・・・シルティアはどうしておる?」
クラウドは煌輝紋章石をシルティアに近付ける。
「シャアラ様、ご心配をお掛けして申し訳ございません。私は無事ですわ。」
「そうか、サレアス王も戻って来たので今回の事は伝えておる。ユイアレスとシルティアに謝りたいと申しておった。サレアスも今回の事は辛いであろうな。マストリアの事は私から伝えておくでの。」
「はい。あ!シャアラ様にお願いがあります。」
「何じゃ?」
「私事で申し訳ございませんが王都のどこかの学校にグラハット・ルシルという学生が居る筈です。私の婚約者の一人なのですが闘技大会を前に、無理をしていないかと思いまして。ケイシスさんかアトスさんがもし会ったら様子を見て頂きたいのです。あと、ケイシスさんにユイアレス達の能力開発用に渡してある魔元核石と装備も出来れば見繕って渡して欲しいと、お伝え願えるでしょうか?」
「うむ、その娘を補助するように伝えておこう。あと、一番の問題は魔神の事じゃ。この前ユイアレスに話を聞いたがお前たちが戻り次第、サレアス王を含めて対策会議を行う。ユイアレスが起きたら伝えておいてくれるかの?」
「分かりました。」
・・・次の日、魔法及び剣術の授業でルシルは周りに笑われながらも一生懸命に努力を続けていた。
「いたっ!!」
斜め後ろから同級生のデネアがウインドカッターの魔法をルシルに向けて放った。ルシルの腕には一筋の傷が出来て血を流している。
「あら!ごめんなさい。あなたが凄く下手過ぎて私にも下手が写った様だわ。あなた!リエス様に生意気な口を利いたらしいわね!闘技大会予選まであと10日間、ゆっくりあなたを痛めつけてあげる。学校から逃げ出したくなる様にね。」
10人の女子学生がルシルを取り囲む。
「ほ~う、それは聞き捨てならぬでござるな。」
「「「「「「「「アトス様!?ケイシス様!?」」」」」」」
声の方向へ一斉に振り向くと、傍にはいつの間にか現れた険しい表情を見せるアトスとケイシスがいた。二人ともユイアレス王子を助けて貰っている恩義をクラウドに感じており通常でも怒るシチュエーションが、より怒りを抑えられない様であった。
「あなた達!多くの者で一人を害する行為等、恥を覚えなさい!」
ケイシスが強烈な魔力を練り上げ魔法陣を構築していく。生徒たちの反応によっては吹き飛ばしてやるぞ!・・という程の表情と殺気をだして・・・。その迫力に生徒たちは腰を抜かしへたり込んでしまう。その中の数人が泣いていた。
「ひ~~~!ごめんなさい!!ウワァ~~~!!」
「謝る相手が違うでしょう!ルシルに謝りなさい!」
「・・ウウ・・・ごめんなさい・・・私もリエス様に言われて仕方なかったの。ごめんなさい!ウェ~~~!」
「そのリエスって言う学生は何処に居るの!?」
「今は、いません・・・。」
「その学生にも謝る様に言っておきなさい!!」
「・・・・・。」
「お返事は!?」
「はい!・・ウウ・・ウワァ~~~!!」
「あの・・ケイシス様?」
「初めまして、ルシルね。」
「初めまして!グラハット・ルシルと申します!ケイシス様!アトス様!」
「初めましてでござる。」
「ルシル、そう固くならなくていいわ。まずは怪我を治しましょう・・・・ミトヌエ・・・・・デム・・・ヒアルディア!」
ルシルの腕の傷が、みるみるうちに塞がっていく。
「凄い魔法!?」
「どうして私達が来たかと言うと、あなたの補助をする為なの。私達に付いて来なさい。」
「でも、授業が・・・。」
「いいのよ。ミハエル学院長にも話は通してあるから。」
「・・分かりました。」
学院の外に出ると馬車があり、それに乗る様にルシルは言われる。
「あの、何処に行くのでしょうか?」
「お城よ。」
「え!?お城ですか!?」
「そう、あなたには予選選抜まで城で特訓して貰います。メインの魔法は私が担当。」
「剣は我が担当でござる。」
「そ!それは光栄ですけど、私まだ初心者なのでケイシス様やアトス様に教えて頂ける様な技術を持っていませんの・・・。」
「そんな事は気にしなくていいのよ。実はいうと貴女の婚約者から頼まれたからなの。」
「クラウド様が!?クラウド様は、お元気なのでしょうか!?」
「ええ・・シャアラ様からの伝え聞きでは、ちょうど闘技大会予選選抜が始まる前ぐらいに、この王都へ着くらしいわ。」
「フフフ、クラウド様が!?もうすぐ会えるんですの・・私!頑張りますわ!」
「その意気よ!」
・・・城に着いて鍵の掛かった大きなユイアレス専用の訓練室に通されると、そこは部屋の半分が魔元核石と魔法具、魔法装備で埋め尽くされていた。
「どう!?この訓練室!凄いでしょ!」
「この大量にある石・・・ひょっとして魔元核石ですの!?」
「そうよ。」
「やはり王族の方々は凄いのですのね!?こんなに大量の魔元核石や見た事もない魔法装備も沢山!?」
「違うわよ。これらは全てクラウド様がユイアレス様や私達の能力アップの為に置いてくださっている物なの。私も初めて見た時には、本物!?って疑いましたけどね。」
「これ全てクラウド様が!?」
「そうです!ここで修行して頑張れば、あなたのレベルも学院を卒業する頃には50を超えている筈です。本来なら色々な魔元核石を揃えられる王族は別として通常、どんなに頑張っても卒業する時は25ぐらいが限界なのですけどね。こんなに魔元核石が大量にあるのが、どう考えても不自然よね。」
「でも私なんかが本当にレベル50になれるのですか!?それならクラウド様のお役に立てるかも!!」
「ええ。取り敢えず貴女には時間を置きながら魔元核石を吸収して貰います。吸収していない時間は私達と実践訓練よ。多少、気持ち悪くなるかも知れないけど闘技大会予選まで時間が無いから我慢してね。」
「はい!ケイシス様!」
ケイシスが選んだ魔元核石を吸収しては魔法とスキル、剣術の特訓を朝から晩まで続けて行く。
・・・一方、その二日後にリエスの屋敷ではデネアからルシルに謝罪をする様に伝えられたリエスが父親デルトベア・ハリットにその事を話していた。
「お父様!聞いて下さい!私、悔しいですわ!田舎貴族の娘に謝罪しろと言われたのです!」
リエスが父親に抱き着きながら、泣く真似をしている。
「お~!リエス!可哀想に。誰だ!?そんな馬鹿な事を言っておるのは!?」
「ケイシス様ですわ。」
「ぬぬ~、ユイアレス様の近衛騎士とはいえ、騎士隊長ごときが!!許さぬ!私の力を思い知れせてくれる!!リエス来なさい!」
リエスは抱き着きながらハリットの胸元で小さく笑った。
「フフフ・・・。」
父親のハリットは懇意にしている大臣のロスカード・ジャットスを訪ねる為に城へ向かう。ジャットスは農穀大臣で身長は155cmの小太り、頭の天辺の薄毛を隠すため2:9分にして鼻の下にはチョビ髭を生やしている。
「・・・という訳なのです!ジャットス様!何卒、お力添えをお願い申し上げます。」
「ふむ、良かろう。ただ、この前、私が言ったファーテヘルンの特別な壺はどうなっておる。」
「もちろん、もうすぐ手に入る予定です!一週間後にはジャットス様のお手元に!」
「そうか。ゴホン!では、ケイシスに謝罪させることにしよう。ビエッド!ケイシスは今何処に居るか確認せよ。」
「はい、かしこまりました。」
執事のビエッドが部屋を出て行き、暫くして戻ってきた。
「お待たせ致しました。ケイシス殿は現在、城の第7訓練場にいらっしゃる様です。」
「そうか、では付いて来るがよい。」
「はい!ありがとうございます。」
「ありがとうございます!・・・・フフフ。」
ジャットスは護衛の騎士を従え、ハリットとリエスを連れて第7訓練場に向かった。ちょうどケイシス達の訓練を終えた所で、ジャットス達が訓練場へ入ってくる。
「ケイシス殿。少し宜しいか?」
「どうぞ、ジャットス大臣。」
「そなた、ここにいるリエスに謝罪しろと申したそうではないか。リエスは私が懇意にしておる、このハリットの娘でね。逆にこの娘の心を傷つけたことを謝罪して貰いたいのだ。」
「その学生がリエスですか。リエスはこちらにいるルシルに、かなり酷い嫌がらせをしていたので確かに謝る様に言いました。それの何処がおかしいのでしょうか?私が謝るべき相手など、ここにはおりませんし、その娘こそ早くルシルに謝ったらどうです。」
「黙れ!大臣の私が謝罪しろと言っておるのだ!近衛騎士隊長ごときが口答えするでない!」
「ユイアレス様の近衛騎士を如きと申されましたね!」
「いや!それは!・・・ユイアレス様は今、関係ないだろう!」
「それに!宜しいのですか?その娘が嫌がらせをしているルシルは、ジャットス大臣も知るクラウド様の婚約者ですよ。」
「な!?何じゃと!!」
ジャットスはハリットとリエスに向かってバッ!!と振り向く。眉間に皺を寄せ目を剥きながら二人を睨みつける。
「き~!さ~!ま~!ら~!私を殺す気か!!さっさとルシル様とケイシス殿に謝らぬか!二人で土下座しろ!!」
「「え!?そんな!」」
ジャットスが素早く頭を下げながら、両手を擦りルシルの傍に寄っていく。その動きを気味悪く感じてルシルは少しずつジャットスが近づいた分、離れて行く。
「いや~!ルシル様!大変申し訳ございません。クラウド様の婚約者と露知らず、とんだご無礼を!私もね、本当はこの二人に謝らせるつもりでお伺いしたのですよ。いや~、このような美人の婚約者がいらっしゃるとは!クラウド様が羨ましいですな。私の孫もお見合いを申し込んでおるのですが中々これが・・。」
「あの~、ジャットス様?クラウド様って一体どちら様でしょうか?」
「ふん!貴様らは知らなくても良い!それよりもさっさと土下座しろ!今回の貴様らの失態覚えておくぞ!貴様らは2等貴族、いや3等貴族まで落としてやるからな!覚悟しておけ!!」
「そんな!土下座致しますのでお許しを!!」
ハリットが土下座をして謝る。
「ルシル様!ケイシス殿!大変申し訳ございません!!我が娘のリエスがご迷惑をお掛けしまして!リエス!!お前も早く土下座しろ!!」
「そんな!絶対に嫌ですわ!!お父様!土下座なんて!」
「・・・ではお前は勘当だ!デルトベア家を出ていけ!!金輪際デルトベア家を名乗るでない!!」
「大変申し訳ございませんでした!!ルシル様!この通り馬鹿な娘にも罰を与えましたのでお許しください!!」
「そんな、勘当までされなくても!それに土下座なんて!もう十分謝って頂きましたからお立ち願えますか?」
それを聞いたジャットスが持ち上げる。
「いやぁ~!さすがルシル様お優しい!それでは私はこれで失礼させて頂きます!どうぞクラウド様に宜しくお伝え願います!」
ジャットスが訓練場を去ろうとすると、それをハリットが追いかけて行く。
「ジャットス様!お待ちください!この度は誠に申し訳ございませんでした!!」
「えぇ~い!知らぬ!お前など知らぬ!離れよ!」
置き去りにされたリエスは泣いていた。
「ウェ~~~~~!!お父様~~!ウェ~~!」
--この状況どうしたらいいのかしら。
「ケイシス様、どう致しましょう?」
「ルシルはどうしたいのですか?」
「リエスが可哀想ですので許してあげたいのですけど。ただ、私が許してもリエスのお父様が・・・。」
「そうね。暫くは許しそうにないわね。リエス、土下座しなくてもいいから早くルシルに謝りなさい。」
「ウェ~~~!ルシル、ごべんなざい~~!」
「うん、分かったわ。でも他の2等、3等貴族や一般学生たちに嫌がらせをするのも止めて下さいね。」
「わがった・・皆ぁ・・・ごべんなざい~~!」
「取り敢えずリエスはルシルの住む学生寮に泊めて貰う事にしましょう。学園長に話しておくから。あとは、私に任せなさい!リエスが家に戻れるようにしておくわね。」
「ありがとうございまず~~~!」
ケイシスがルシルとリエスを寮に送り届けた・・・。後日、ケイシスはハリットを訪ねリエスの許しを貰う為に話す。
「ハリット殿、どうです?そろそろリエスを家に戻しては?本人も反省しているみたいですし。」
「いいや!それではジャットス様の怒りをまた買ってしまう事になる!それだけは駄目だ!」
「そうですか・・・それでは、もしルシルとリエスが仲良くなればどうです?ルシルの友達をジャットス様は貴族落ちさせるでしょうか?」
「そ!それだ!リエスにお伝えください!ルシル様と早くお友達になりなさいと!そうすれば戻って来てよいと!」
「分かりました。」
ケイシスはリエスに直ぐに伝えず、暫く後ろ盾のない状態で過ごす方がリエスの為にもいいだろうと考えていた。
3日後の闘技大会を前にケイシスの特訓を受けていたルシルに朗報が届く。
「ルシル!さっき連絡があったの!思ったより速く進んで、もうすぐ到着されるって。」
「クラウド様ですの!?」
「そうよ!貴女の婚約者仲間でシルティア王女様もいらっしゃるわ。」
「え!?あの王国一美女のシルティア王女様もクラウド様の婚約者なのですか!?」
「ええ、確か今は婚約者が4人と聞いているわねぇ。」
「えぇ!?」
--第一夫人は無理だなぁ・・・シルティア王女様がいらっしゃるなら・・。でも!クラウド様には、もうすぐ会える!!
クラウドの気球が城に近くなり、ユイアレス達が見えると兵士達が「サレアス国王様バンザ~イ!ユイアレス王子様バンザ~イ!シルティア王女様バンザ~イ!」と何度も唱和していた。ただ、兵士達は気球の存在を知らない為に王族用に新開発された運搬魔法具と思っている。ルシルとケイシスもクラウド達を迎える為にお城の庭へ出ていた。
「信じられませんけれど、あの空を飛んでいる凄い乗り物に乗ってらっしゃるのですね。」
「その筈よ。でも、おかしいわね・・・。手を振ってるのはユイアレス様とシルティア様だけね。」
「いやぁ、目立つのはどうも苦手でして。先に降りて来たんです。」
ケイシスとルシルは城の庭に降りてきている気球を眺めながら話していると、突然背後から声が掛かる。
「「クラウド様!?」」
「久しぶり!ルシルちゃん。ケイシスさんルシルちゃんのフォローありがとうございます。」
クラウドがケイシスに頭を下げて顔を上げると、ルシルはクラウドに飛び込んで抱き着く。クラウドは少し膨らんだ胸の感触を感じて少し恥ずかしそうに受けとめ、ポンポンとルシルの肩を叩いて少し距離を取った。
「お久しぶりです!クラウド様!お元気で何よりですわ!」
「ルシルちゃんも。闘技大会前で頑張っている様だね。」
「はい!強くなって卒業して、クラウド様の旅に付いて行けるように頑張っています!」
「無理して怪我しない様にね。」
「はい!・・あ!魔元核石や魔法装備など、沢山頂きましてありがとうございます!」
「どう致しまして。闘技大会って魔法装備は大丈夫なのかな?」
「はい。学生部門は魔法具が禁止されてますけれど魔法装備は大丈夫みたいです。」
「そうか!じゃあ予選選抜戦の明後日までに、もっといい魔法装備を用意しておける様に頑張ってみるよ!」
ケイシスがそれに反応する。
「クラウド様・・・ほどほどにお願い致します。クラウド様があの部屋に置いてある装備をこの前にルシルに渡しましたが、それでもS級やA級冒険者が着けるような代物ですよ!」
--そうなんだ・・デハルグ様の置いて行った装備は、やっぱり凄いな。
「そうですか。では、あれ以上となると?」
「あれ以上の物を作れるかどうか分かりませんが鍛冶屋で作って貰うしかないでしょうね。ヴェルタス王国一の鍛冶屋と言えばドワーフ族のビッゴスさんがやっている店があります・・・ただ・・・。」
「何でしょう?」
「気難しい方でビッゴスさんが気に入った者でないと王族でさえも作って貰えません。」
「王族で唯一作って貰えているのはユイアレス様のみです。ちなみに私も断られました。アトスは何故か作って貰えているようです。紹介状もダメですよ。そんな物を持って行けば一発で追い出されます。」
「そうですか・・かなり大変そうですねぇ。まぁ、何とかお願いしてみます。」
「分かりました。王都の北東の外れに鍛冶屋工房ビッゴスはあります。」
--マップ検索・・・・・・・ん~と、お!あった!この店だな。かなり、ここから距離があるな。会議が終わったら行ってみよう。
「それじゃあね、ルシルちゃん。」
「え!・・・もう行かれるのですか?」
「これからユイアレス達と会議なんだ。」
--もっと話したかったですのに・・・。
「分かりましたわ・・・。」
「ルシル!クラウド様には又、会えるのですから!今は時間が無いから特訓の続きをしましょう。」
「そうですわね!分かりました。」
クラウドとケイシスが王族専用会議室に行くと既に全員揃っていた。クラウド達が入り挨拶するとサレアス国王が会議を始めだす。
「申し訳ございません。遅くなりまして。」
「いや問題ない、皆先程集まった所だ。それでは会議を始めよう。・・・いや、その前にだ。済まぬな!ユイアレス!シルティア!この度の事は私の責任だ。マストリアもキュアッドも次期王としては相応しくなかった。私はそれを分かっておったのに継承者失格として外さなかった為に今回の事が起こったのだ!次期王としては失格でも、やはり我が子達であるからな・・。誠に済まぬ!・・・私は王としては失格かもしれぬな・・・。」
「何を仰います!父上!!それよりも継承者として二人を導けなかった私の責任です!!もっと厳しく二人を継承者として導けばよかったのです!私の方こそ第一継承者として失格です!!」
クラウドがそれを聞いて話し出す。
「あの・・お話の所、申し訳ありませんが少し申し上げて宜しいですか?」
「うむ、申してみよ。」
「自分が・・・いや私が言わなくても本当は分かっている筈ですが今の御二方の発言は国民の気持ちを大事にしていない発言ではないでしょうか?」
「何を言う!クラウド!!そんな事ある筈がなかろう!父上も私も国民の気持ちを大事にしたいと思っておる!」
サレアス国王は黙って目を閉じて聞いている。
「ユイアレス、自分がヴェルタス王国のあちこちで聞く国民の声はサレアス国王様とユイアレス王子を称える声だよ・・・悪く言う声など、一言も聞いていない。これは今までのサレアス国王様とユイアレスの全ての行動や言動から生れ出た称賛だと思います・・・国民は今までの行動を間違っていないと判断しているのです。優しい事が悪い筈が無い。怒られないから何をやっても良いと思う方がおかしいんです。自分は人の事を思いやれるユイアレスだから友達になったんだ。一国民として発言致します。サレアス国王様もユイアレスも間違っていないと思います!」
「クラウド・・・。」
「うむ、クラウドの言う通りであるな!悲しみのあまり、いつの間にか自身を否定しておった様だ・・・。国民は私達を支持してくれておる!私達の行動が間違ってはいなかった証拠だ・・・しかしあれ程の事だ。中々割り切れるものではないが・・・良い友を持ったなユイアレス。」
「はい!確かに・・・国民の応援する沢山の気持ちは今までの行動から来ているものです。クラウド、お前の言う通りだ。しかし、父上。クラウドは私の友でもありますが、いずれシルティアと結婚すれば父上の義理の息子ともなります。いっその事、第二継承者をクラウドとしては?」
「ふむ、それは良い考えであるな。私達よりも国民の気持ちを分かっている様であるしな。」
「それは勘弁してください!」
「「ハハハハハハハハ!」」
その場に居た全員がサレアスとユイアレスと共に笑っている。
「お返しだ、クラウド!」
「この!」
「しかし、私は本当に思っておる。私にもしもの事があればクラウドに王を継いで貰いたいとな。だがまぁ、私も死ぬつもりは無い!安心してくれ。」
「ああ、ユイアレスに何かあれば又、自分が必ず助けるよ。」
「その時は宜しく頼む。」
「クラウドよ、私の言おうとした事を全て言ってくれたの。」
「すみません。」
「責めているのではない、感謝しておるのじゃ。私が諭すより普通の国民目線に近い者からの発言の方がこの二人には、より心に届くでな。クラウドよ、ただお主が自身を普通の国民と思っておるだけで周りはそう思っておらぬぞ。」
「ええ!?普通の国民ですけど。」
「お主も自身の事を分かっておらぬという事じゃな。まぁ、そこがお主の良い所でもあるか・・・。」
再び皆が微笑んでいる。
「よし!それでは本題に入るぞぃ。ユイアレスから聞いた後、私なりに魔神デクロノギアスを調べてみたのじゃ。すると、エルフの真森にあった古い文献に残っておった。それによると、約1700年前に現在バルゴ魔帝国領となっている旧ベルトラータ王国を滅ぼした事により女神エステナに地下深く封印されたとあった。何故、封印が解けたかは不明じゃが最近のおかしい事は、西の現在バルゴ魔帝国領である旧ゼテキア帝国が滅びた事から始まっておる。その魔神をどうにかせねばならぬが、エステナ様がクラウドに託したとあれば女神に再び封印して頂くのは不可能という事じゃな。」
「はい、エステナ様はデクロノギアスの力がとても強くなっていて自身の力では無理だと仰っていました。」
「となると後は、クラウドに魔神を倒せる力を身に着けて貰う事と、最高の装備をさせる事じゃな・・・今のレベルは120程と言ったところか?」
--何故、分かるんだろう?・・・なるほど、スキルか。
クラウドのメニューにある程の万能鑑定ではないがレアスキルの鑑定眼をシャアラは使用していた。
「!?・・・・クラウド!いつの間に120も!?少し前は65と言っておったのに?」
「いや、色々あって。」
「流石、女神様に選ばれただけはあるな。」
「クラウドよ!まずはエルフの真森に向かうがよい!そこに私の娘シェリアルがおる。娘を娶るのじゃ。取り敢えずは婚約の契約でも良いのでな。」
シャアラの急な発言に全員驚いていたが一番驚いているケイシスが真っ先に反応する。
「シャアラ様!シェリアル様はエルフの真森の現女王ではありませぬか!?人族に嫁がれるなどシェリアル様が了承する筈がございません!」
「いや、シェリアルは了承する・・・というかこれは、シェリアルが言い出したことじゃ。」
「そんな!クラウド様といつ会ったと言われるのです!?」
「会ってもおらぬし、私が話した訳でもない。お前なら知っておるじゃろう。」
「・・!それはまさか!?」
「そうじゃ!予知夢じゃ。エルフ族としての力が強すぎるせいかシェリアルには生まれつき異界の神と交信して未来を予知する力があった。シェリアル自身で制御出来ぬが、予期せず何度も未来を視ておった。初めは寝ぼけて夢と現実が分からなくなっておるのだろうと思っておったが、今まで予知は外れたことが無いのじゃ。シェリアルは言っておった・・・いつかは分かりませんが魔神なる存在が復活したら、お母様の所に青い服を着たお方が現れます。その人は私の旦那様になる人ですから現れた時は、エルフの真森に向かう様に伝えて下さい・・・とな。」
ケイシスが更に否定する。
「何かの間違いでは!?」
「それはクラウドが行けば分かる事じゃ。シェリアルのみが正解を知っておる。ただな、クラウドが強くなるために必要な事でもある。エルフ族には特殊な精霊召喚魔法があるのじゃ。それは真森の精霊に認められた者しか使えぬ。本来であれば人族は使えぬが婚約者か結婚した相手であれば精霊が認めてくれるでの。精霊召喚魔法は他の召喚魔法とは比べものにならぬ程、強力じゃ。クラウドの魔力であれば一人で沢山の精霊召喚が可能じゃろう。シェリアルはエルフ族で一番の精霊召喚魔法の使い手、クラウドと結婚すれば強力な戦力となる。あと、もしクラウドがシェリアルの言う者でなければ困るのでシェリアルにこれを渡すのじゃ。」
「これは?」
「その手紙にはクラウドがシェリアルの言う者で無かった場合、精霊魔法を使える他の者と見合いをさせる様に書いてある。いずれにしてもクラウドには精霊魔法が必要じゃからな。」
「う~ん、どうしても覚えないと駄目でしょうか?もう婚約者を増やすつもりは無いのですが・・・。」
「それはクラウドの自由じゃな。ただし、魔神の力は強力な魔力を秘めた魔王をも操れる存在と聞いたぞ・・・今のクラウドで勝てるのか?お主が魔神に負けるという事は全ての世界、お主の大切な者達が大変な事になるじゃろうな。」
「・・・分かりました・・が、私を好きでない者に無理強いして結婚したくはありません。シェリアル様か他の精霊魔法の使い手が私を好きにならない場合は他の強くなる方法を取らせて下さい。」
「分かっておる。まぁ、その様な事は無いと思うがな。あとは、装備と修行じゃの。私の知る中で、この世界の一番の装備となると聖鎧ビアリトルクス、聖盾エイトマイン、聖剣レリティアルソードじゃな。」
--えぇ!?レリティアルソード!?
「ただし、盾と剣の二つは行方不明じゃからして神が鍛えた別の装備を用意するしかないの。」
「え~と、シャアラ様。剣は持っていますが。」
「じゃから、魔神に対抗するには神が作りし装備でないと通用せぬのじゃ!お主が今、どんな優れた剣を持っていようとな。」
「いえ、レリティアルソードを持っているんです。これですよね。」
クラウドは右手に光り輝くレリティアルソードを出して見せる。
「「「「「「「!!?」」」」」」」
「何じゃと~~~!!何故エイ・デファーリスでも最強と言われる聖剣をお主が持っておるのじゃ!?」
「え~と、たまたま旅の道中で落ちていたので拾いました。」
--湖の底ですけど・・・。
「・・・・呆れた奴じゃ。その聖剣を今まで多くの者が何百年と探し求めて来たのじゃが・・・。これも女神エステナ様のお導きかの。」
--多分、運よく見つけたんだろうな・・・。でも、運を補助して貰ったしエステナ様のお導きとも言えるか。
「それでは残りの装備じゃが聖鎧ビアリトルクスは獣人族が主な国民でグラディアル帝国も越えた遥か西にあるファンベルガ王国の国宝装備としてある。7代目獣王デルガを訪ねて借りるしかない。聖盾エイトマインは不明であるから2番目に強力な聖盾をと考えておったがクラウドであれば見つける事が可能かもしれぬ。取り敢えず保留にしておこう。」
「あの、シャアラ様。自分は魔法で剣も鎧も強力な装備を生み出せるのですが、それでは通用しないのでしょうか?」
「ふむ、クラウドの使うあの魔法のことか?・・分からぬ・・・ただ文献には魔神に対抗しようとした旧ベルトラータ王国が巨大魔法装置でトラスデリア超魔力砲と言われる大きな山をも消し去る魔法を使用したが、魔力を吸収され全く通じなかったとある。それが本当であれば、どんな魔法も吸収される可能性もあるからして強力な装備は必須じゃの。」
--レイティス様の装備とかが使えたらいいけど、まだリングボックスから取り出せない上に服も鎧にどうやって変化させるか分からないし仕方ないか。鎧と盾なら、この服の上にも着れそうだし。
「分かりました。」
「その後は修行じゃな。未開の地がうってつけじゃ。私が確認した中では魔物のレベルが最高312の奴もおる。」
「えっ、レベル312!?紅龍族より強いのですか!?」
「いやっ、そうではない。竜はレベルが低くても別格じゃ。未開の地で5大竜族より強い魔物はおらぬ。竜を魔物と言えるかは疑問じゃがな。竜は魔物と違って私達と同じく母親から生まれてくるからの。ただし、倒すと魔元核石は出る。現にグラヌスは魔竜ベルヘイオを倒して魔元核石を吸収した事で歳を取らぬ身体となったんじゃからな。」
「そんなスキルもあるのですね。」
「そうじゃ、でもこれは内緒じゃぞ。永遠に生きれると知れば、それを望む馬鹿者達が未開の地へ乗り込みかねん。あれはグラヌスだからこそ何とかなったのじゃ。12日間に渡る死闘じゃったらしいがの。他の者達では未開の地に踏み入れた途端に死んでしまうじゃろう。」
グラヌスはそれを聞きながら頷いている。
「分かりました。あっ!未開の地と言えば紅い髪の人達は住んでいないか御存知ないでしょうか?」
「私も不思議に思っておったが、アテナの事かの?」
「はい、そうです。アテナの両親を探したいのです。」
「この娘もクラウドと同じく見た事もないオーラを纏っておる。クラウド程の強力な物ではないが・・・不思議じゃ・・。いや、済まぬ。紅い髪の一族であれば未開の地に存在するぞぃ。いや、存在すると聞いておる。あのような地に人間が住めるとは思えないのじゃがな。」
「本当ですか!?」
「本当じゃ、私が見た訳ではないが、エルフの真森におるジュエンという者が未開の地で一族に会ったと聞いた。エルフの真森の北側はすぐ未開の地じゃからな。真森に行った際、ジュエンを訪ねてみるとよい。」
「じゃあ!まずエルフの真森に行った後、先に未開の地に行きます。そこでアテナの両親を探しながら修行して、その後ファンベルガ王国に行きます。」
「言っておくがシルティアとユリアはここにおるのじゃぞ。」
「シャアラ様、何故ですの!?私達もクラウドに付いて行きますわ!」
ユリアもコクコクと頷いている。
「だめじゃ!!未開の地は以前より、かなり強くなったお主達でも危険すぎる!クラウドが戻って来るのを待つのじゃ!」
「そんな・・・クラウド・・・。」
「クラウド様・・・。」
シルティアもユリアもクラウドに目をうるうるさせながら助けを求め見つめてくる。
--う!・・そんな目で見ないで欲しい。でも、シャアラ様が言うなら本当に危険なんだろうな・・。
「シルティア、ユリア。出来るだけ早く戻って来るから。」
「「分かりました・・・。」」
「よし!それでは会議はこれで終わりじゃ。良いかの?サレアス。」
「うむ。終わりとしよう。」
サレアス国王はアトスとケイシスの開けた扉を出て自身の近衛騎士達と出て行った。
「シルティア、ユリア。悪いけど今から、婚約者のルシルちゃんの為に装備を作りたいと思っているんだけど一緒に来る?」
「「もちろん行きますわ(もちろんです)!!」」
「もう少しで、暫く会えなくなるのですから、ず~っと傍にいますわ!」
そう話をして移動しようとすると二人ともクラウドの両側からタックルしているのでないかと思われる程、力強く寄り添ってくる。アテナは後ろにしがみついている。
「ちょっと皆、歩きにくいんだけど。」
「アテナはクラウドと一緒に行けるのですから遠慮するのですわ。」
「・・・がくっ・・・。」
「よし、行こうか。それじゃあね、ユイアレス。」
「ああ、クラウド。今日の晩良かったら酒でも付き合ってくれるか?」
「ああ、泣くんだったら胸を貸すよ。」
「何故そうなる!・・・ククク、逆だ。笑って暗い気持は吹き飛ばそうと思ってな。」
「分かった。面白いかどうか分からないけど、この前に仕入れたネタがあるから晩にね。」
「ああ、楽しみにしておく。」
・・・・その後、キュアッド王子は第三継承者を剥奪され、監禁の身となった。アグストは二人の煌輝紋章石ホルダーに逆らった罪で処刑となる。隊長達は全て元に戻され闘技大会に向け王都は祭りの様子を呈している。軍の中からも出場して大会で勝ち進むことで、昇進を有利にしたいと望む者もいた。
闘技ルールは相手を殺してしまうと失格となる事。それ以外の大きなルールとして審判員は特別な場合を除き大会中、一番の権限を持つ事。審判員への金品受け渡しの禁止。魔力体力回復薬の禁止。学生部門は魔法具の使用禁止であった。




