第22話 ヴェルタス王国の暗雲
--ギルドはお昼まで開かないし、さて何をして時間を潰すかな?
「皆、何かこの町でしたい事ある?ギルドはお昼からしか開かないし。」
「そうですわね。」
「では、ここで買い物をしたいですわ。」
「私も覗いてみたいです。」
--服屋か・・・女性らしいな。
「あぁ、じゃあ皆ここに入ろう。好きな服を好きなだけ選んで。自分が全部出すから、アテナもね。」
「ありがとう、クラウド。」
「ありがとうございます、クラウド様。」
アテナも頷き店に入ると皆、気に入った服を選んで試着室に持って行っては顔だけだし、クラウドを呼んで試着室の中で見て貰っている。
「クラウド、この服どうかしら?」
「それメイド服だよね。お腹が見えてるし、胸の谷間も凄いし他の人には見せたくないな。」
「フフフ、当然ですわ。家で居る時にクラウドに見て貰う為に着るのですわ。」
「それなら、かわいいと思うよ。」
「フフフ、チュッ!」
「クラウド様、今度はこちらを見て頂けますか?」
隣の試着室に入ったユリアから呼ばれる。
「ちょっと、待って。」
クラウドはユリアの試着室に入った。
「この服、いかがでしょうか?」
「ユリア、そのドレス綺麗だけど色っぽ過ぎるから家用にしてね。」
「もちろんです、屋敷でクラウド様と踊る時に着ようと思っています。」
「・・・クラウド、見て。」
次は、アテナに呼ばれる。
--忙しいな。
クラウドが中に入るとアテナはウサギ耳を頭に着けて白いフサフサの毛が付いたビキニを着ている。
「・・・悩殺?」
「うん、かわいいよ。」
アテナはニッコリ笑った。その後も繰り返し3人から試着室に呼ばれる。いつの間にか正午に近付き、大量の服を買ってリングボックスに納めた。
「皆、それじゃあギルドに行こうか?」
・・・クラウド達は20分程歩いてギルドに着く。受付に行くと、ルーネが丁寧な挨拶をしてきた。
「クラウド様、お待ちしておりました。ギルドマスターは奥のマスター室におります。どうぞ、こちらへ。」
クラウドは受付横にある廊下を通されてギルドマスター室に向かう。そこにはケルガがいて、クラウド達を見て立ち上がる。
「クラウド様、皆さまどうぞ。こちらにお座りください。」
「それではまず報酬ですが、こちらの箱に用意してあります。大金のため、ギルドで直接預金所に預ける事も出来ますがどうなさいますか?」
「それでは、その様にお願いします。あと、アテナも一緒に倒したので半分はアテナ名義で預金したいのですが。」
「いらない・・。クラウド持ってて・・・。」
「要らないの?じゃあ、要る時は言ってね。直ぐに、渡すから。」
「宜しいでしょうか。それとこれがお二人のSランク証です。これがあれば、どの国の検問も貴族検問側を通過出来ますし、多くの国がSランクの冒険者に来て欲しいという事もあって国境の検問でさえ殆ど素通りの様に手続き可能です。お供されている方々も10人ぐらいまでならば大丈夫の筈です。あと、ギルド各所によっては色々待遇される事もありますので、それはギルド各所でお聞きください。ちなみに私どものギルドはギルドに設置された冒険者専用の宿に無料で5人が泊まれます。是非とも、またご利用ください。」
「分かりました。それではこれで失礼致します。」
「まだまだ沢山依頼はございますので宜しくお願い致します。ありがとうございました。」
クラウド達は外に出て屋敷に戻った。その後、広い屋敷の庭から一人ずつ車へ運んで行くのだが今回は前回で慣れたシルティアから初めに飛ぶと言い出したので二人で車庫へ飛んで行く。
車庫上空に行くと二人の盗賊が、頑丈なゴッドグランシーズの車庫を壊そうと頑張っていた。シルティアがその様子を見て上空で話し出す。車庫は半分より下は灰色でその他は白味がかかった半透明で頑丈に作られていた。
「クラウド、あれってもしかして?」
「車を盗もうとしてるのだろうねぇ。」
「盗める筈が無いのに・・・頑張ってますわね。どうしますの?」
「もう少しで諦めるでしょう。」
「懲らしめないと、他でも繰り返しますわよ。」
「そうか、じゃあもう少し無駄な努力をしてもらってから懲らしめましょうか?その方が効果がありそうだし。」
クラウド達は上空を回遊しながら様子を見ている。
「アニキ!ハンマーも全然効きませんぜ!」
「馬鹿野郎!!もっと力を出さねぇか!早くしねぇと、持ち主が来ちまうぞ!貸してみろ!」
盗賊のボシャスは柄が1㍍もある大きなハンマーを振り上げ、渾身の力で一気に振り下ろした!ドン!!という重い音が出るが、壁には一切傷が付かず衝撃でハンマーを落としてしまう。
「グワァ~!!腕が!・・・しびれる・・・。」
「ほらぁ~、言ったでしょ。」
「うるせ~!!こうなったら・・・ビヴォ!!この前に希少な鉱石を取ろうとして使った爆発魔法具のフェアドロがまだあったろう。あれを持って来い!!」
「あれ、10デロもするんですよ。もし、これでダメだったら文無しですぜ!!」
「馬鹿野郎!もう既に高い魔法具を幾つも使ってるんだ!今更、諦められるかい!!」
「分かりましたよ。・・・・ヨイッショ!!それじゃあ、つけますぜ!」
車庫の傍にビヴォが工事現場用の爆発魔法具フェアドロをセットして火を着ける。
「馬鹿!!火を着けるのはそこじゃねぇ!!ビヴォ走れ!!爆発するぞ!!」
「アッ!アニキ~~!!助けてくれ~!!」
火を着ける場所を間違い、バチバチと火花が飛び散って直ぐにでも爆発しそうであった。二人はそこから離れようと必死に走っている。
「クラウド、あれ多分もうすぐ爆発しますわよ。あの二人・・変な所に火を着けて何を考えているのか?・・・必死に逃げてますけど、死ぬかもしれませんわね。」
「車庫の裏に回れば大丈夫なんだけどね。仕方ない、助けよう。」
「まさか盗賊を助ける事になるとは、思いませんでしたわ・・・。」
クラウド達は二人と車庫の間に飛び降りてゴッドグランシーズの高い壁を作る。作った瞬間、ドーン!!と爆発して砂煙や小石を大量に巻き上げた!念の為、クラウドとシルティアには汚れない様に壁とは別にゴッドグランシーズの全身防御型を掛けている。
盗賊二人には衝撃が一切届いていない。しかし、音と共に前方へ勢いよく飛んで伏せた為に全身に擦り傷を作っていた。ビヴォが起き上がりボシャスに駆け寄る。倒れているボシャスを抱き起した。
「ビヴォ・・俺はもうダメだ・・・お前は生き残れたみてぇだな。俺の分も精一杯生きろ・・・。」
「アニキ~~~~!!」
ビヴォが泣き叫ぶ!そこへクラウド達は近寄り声を掛ける。
「あの~・・盛り上がってる所、申し訳ないけど・・・。」
「なんだよ!!アニキが!アニキが死んじまうんだ!!ウォ~~~!!」
ビヴォがボシャスに抱き着いて泣いている。シルティアは呆れ顔になり、懲らしめる気持ちも無くなっている。クラウドが再度話しかける。
「いや、だから擦り傷で人って死なないけど・・・。」
「何言ってんだ!!こんなに血が!!・・・出てない?・・あれ?・・アニキ?・・・。」
「ん?・・・うぉ~っと、奇跡だな!きっと、日頃の行いが良いせいだ!」
「俺達、泥棒ですよ・・・。」
「おっ、おう!そうだな。まぁ、何にしても良かったぜ!」
「良くありませんわ!!」
「何でぇい!いつの間に!!」
「はぁ・・・あなた達、何で助かったのか分かってますの!!ここにいるクラウドがいなかったら、死んでましたのよ!!」
二人の盗賊は頭を下げながら感謝する。
「本当か!!?それは申し訳ない!ありがとうよ!いや~、あの車庫が無茶苦茶!硬てぇもんだからよぉ~。」
「ふ~・・・あなた達と話していると頭が痛くなりますわ・・・。」
「命の恩人がそれはいけねぇ~!!ビヴォ!何か頭ぁ冷やす物はねぇのか!!」
「アニキ・・水も金も、もう何もねぇよ・・・。」
「そうか・・・仕事は何やってもクビになるし・・命の恩人にも報いれねぇ~とは・・・。」
--確かにクビになりそうだ・・・しかも、鑑定してみると泥棒も全部失敗したのか・・罪欄に何も無いな・・・。
「それでは、もし仕事があれば泥棒はやめてくれますか?」
「し、仕事をくれるのか!やる!!やめる!!」
--どっちをやって、どっちをやめるの・・・?
「仕事をあげるから泥棒を止めなさい!!って言ってますの!!分かりましたの!返事は!?」
ボシャスとビヴォが声を合わせる。
「「泥棒を(仕事を)やめます(やります)!!姉御(姉御)!!」」
「はぁ~・・・クラウド。ごめんなさい。任せますわ・・・。」
--・・・。何の仕事をあげるかだな?他の人に迷惑にならない仕事か?う~ん?・・・あ!
「では二人に任務を与えます!!」
「「へい!!」」
「世界を旅して魔族関係による異変があったら、このルレス魔法具で連絡を下さい。給料は旅費用を含めて二人で月100デロでいかがですか?」
「100デロ!!?や!やります!!ボス!!」
「では、お願いしますね。給料は預金所に振り込んでおきます。バトス・ボシャスさん宛でね。」
「「へい!!ボス!!」」
二人は近くの木に繋いであった馬に乗って走り出した。
「クラウド、あの二人は私達が何者か?とか家名を当てられて不思議に思わないのかしら。」
「思わないのでしょうね。」
「クラウド、泥棒に待遇良すぎるのではありませんの?」
「まだ泥棒も成功していないみたいですし、色んな所で爆発されても困るしね。」
「それもそうですわね。」
「それではユリアとアテナを迎えに行って来ますね。」
「えぇ。」
クラウドはアテナ、次にユリアを迎えて車に戻った。4人が車に乗り込むと車を走らせていく。車を走らせて少し経つと、ユリアがクラウドに問いかけた。
「クラウド様、そういえば先程迎えに来て頂くときに思ったより時間が掛かっていましたが何かトラブルでも?」
クラウドではなく、シルティアが答える。
「そうですわ。正確には二人のトラブルメーカーが居ましたの。」
「ユイアレスが居れば、お笑い二人組とでも名付けそうだったな。」
「お兄様でも、あれは範囲外ですわ・・・。ごめんなさい・・ユリア・・思いだすと頭が・・・。」
「?・・・はぁ・・。」
--ククク!やっぱり、ユイアレスなら一緒に笑うと思うけどね。
「ユリア、シルティアが大変そうだから又今度話すよ。」
「分かりました・・・?」
・・・・・・・ヴェルタス王国に向かい3日経ち、車を走らせながらユイアレスに連絡を取ろうとする。
「おかしいな?・・・あれから毎日ユイアレスに連絡を取ろうとしているのに、全然繋がらない。通信機能が壊れたのか?」
--やっぱり、嫌な予感がする・・早く戻った方がいいな。
「そうですわね・・・戻ったらシャアラ様に見て貰った方がいいですわ。それをお作りになられたのはシャアラ様ですし。私の曾祖父である先々代の国王ラトアス様に頼まれて作られたと聞いていますわ。」
「そうなんだ。じゃあ、そうしよう。」
・・・・・・・それから6日経ちヴェルタス王都が見えてくる。王都の検問に行くと様子がおかしい。検問は素通り出来たがシルティアを見て兵士たちが何か言いたそうにしていた。アテナの急激な成長も緩やかになり身長は現在145cmに成長していた。
--何か言いたいけど口止めされているという感じだな。
「やっぱり、何かおかしいな・・・。」
「そうですわね。何か雰囲気がいつもと違いますわ。」
城に着いてシルティアが門兵に尋ねてみる。門兵たちが跪く。
「ユイアレスお兄様は、今どこにいますの?」
「そ、それが・・・申し訳ございません!私の口から申し上げられませんのでケイシス様を呼んで参ります!」
心配そうにしているシルティアと共に待っているとケイシスとアトスが走って城から出て来た。
--ん?ケイシスさん達に付いて来て監視してる者がいる?
「シルティア様!よくぞ御無事で!!」
「それより、この変な雰囲気は何ですの!?」
「はい、会議室へまいりましょう。ご説明いたしますので。」
・・・第12会議室に入るとケイシスが鍵を開けて話し出す。
「私達に監視が付いています。声を潜めて話すことをお許しください。」
クラウドが透視すると扉に耳を付けている男二人がいる。クラウドはゴッドグランシーズの壁を四方に作り出す。壁の中に沢山細かい空気を入れ、防音仕様にして壁を作った。
「確かに外で聞き耳を立てている2人がいますね。でも、大丈夫です。今、防音にしましたから。」
「さすが、クラウド殿でござる!」
「クラウド殿、シルティア様。私達が付いていながら申し訳ございません!ユイアレス様は現在、王国の宝物庫から呪いのシュビデュイという笛を持ち出した容疑で城西塔の最上階に投獄されています。」
「何ですって!?」
「「!!?」」
「呪いのシュビデュイとは何ですか?」
「はい!昔ある旅人が王国でその笛を吹いた際、笛の音を聞いた者達が錯乱してお互いを襲いだし約1300名もの国民が亡くなってしまったのです。何とか笛を壊そうとしたのですが笛を壊そうとした者達までおかしくなってしまった為に封印の箱に入れて宝物庫に厳重に保管されていたのです。」
「その笛が9日前に無くなってしまって大騒ぎとなり、大規模に探されたのですがユイアレス様の部屋から見つかったというのです。」
「まさか!?お兄様がそんな事をする筈がありませんわ!!」
「その通りです!!ユイアレス様がそんな事をする筈がありません!!・・・ですがマストリア王子が王国の危機にもなりかねない事であることから自身の部屋とキュアッド王子、ユイアレス様の部屋を探す必要があると言い出したのです。」
「ユイアレス様は、それに賛同致しました。まずマストリア王子の部屋を探した後、ユイアレス様の部屋を探すと封印の箱がベッドの下から出て来たというのです。」
「それは誰かの策略ですわ!!」
「シルティア、ここにいる皆ユイアレスがそんな事をするとは、全く思っていない。まず、落ち着いて聞こう。」
全員が頷く。アテナだけは、何が起きているのか分からず黙って聞いていた。
「そうですわね・・・。」
「・・・マストリア王子は、それを見てユイアレス様が王国を破滅させようとしていると、騒ぎ立てたのです!マストリア王子の従兄弟であるアグスト騎士軍大隊長がユイアレス様を城西塔に監禁いたしました。」
「・・ユイアレス様は、調べれば分かる事だからと大人しく捕まられました。煌輝紋章石も取り上げられています。シャアラ様とグラヌス様にルレス魔法具で連絡を取ろうとしているのですが、通信魔法を妨害している者がいるらしく連絡が取れません。サレアス国王陛下も同様です。」
「しかも、緊急事態という事で勝手にマストリア王子が全ての軍の指揮を取り出しユイアレス様を2日後処刑するなどと言い出しました!」
「何だって(何ですって)!!?」
「ユイアレスが持ち出した証拠も無いのにですか!?」
「はい、部屋にあったのが証拠だと・・・。軍もユイアレス様を保護する為に動いたのですが、ユイアレス様に味方する指揮官である者を次々と解雇してマストリア王子の親しい者を任命して軍を抑えつけているようです。私達も、断固抗議したのですがユイアレス様の近衛騎士隊長を解任となりました。3日後には城から出て行くように言われております。」
「そうですか・・・。そうなるとユイアレスを罠にかけたとして、まず怪しいのはマストリア王子ですね。」
「はい、今それでスフェナ殿がマストリア王子を監視している筈です。何かあれば連絡を貰う事となっています。」
「なるほど、スフェナさんが。先程言っていた宝物庫は見れますか?」
「いえ、現在入り口に常に兵士が10名警護に当っていますので無理かと。」
「・・近くまで行くことは可能ですか?」
「あ、それなら大丈夫です。」
「そうですか・・・ではもう一つ。宝物庫にある宝物の詳細リストはありますか?」
「はい、一つはマストリア王子が持って行ってしまいましたが、もう一つは総務大臣のレドルト殿が持っていたと思います。宝物庫の年1回の清掃後に必ず自ら立ち会い、チェックされていた様ですから。」
「そうですか、ではそのリストを借りに行きましょう。あと話は変わりますがユイアレスの閉じ込められている部屋には窓がありますか?」
「はい、ございます。ですが頑丈なガンドル鉄格子が嵌められています。」
「少しの隙間さえあれば十分です。それじゃあ、リストを借りに行く前にシルティア!心配だろうから、この前焼いて余ったオグトロスの焼肉と最高級ワインでも差し入れに行こうか?」
「え・・あ!はい!!」
「あの~、ユイアレス様は厳重に監視されていてお会いになれませんが。」
「ケイシス、クラウドは空を飛べるの。」
「まさか!?空を!!?」
「さすがクラウド殿でござるな!」
「それでは、私達も連れて行ってください!」
「すみません、今の所二人でしか飛べないのです。でも、ユイアレスは大丈夫ですよ!いざという時は自分が王国を敵に回してでも助けてみせます!友達ですから!!」
「クラウド殿・・いえ!クラウド様!宜しくお願い致します!!何があっても私は味方であるとお伝えください!私もいざとなれば王国を敵に回してもお助け致しますと!!」
「我もでござる!!」
「分かりました。それでは、大臣の方は後で居場所を教えて下さい。監視が付くと困るから、この2階から行こうか、シルティア。」
「ええ。」
クラウドは窓を全開にするとシルティアを抱え空に飛び出した。そのまま直接ユイアレスの部屋に向かうのではなく、誰にも気付かれ無い様に一旦遠くまで飛んで離れてからユイアレスのいる部屋に向かっていく。
--ユイアレスはと・・・なるほど、あそこか!・・というかユイアレス!のんびり寝てる場合じゃないだろ!自分の状況分かってるのか?
クラウド達は塔の傍まで飛ぶと高層ビルでいう45階の高さにある鉄格子から1㍍程下に足場を作ってそこに降りた。
「ユイアレス・・ユイアレス・・・。」
--聞こえないか。大声出すと部屋の外にいる兵士に見つかるかも・・・。
クラウドはゴッドグランシーズで作った小さな飛行機を飛ばして、寝ているユイアレスの顔に当てる。
「ん・・・?」
ユイアレスが目を開けると飛行機が変化して文字に変わっていく。
[静かに窓の鉄格子傍に。クラウドより。]
ユイアレスは鉄格子の傍にゆっくりと歩く。外の兵士には気付かれていない。窓の傍に着くと全員声を殺して話し出す。
「クラウドか?戦争は止めれたのか?」
「それどころじゃないだろ。戦争は止めれたけど。」
「そうですわ。お兄様。」
「ああ、シルティアもいるのか。しかし、流石クラウドだな。この短期間で戦争を止めてくるとは。」
「まったく・・・ユイアレスといると、こっちまで緊張感が無くなるよ。」
「それは困る。クラウドが戻って来たから落ち着いているのだ。寝ている振りをして今後の行動を決めようと思っていたが、誰も被害無く事を収める方法が今の所見つからぬ。クラウド任せで悪いが何とかしてくれるのだろう・・・違うか?」
「当たり前だ。ユイアレスは落ち着いて待っていればいい。自分が助けてみせるよ!」
「ああ、待っている。シルティアも済まないな・・心配かけて。」
「悪いのは罠にかけた者ですわ!お兄様が悪い訳ではありません。」
「そうだよ!もしもの時は自分たちが王国を敵に回してでも助ける!ケイシスさんやアトスさんも同じ事を言ってたよ。」
「感謝する!まぁ、私も処刑されるとなれば抵抗するがな。宜しく頼んだぞ!」
「ああ、任しといて!あとユイアレス、ベッドの前に差し入れを置いておくよ。」
クラウドがオグトロスの焼肉と高級ワインをリングボックスから出した。ユイアレスは振り返りベッドの前を見る。
「クラウド・・・。」
「気が利くだろ!遠慮なく食べて。」
「足らぬ。」
「遠慮して!大量に差し入れしたのが見つかると困るだろ!・・・でも、しょうがないな・・。監禁されているのも大変だろうし、もう少しだけだよ!」
「よし!これでもっと楽しめるな。」
「ユイアレス(お兄様)・・・・・。」
「冗談だ。リラックスして抵抗しなさそうな状態を見せていた方がクラウドも動き易いであろう。」
「確かにね。処刑を早めるって言われても困るからね。じゃあ、そろそろ行くよ。この煙幕を張れる魔法具も念のために渡しておくから。」
「ああ、それではな。」
クラウド達は来た時と同じように一度遠くへ飛んでからケイシス達が待つ部屋に戻った。
「ユイアレス様は大丈夫ですか!!?」
クラウドがシルティアにどうぞと手を出す。
「ケイシス。お兄様はかなり、元気でしたわ。」
「そうですか!!」
「元気過ぎる感じだったけどね・・・。次はレドルト大臣の方だな。ケイシスさんに案内して貰おうと思ってたけど、場所だけ聞いて一人で行ってくるよ。監視に何をしているか気付かれたくないからね。」
「分かりました。以前、グラディアル帝国への王国代表を決めた会議室を憶えてらっしゃいますか?」
「ええ、分かります。」
「大臣室はあの辺りの近くなのですが詳しく説明するには、地図がありませんと。」
クラウドはメニューから皆には見えないマップを開いて大臣室を確認している。現在、レドルト大臣は部屋にいる様であった。
--なるほど、あそこか。大臣の部屋も宝物庫も実は聞かなくても分かるけど何で知っているのか聞かれると面倒だし。
「いや、大体分かれば大丈夫です。宝物庫の場所はレドルト大臣に聞いてみます。」
クラウドは窓から飛び出してレドルト大臣の部屋近くにある別の部屋のベランダに降りて、何食わぬ顔でその部屋から出ると大臣の部屋をノックした。
コンコンコン!
「はい!お待ちください・・・クラウド様!?レドルト様!クラウド様がお見えですが、いかが致しましょう?」
レドルトの執事が出て来て応えるとレドルトは椅子から勢いよく立ち上がりこちらへ出て来た。
「クラウド様!どうぞ中にお入りください!話したいことがございます!」
「はい。」
レドルトはクラウドに高級ソファーに座る様に勧め、自らも対面に座った。
「クラウド様はユイアレス様派でしょうか?マストリア様派でしょうか?」
「?・・・意図はよく分かりませんがユイアレスは友達ですから。」
「そうでございますか!やはり!良かった!!マストリア王子は軍を拡大して独裁政治を行おうとしております!私達も脅されたのです!言う事を聞かなければユイアレス様の処刑の次はお前だと・・・。お願い致します!!どうかユイアレス様を助けて頂き元の王国に戻して頂けないでしょうか!?」
「勿論、そのつもりです。それには宝物庫のリストが必要です。お借り出来ますか?」
「リストが?え~と、確かここに・・ありました。これで御座います!でも、なぜこれが必要と・・・?」
「協力して頂けるのであれば、お話致します。」
「もちろんでございます!!マストリア王子の愚行を止めて頂けるのであれば何でもご協力致しますぞ!!」
「それでは、まず1つ。宝物庫はレドルト大臣が管理されているのでしたね。」
「わ!?私をお疑いですか!?」
「そうではありません。レドルト大臣を疑っている訳ではありません。真犯人を見つける為に尋ねています。」
「そうですか・・・確かに私が管理しております。ただ、中の物を持ち出すには国王サレアス様の御許可が必ず必要です。」
「宝物庫の鍵は一つでしょうか?」
「いえ、それもリスト同様二つ御座います。一つは私が管理していまして、もう一つは王族しか入れない部屋の奥に保管されていると聞いております。」
「宝物庫から盗まれた物は呪いのシュビデュイだけですか?」
「分かりません・・あれからキュアッド王子の近衛騎士達が入れ替わりで宝物庫を陣取って離れませんので確認出来ておりません。」
「盗まれた時は、誰が宝物庫の守衛を?」
「その日は第5騎士団が交代で守っておりました。」
「その人たちはユイアレスを見たと?」
「いえ!兵士達は事件の前、急に眠気が襲い眠ってしまった為、全く犯人が分からないそうです・・。」
「宝物庫で呪いのシュビデュイが盗まれたのを確認したのは誰ですか?」
「はい、私が連絡を受けて駆け付けると、既にマストリア王子とキュアッド王子が居て確認したとの事でした。」
「なるほど・・。何故マストリア王子とキュアッド王子は連絡もなく、それに気付いたのでしょうか?」
「それは、やはりお二人が・・・。」
「それに王国を既に支配したと思う二人であれば、宝物庫から他の魅力的な物を持ち出したりとかは、どうでしょう。」
「なるほど!それでリストを!!」
「そうです、確認する価値はあります。」
「分かりました。どうぞお持ち下さい。」
「ありがとうございます。必ず後でご返却いたします。」
クラウドは少し移動した場所でマストリア王子の部屋をリストに合わせて検索する。
--だめか・・・。キュアッド王子は?・・・・・・・こちらもダメだ・・・。そうそう証拠は残さないか。
--後はプレゼント作戦といきますか!この豪華そうなアミュレットをゴッドグランシーズで・・・・・・。うん!いい出来だ!!あとはデハルグ様の地下にあった、この録画録音可能なピエリトルロールの魔法具を・・・いいぞ!正常に使えるみたいだな。デハルグ様に感謝しないと。
マストリア王子の部屋から少し離れた部屋ではスフェナが見張っていた。その部屋にクラウドは移動する。
「クラウド様!?良くご無事で!その節は本当にありがとうございました!」
「スフェナさんこそ、無事で何よりです。これからマストリア王子に罠を仕掛けます。警戒されても困るのでケイシスさん達と合流していて下さい。12会議室は分かりますか?」
「はい、分かります。では、早速向かいます。」
「お願いします。」
スフェナが部屋から出て少し時間を置き、クラウドも移動して風高速移動しながらマストリア王子の部屋の前に箱を置いた。扉の前の兵士がそれに気付く。
「おいっ、ビッテ。いつの間にか箱が目の前にあるんだが?目の錯覚か・・・?」
「いや、確かに見えるぞ。どういう事だ?こんな物無かった筈だがな・・・。」
ビッテと呼ばれた兵士が箱を見ると≪マストリア王子へキュアッドより≫と書かれている。
「キュアッド様からマストリア様宛だぞ?どうする?」
「そりゃあ勝手に開ける訳には、いかないな。マストリア様に聞いてみよう。」
ビッテは部屋をノックする。コンコン!
「何だ、入れ。」
「は!失礼致します!マストリア様にキュアッド様から、御届け物の様ですが如何いたしましょう?」
「見せてみろ。」
マストリアは箱を受け取り、書斎机に移動する。箱を開けて驚いた表情を見せ後、怒りの表情へ変わっていく。クラウドは傍の廊下で透視をしながら見ていた。
「あの馬鹿め!・・・すぐにキュアッドを呼べ!!」
「は!かしこまりました!!」
--なるほど、呼びつけるのか?それではと・・。
兵士がキュアッド王子を呼びに部屋を出ようとした時、兵士二人の意識を真眼で一瞬奪って風高速移動で中に入る。そのまま部屋の床まである長さのカーテンまで移動し擬態して隠れる。
「どうした!早く行かぬか!」
「・・・!?はい!申し訳ございません!」
「ん?風か?」
クラウドの風高速移動で巻き起こった微風を不思議に思い、マストリアは窓が開いていないか確認しようと移動する。
--しまった!壁に擬態した方が良かった・・・。意識を奪って移動するか!?
窓の近くに来るとマストリアはクラウドと反対側のカーテンを開いて窓が閉まって鍵が掛かっている事を確認した。
「何だ・・・気のせいか・・・。」
--ふ~~。危ない危ない・・・。
--・・・・・・・中々来ないな・・・暇だ・・・。
・・・・・暫くして部屋をノックする音が聞こえてくる。コンコンコン!
--来たか・・・。
「入れ。」
キュアッドが兵士と入ってくる。
「キュアッド以外は、しばらくこの部屋から離れておれ!私が良いと言うまで近づくな!!」
「はっ!」
マストリアは兵士が部屋から出た後、少しして扉を開け近くに誰も居ないのを確認した。扉を閉めるとキュアッドに詰め掛かる。
「キュアッド!なぜ初代国王のアミュレットを私に送ったのだ!あれほど呪いのシュビデュイ以外は触るなと申したであろう!!」
「何のことでしょうか?・・・兄上。」
「とぼけるでない!今度は私を罠にかけ、お前が国を乗っ取るつもりか!」
「待って下さい!兄上!本当に私は呪いのシュビデュイ以外は何も触っておりません!!」
「・・・・・!?しまった!罠か!?」
クラウドが二人の前に姿を現す!
「聞かせて頂きましたよ!真実を!」
「どこに居た!?・・・ふん!何の事だ!私は何も知らん!」
「しらを切っても、ビエリトルロールの魔法具で全て録らせて頂きました。」
「兄上・・・。」
マストリアはゆっくりと書斎机に向かうと警報魔法具を手に取りベルを鳴らした。次々とそれを聞いた兵士達が入ってくる!
「この者を捕えよ!!ユイアレスと共謀して国を混乱させようとしている!その者が今持っている魔法具は証拠品だ!取り上げて私の所へ持ってくるのだ!決して魔法具を起動させるでないぞ!!」
兵士達はクラウドを煌輝紋章石ホルダーとは知らずに向かって行く。
「「「「「「「「はっ!!」」」」」」」
--そう来たか。悪い兵士達では、ないかも知れないけど証拠の魔法具を取られる訳にはいかないな。
クラウドは次々と向かって来る兵士達を気絶させていく。
「く!・・・・。」
兵士達が敵わない様子を見てマストリアは兵士達の間を縫い部屋を出て行く。
「兄上!待ってください!私はどうすれば!」
キュアッドは狼狽え何も出来ず、部屋の隅で頭を抱えている。
「マストリア王子!待て!!」
クラウドが倒しても兵士達がどんどん部屋に入って来て身動きが出来なくなるほどの兵士がいた。
--このままじゃ、逃してしまう!
クラウドは兵士達が押し寄せて来る反対側の部屋の外壁に移動し壁を蹴飛ばす!ドゴォ~~~!!と壁は壊れ外が見えると、そのまま3階の部屋から飛び出した!兵士達はあり得ない光景に唖然として佇んでいる。
--こうなったら、証拠も掴んだしマストリアは後回しだ!
クラウドは空へ舞い上がり、そのままユイアレスの下へ向かう。到着して直ぐに鉄格子のそばに足場を作って降りたつ。
「ユイアレス!迎えに来たよ!!鉄格子から離れて!」
「ああ!待っていたぞ!!」
クラウドは空を飛び少し離れた後、ゴッドグランシーズの鎧を纏ったまま体当たりする!!ド~~~ン!!という音で壁が崩れ中に入った!
「ゴホッゴホッ!派手な出迎えだな!!」
その音を聞いて兵士達が振り向く。
「ユイアレス様!何を!?・・・誰だ!!」
「ユイアレス!飛ぶよ!!」
「ああ!!」
クラウドとユイアレスは塔から飛び出し、空を飛んで行く。
「真犯人の証拠は掴んだよ!勘づいていたかも知れないけどマストリア王子とキュアッド王子の共謀だ。」
「やはりそうか・・・。」
「落ち込んでいる暇はないよ!このまま12会議室まで飛ぶ!証拠品を渡しておくからケイシスさん達と、これからの行動を話しておいて!」
「クラウドは、どうする?」
「自分は逃げたマストリア王子を追う!」
「そうか・・・。あまり痛めつけないでやってくれ。あれでも、かわいい弟なのだ。頼む!」
「ユイアレスを殺そうとした者なのに?」
「ああ、きっと何か仕方のない理由があったのだろう。」
「・・・・分かった。」
クラウドはユイアレスを窓から12会議室のバルコニーに届けると直ぐに飛び立った。
「ユイアレス様!?よくぞ御無事で!!」
ユイアレスに気付いたケイシスが飛び込む様に抱き着いていく。
「ああ、済まぬな。心配をかけた!」
「ご無事で何よりでござる!クラウド殿は何処に行かれたので?」
「うむ、今回の犯人であるマストリアを追うと言っていた。」
「やはり!ユイアレス様を罠に掛けたのはマストリア王子でしたか!」
「ああ、正確にはキュアッドもだ。後は、どうやってこの騒ぎを治めるかだな。軍の隊長達は殆どマストリア達に替えられたと聞いておるしな。」
「私達が替えられた隊長たちに真相を説明して軍に戻る様に話します!証拠もあるのです!きっと皆立ち上がってくれます!」
「ふむ!私は今の軍にとって逃亡犯であるし、それしかないな。無理矢理説明しようとすると、無駄な血を流す事になる!宜しく頼んだぞ!・・?そういえばシルティアは一緒では無いのか?」
「少し前に食堂にいる給仕の所へ、ここにいる者達の飲み物を届ける様に指示しに行かれました。私が行くと申し上げたのですが、今の私が行動すると変な勘繰りをされても困るというので。しかし、遅いですねぇ。」
「そうか。」
「では、アトス行きましょう!」
「私も手伝います!ケイシス殿!」
「助かります。スフェナ殿!」
3人は扉の外で監視していた兵士達が付いて来ているが気にせず走っていく!監視役達はどんどん離されていった。
「何て速さだ!・・ハァ・・ハァ・・ハァ・・・!」
///・・少し時間を遡る。クラウドに追い詰められたマストリアは部屋を出た後、いざという時に身を隠す為に作った転送魔法陣がある部屋に向かっていた。
--くっ!もう少しでヴェルタス王国とシルティアは私のものであったのに!!
走っていくと食堂の前でメイドに飲み物を頼んでいるシルティアの姿が見えた。
「シルティア!飲み物を頼んでいるのか!?良かったら私がもう少し先に行った部屋で飲み物を出そう!」
「遠慮いたしますわ!ユイアレス兄様を処刑するなどと言い出したマストリア兄様は、もう私の兄様ではありません!!」
「・・・・そ、それには訳があるのだ!!勿論、私も兄上を助けるつもりだ!」
「本当ですの?」
「あぁ!その先の部屋で説明しよう!!」
「・・・分かりました。」
マストリアはシルティアと更に奥に進み、2重に鍵の掛けられた部屋の扉を開けて中に入った。部屋の内部は他の部屋程広くはなく、普通の書斎に見える。飲み物が入った魔法冷凍庫から冷えたグラスと飲み物を出してシルティアに勧める。
「私は結構ですわ。それよりもユイアレス兄様を助ける話を聞かせてください!」
「勿論、話す!ただ、それは可愛い妹の喉が潤ってからにさせてくれないか?」
「では、頂きますわ。」
シルティアはそれを少しだけ飲んだ。
「飲みましたわよ。聞かせて・・?・・・くだ・・・・・・?」
シルティアは強烈な眠気に襲わて目の前にあった机を伝い床に倒れて行く。
「くくく、眠ったか・・・。お前だけは私のものだ!誰にも渡さん!!」
マストリアは書斎棚の本を二つ取って入れ替える。ガコン!!という音がして床がギギギギギギ!と開いていく。そこには地下に通じる階段がありシルティアを背負うと地下に降りて行った。
地下の床には大きな魔法陣が設置されていて部屋の隅にある魔力供給装置から常に魔力を供給され、うっすらと光を放っている。魔法陣の上にシルティアと共に立つとマストリアは右手の親指にある指輪を外して魔法陣の中心に置いた。
「我らをエリキシの塔へ!!バーハイド・・・・・ヅヒルアオ・・・ビアンヴ・・・・・・・・・・デアーシ!!」
エリキシの塔はバルゴ魔帝国からの魔物や魔族からの侵攻を監視する為に建てられた高さ422㍍の塔である。ヴェルタス王国のバルゴ魔帝国との国境付近に建てられていた。現在はシャアラが開発した砦にある魔力感知システムを使用している為に廃塔となっている。
///・・・少し時間を遡る。
--どういう事だ?マストリア王子を検索したらシルティアも一緒に居る?追い詰められてどんな行動に出るか分からない!急がないと!!
クラウドが風高速移動しながら転送装置のある部屋に入り地下へ降りる。すると、そこでは意識を失ったシルティアを担いだマストリア王子が転送され魔法陣から出ている光と共に消えて行く!
「待て!!」
クラウドは風高速移動してシルティアを取り戻そうと残像を掴むが虚しく消えてしまった。
--くっ!何処に行った!?
クラウドは急いで再度広範囲に検索するがマストリア王子もシルティアも見当たらない!
--ユイアレスに転送先が分かるか聞いてみるしかないな!今どこだ・・・?あそこか!?ん?シャアラ様とグラヌス様もいる?戻られたのか?




