第2話 異世界エイ・デファーリスへ
木の葉に溜まった水が風雲の顔に落ちて意識が戻り周囲を確認してみる。そこは薄暗く深い森の中であった。今まで聞いた事が無い生き物の声が聞こえたり、風雲の知識には全く無い植物も周囲に多く生えている。着ている服は亡くなる前に着ていたスーツ姿のままであった。人が通れる道も辺りには無く、深く茂る草むらや木が密集していて夜でもないのに気味が悪い程の暗さだ。
--さっきのは夢!?ここはどこだろう?夢じゃなければこれからどうしたら・・・。自分が亡くなり母さんは大丈夫だろうか・・?
風雲は考えながら、ゆっくりと立ち上がる。まずはこの気持ちの悪い森から抜け、人の住む町への手掛かりを探すべく歩き出す。
歩くのに邪魔な木の枝や生い茂った胸まで届きそうな草をかき分けて暫く歩いていく。すると風雲は急に背筋に寒気を感じた。
嫌な予感がしたが首を振り、自身に気のせいと言い聞かせて先へ進む。草をかき分けながら更に進んで行くと鋭く赤黒く濁った眼に、身長は177cmの風雲より少し低い160cmぐらいで緑色の肌に草のパンツを着け、手には約20cmぐらいの石のナイフ、鼻は長く額には1本の角が生えている生き物が目の前に現れた。その生き物はジッとこちらを凝視している。
--う~ん?目の錯覚か!?ゲームの世界でいうゴブリン?でいいのかな?って呑気に考えてる場合じゃないって!!逃げなきゃ!!
逃げようとバッと後ろに振り向くと、もう一匹のゴブリンが居て風雲の胸へナイフが迫って来る!2匹のゴブリンに狙われていた様だ!風雲は驚いて足元の木の根に躓いてしまい、後ろのゴブリンの両足首を握った形で尻餅をついてしまう。
--あっ、終わった・・・。どこが運がいいんだよ!!
そう心の声を叫びながら、風雲は降ってくるナイフを避けなくてはと上を向く。すると獲物を既に捕えた様な薄笑みを浮かべ、口の端から血らしきものを流し、2匹のゴブリンがお互いの体にナイフを突き刺しあっている!
その後、2匹のゴブリンはナイフを刺しあったまま、ドサリと地面へ共に倒れ動かなくなった。風雲は音を立てず恐る恐る傍に落ちていた木の枝を拾う。ゴブリンをの頭をつついて死んでいるのを確認すると、それぞれの手に持つナイフを奪っていく。
--う~ん?・・・今のは運が良かったのか?まぁ、しかし今のサバイバル状態の自分にとって、ナイフが手に入ったのはラッキーだよな。石だけどね・・・。
早速ゲットしたナイフを両手に持ち邪魔な草や木の枝を切りながら1時間程進むと、獣道らしき道を見つける事が出来た。
--獣道にしては大きい?けど足跡も沢山あるし・・・。
風雲は獣?魔物?が出るのも考慮したが、そのまま草の中を進むより警戒しながら道を利用して山を降りる方が早いと判断した様であった。
--まぁ、いざとなれば草の中へ飛び込んで隠れよう。
・・・約10分程下ると急にドドドドド・・・・・!!と地鳴り音が聞こえて来る!音はドンドン大きくなり何かが近づいて来ていた。風雲は慌てて道の端に生えている深い草の茂みに飛び込んで、草の中から様子を覗う。
--なっ、なんだあれ!?
角が5本もある3頭の牛のような生き物が向こうから迫って来るのが見えた。風雲は早く通り過ぎて!こちらに気付きませんように!と思いながら潜んでいる。牛?の後から一回り大きい身体をした巨大な狼の様な魔物が牛?を追いかけている。普通の狼と違うのは、その巨体と口から炎の息を吐き、眼は3つで足が6本もあった。体の輪郭及びバランスや頭だけを見ると狼である。
--逃げるか!?どうしよう!
風雲は迷っていたが近づいてくる速さが想像以上に速かった為、気付かれない様に潜むことにした。
風雲は自分の心臓の鼓動が、どんどん早くなっていくのを感じる!風雲を通り過ぎる直前に狼の魔物が牛に追いつき、走る勢いのまま1頭の首に噛みついて振り回す!
そのまま他の1頭に衝突させ、衝撃で飛ばされた1頭が風雲の方へ吹き飛んで来る!
たまたま柔らかいお腹がこちらへ向くのだがボォン!!と衝突し、風雲は体重差により勢い良く吹き飛ばされて行く。
「うわぁ~~~!!」
・・運よく?木々に衝突する事もなく吹き飛ばされていくと、森を抜けた様な感じで少しずつ明るくなって来た。
--もしかして運がいいのなら、このままそっと着地出来て森を抜けれるのかも・・・?
そう思った瞬間!視界が広がり明るさを増したその中で風雲は気付く!足元の地面がないことを・・・。
「うぁあああああ~!!」
足を振り手を振り、無駄なあがきを繰り返しながら山の崖から落ちていく。
--女神様の嘘つき~~~~!!これは流石に死んだな・・。
その時、ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォ~~~~~~!!という音が山全体に鳴り響き、崖の中腹にヒビ割れを起こす!
この地域で地震はほとんど無く、今まで100年に一度ぐらいしか起きなかった地震が起こった様である。しかも今までに無い、かなり大規模な地震であった。
ちょうどそのヒビ割れの中に落ちて行くが、暗さもあって底が見えない。
--いったい、いつまで落ちるのだろう?もしかして、この世界の裏側まで落ちて普通に着地とか!?いやっ!ないない・・・。
風雲は呑気にあきらめと共に考えていると急に落ちる速度が減り、フワッと身体が軽くなる。地面から1メートルぐらい上で宙にフワフワと浮いて止まる事が出来た。風雲の周りには小石等もフワフワと浮いている。よく見ると辺り一帯に小石や砂が浮いていた。地面に足を降ろして周りを見回すと薄ブルーの柔らかな光が周りに充満していて、何処かの建物の内部に居ると風雲は気付く。