第17話 グラディアル帝国への旅 スフェナ前編
「今日は何処まで行きますの?」
クラウドは車を運転しながらマップを確認してみる。
「ギャドリグ公都を過ぎてリクスの町と公都の中間辺りまで走ろうと思っています。」
「そうなんですの?やはりこの車は凄い速さで移動していますのね。」
クラウド達が車で帆を広げ凄い速さで駆け抜けていくのを見た者達が、飛んでいる船を見たと噂が広がっている。実際には地面から30㎝程、上に構築したゴッドグランシーズ道路を走っているだけである。
「そうですね。凄腕の職人さん達のおかげで安心してスピードが出せます。」
「本当に大丈夫ですの?凄腕の職人とはいえ、クラウドが出すスピードを想像してたとは思えませんけれど・・・。」
「大丈夫ですよ。職人さん達、出発する時も自信満々でしたよ!それより今日吸収して貰う魔元核石です。シルティアはグルンガルの魔元核石2個とツインサイクロプスの魔元核石1個でレベル上げ、ユリアは引き続きグルンガルの魔元核石でレベル上げです。」
「ツインサイクロプスの魔元核石!?何万デロもすると聞いてますわよ!」
「そうらしいですね。でも、今持ってるだけでも122個は有りますから気兼ねなく使ってください。」
「・・・クラウドは、とんでもないお金持ちでしたのね。考えてみれば魔物は生み出せるし、必ず倒す度に魔元核石が出るとなれば、いくらでもお金が手に入りますわ。」
「でも今のところ、売る予定は無いですね。カジノで勝ったお金がまだ沢山あるので。」
「はいはい、もう驚きませんわ。いくら勝ちましたの?100万デロですの?200万デロですの・・・?」
「いえ、5000万デロです。」
「「5000万デロですの(ですか)!!?」」
「そうです。勝ち過ぎたのでお金を返そうと思ったのですけど、ユイアレスが貰っておけというので。そんなわけで魔元核石いくらでも使ってくださいね。」
「「・・・・・・・・。」」
「クラウドがいるだけで最強の軍が出来ますわね。でもきっと私には、このレベルの魔元核石は早過ぎますわ。死ぬ事はありませんけれど大量に魔元核石を吸収した時の様に大変な事になります。」
「あ!ごめん!そうだった・・・。シルティアはロアタンクの魔元核石3個に変更してレベル上げで。」
--これからは真眼で確認してから魔元核石の数と種類を決めた方がいいな。
「あと、ユイアレスから一国の軍が強くなり過ぎると侵略の野望を抱く者達が現れて、戦争を起こしてしまう原因となるというので大量に魔元核石を世の中に出すのは控えようと思っています。」
「本当にそうですわね。」
・・・クラウドは順調に走って、お昼になり休憩と共に昼食をとっている。何気なく周囲を警戒する為にマップを開いてみる。すると馬車が2台少し離れた道路をジグザグに疾走していた。望遠でみると馬に乗った野盗達37人に追われている。馬車は矢で穴だらけにされている様だ。
--大変だ!助けないと!
「シルティア!ユリア!2キロメートル先の道で馬車が襲われているみたいだ。助けに行ってくるから待ってて!」
「私達も行きますわ!」
「それじゃあ、急いで車に乗って!」
「「はい!」」
クラウドはマップを確認しながらゴッドグランシーズの道を作り走っていく。
2台の馬車は商人が一人ずつと護衛が2人ずつ乗っていて馬人がそれぞれの馬車を引っ張っている。
「早いぞ!追いつかれる!おい!!お前達!護衛で雇ったんだ!早く何とかしろ!!」
「あんな人数で襲われたら対応できませんよ!」
「役に立たない奴だ!だったら降りろ!!お前達が降りれば馬車が軽くなる!」
「ふざけるな!軽くしたきゃ、あんたが降りろ!」
「何だとぉ~!雇い主だぞ!俺は!」
「雇い主でも言っていい事と悪い事があるだろ!」
「あんた達、もう止めな!それよりウィッド!魔力回復薬さっさと飲んで、ウインドカッターで応戦しな!」
「あぁ!済まない、スフェナ!」
「ヒャッホ~!!お前ら!馬車に一番乗りしたら馬車にある好きな物を一つやる!」
「「「「「「「「「いえぇ~~~~~~~~~~!!」」」」」」」」」」
「お頭!!斜め向こうから変な船が、凄い速さで向かって来てますぜ!」
「ほぉ~~!!ありゃ~~、陸を走る船か!?高級そうだ!南に遠征して来た甲斐があったってもんだ!予定変更だ!!お前ら!向こうの船を襲うぞ!!」
「「「「「「「おぉ!!~~~~~~~!」」」」」」」」
--あれ?こっちに向かいだした?帆を破られても困るし、帆にもゴッドグランシーズを伸ばしておくかな。
「旦那!!野盗共が標的を変えたみたいだ!」
「助かった、そのまま逃げるぞ!!」
「了解!!」
「あんたらクズだね!向こうの船みたいなのから、こっちの状況は見えてる筈だ!それでも向かって来てるって事は、助けに来てくれてるって事だろ!それを標的が変わったからと言って逃げるのかい!」
「ふん!向こうが勝手に助けに来たんだ!依頼した訳じゃない!」
「そうだスフェナ!俺たちの仕事は、この馬車を無事に届ける事だ!!」
「じゃあ、私を降ろしな!!私はクズの仲間はゴメンだね!」
「好きにしろ!!デンドウ降ろしてやれ!」
「スフェナ死ぬなよ!」
「ふん!華々しく散ってやるさ!」
スフェナは馬車を降りると全力で走りながら呟く。
「・・・ベアン・・・村の皆・・済まないな。どうやら帰れそうに無い・・・。」
2台の馬車はスフェナを降ろすと逃げていく。
「どうしますかシルティア?ここも訓練してみますか?」
「そうですわね。ただ、人間が相手となると魔物と違って闘ってからでないと、どのくらいのレベルか分かりにくいですし、慎重に戦いませんと。」
「いえ。」
「分かりますのね・・・。」
「はい、あの頭に鳥の羽を着けた派手なのが1番レベルが高く33ですね。多分ボスでしょう。その他はレベル12からレベル17で平均するとレベル15ぐらいですね。」
「本当にクラウドといると驚いてばっかりですわ・・・。」
--ビックリ箱ではありません。
「私も同感です・・。」
「・・まぁ、その程度でしたら全く問題ありません。私一人でも倒せますわ。」
「一応、訓練ですので簡単では困りますし、こうしましょう。人を殺さない事と中級以上の魔法は禁止という事で。」
「それは大変そうですわね。でも分かりましたわ。」
「私も大丈夫です。クラウド様から頂いた装備があれば大丈夫だと思います。」
「それでは行きましょうか。」
「「はい!」」
クラウドは車のスピードを緩めて止めると、野盗達はそれを取り囲みながら弓矢を構えている。3人が降りるとボスが反応する。
「バハハハハハ!!やったぞ、お前ら!!大金持ちになるチャンスだ!!まさか王国一の美女と言われるシルティア姫様が出て来るとはな!!人質として王国と取引すりゃ1000万デロも夢じゃねぇぞ!!しかも、もう1人も超~~~美人じゃねぇか!!俺の嫁にするから殺すんじゃねぇぞ!!そら行け!!」
「私はクラウド様の妻になるのです!!あなたの嫁にはなりません!!」
「・・ハァ・・ハァ・・・ハァ・・・待ちな!野盗共!私が相手だ!」
スフェナが走って叫びながら近づいて来る。男たちは獲物が増えたとニヤニヤしながら喜んでいる。
--!?なるほど馬車の護衛だった人か・・・。馬車は逃げたみたいだけど助けに来てくれたんだ。レベル15か、フォローしないとな。
クラウドは3人に気付かれ無いよう透き通る様な薄さのゴッドグランシーズを掛けておく。ちなみに薄くはあるが強度はツインサイクロプスの攻撃でも全く傷付かない程度にしてある。
ボスの合図で矢がこちらに飛んでくる。シルティア達には足元を狙って、クラウドには全身を狙って飛ばしてくる。シルティアとユリアは余裕で矢を避けて下級魔法を放っていくが、下級魔法である上に手加減をしている為、盾で受け止められている。それを能力の限界と勘違いした野盗共はもう勝った気でいる。
--遅い矢だなぁ。自分も訓練の為に何かしないとな。う~ん?矢がいっぱい飛んで来てるし弓矢の練習でもしてみるか。
クラウドは自身に飛んで来ている矢を掴んでは、他の攻撃を避けながらゴッドグランシーズで出来た弓でスフェナを狙う野盗の剣を狙ってみる。1秒の間に7本を飛ばして5本目でようやく当たり、剣を弾き飛ばした。
--動く剣を狙うって結構難しいなぁ。まぁでも、コツはもう掴めた。
乱戦になって飛んでくる矢が少なくなると、攻撃を避け地面に落ちている矢を拾いながらスフェナに当たりそうな武器を百発百中で弾き飛ばしていく。
--二人の方は大丈夫そうだな。
シルティアとユリアは手加減しながら盾の届かない足元に魔法を当てて倒す。そこに気絶する程度の魔法を叩き込んでいく。詰め寄っていた野盗共はどんどん数を減らし、呻いた後に静かになる。
「おまえら!しっかりしねぇか!!只の下級魔法しか使えねぇ奴らに何、手間取ってやがる!!魔法を使う奴が手強いんだったら、あの何も出来ねぇ青い奴を狙って人質にしろ!!」
クラウドの動きが速過ぎる為、何もしていない様に見えているみたいだ。その言葉を聞いたシルティアとユリアはクラウドが考えている事を想像して戦いながら笑っている。スフェナは野盗のボスの発言を聞いてクラウドを守るために移動しようと思っているみたいだが、今相手にしている敵がいる為、中々上手く移動出来ないでいた。
--失礼な!ちゃんとフォローしてますって!向かって来ている敵は自分が倒し過ぎると、二人の訓練にならないから逃げてる振りでもしながら散歩でもするか・・。
スフェナが叫ぶ!
「そこの青いの!!足でまといだ!車に隠れて鍵閉めておきな!直ぐに助けに行く!!」
--いや、自分の身を守って下さい・・。
クラウドの強さを十分知っているシルティアとユリアは、その発言が面白すぎると更に笑っている様だ。その笑いを見て馬鹿にされていると思った野盗が怒り出す。
「何が可笑しい!?おりゃあ!!グハッ!」
現在、既に戦える野盗は17人と減っている。ボスの男は4人に傷一つ付けれない事で相手の強さを見誤っていたことに気付き、分からない様に逃げ出そうとしている。
クラウドはそれに気付いてシルティアとユリアに報告する。
--いざとなれば自分が捕まえよう。
「シルティア!ユリア!ボスが逃げようとしてますよ!」
シルティアとユリアは顔を見合って頷く。ユリアは一人ずつ狙うのを止めて、手加減したアイスロックを連続構築して次々と放っていく。シルティアも同様に雷魔法スルドを連続構築して放っていく。
下級魔法でも連続構築は難しい。通常の魔法は魔力の波長と魔力量の調整をしながら魔法陣を描いていくのだが、ただ魔力を放出するだけでなく、決まった詠唱をすることで魔力調整しやすいリズムを刻み精神集中により波長を合わせ描いていくのである。魔法の連続構築は、意識や調整を分散させながら構築していく為、非常に困難である。更に上級魔法に近付くほど、複雑な魔法陣が必要で魔力量と波長の調整が難しくなっている。
それを下級魔法とはいえシルティアは5つ、ユリアは3つ同時に構築していた。それを見た野盗のボスとスフェナはかなり驚いていた。ボスは早くこの場から逃げようとしているのだが17人の仲間は一瞬で倒され、ボスへは合計10の雷と氷魔法が飛んで向かっている。
--いやいや、レベル33でもそれは流石に死ぬと思うよ。
クラウドは急所に当たりそうな魔法の5つをゴッドグランシーズの矢を放ち、効果を消し去った。ボスは残り5つの魔法を受けて馬から落ちる。右足を骨折して足を引きずりながらまだ逃げるのを諦めていない。シルティアは最後の魔法を当てて気絶させた。
「お疲れ様、二人とも。」
「えぇ、でも最後だけは手加減を失敗しましたわ。」
「そうですね、でも他は完璧でしたよ。」
「まだまだですわ。」
スフェナがこちらへ向かってくる。
「私はスフェナと申します。まさか車を助けに来てシルティア姫様にお会いできるとは。しかもその姫様が凄腕の魔法使いだったとはね・・・。意気込んで助けに来た私が恥ずかしいですよ。」
「いいえ、あなたの人を助けようとした行為は称賛されるべきことですわ。ありがとう。」
「そんな!止めて頂けませんか!私は全然役に立っていませんし。」
「それより、これからどうするつもりですの?馬車は行ってしまわれたようですが。」
「姫様、申し訳ありませんが野盗共の乗っていた馬を3頭頂けないでしょうか?」
「それは構いませんが、どうするつもりなのです。」
「ここからリクスの町へ向かう途中に小さなルシャンという農業村があるのですが農業に使っていた山からの川が一週間ほど前に干上がってしまったのです。このままでは村の収入もなくなりみんな出て行かないといけません。私は、冒険者だった父に小さい頃から戦闘訓練を受けていたので、少しでも村の助けになればとギャドリグ公都のギルドで護衛の依頼を受けたんです。ただ、護衛も放棄してしまったので村へ持って帰れる報酬も何もなく・・・。」
「そうですの、それで馬を?」
「はい、少しでも何か持って帰らないと村に戻れません。」
--そうなんだ・・・困っている様だし、リクス方面へ行く途中の村だったら、寄ってみて何とかしてみるか。
「じゃあ、ルシャンまで送りますよ。」
「すまない、でも申し訳ないけど何も出せねぇよ。」
「ええ、大丈夫です。報酬は頂きません。ただ、急ぐ旅をしているので馬は諦めてください。その代わりこれを一つ差し上げます。ギルドに持って行けばお金に換えて貰える筈です。」
「これは何の魔元核石だい?」
「ツインサイクロプスの魔元核石です。助けに来て頂いたお礼です。」
「何だって!?ツインサイクロプスの魔元核石!?何万デロもするって聞いた事がある!あんた!助けに来たけど役に立たなかった私をからかってるんだろ!!」
「え?そんなつもりはないですよ。シルティアも言っていましたが、あなたの行動は称賛されるべきものと自分も思っています。」
「こんな高価なものを本当に頂けるのか!?・・・しかも姫様を呼び捨て・・?あんた・・いや、あなた様は一体何者なんだい?」
「私はクラウドという者です。」
「いや、そうじゃなく・・・。」
「まぁ、それより急ぎますので乗って下さい。」
スフェナ達が乗った後、ストーンロックで野盗を閉じ込め、ユイアレスへ軍に捕えて貰える様に頼んでおいた。
--え~と、ルシャンの村は・・・あった!よし、行こう。
クラウドはマップで村の位置を確認してハンドルを握り走り出す。
「うわぁ~!!あぁ~~~!!何だ!?この車~~~~!速過ぎないか!?」
「気持ちは分かりますわ。」
「・・・・・王都にはこんな凄い車があるんだな。」
「この車はクラウド様専用で1台だけです。」
「そのさっきから気になっているんだけど、クラウド様って一体どういうお方なんです!?」
「クラウド、聞かれてますわよ。」
「まぁ、そんな事はいいじゃありませんか。」
「それより川が干上がった原因は分かっているのですか?」
「ここ最近雨が少なくなってるんで、そのせいじゃないかと・・・。」
--ん~、井戸でも掘ってみるか。でも生活出来てるってことは飲み水用の井戸は既にあるよな。取り敢えず着いてからだな・・・。
・・・1時間ほど走ってルシャンの村が見えてきた。村の門をくぐるが廃村ではないかと思われる程、人の気配はない。スフェナは不安な表情で呟く。
「これは、一体・・・?」
村の中心に近づくとストーンロックの檻に入れられた沢山の死体があり死臭が漂っている。死体には肌のあちこちに赤い斑点があった。さらに檻の周りにも魔物と人と思われる死体が沢山横たわっている。
--何だこれ!?酷過ぎる!!?
スフェナが叫ぶ!
「そんな!?皆・・・何があったんだ!?ベアン!!レルニア!!居ないのか!!」
その時、ストーンロックで閉じ込められていた積み重なった死体の中で一人の男がゴボッ!と血を吐き音を立てる。
--!?誰かまだ生きてる!?
「エターナルヒール!!」
クラウドはストーンロックの檻を壊しながら、辺り一帯にエターナルヒールを掛ける。死体にあった赤い斑点が消えていく。
クラウドが声のあった場所に近付いていくと、一人の男が立ち上がりクラウドを睨みつける。クラウドには睨みつけられる理由が一切分からない。
「あの、大丈夫ですか?」
「お前か!~~~!!俺を治しやがったのは!!」
男はクラウドの襟もとに掴みかかって揺すりだす。スフェナがその様子を見て問い掛ける。
「ちょっと待て!!お前ブラントか!?その人はお前を助けてくれたんだぞ!!一体何があったんだ!ベアンを知らないか!?」
男はクラウドを放して泣き叫びながら答えだす。
「ハ・・・ハハハハハ~~~!!俺を助けた!?俺を助けただと!・・・・いいだろう!教えてやる!スフェナ、お前一週間に川の水が干上がったのは知ってるよな。」
「ああ、それが理由で私は夫のベアンを置いて出稼ぎに出たんだからな。」
「お前が出た後、村の飲み水にしていた井戸水も干上がったんだ・・・。俺たちは村長のミクボルさんと話し合って村を捨てるしかないと決めた。その時だ、村を訪ねて来たピラスフィアという一人の女が訪ねて来た。そいつが言うには井戸に、手に持っているこの黒い心臓を投げ込めば、また水が溢れて来ると言ったんだ・・・。」
--黒い心臓!?前にデントルが魔物に変わる時に使っていたものか?
「俺たちは疑っていたが、そいつのいう事が本当かどうか確かめる事にした。それが地獄の始まりだった・・・。そいつの言う通り、水は湧いてきた。俺達は騙されているとも知らず、女に感謝しながらその水を使って生活していたんだ。」
「その二日後だ、起きてみると全身に赤い斑点が現れだして力は抜け身体に激痛が襲った。村の者は全て倒れ、俺の妻ルトアと息子のドットも目の前で倒れ苦しんでいた。やがてどこからともなく黒ずくめの者達がやってきて俺たちを今いる広場まで移動させると、魔物に変化しないものはこの檻に入れられ、その他の者と子供たちは檻の前に置かれた。」
「そして女が笑いながら天に向かって『魔神様この者達の悲しみと苦しみ、憎しみ、命を全て捧げます』と叫び出した。ルトアは檻の外で足元から魔物に変わっていった!首下まで魔物化すると意志と反してドットを襲いだした!ルトアは泣き叫びながら息子を殺して、俺と息子に謝りながら舌を噛んで死んだんだ!!俺は何も出来なかった!!何も出来なかったんだ!!!今でもルトアとドットの苦しんでいる姿が目にこびりついて離れない!!折角もうすぐ死んで会えると思っていたんだ!!分かるか!お前は俺を助けたんじゃない!俺に地獄を生きろっていうのか!!」
--そんな!!酷過ぎる!!
クラウドは前世で沢山の辛い目に遭って来た為に人が悲しんだり苦しんだりしていると、自分がもしこんな目に遭ったらと他の人よりも感情移入をしてしまう。今回もブラントに起きた体験を想像して心が引き裂かれる様な感情が溢れだし膝を落として泣き崩れてしまう。
「うぅ~~~!何で・・・何でこんな酷い事が出来るんだ!!何で・・・うわぁ~~~!!」
「クラウド。うぅ・・・・・・・。」
「クラウド様。う・・・うぅ・・・・。」
泣き崩れたクラウドの両肩にシルティアとユリアが、しがみついて泣き出す。ブラントは、ふらふらと檻を出て行きながら呟いた。
「スフェナ済まないな・・・ベアンも魔物化しているのを見た。その辺に倒れている魔物のどれかがベアンだ・・・。」
スフェナも泣きだす。
「そ・・・そんな、ベアン・・ベアン・・うわぁ~~~!」
・・・・時間が少し過ぎてクラウドは泣きながら立ち上がり、魔法で穴を掘っては一人一人の墓を作って埋めていく。シルティアとユリアも手伝い、最後にスフェナも立ち上がり埋めていく。
--もっと・・もっと!強くなって一刻も早く魔神を倒す!!
全員分の墓を作り終えると、スフェナが土下座しだす。
「クラウド様!!ツインサイクロプスの魔元核石がまだあったら譲って欲しい!対価は命でしか払えないけど生きて戻ったら、クラウド様の為に一生働くよ!お願いします!!」
「どうするつもりですか?」
「ツインサイクロプスの魔元核石を吸収してピラスフィアを殺す!!ベアンの・・・みんなの仇を討つ!もし他の村も狙っているなら、ここから北東にある1番近いテラクの村に奴はいるかもしれない!!」
「そんな!あなたのレベルでは体調が悪くなるどころか、一個吸収しただけでも死んでしまいますわよ!」
クラウドは無言で真眼スキルを使用してスフェナを見ながらツインサイクロプスの魔元核石を3個出した。
「クラウド!!スフェナを殺す気ですの!!?」
「スフェナさん、今からあなたの周りにヒーリアルデアエリアという魔法を構築します。魔元核石を吸収している間は決して外に出ない事!一個を吸収したら最低2時間は間をあけて吸収する事!それを守れますか?守れなければあなたは、仇を討つ前に亡くなってしまいます。これらを守ったとしても凄い激痛と苦しみが、あなたを襲うと思われます・・・それでもやりますか!?」
「やる!!お願いします!!」
「分かりました・・・あなたが今から吸収出来るのはヒーリアルデアエリアを掛けたとしても、きっと4個が限界です。その後の一週間は何も吸収しないで下さい!・・・ヒーリアルデアエリア!!」
スフェナは一つ目の既に持っていた魔元核石を吸収しだす。
「ぐわぁ~~!!・・ぐぐ、げぼぉ!!ぎゃあ~~~~~~~~!!」
魔元核石エネルギーが襲い掛かりスフェナは激痛で叫び出す。クラウドは見ていられず止めようとする。
「スフェナさん!!やめませんか!王国軍にピラスフィアの討伐をして貰いますので!」
「絶対!・・ぐぼ!・・やめない!!・・・クラウド様・・急いでるんだろ・・・ぐぐ・・もう行ってくれ!・・・ぐぶ・・借りは生きてたら・・必ず・・・返す・・!ぐ・・・。」
「スフェナさん!!・・・4個の魔元核石を吸収しきっても悪い予感が止まりません!なんとなくで申し訳ありませんが、あなたに役に立ちそうなイヴェグスの魔剣と、この玉を念の為に持って行ってください!この玉はある魔法をイメージ0の状態にして凝縮させたものです。他の人では使えないかもしれませんがここに置いておきます。」
--ベアンさん、スフェナさんを見守ってあげて下さい・・・。
クラウドは涙を流しながらイヴェグスの魔剣とゴッドグランシーズを凝縮した玉を置いた後、シルティアとユリアを連れて車に乗り込む。
クラウドも何故この玉を創ったのか分かっていない。ただ、スフェナの身を案じた時、創らないといけないと思ってしまったのであった。
車で村の入口へ向かうと、ブラントは村を出てすぐ傍の木で首を吊って亡くなっていた。クラウドは涙を浮かべながらブラントを降ろし、お墓を作って手を合わせる。
--うぅ・・・必ず魔神を倒します!!
クラウドは車を走らせながら考えていた。
--もしかして魔神が強くなったのは人の苦しみや悲しみ、命を糧にして力を増しているのか・・・。グラディアル帝国の戦争もそれを狙っているのなら絶対、止めてやる!!
クラウド達はスフェナの事が気に掛かりながらも車を進めてリクスの傍まで来ると車を停めた。
「どうしましたの?」
「すみません、少しだけ待っていてください。念の為、井戸を確認してきます。」
「そうでしたわね、ごめんなさい。クラウドの婚約者が住んでますのね。今回は挨拶の時間もなさそうですし、ここで待っていますわ。」
クラウドは町の井戸や全ての水を鑑定した後、再び走り始めた。
「どうでしたの?」
「問題無いみたいです。こちらへ向かう途中も広範囲に調べてましたが、ピラスフィアは居ませんでした。やはり小さい村を狙っているようです・・・。」
リクスとレイティス山の中間辺りまで車を進めてキャンプをする。いつもの様に家などを創った後、離れた場所にゴッドグランシーズの檻を作って訓練する。
--スフェナさんは、大丈夫だろうか?自分がピラスフィアを探して倒しに行った方が良かったんだろうか・・・?でも早く戦争を止めないと魔神の力が強くなれば、もっと犠牲者が増えるかもしれない。くそっ!もっと・・・・もっと強くならないと!!
クラウドは今までの数倍の数の魔物を生み出して高速移動しながら訓練していく。自分に鞭を打つようにゴッドグランシーズの防御もせず避ける隙間の無いほどの大量の魔物と戦っている。まるで村人たちを救えなかった自身に罰を与えたいと思っているように、身体全体から血を流して傷だらけとなっていた。それでもレイティスから貰った装備には一切の損傷は無い。
しばらくして、シルティアとユリアが料理を終えてクラウドを迎えに来る。
「クラウド!!何してますの!?」
「クラウド様!?」
シルティア達が迎えに来るとクラウドは自身の身体を魔物と自分の血で真っ赤に染めていた。200メートル四方の檻の床には魔物の死体と魔元核石で埋め尽くされている。
「あぁ・・・ゴメン。もうそんな時間が経ってたんですね・・・。」
「ゴメンじゃありませんわ!!なんて無茶な訓練していますの!!あんな事があったんですもの・・・悲しくて不安な気持ちはわかりますわ!でも・・・でも!!クラウドが無理をして傷付いたら私達が・・もっと・・・う・・・もっと!悲しくなるのを忘れないで!!うわぁ~~~!!」
「・・・クラウド様、うぅ~~~!!」
檻から出て来たクラウドに二人がしがみつく。
「ゴメン・・ゴメンよ・・・。」
--何をしているんだ自分は!!二人をまた悲しませてしまうなんて!大切な人の気持ちを守れる心の強さも身に着けないと!!
クラウドは自身の傷をエターナルヒールで癒して汚れた体を魔法で洗い流し、3人で食事の前にお風呂に入る。晩御飯を食べ終わり、いろいろな事が起きて遅くなった為、寝る事にした。
二人に挟まれながら眼を閉じて横になっていたクラウドだがスフェナが気になり眠れない。クラウドは二人が起きない様にそっと起きる。心配させない様に、近くで音が出ないような広い防音部屋を作り、その中で通常の鉄の剣を振り出す。暫くするとシルティアとユリアが起きて部屋に入ってきた。
「クラウド、寝られませんの・・・。」
「ごめん、起こしてしまった?」
「いいえ、ユリアも私も寝られませんの。」
「そうですか・・・じゃあ、今日は皆で徹夜特訓と行きますか!勿論、無理をしない程度で。」
「そうですわね!」
「はい!」
檻を作って魔物を出し、シルティアとユリアの特訓とクラウドの特訓を交互に行っていった。クラウドは訓練しながらもスフェナの身を案じ、亡くなったスフェナの夫ベアンへ祈りを捧げる。
--ベアンさん・・・スフェナさんに力を貸してあげて下さい・・・。
・・・明け方、眠気が襲って来た為に1時間ほど仮眠を取ってから車を走らせていく。
--もうそろそろエステナ神聖国との国境だな。向こうのエステナ神聖国には悪いけど検問所から離れた所に橋を架けて渡らして貰おうかな、時間が惜しいし。
「クラウド、国境はどう致しますの?」
「自分も、ちょうどその事を考えていました。国境の検問では時間が掛かると言うので、他の離れた場所から突破します。」
「見つかると重罪ですわよ。」
「時間が惜しいし、世界を守る為です。許してもらいましょう。」
「そうですわね!世界を守る為ですものね。分かりましたわ!」