第14話 臨時闘技大会 前編
床にも天井にも芸術家が描いた様な模様の広い廊下を30分程進んで、やっと会議室へ到着した。
--何処に行くにも広すぎて、大変だなぁ。
ケイシスとアトスが扉を開き、ユイアレスが国会議事堂の様な会議室へ入っていく。そこには12名の王国を支えている大臣達とユイアレスとは腹違いの王子二人が、ユイアレスに向かってお辞儀をして迎えている。
ヴェルタス王国の日本の国会議員とも言える役職者は1073名いるが、この12名はそれらを束ねるトップ達であった。
「それでは皆の者、席に着いてくれ。会議を始める。この会議では皆にも通知しておるがグラディアル帝国の他国侵攻を止める為、派遣する王国代表を決めようと思っておる。」
「ユイアレス王子、その前に発言をお許しください。」
「何だ、まず座ってから聞こう。皆の者も座ってくれ。」
クラウドはケイシスの誘導でユイアレスの隣に座っている。
「ユイアレス様、このような大事な会議に部外者を連れてきて頂いては困ります。」
「それはクラウドの事を言っておるのか?クラウドは煌輝紋章石ホルダーであるぞ!口を慎むがよい!」
「そうでございましたか、失礼いたしました。しかし、そのことも問題でございます。王国を支える私達の上にポンポンと、お偉い方を作られては指揮系統に不具合を生じかねません。」
「私はポンポンと作った覚えはないしクラウドは欲望とは、かけ離れた男であるぞ。更にあの魔将軍ガンギスを倒し、ゾリンペル砦を守った英雄でもある。」
「申し訳ありませんが、我々は見ておりませんので。」
「私が嘘をついていると申すのか!?」
「その様なことは申し上げておりません。ただ、我々にもその煌輝紋章石ホルダーたる実力の程を示して頂きたく思っております。」
「この者達の言う通りです、兄上。煌輝紋章石ホルダーともなれば王と同じ権限を持つものです。私からも実力をお見せ願いたく思います。」
腹違いの弟、マストリア王子が言葉を発すると12名の大臣達がウンウンと頷いている。
「・・・分かった!それでは臨時の闘技大会を行うとする。そこでクラウドと闘う、お前たちの自慢の配下を連れて来るがよい!もし、クラウドに勝てるような者がおり、その者が王国のために働くというのであれば、その者と主である者に煌輝紋章石を与えても良い!それでよいな!」
「「「「「おぉ~~~~~~・・・。」」」」」
「兄上それで良いのですが一週間の猶予と、こちらは1チーム5名まで許して頂きたい。」
「どういう事だ?クラウド一人で連戦する上に5人を相手にせよと申すか!それでは不公平過ぎるではないか!」
「煌輝紋章石ホルダーであらせられるシャアラ殿やグラヌス殿であれば、そのぐらい造作もないはず。兄上はそう思われませぬか?」
「ぐぬぅ~・・・。」
ユイアレスの表情を見て、マストリア王子ともう一人の腹違いの王子キュアッド王子がほくそ笑む。
--兄弟で仲が悪いのかな。隙があれば第一継承者を引きずり降ろそうっていう感じだな。・・・よし!ユイアレスの為に頑張ってみるか。
「自分は構いません。ユイアレス王子の目が正しい事を証明致します。」
その言葉を聞いた重鎮たちは、周りに聞こえないように「生意気な」や「うまく行けば・・・」等と呟く。
「分かった!ただし闘技大会は二日後だ!事は急を要する。それ以上文句が出る様であれば、この話は無かった事にして、私の権限でクラウドを代表として派遣することを決める!よいな!」
引きどころと感じたのか、二人の王子と重役たちは無言で頭を下げて了解する。
「それでは会議を終了する。」
ユイアレスが立ち上がりケイシスとアトスが扉を開けたため、クラウドも立ち上がり退出する。歩きながらユイアレスは怒っていた。
「全くアヤツらは、この代表として向かうことがどれだけ急を要し、かつ危険であるかという事を認識できぬとは困ったものだ!自身の王国内での地位向上の手段と思っておるのだろうな。そのような奴らでは戦争を止めるなど到底出来ぬよ!クラウド面倒ばかりで済まぬが宜しく頼む!」
「ユイアレス・・大変みたいですね。もし良かったら煌輝紋章石を返却しますよ。もちろん戦争を止めにも向かいます。それなら直ぐにグラディアル帝国に向かえるし。」
ユイアレスは、それを聞いて落ち着き、クラウドの肩をポンポンと叩いている。
「気を遣わして済まぬな。ただ、そのような事は出来ぬ。クラウドは私の友だ。アヤツらがクラウドをこれ以上標的にするのであればもう許さぬ。反撃を開始する事になるだろう。それよりもこれから飲みに行かぬか。クラウドに奢って貰う約束であったしな。」
「飲みにって・・昼に王子が町に出るとパニックになるのでは。」
「勿論、変装して顔も隠して出掛ける。街にお忍びで出掛けた時はアレスと名乗っておる。クラウドもそう呼んでくれ。変装してくるので城の非常口で落ち合うとしよう。後でケイシスに案内してもらってくれ。」
「分かりました。じゃあ、シルティア様の様子を伺った後そこに向かいます。ケイシスさん、宜しくお願いします。」
「はい!何なりとお申し付けください。」
--グラヌスさんとの闘いを見てからケイシスさん・・・自分への態度がかなり変わったな。いやぁ、良かった。いつまで睨まれるのかと思ってたけど。
「ありがとうございます。」
クラウドは移動してシルティアの部屋の前に着くと楽しく笑いあっているユリアとシルティアの声が聞こえてきた。
--良かった。
クラウドはノックする。
「クラウドです。入って宜しいですか?」
「どうぞ、お入りになって下さい。」
「失礼します。どうですか?身体の具合は。」
「動かなければ痛くありませんわ、学校も休みましたし。」
「学校!?学校に通われてるのですか?」
--もしかしてユリアより若い!?
「そうです。今18歳で2年後の卒業予定でしたが、もう通うつもりはありませんわ。あなたに付いて行くと決めましたし。」
--ユリアより一つ年上なんだ。
「シルティアはそれで良いのですか。」
「はい、どうせシャアラ様に教わることに比べれば大したことがない授業ですわ。シャアラ様は基本も大事だから通えと言われましたので魔法騎士学校に入ったまでです。」
「そうなのですか・・分かりました。あっ、話は変わるのですが今からユイアレス王子に飲みに誘われているんです。行っても構いませんか?」
「そうですか。お兄様と羽目を外し過ぎない様、お願いしますわ。それでは、私とユリアにお出かけ前のキスを・・。」
「はい、チュッ・・・チュッ。それでは行ってきます。」
「朝帰りは駄目ですわよ。今日の晩はユリアを可愛がってあげて下さい。」
ユリアが顔を赤くする。
「シルティア様・・・。」
「分かりました。」
クラウドは部屋を出るとケイシスに非常口まで案内してもらう。
「このドアを開けた所になります。」
「有難うございます。」
「いえ、ユイアレス様を宜しくお願いします。」
--そうか、お忍びだからケイシスさんとアトスさんは行かないのか。
「分かりました。」
クラウドがドアを開けると、そこには所々破けた服で、顔には包帯でグルグル巻きになったユイアレスが居た。目と鼻と口だけ明いている。
「あぁ、クラウド来たか。それでは行こう。」
「お待たせいたしました、凄い格好ですね。」
「あぁ、誰だか分からぬであろう。」
「分からないけど目立ってますよ。」
「そうか、クラウドには負けるがな。クックックッ。」
--・・・。
クラウドとユイアレスは城を出て街の繁華街へと向かっていく。
「ユイアレス、気付いてますか?」
「あぁ、つけて来ておるな。城から出た所からだ。放っておくが良かろう、私とクラウドを傷つけれる者がおればスカウトしたいくらいだ。」
--確かに王子も、さっき歩きながら聞いたらレベル72だって言ってたしな。
細い路地を抜けて大通りへ抜けたところで急にそれは聞こえてきた。
右手からは女性の声で「誰かぁ~~~~!ひったくりよ!その男を捕まえて~~!!」と声が上がる。左手からは男性の声で「誰かぁ~~!子供がさらわれた~~!助けてくれ~!!」と声が上がる。
「クラウド、お前は左手を頼む!後で先程話したレストランバーで落ち合おう。」
「分かりました。」
クラウドは男性の下へ急いで走っていく。人混みが激しい為、他の者に怪我をさせてしまわない様に風高速移動は使っていないのだがレベル65の為、普通に走ってもかなり速くなっている。人混みで通れそうにない場所は壁の所々にゴッドグランシーズで足場を作って移動していく。声がした場所に着くと声を上げた。
「子供をさらわれた人は、どちらですか~~!助けに来ました~!」
「私です!助けてください!息子が、息子が向こうに!急に殴られまして!」
男は額に当てているハンカチを押さえながら話している。
「落ち着いてください。」
「その息子さんを誘拐した者の特徴と、向かった方向を教えてください。」
「目の下にクマがあって、20センチメートルぐらいのナイフを振りかざしていた30代の男です!向こうの建物の裏道に向かっていきました!」
「分かりました!危険ですのでここで待っていてください。」
クラウドは建物の裏道へ移動して一本道を走っていく。少しして広まった場所で行き止まりとなる。
--行き止まりなのに誰も居ないなぁ。んっ?あそこの建物に扉がある。
扉を透視してみる。すると9歳の男の子を30代の男性が首を羽交い絞めにして拘束している。左手にはナイフを持っていた。
--急がないと!あれっ?何かこの二人、顔が似すぎてない?
鑑定してみると家名が同じであった。
--親子?という事は狂言か?二件も事件が重なるのは少しおかしいと思ってはいたけど。どうするかな?でも自分みたいに父親から虐待されている可能性もあるか・・・様子を見てみよう。
クラウドは扉を開けて中に入っていく。
「近寄るな!近寄れば、コイツがどうなっても知らないぞ!そこのお前!そのテーブルにある瓶の液体を飲め!そうすれば、この子供を解放してやる!」
--何だ、この瓶?鑑定っと・・中身はドソソアブの身で作った痺れ薬ねぇ。遅効性の痺れ薬で翌日から一週間ほど、身体に痺れがでるのか・・・なるほど、これは闘技大会で自分に勝つために誰かが仕組んだかな?飲んでもいいけど、全く効かないよ。状態異常無効スキルがあるし。
「何、ボォ~っとしてやがる!さっさと飲まねぇと、コイツがどうなっても知らねえぞ!」
男は羽交い絞めにしていた腕に少し力を入れる。
「とうちゃん、痛い!」
--あっ!今、父ちゃんて言っちゃった。
「馬鹿・・・そうだぜ!コイツの言う通りこのナイフが子供に到!着!すると痛いだろうよ。」
--かなり無理したね・・・。
「早くしろ!」
「もういい!そのくだらない芝居は何だ!お前たちに任せた私が愚かであった。」
階段を5人の男が降りてきて、一番前の魔法の杖を持った男が声をかけてきた。
「どうも初めまして。あなた様にはどうしても、その薬を飲んで頂かなくてはいけません。まぁ、飲んで頂ける様に致しましょう。」
男は魔法を唱えだす。横の覆面を被った4人は、それを邪魔されない様に剣で威嚇している。
--さて、調べたらレベルも23で低いし大した魔法でもなさそうだな。一瞬で全員倒すことも出来そうだけど、取り敢えず魔法だけ覚えさせて貰おうかな。
クラウドは真眼を発動して眼の瞳孔が銀色に変わる。男はストーンロックという魔法を唱える。するとクラウドと瓶を置いてあるテーブルを囲むように石の牢屋が出来上がっていった。
「ハハハハ、これで貴方には何もできませんよ。その石牢は今まで誰も抜け出せた者はおりません。観念してその薬を飲みなさい、心配しなくても死ぬことはありません。殺さぬように言われてますのでね。それとも暫らく、そこで過ごされますか?」
--えっ?これ牢屋なの?こんなのでよく破られなかったなぁ。普通に叩けば壊れそうだけど。
「さて、それでは・・・この間抜けどもを始末しませんと。」
「ヒィィ~!たっ、頼む!金は返す!助けてくれ~!それがダメなら子供だけでも助けてくれ、子供は何も分かっていないんだ。」
「そうはいきませんな。」
--まずいな、ストーンロック!・・・うんうん、せめてこのぐらい頑丈に作らないとな。
クラウドは先程覚えたストーンロックを無詠唱で構築する。魔法使いと4人の男は頑丈な石牢に囲まれ閉じ込められる。親子はその隙を見て扉から逃げ出して行った。
「なっ、何だと!これはストーンロックの魔法!?しかも無詠唱で!流石ですな、あなたも覚えていたとはね。でもどうするのですか?あなたが解除しないと、私も解除いたしませんよ。」
--今、覚えたばかりです・・・よっと!
クラウドは牢屋をゴッドグランシーズの手甲で軽く殴ってみる。ドゴォ!という音と共に牢屋が砕ける。
「そんな馬鹿な!素手で砕くなど。魔法使いでは無かったのか!?」
「さて、黒幕さんの名前を教えて頂きましょうか?」
クラウドが問い掛けると傍にいた4人が魔法使いを剣で突き刺す!その後、自らの首を躊躇いもなく斬って亡くなった。
「グボォ!・・・そんな、デ・・・さ・。」
「なんて事を!エターナルヒール!」
--だめか・・・もう亡くなってる。黒幕は酷い奴みたいだな・・・。4人は操られてたのかも。もしそうだとすれば、かわいそうに。真眼か鑑定で4人を確認すれば助けれたかもしれないのに、ごめんなさい・・・・。
クラウドは身元確認してみる。魔法使いは第五魔法軍、第三グループ隊長フェスタト・ドロイという者の様だ。その他の者は剣騎士軍見習いの四人であった。装備や持ち物も鑑定してみるが黒幕に繋がりそうな物を持っていない。
--ダメか・・・。あの親子もドロイに雇われてただけみたいだったから、追っても何も出てこないだろうな。王子と合流して相談してみるか。
クラウドは待ち合わせのレストランバーに急いで向かった。店に着いて中に入ると一階はレストランで二階がバーで賑わっている。
--確か2階で待ち合わせだったよな。王子は、え~と・・・いた!
ユイアレスは2階のカウンターの1番奥に座っており、クラウドに気付いて店員にカクテルを追加注文している。
「アレス、お待たせしました。」
「あぁ、クラウドどうであった。子供は無事か?」
「それが、狂言誘拐でした。」
「やはりそうか。私の方もひったくりを捕まえようと追っていったのだが、女の言う者など何処にもおらぬ上、戻ってみると女も消えていた。私の方は囮だったのであろう。」
「そうなんですか・・・。どうやら狙いは闘技大会に出る私の様です。しきりにドソソアブの痺れ薬を飲ませようとしていましたし。」
「まさか、飲んだのか!?」
「いえ、飲んでません。飲んでも私には効きません。状態異常無効スキルがあるので。」
「何!?耐性アップなら知っているが、そのような無効にするスキルなど聞いた事がないぞ。さすがクラウドだな。もしや、どこかの王族であったのか?」
「いいえ、どうしてですか?」
「この世界の王族は、殆どが毒殺等の対策で状態異常耐性アップスキルを物心つくと直ぐに覚えさせられるのだ。」
「そうなんですか。」
「私にとっては辛い思い出だ・・・。」
--?
「第一後継者として生まれた為に、沢山の耐性スキルを覚えるまで魔元核石を吸収し、それを続けさせられるのだ。それが原因で吸収しきれなかったエネルギーにより気持ち悪くなる。何十回吐いた事か!いや、済まぬな。このような席で。」
「いえ、大丈夫です。大変だったんですね。」
--やっぱり、無理矢理吸収し続けると体調が悪くなるのか。自分が沢山の魔元核石を吸収しても平気なのは同化したレイティス様の力で身体に変化が起こってるのだろうか?
「それより、その犯人はどうした?」
「リーダー格の一人と何かで操られていた4人の男による犯行だったのですが自分に敵わない所を見て、4人の男がリーダー格の男を殺して4人も自らの命を自身で絶ちました。」
「そうか、それでは遺体は、まだそこにあるのだな。こちらで調べておく。こうなっては闘技大会を中止した方が良いか・・・。」
「いえっ、予定通りに行きましょう。これほど酷い奴です。大会中にも何かしらの妨害を仕掛けてくるかもしれません。もし、即効性の毒薬なりを出してくるのであれば、わざと、皆さんが見える所で飲むようにします。そのとき笑った者が居ればその者が怪しいと思われます。」
「もし、惚けるようであれば自分が残した薬を飲んでもらいましょう。毒と知っていれば拒否するし、知らなければ飲もうとするかもしれません。その時は飲むのを止めます。」
「ふむ、クラウドも策士であるな。毒を出してくれば、その様にしよう。だが、十分に気を付けてくれ。」
「はい。」
「それよりクラウド・・その敬語、そろそろ何とかならぬか。私には幼少から仲のいい者はおるが王子と言う立場故、同じ年齢ぐらいの友がおらぬでな。頼む!この通りだ。」
王子はクラウドに頭を下げる。
--そうか・・・王子も孤独だったのかな。
「分かった、アレス。じゃんじゃん飲もう!」
「流石、ミラクルブル~!クックック。」
--やっぱり知ってたのか。お笑い要員の友達じゃないよね・・・。
「ユイアレス王子様、何を仰っているのでしょうか?」
「いやっ、済まぬ!済まぬ!そう怒るな。私は格好いいと思うがな。」
「だったらあげます。」
「いや、遠慮する・・・ハハハハハ!」
顔を見合いながら二人で笑いあう。
「「ハハハハハハ・・・・・!」」
・・・楽しい時間が過ぎ、仲が良くなった二人で肩を組みながら城へ戻った。
「シルティア、ユリアただいま。」
「「おかえりなさい。」」
「どうでありましたの。」
「楽しかったですよ。」
「その席に女性は居なかったのですね。」
--心配だったのかな。
「いませんけど。」
「ヤキモチではありませんわよ。第一夫人として、これ以上夫人をポンポン増やさないように見張っているのですわ。」
--自分は増やそうと全く思ってませんよ。周りが勝手に増やすんです!
その後、ユリアが「私はヤキモチも焼きます・・。」というとシルティアも反応する。
「私だって!・・・。とっ、とにかくそういう事ですわ。ご飯は食べてらしたの?」
「はい、食べて来ました。昼食と夕食兼用という感じでしたけど。」
「それでしたらお風呂に入ってらして。別室にクラウドとユリアの部屋を用意していますから、今日はそこで寝てください。お休みのキスは私にも忘れてはダメですわよ。」
「分かりました。あと、王都に家を買ってますので、お身体の具合が良ければ明日それを見られますか?」
「そうなんですの!?是非、見ますわ!」
クラウドは王宮の50㍍プールより広い豪華なお風呂に入って出て来る。
--あ~、気持ちよかった。ユリアはまだみたいだな。あんな大きいお風呂が王様専用風呂と合わせて4つもあるなんて流石、王宮だな。
「お待たせして申し訳ございません、クラウド様。」
「いやっ、大丈夫。さっき出て来たところだから。ユリアは先に部屋に戻っていてくれる。シルティアの所に行ってくるから。」
「分かりました。」
・・・クラウドはシルティアにお休みの挨拶をしてユリアの待つ部屋に戻る。
「ユリア・・・いいかい。」
「はい、お願いします・・・・あっ・・・・ん・・・・・・。」
・・・時間が過ぎ睡眠をとり、賑やかなノックの音で次の朝を迎える。カンカンカン!
「クラウド!ユリア!起きなさい!屋敷を見に行きますわよ!」
「おはようございます、シルティア。早過ぎないですか?」
「何を言ってますの。早く用意をして下さい・・・チュッ。」
「分かりました、でもシルティアはその格好でいくのですか?ユイアレスは変装してましたけど。」
「馬車に乗れば誰だか分かりませんわ。でもそうですわね・・・クラウドと腕を組んでデートもいいですわね。ちょっと待ってらして、着替えて来ますわ。」
少ししてシルティアが戻ってくる。庶民の服に口と頭に包帯を巻いてある。口の部分は飲食用に切り込みを入れている。シルティアとは分からないものの、超美人であることは隠せていない。
「どうかしら、クラウド。分かりませんこと?」
「え~と、シルティアとは分かりませんけれど。まだ目立ってはいますよ。」
「クラウドには負けますけどね、フフフ。」
--んっ、間違いなく兄妹だ。
「どうせ目立っているのですもの。これで構いませんわ。」
クラウドの右腕をシルティアが陣取り、腕を絡ませてくる。
「クラウド様、シルティア様・・私も宜しいでしょうか?」
「良いですわよ。左が空いてますわ。」
「いいですよ。」
--どうせ目立ってるしね。
クラウドは両サイドを超美女に挟まれながら道を歩いて行く。周りの男たちは羨望のまなざしで見てくる。何人かはこちらを見過ぎて人や壁にぶつかっていた。
「フフフフ、まさかこうやって男の人と街を歩く日が来るとは思いませんでしたわ。」
「でも、良く城の人の許可が出ましたね。」
「煌輝紋章石ホルダーのクラウドと一緒に行くことで了解を得ましたの。」
「そうですか。」
クラウド達は町を散策した後、流石に歩いて屋敷までは遠いので馬人族の経営する馬車屋で馬車に乗ることにした。約一時間ほどで到着して家に入る。
「素敵ですわね!いずれ私もここでクラウド達と過ごすことになるのね。」
「あれっ?明かりが消えた?」
「畜魔道機の魔力が無くなった様ですわね。」
「クラウド様、これほど大きい屋敷の畜魔道機ですと大量の魔力が必要となります。多分、予約が必要かと・・・。」
「まぁ、ちょっと応急処置として魔力を注いでみるのを試してみようか。」
クラウド達は畜魔道機の場所へ向かう。到着すると手動で注ぐ場所に両手を置いてみる。
--前に壁を通り抜けた感じでいいのかな?
クラウドが手を置いて魔力を注ぎだした瞬間、畜魔道機の満タンを知らせるブザーがなる。畜魔道機の側面に付いているメーターも満タンを表示している。
--え?もう満タン?
「シャアラ様も言っておられたのですけど、改めてクラウドの魔力の凄さを感じますわ・・。」
「本当に凄過ぎます。」
クラウド達が屋敷の中へ戻ると明かりがついていた。
--畜魔道屋いらずです。
「そろそろお腹が空いてきましたし、どこか美味しい店を探しましょうか?」
「そうですわね、私はこの辺りは詳しくありませんのでクラウドに任せますわ。」
「自分も詳しくはないのですけど、お店は近くに沢山あるみたいですから行ってみましょう。」
少し歩くとお洒落なレストランや鳥肉専門料理店、麺類の店、カフェ等の行列も出来るような店が沢山あった。
「ん~、どこもかなり混んでいるみたいですね~。」
--戻ってダウゴウラの蒸し焼きにでもするかなぁ。んっ!?何故だか分からないけど、ここ美味しいかも。
クラウドが見つけたお店は客が誰も入っていない創作料理店のログログという古臭い店でした。
「あの、ここに入ってみませんか?」
「誰もお客が入ってませんわよ。それなら真向かいにある大きな肉料理専門店の方がいいですわ。行列も出来てますし美味しいと思いますの。」
「私も、そう思いますけどクラウド様にお任せいたします。」
「そう、シルティアも騙されたと思って、食べてみませんか?」
「・・・分かりました。クラウドがそう言うのであれば騙されてみます。」
--騙されるの確定なんだね。
お店に入ろうとすると一人の男が近寄ってきた。
「そこのお店は止めておいた方がいいよ。よく食あたりの客が出るらしいんだ。」
「そうなんですの!?クラウド、やっぱりやめましょう。」
--なんか、怪しいなぁ。食あたりがあったにせよ、わざわざそれを言いに寄って来るかなぁ?
クラウドは男を鑑定してみると道を挟んだ斜め前にあるレクスタ肉料理店の食材調達の係であった。
--ん~、これはまさしく営業妨害だね。食あたりも多分嘘だろう。
「そうですか、でも自分はここで食べたいので。御忠告ありがとうございます。」
「ちょっと、クラウド本当に入るんですの?」
「大丈夫です。入りましょう。」
男は分からないように舌打ちしながら去って行った。
店の中に入ると20代後半の若い夫婦がいて旦那がシェフ、奥さんはホールを担当している。奥さんの方は赤ちゃんを抱きながら仕事をしていた。
「いらっしゃいませ!どうぞお好きな席にお座りください。」
「あら、中は綺麗にされてますのね。」
クラウド達は席に着くと、早速メニューを開き注文する。
「自分はこのミッルド牛肉のハーフコースを。」
「え~と、では私はこのペルタスープとリリンク鳥のステーキをお願いしますわ。」
「私は、クラウド様の言っていたメニューと同じのハーフコースでお願いします。」
「はい、ミッルド牛肉のハーフコースですね。少々お待ちください。」
クラウド達が待っていると、すごく美味しそうな匂いが辺りを漂ってくる。・・・しばらくすると料理がやってきた。
「お待たせいたしました。ハーフコースメニューの前菜のクッキーとそれぞれのスープとなります。コースメニューのお客様のスープは、鳥肉の3種を使いそれぞれの持ち味を生かしたスープとなっています。」
クラウドはスープをスプーンで口に入れてみる。
--おっ!美味しい~~!!本当に素材の持ち味を最大限に引き出してるって感じがする!このあっさりしているにも拘らず、このコクの深さ・・・。
「美味しい~~!」
「本当ですわね!これだけでも王宮料理人として雇いたいぐらいですわ!」
「本当に美味しいです!」
クラウド達はあっという間に前菜を食べてスープを飲み干してしまう。暫く待っていると次のメニューが運ばれてきた。
「お待たせいたしました。コースメニューのミッルド牛肉のステーキとリリンク鳥のステーキです。」
綺麗に肉汁を閉じ込める工夫をされたステーキは元の焼く前のサイズから、ほんの少ししかサイズが変わっていない。クラウド達が肉を噛むとスープの様に溢れ出る肉汁、それぞれに合わせた特製のソースが絶妙に絡み合い幸せを感じる。
「いかがでしょうか?濃い味がお好みであればソースを足しますが。」
旦那さんであるシェフが聞いてくる。
「すっごく、美味しいです!ソースも完璧ですし!」
「本当ですわ!これほど美味しいのに何故お客が少ないんですの?」
--あっ、シルティア。ストレート過ぎです・・・。
「はい、私の店は曾祖父の代からこの店で頑張って来たのです。一年前、真向かいに料理店が建ったのですが・・・。」
「変わりなくお客様はいらっしゃっていたのです。それが半年前に、この店に来たお客様が食あたりになったと何故か広まったのです。それからはパタリとお客様も、いらっしゃらなくなりました。」
「それでも来られる少ないお客様の為、腕を磨き頑張ってきましたが、借金も増え来月には閉店予定です。でも最後までお客様が満足できるよう、頑張りますので又宜しくお願いします!」
--これは絶対、前の店が怪しいでしょ。
「クラウド、これって・・・。」
シルティアの言葉にクラウドはコクリと頷く。
「ご主人。宜しければ、その借金私がお支払い致します。大きな店でスタッフを揃えて働いてみるつもりはありませんか?」
「そ、そんな。大きなお店を持つなんて資金ありませんし、代々継いできたこの小さな店でさえ経営できていない状態でそんな自信全くありません!」
「お店の資金は自分が全て立て替えます。利子は全く要りません。お金を返すのもいつでも構いません。自分はご主人の作る料理を今後も食べに来たいのです。」
「しかし・・・。」
--やっぱりここは自信をつけて貰うしかないか。こんな美味しい料理作れる人、営業妨害なんかに負けて辞めさせたら世界の大きな損失だよ。うーん、どうしよう・・・?
--そうだ!こんなに美味しい料理、皆食べてくれれば口コミで広がる筈!
「ご主人、ありったけの材料で料理をじゃんじゃん作ってもらえますか?代金は勿論すべてお支払いしますので。」
「構いませんが、何をされるのでしょうか?」
「食べものを粗末にだけは致しません。お願いします!」
「分かりました。」
「シルティア、ユリア。悪いんですが店の外にテーブルを作るので主人の作った料理をドンドン運んでくれますか。」
「分かりましたわ!」
「はい!」
クラウドは外に出てゴッドグランシーズで大きな机と沢山の椅子を作る。その上に大きなチェキデアを丸ごと一匹乗せた。それを加減した光業炎で蒸し焼きにして、その匂いを通行人たちへ風で送っていく。
「ママぁ~、お腹空いたよ~。あれが食べたいよ~。」
「ダメよ!あそこは食あたりで有名なところなんだから。」
「でも、美味しそうな匂いしてるよ。」
「そうね~、確かに・・・美味しそうねぇ。」
「いらっしゃいませ!本日限りの出血大サービス!全部タダ!この通り、使ってる高級食材も新鮮!安全!私も切って一口!美味しい~~!!いかがですか~~!!」
「ママ、安全でタダって言ってるよ。」
「コーちゃん!何してるの!無くなる前に早く行くわよ!」
「はい!いらっしゃいませ!どうぞ~。」
「ママ!すんご~~~~く美味しいよ!こんな美味しいの食べたこと無いよ!」
「本当ね!凄く新鮮でコクがあって美味しいわ!」
「はい!クラウドお待たせですわ!」
「奥さん、このスープとお肉もどうぞ!この店のシェフが腕によりをかけて作った料理です!」
「そうねぇ、頂いてみようかしら・・・!?う・・・・美味過ぎる~~~!幸せだわ~。コーちゃん!これ食べてみなさい!」
「ママ!究極だよ!!美味しい~~~~!」
「なんだなんだ、凄く良い匂いだし美味しそうに食べてるな。兄ちゃん!俺にもそれくれ!」
「はい、どうぞ!」
「う・・う・・・うめぇぇぇ~~~~~!なんだ、このスープ!?この身体の芯に幸せが張り巡る感じは・・・・・!」
「おい!あんた。そんなに美味しいのか?」
「話しかけんじゃねぇ!幸せが逃げちまう・・・・。」
「おいっ!兄ちゃん!こっちにもくれねぇか。」
「「「「「「「こっちも下さい!」」」」」」」
あっという間に店の前に幸せを感じている人だかりと順番を待つ長蛇の列が出来ている。
「ごちそうさま。この店に来れば、また食べられるのか?兄ちゃん!」
「はい、サービスは今日だけですが、料理は食べられます。」
「お金なんて、こんな美味しいなら高くても構わねぇ。明日、妻を連れて来るよ!」
「ありがとうございます!」
沢山の客が幸せを感じながら、また食べたい!また来ようと思いながら帰っていく。その時、クラウドへ食あたりの店だと言って営業妨害していた男と衛兵5人が近づいてきた。
「こっちです!衛兵さん!多分無許可で営業していると思います。」
「あ~、君達。道路で営業する許可をきちんと国に取ったかね。」
--しまった!そんなのいるんだ!?
「すみません!知らなかったものですから取っていません。」
営業妨害していた男が近くでニヤリとしている。
「駄目だよ、それじゃちょっと衛兵所に来てもらおうかな。」
「クラウド!行く必要ありませんわ!あなた達、私の顔を見ても同じことを言えますの!」
シルティアが覆面をファサっと取ってしまう。
--あちゃ~。
「シ、シルティア王女様!?ははぁ~!失礼いたしました!申し訳ございません!」
客達は跪き、衛兵たちは失礼をしたとして平伏している。
「衛兵達!捕まえるならその男を捕まえなさい!ありもしない食あたりの汚名をこの店に着せて、営業妨害した罪ですわ!」
「かしこまりました!そこのお前!!衛兵所に来てもらおう!」
「ひぇぇ~~、申し訳ございません~!」
「皆さん、この店は王女様が先程仰った通り、安全ですから安心して食べてください!シルティア王女様、ちょっとこちらへ。」
「ちょ、ちょっとクラウド!・・・なんですの?」
クラウドが店の奥に連れて行くとシェフと奥さんもシルティアが王女と知り、跪く。
「王女様が持ってきた料理を気軽に食べてくださいと言っても皆、食べにくいでしょうからシルティアは申し訳ありませんが隠れていてください!御主人も奥さんも跪いていないで問題ありませんから、料理をじゃんじゃん作って下さい!皆、主人の料理を待ってますよ!」
「は、はい!」
皆、凄く幸せそうに食べていく姿にいつの間にか料理待ちの客で道路が埋まってしまう程の状態となっているのだが、やがて材料が尽きてしまう。
「申し訳ございません!あと10名様のみで本日は終了です!」
「材料が尽きましたので10名様までとさせて頂きます!」
「そこ、横入りはやめてください。この並んでいる10名様までです。」
「なんだとぉ!せっかく並んでやったのに!」
「王女様~、営業妨害ですよ~。」
「いやっ、すまねぇ!また明日にするよ!」
--効果抜群っと。
食べれなかった客はがっかりしながら帰っていくのだが、殆どの者が去る前に営業時間を確認して帰って行った。
翌日からこのお店は大盛況となり、真向かいの店は営業妨害していたことを世間に知られて客が誰も来なくなり潰れてしまう。クラウドはそこを買い取って夫婦に渡すとヴェルタス王国一の料理店として有名になる・・・少し未来のお話。
「ご主人!明日からきっと忙しくなりますよ~!」
「クラウド様!シルティア様!ユリア様!本当にありがとうございました!あんなに沢山のお客様が美味しそうに食べてくださるなんて自分の腕に自信が付きました!」
「そうですか、そういえば又お腹が空いてきたなぁ。でも、材料がないから無理ですね。」
「いえっ!クラウド様達の為に夕食は別で用意してあります。是非、食べて行ってください!」
「すみません、ありがとうございます。」
「いえ、御礼を言うのはこちらの方です。」
クラウド達は美味しい料理を堪能して店を離れた。
「美味しかったですね。良い運動も出来ましたし。」
「フフフ、楽しかったですわね。」
「そうですね、クラウド様のお客さんへの口上、格好良かったです。」
「いやぁ照れるね、ありがとう。さてと薄暗くなって来たので帰りましょうか。」
「そうだわ!今日は折角ですしクラウドの家に泊まりません事!」
「シルティアが帰らないとお城の人が困りますよ。」
「大丈夫ですわ。クラウドと一緒であれば。」
--う~ん、一応ユイアレスには報告しておくかな。
「ユイアレス応答願います。」
「・・どうしたのだ、クラウド?」
「あのシルティアが自分が王都に買った家に泊まりたいって言ってるんだけど、ダメだよね。」
「いいぞ、ただ明日は闘技大会だ。前にも言ったが10時に控室に来るようにな。あまり疲れないようにしてくれ。」
「分かった。」
「それではな、クラウド。」
「また明日。」
「流石お兄様ですわ、さぁ行きますわよ!」
「えっ!?家はこっちですけど。」
「何を言ってますの?昨日お兄様とは飲みに行きましたでしょ。今日は私に付き合いなさい。」
「いやぁ、今ユイアレスに釘を刺されたところなんだけど。」
「グラヌス様に勝てる人間がお酒を飲んだぐらいで試合に影響しませんわ。」
--仕方ないなぁ。
「少しだけですよ。」
「ええ、それでは行きましょう。」