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LUCK   う~ん・・・勇者?  作者: ススキノ ミツキ
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第13話 ヴェルタス王都

 王都を囲む高い塀には巨大な正門一つと37個の副門がある。検問はすべての門で行われる。軍隊の出入りや王国への賓客を招く場合、またその逆の場合のみ正門は開かれる。


「うわぁ~、王都ってものすごく大きいね!ギャドリグ公都も大きいって思ってたけどケタが違うね。」


「はい、私も何度か父の付き添いで王都に来たことがありますが、いつもそう思います。」


「ここに並んでいればいいのかな?」


 検問は貴族列と平民列と商人列がある。クラウドは平民列に並んでいた。


「クラウド様は貴族列で宜しいのでは?」


「そうかなぁ、別に貴族ではないような。うん、こっちに並ぼう。かなり急いで飛んできたから時間の余裕もあるだろうし、いろいろな人たちをゆっくり見るのも楽しいからね。あ!あの人、三角の長い帽子かぶっているけど、前見えてるのかなぁ。」


「あの方は王都から北東にあるビビンド村に住む人たちですね。そこに住むほとんどの人たちは、ムッツムという虫から採れる糸で敷物を作って売り、生計を立てていると聞いてます。」


「へ~、そうなんだ。」


 クラウドは、いろいろな人種や変わった人を見てはユリアに聞いたり鑑定で調べている。


「クラウド様、次ですよ。」


「本当だ、意外と早かったね。」


「はい、次どうぞ。そこに国民証かギルドカードを置いてから、石盤の紋章に手を置いて下さい。その後に所属国と名前を名乗ってくれますか?」


「はい、ヴェルタス王国所属のウィン・クラウドです。」


「・・・はい、いいよ。それじゃあ、今度はそこのお嬢さん。」


「はい、ヴェルタス王国所属のグラッド・ユリアです。」


「・・・!?貴族様!失礼いたしました!どうぞ、お通り下さい!困るよ、そこのお付きの人。ちゃんと、ご案内しなきゃ!貴族様はあちらの列だよ!」


「いえっ!クラウド様は」


「はい、すみません!今度から気を付けます!」


「ユリア様、申し訳ございません。」


「クラウド様・・・・。」


 検問所を通り過ぎる。


「まぁまぁ、そうかユリアは貴族だったよね。これからは貴族列で自分は付き人として通ることにしよう。」


「クラウド様は煌輝紋章石ホルダー様ですのに・・・。」


「あまり目立ちたくないから、悪いけどそういう事にしておいてくれる?」


「分かりました・・・。」


「それにしても凄いよね!この都。道も凄く広いし綺麗だし。お店の数も凄く多そう!人口はどれくらい何だろう?」


「だいたい7000万人ぐらいと聞いてます。」


「そうなんだ、東京の5倍以上住んでいるんだ!?」


--ヴェルタス王国は日本より人口少ないみたいだけど王都に密集してるみたいだな。


「東京?・・・ですか?聞いた事ない地名ですね。」


「あぁ、ごめん。かなり遠いところにあるから誰も知らないと思うよ。それより、王都の拠点用に早速家を買いに行こう。」


「はい。」


 クラウドはマップで一番大きなハウスホームを探し出す。


--なるほど、あそこかぁ。歩いたら4時間は掛かりそうだな。


「ユリア、高速移動で行こうか。」


「このような都のたくさん人がいる場所で大丈夫でしょうか?」


「移動中は建物や障害物を利用して人に見えないぐらいのスピードで移動するよ。移動の出発点だけは気を付けて人の居ない所からにするけど。」


「はい、分かりました。」


 クラウドは建物の死角になる個所をマップで確認して、そこから高速移動を開始する。出来る限り周りに迷惑が掛からないようにゴッドグランシーズで風を拡散させるのだが完全とはいかず風を起こしてしまう。


「ん?風かぁ~?」


「キャッ!」


女性たちが風で舞い上がろうとするスカートを抑えている。


--ごめんなさい・・・。やっぱり王都では馬車も必要かな。


 ハウスホームに着くと中へ早速入ってみる。約50㍍はある長いカウンターが殆ど埋まっていて、ようやく見つけた空席に座る。


「いらっしゃいませ。今日はどういった御用でしょうか?」


「家を買いたいんです(早く売りたいんじゃ!)ん?」


 クラウドと同時に隣の80代男性が言葉を発していた。クラウド達はお互いに顔を見合う。


「どうも。」


 クラウドが会釈すると男性はツカツカとこちらへ寄ってきた。


「お主、家を買いたいと言っておらなんだか?」


「はい、言いましたけど。」


「やはり、そうか!では、儂の家を買わぬか?儂はどうしても早く旅立ちたいんじゃが、この者たちが2日間の査定が終わるまでお待ちくださいと抜かしおって!」


「申し訳ございませんが、それがルールになっておりまして。」


「儂は早く冒険がしたいんじゃ!貴族紋章も独り立ちした息子に譲ったし、妻も亡くなる所を看取った。病弱で連れていけなかった妻の遺骨と共にすぐにでも旅立って、儂がどんな景色を見て来たのか教えてやりたいと思っとる。儂もいい年じゃし、ここに戻っては来れぬだろうから、早く家を売りたいんじゃ。」


--この人、鑑定したら凄い!!レベルが71もある。よっぽど冒険好きなのかな?何故かこの家は買った方がいいような気がする。


「分かりました、買いましょう。」


「あのぉ~、お客様。この方が申されている希望売値は10万デロですよ!」


「そうじゃ、地下宝物庫を合わせたら本当は50万デロと言いたい所じゃがな。」


「分かりました、では10万デロで買わさせて頂きます。」


「!?」


「クラウド様!?」


「いいから、いいから。」


「話の分かる男じゃの!気に入った!これを持って行け。地下の宝物庫の先にある扉の封印を解ける。お主であれば間違った事には使わんじゃろ。これが譲渡契約書と権利証じゃ、ほれ。」


「あっ、はい。」


「それでは儂はいくぞい。家の場所は一緒に渡した地図にあるからの。お金は預金所にドフストレイ・デハルグで入れといてくれ。」


「デハルグ様!?42年前にリビグレ砦へ襲ってきた魔物の大群侵攻を防がれた英雄様ですよね!」


 リビグレ砦はヴェルタス城の南に位置し結界柱を守っている。


「んっ?名乗っておらなんだか。あれはグラヌス様が来るまで粘っておっただけじゃ。」


「いえっ、伝説の攻防戦として我が家にそれを伝えた本が今でもあります!!是非、サインをこちらに頂けないでしょうか?」


--こっちにもサインてあるんだ。


「儂は急いでおるんじゃ!サインなら、そっちの男にもらえ!儂より有名人になる筈じゃ!」


 デハルグはそのまま去って行った。残された店員はこちらを見て苦笑いする。


--あれ・・・何?この空気。知らない人のサインなんかいらないよ・・・っていう顔ですね。それでは、立ち去ります。


 クラウド達は預金所へ行ってデハルグへの支払いを済まし、早速買った家に行ってみる。


--おぉ~、ここもギャドリグ公都で買った屋敷ぐらい大きいなぁ~!塀も高いし、離着陸も問題なさそうだ。家具も新品同然に綺麗だし。


 クラウドは地下の宝物庫が気になり屋敷の奥にあった地下への階段を下りてみた。


--暗いなぁ、ん?これが明りのスイッチかな?


 クラウドがスイッチを入れると明かりが灯る。そこには沢山の剣や杖、鎧等の装備や魔法道具が飾られていた。


--おぉ~、凄い。このイヴェグスの魔剣は斬ると、その周辺を凍らせることで一部の動きを阻害出来るみたいだ。あっ!これも良いな~、アストリのランタン。周りを明るくしてくれるし、魔力さえあれば使えるのが便利だな。今までの遺跡は光苔で少し明るい程度はあったけど、他も同じとは限らないしな。


「クラウド様、凄い量ですね。使い方を調べませんと見た目だけで判断が付かないのも、沢山あるようです。」


「え~と、それは大体分かるかな。」


--全部、鑑定で分かります。


「えっ、御存知なのですか?」


「ん~、多分大体は。」


「さすがクラウド様です!」


--おっ、魔元核石もある!デイレスの魔元核石?


 クラウドは調べる前に魔元核石を吸収してみた。ストロゴグの魔法を得たとある。詳細を確認した所、精力アップの効果がある様だ。


--精力アップって・・・、エッチ関係?そんな魔法もあるんだ・・・。こっちは何だろう?リシタの魔元核石?まさか又?


 クラウドは吸収してみる。ウォータシュートの魔法を得た。


--良かった、水を放出する魔法か。喉が渇いたときは便利だろうな。他の装備でユリアが使えそうな良いものないかなぁ。・・・おっ!このシェリストラスの杖いいかも。氷魔法系の効果倍増と炎魔法系以外の魔法効果もアップしてくれるみたいだ。


「ユリア。今装備している杖の代わりに、この杖を使ってくれる?氷魔法系の効果を強くしてくれるらしいから。」


「そんな高そうな物、頂いて宜しいのですか?」


「まぁこの家に付いてきた、おまけみたいな物だしね。」


「ありがとうございます。」


 クラウドは他の装備やアイテムをすべて鑑定した後、リングボックスヘ収納した。宝物庫の奥へ進むと円状に凹みのある扉があり、デハルグから貰った冠を嵌め込んでみる。


 ガコン!という音が最初にしてギギギ・・・という音を立てて、ゆっくりと右にスライドしていく。中には二つの杖が台座の上に飾られている。鑑定してみると一つはエルドの杖で扉の鍵を開けるもの。もう一つはスラールファクティアの杖で若返りの魔法が使える様だ。但し、スラールファクティアの杖はMP消費が970と非常に多く高レベルの上、魔力量が優れていないと使用出来ないようだ。


--えっ?これが本当だったら、不老でいられる?お金に換算・・出来ないね。誰にも知られないようにしまっておこう・・・大変なことになりそうだし。鍵を開ける杖も気を付けないと、何かあった時に泥棒に間違われそうだ。デハルグさんが封印していたの分かる気がする。


「クラウド様、この二つの杖も非常に珍しい物の様ですが、一体何の杖でしょうか?」


「う~ん、まぁいずれ分かるよ。それより、そろそろ王子に会いに行こうか。」


「あっ、はい。緊張致しますわ。」


--ん、緊張で貴族的な言葉になってる?


「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。笑い上戸の優しい人だから。」


「は、はい!」


--ん~、大分緊張しているみたいだなぁ。まぁ、実は自分もちょっと緊張してるけど・・・。


 クラウド達は王都の光景を楽しみながら城へ到着する。その頃には日も暮れかけていた。


--明日にした方が良かったかなぁ。


 クラウドは城の門へ着くと、門兵10人で警護している。その中の一人に話しかけた。


「あのぉ、すみません。ユイアレス王子様に呼ばれて来たのですが。」


 話しかけられた門兵の一人がクラウドの姿を上から下まで何度も確認する。


「馬鹿を申すな!王子が貴様など、相手にする訳がなかろう!」


--困ったなぁ。話が通ってないのかなぁ?


 クラウドは煌輝紋章石を取り出して王子を呼び出す。


「王子様、クラウドです。応答願います。」


 クラウドの発言が聞こえた門兵達が驚愕する。


「「「「「王子様!?」」」」」


「あ~、クラウ・・・・・・・・・・。」


--またか・・・返事してましたよね。


「ユイアレス、聞こえますか?」


「あ~、クラウドか?順調に王都へ向かっておるのか?」


「いやっ、今お城に着いたのですけど。」


「何!?そうか、済まぬな。急がせて寝ずに移動させてしまったか。城の者に行って第一応接室へ案内してもらってくれ。」


「なんか、不審者に思われて通れないんですけど。」


「そうか・・・クックッ、済まぬな。これほど早く着くとは思っていなかったのでな。門兵に伝えておらぬ。しかし、煌輝紋章石を見せれば通れるはずだがな。」


--あっ、そうだった。


 クラウドの会話と煌輝紋章石を確認し門兵たちは跪いて、失礼を詫びる。「貴様など」と言い放っていた兵は土下座で地面に頭をこすりつけながら謝っていた。


「申し訳ございません!失礼申し上げました、誠に申し訳ございません!どうか、どうかお許しください!」


「大丈夫です。怒っていませんので、お立ち下さい。皆さんも。」


「それでは、お許し頂けるのでしょうか?」


「もちろんです。第一応接室まで案内して頂けないでしょうか?」


「かしこまりました。」


 門兵二人で案内され約15分程歩いて到着した。そこには豪華な椅子に座ったユイアレス、その傍に立つケイシスとアトスの姿があった。ケイシスは未だにクラウドをよく思っていないのか、悪さをしないか監視する様に睨みかけてくる。


「ああ、クラウド。急がせてすまなかった。もう少しでシャアラ殿とグラヌス殿も来る。少し待っていてくれ。ん?その者は?」


「お初にお目にかかります。私はクラウド様の付き人として一緒に旅をさせて頂いているグラッド・ユリアと申します。」


「ふむ、これ程の美女では王国一と言われる私の妹シルティアでも第一夫人の座が危ういな。ああ、そうだ!クラウドには言っておらなんだがゾリンペル砦を守ってくれた褒美だ。私の同腹の妹シルティアをクラウドの婚約者にやろうと決めていたのだ。」


--勝手に決めないで!もうこれ以上婚約者はいりません!断ろう。


「あの~。」


 その時、応接室の扉がドン!と乱暴に開かれる。現れたのは白い豪華なドレスに身を包んだシルティア王女であった。腰まで長く綺麗な金髪が伸びている。耳の横で髪が巻くほどでは無いが内側にカールしている。顔も小さく整っていて美女であるケイシスを前にしても絶対美女として勝っていると言える。ユリアに匹敵する超美女であるがクラウド的にはユリアが好きなので美女として認識していてもユリアに勝っているとは全く思っていない。身長は167cmできめ細やかな白い肌、大きな胸、細くくびれた腰、スラッと長い脚、八頭身の見事なプロポーションで通常より身長が高く見える。年齢はユリアの一つ上で18歳である。


「クラウド、ちょうど良かった。お前の婚約者を紹介しよう。王国一の美女と謳われる私の妹シルティアだ。」


「お兄様ぁ!~~~!!」


 ユイアレスはシルティアの怒声に耳を塞ぐ。


「どうしたのだ、騒がしい!お前の婚約者の前だぞ。」


「どうしたのだでは、ありません!私の婚約者を勝手に決めないでください!それに私のタイプは申し上げた筈!お兄様の様な心身共に強さを持った者です。こんなキテレツな格好をした弱そうな者ではありませんわ!」


 ケイシスがウンウンと微笑しながら頷いている。


--酷い言われようだなぁ。こちらが婚約者としてお願いしていないのに。早く断ろう。


「あの。」


「待てクラウドよ!分かっておる。シルティア聞くのだ!クラウドは、あの魔将軍ガンギスを倒し、ゾリンペル砦を先日守り抜いた強者なのだぞ。私の読みではシャアラ殿やグラヌス殿にも実力的に匹敵すると思っておる。」


「そんな事、ありえません!私の師匠の賢者シャアラ様に匹敵する方がいるなど。」


--王子は何を分かっているって?断ろうとしてるのですって!ケイシスさん、ウンウンはもう良いって!


「ならば試して見ればよかろう!儂も王子に聞いておったクラウド君と手合わせしてみたいと思っておったしな。」


「グラヌス様!シャアラ様!」


 声の方に一斉に振り向くと、そこには外見上は30代前半と思われる精悍な逞しい男性と20代前半としか思われない絶世の美女である長細い耳が特徴的なエルフ族のシャアラが部屋に入ってくる。美女としてシルティアやユリアに並ぶ程だ。


--この人たちレベル凄い!男性の方はLV152で女性の方はLV171もある。しかも年齢が131歳と372歳?男性の方は普通の人族みたいだけど・・・若返りの杖でも使ったのかな?


「うむ、そうじゃな。手合わせすれば分かるじゃろう。」


「シャアラ様まで!・・この者が強いなんてありえませんわ!」


「まぁ、落ち着くのじゃ、シルティア。城の訓練場は、空いておるか?ケイシス。」


「はい、この時間であれば誰も使用していない筈です。」


「よし、それでは行くぞい。」


 シャアラは先導して訓練場へ向かっていく。訓練場に着くと、そこには野球場程の広いスペースがあって剣士や魔法使いが訓練出来るように、様々な道具や甲冑を来た人形があちこちに配置されている。何もないスペースまで移動するとシャアラが話し出す。


「ここで良いじゃろう。剣はそこに立て掛けている物をどれでも使うがいい。グラヌスもよいか。」


「うむ、それでよい。この剣にしよう。クラウド君とやら、準備は良いか?」


「あっ、はい。」


 そうクラウドが言葉を発した瞬間、10㍍離れていたグラヌスが消えクラウドの前に一瞬で現れる。クラウドは嫌な予感がしてグラヌスへ返事を返した瞬間に、ゴッドグランシーズで防御を身体と剣に構築していた。


--早い!?うわぁ~~!!


 クラウドはグラヌスが振った剣を受け止めると、200㍍以上吹き飛ばされてドーン!!という音と共に壁に減り込む。


「ほら、ご覧ください!お兄様。相手にならないではありませんか!」


「お前はグラヌス殿の剣は見えたのか?クラウドは剣を受け止めた様に見えたぞ。」


「いえ・・・見えませんでしたが。でも・・壁に吹き飛ばされて、あの衝撃ではもう戦えませんわ!」


「いやっ、ユイアレスの言う通りじゃな。クラウドとかいう者も一切ダメージを負っておらぬようじゃ。・・・それに、あの身体から発しておる尋常ではないオーラと魔法・・・・ふむ。」


「まさか!あれ程の衝撃ですのに!?」


 クラウドはガラガラっと、細かくなった石と砂を払いながら壁から出て来る。


--この人、速過ぎるし剣圧も異常に重い!目を開けてたら動体視力が上がってる筈の、自分でも反応できない・・・よし!!


 クラウドは借りていた剣を離し、軽くて丈夫で衝撃を多量に吸収するイメージで右手に剣を構築していく。そしてゆっくりと目を閉じていく。


「なっ、何ですの!?あの魔法は・・・。」


「ほう、ようやく本領発揮という所じゃな。いくぞぃ。」


「はい・・・。」


 グラヌスも身体と剣に魔法を掛ける。次の瞬間グラヌスが先程より速い速度で消え、クラウドも消える。風の音と剣が交わる音が近くで感じたと思うと、次の瞬間では遠い場所から聞こえてくる。


「・・・・・カーン!!キンキンキン!!・・・シュッ・・・カカカカカカン!・・・・・・ビュオッ!・・・・カカカカカキン!・・・ゴォ~~~~~~~!!・・・・カン!・・・・・・・・シュツ・・・・・・・・カカッカカキン!・・・・・・・・・・・・・・・ド!!・・・・・・・カン!カカカン!・・・・・・・・・・・・ガッ!・・・・・・・・・・。」


 シャアラ以外には一切姿が見えていない。シャアラでさえ姿を捉える魔法で見ていた。ケイシスはポカーンと口を開けて言葉が出ない。アトスは流石クラウド殿!と感心しながら立っている。シルティアは現実を見ている筈が、どこか不思議な世界に迷い込んでしまった様に佇んでいる。


--この人、やっぱり強い!スピードはこちらの方が速いのに手数と技術でカバーされてる!こうなったら・・・。


 クラウドは更に動く速度を増していく。


「・・・・シュン!!・・・ピュウ~・・・キキキキキキン!!・・・・・・カカカカカン!・・・・シュ!!・・・・シッ・・・!」


「なんと!まだ速く動けるのか!?」


 クラウドの速さが最初の2倍に達した所で、剣の腹がグラヌスの胸を捉えて吹き飛ばした。グラヌスはクルッと回って着地するがダメージで膝をついてしまう。


「ぐぐ・・・・世の中は広いもんじゃ、儂より速く動ける者がおるとは!しかも勘も恐ろしく良い。あの短い戦いで儂の技術をどんどん吸収しておった。・・・いや~、完敗じゃ、儂ももっと修行せねばな。」


「クラウドが強いだろうとは思っておったが、まさかグラヌス殿を凌ぐ実力とは!?・・・・。」


「ユイアレスよ、それだけではないぞぃ。」


「シャアラ殿、それは!?」


「グラヌスも分かっておろうが、クラウドよ!お主、魔力を殆ど消費しておらぬだろう。」


--そういえば、この前ステータス確認したら減って無かった・・・。


「あっ、はい・・・?」


「やはりのぉ。その様子を見るとお主自身も詳しく分かっておらぬ様じゃな。お主が構築した先程の魔法は人族や魔法に優れるエルフ族でさえ使える者はおらぬ。」


 ケイシスが反応する。


「まさか、魔族!?」


「いやっ、魔族も使えぬ。魔族が使える様であればエルフ族であれば使えるじゃろう。クラウドの構築した魔法はどう見ても大量の魔力を消費してしまうのじゃ。私でさえ10秒持てば良い方じゃろ。」


「それ程でございますか!?」


「うむ、魔力の根源たる魂が違うのじゃろうな。人の魂とは別の魂が混じっている様なオーラも見えておった。つまりはこういう事じゃ・・・例えばの、他の者が消費してしまう魔力量が10万であるとしても、この者が消費する魔力量は質が違う為、1も減らぬ可能性があるという事じゃ。」


「「「「「!?」」」」」」


「ふむ・・儂も感じておったが、クラウド君があの魔法を構築した瞬間、これは勝てぬかもと思ったぐらいであるしな。会った事は無いが、魔力量が計り知れないと言われている、魔帝国の魔王バルゴの魔力をも遥かに超えている様に思える。魔王の今までの噂から想像しての事ではあるがの・・・。」


「「「「「!?」」」」」


「そうじゃの、魔力量だけならば遥かに超えているじゃろう。これ程の魔力量があれば王子から聞いておったメテオの連続魔法など容易じゃろうしな。ただ・・それ程の魔力があるにも拘らず、まだ上手く使えておらぬみたいじゃな。」


--メテオは、たまたまです。魔王の話しか出ないけど、魔王の後ろに魔神が居るってことは、皆知らないのだろうか?もしそうであれば、今言うとみんな混乱しても困るかも。もっと自分が強くなってからにしよう。う~ん、魂が混じってるのは、やっぱりレイティス様なんだろうか?


「シルティア、これで良いな。」


「・・まだですわ。心が強いか確認していません。」


「もう・・よい、それ程嫌であれば婚約者の件は撤回しよう。」


--ほ~!・・・良かった~~。


「誰も嫌とは言っておりませんわ!・・その・・・心の準備が・・。」


「なるほどな・・・まぁ、今日の所は遅くなったことであるし、夕食でも食べながら仲を深めるがよい。」


「分かりましたわ。」


--だ~か~ら~!勝手に決めないでって!


「ユイアレス!有難いお話ですけど王女は元平民の自分とは身分が違いすぎます。王女にはもっと相応しい方がいらっしゃるのでは!」


「私が嫌なんですの!」


「えっ、でも王女は先程まで反対しておりましたし。」


「そんな事、関係ありませんわ!」


--いやっ、思いっきりあると思います!


「あと、私には婚約者がもう3人もおりますし。」


「なんですって~~!私が第一夫人ですからね!!」


--えっ?そういう問題?弱ったなぁ、凄い剣幕だし・・・。


「・・・クックック・・・シルティアもいつの間にか認めたみたいだな。クラウドよ、悪いが夕食の用意も整った様であるし、難しい話は後にしよう。明日は王国の重役たちと共に会議を行う。クラウドも、その会議に参加してくれ。それでは皆、食堂へ移ろう。」


クラウドとユリアはユイアレス達の後をついていく。シルティアはユイアレスの斜め後ろのクラウドから少し離れたところを歩いているのだが何度も振り返りチラチラとクラウドを見ている。


--なんか珍しい生き物でもいますか・・・?


 しばらくして食堂に着き、メイドに勧められた椅子に座る。綺麗な模様の描かれた長く大きなテーブルの上に次々と豪華な料理が運ばれてくる。


「それでは、ヴェルタス王国の平和を祈って乾杯!」


「「「「「乾杯!」」」」」


--なにあれ?牛の丸焼き?凄く美味しそうだけど、誰があんなに食べれるのだろう。ウワァ~!、このお酒凄くいい香りがする。ゴクッ・・・・美味しい!ゴクッ・・・・。


 クラウドは傍にいるメイドにお代わりを頼んだ。


「お~、クラウド!イケル口であるな。どんどん飲むがいい。その酒はベルトデアの実から出来るワインで100年ものだ。その斜め前にある大きな実はググタスの実を発酵させたものでアルコール度は高いが実にそのままストローを挿して飲んでみよ!美味であるぞ。」


「はい。」


--本当だ!爽やかな控えめな甘さが口いっぱいに広がって美味しい~!


「そうだ、ユリア。さっきはゴメンよ。婚約者を増やすつもりなんて全く無かったんだけど。」


「分かっております、クラウド様。クラウド様を独り占め出来ないのは寂しいのですが、愛してさえ頂ければ私はそれで・・・。」


「ユリア・・・。」


「こらぁ~!そこ!・・・何、見つめ合って盛り上がっているんですロ!」


--あれっ?シルティア王女酔ってる?まだちょっとしか時間経ってないけど・・・。


「クラウド!ヒョッとこっちへ来てエスコートしてくラさい。バルコニーで風に当たりたいのレすわ・・・。」


「クラウド済まぬがエスコートしてやってくれないか。」


 ユイアレスが頭を下げる。


--これは断れそうにないなぁ。


「分かりました。」


「どうぞ、王女様。」


「お兄様と友達と聞きましたわ。シルティアと呼びなシャい。」


--はいはい・・・。


「シルティア様、どうぞ。」


「シ!・・ル!・・ティ!・・ア!」


--やっぱり兄妹だな・・・。


「クッ・・クッ・・クッ・・。」


「シルティア、どうぞ。」


「フフフ、はい。」


 クラウドは手を取りながら二人で部屋の外にあるバルコニーへ向かう。大きな窓を開けて外へ出ると心地よい風が吹いてくる。日も暮れて王都の明かりが宝石のように輝いている。


「すごく眺めが良くて綺麗ですねぇ~。」


「そうでシょ、城から眺める景色はシャいこうなのです。ところでクラウド、何故あなたは、そこまで強くなったのでシの?」


「守りたい人が居たからです。」


「それはあの子でスの?」


「今はあの人もそうですが、初めは遠く会えない母を守る為だけでした。ですがこの王国にきて友達や親切にしてくれた知り合いも沢山います。自分にとっては、かけがえのない大事なものとなっています。これからも増えていくでしょうが、皆を守れるように強くなろうと思っています。」


「そう、フフフ・・・昔、お兄様が言ってた事と同じことを言ってまシわ・・・決めましたワ!私も付いて行って、第一夫人として手伝いまシュわ!」


--えっ?え~!・・・どうしてそうなる?


「クラウド様、シルティア様にお水をお持ちしました。」


「あなた!ユリアと申スィましたわね。」


「は、はい・・・。」


「クラウドとは何回・・・その・・スィましたの?」


 シルティアが酔って赤くなっている以上に、顔を真っ赤にしながらユリアへ問い掛ける。


「あ、あの~・・・何を・・・。」


「何回〇ッチしたロって聞いてまシュの!」


--えっ、何を聞いてるの?この人・・・。


 ユリアも顔を真っ赤にしながら右手を出し、人差し指をゆっくりと上げる。


「あっ、あのまだ一回です。」


--ユリア・・答えなくていいのに・・・。


「そう・・・では今日クラウドは私と二回でシュよ!分かりまシたわね!」


「いやっ、あの、お待ちください!」


「クラウド様!・・・シルティア様は凄く勇気を出されているようです。誠実にお相手願います!でっ・・・ですが、明日は私も愛して下さる様に願います!」


--えっ!?ユリアも認めないで!困ったなぁ。


 シルティアはクラウドの手を力強く引っ張っていく。


「それでは皆様。私たちは、この辺りで失礼いたスィますわ。」


「ああ!おやすみ、シルティア。クラウド!可愛い妹を宜しく頼む!ユリア殿の部屋は別の部屋を用意しておくのでな、安心してくれ!」


--いや、この状況誰か止めて~~!!


 シルティアは挨拶を済ますとクラウドの手を強引に引っ張って、フラフラと歩いて行く。


「クックックッ・・・。」


--あれっ?今、後ろで誰か笑ったよね!・・・シルティア様・・引っ張らないで~~!


 シルティアが部屋に着くと部屋の前にいるメイド達を露払いした。中に入ると天蓋の付いた豪華なベッドへクラウドを引っ張っていく。


「あのぉ~、シルティア様。酔ってらっしゃるから又今度に致しませんか?」


--冷静に戻れば婚約解消も・・・。


「シ!ル!ティ!ア!、私!酔ってまシェんわ!」


--まいったなぁ。


 シルティアはクラウドに抱き着き、そのままベッドに倒れこむ。


「・・・・ス~・・・ス~・・・ス~・・・。」


--ほぉ~、良かった~。寝てくれた?


 クラウドはそぉ~っと体を起こして扉へ振り向きベッドから離れようとする。その瞬間、左手をバシッと握られる。


--!?


 振り向き返すと、そこには綺麗な目をバッチリと開けているシルティアがいる。


--ビックリした~~!起きてたんだ!?


「逃がしませんわよ~。私・・初めてですけど勇気を出して、お誘いしましたのに。クラウドは私の事が嫌いでシの?」


 シルティアは涙を浮かべてクラウドを見つめる。


「後悔いたしませんか?」


「はい!もちろんですわ!」


「分かりました・・・チュッ。」


--美女の涙って、反則だなぁ。


「・・・あっ・・・・クラウド・・・・そんな所・・・んっ、ダメですわ・・・・んっ・・・・・んっ!・・・・・痛っ!・・ん~~~~!」


「大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫ですわ・・・・ん~~~~!」


・・・・・時が過ぎていく。シルティアの酔いも醒めた様だ。


「それでは、二回目ですわね・・・チュッ。」


--あんなに痛がっていたのに、本当にもう一回するんだ。負けず嫌いにも程があるなぁ。説得しても・・・無理だろうなぁ。


「分かりました・・・。」


「分かりましたではありません。クラウドからしたいと思って言うのですわ。」


「・・・シルティアとしたいです・・・。」


「フフフ、二回目・・・・・ん・・・・・あっ・・・・ん・・・。」


 ・・・・・そして時は過ぎて朝を迎える。クラウドが目を覚ますと満足そうに微笑みながらシルティアも目を覚ます。


「おはよう、クラウド。」


「おはようございます、シルティア。」


 シルティアの部屋をノックされて、外から声が聞こえてくる。


「姫様、クラウド様。朝食の用意が整ってございます。」


「分かりましたわ、用意して直ぐに参りますわ。」


「かしこまりました。」


 クラウドとシルティアはベッドから起きて立ち上がる。


「痛っ!」


「大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫ですわ・・・でも今は歩けそうにありません。」


--痛み我慢して二回もするから・・・。


「では回復魔法を。」


「ダメですわ!この幸せの痛みは自然に治したいのです。クラウドは気にしないで朝食を頂いてください。」


「分かりました。給仕さんに、この部屋に朝食を運んで貰う様にお願いしておきますので。」


「お願いしますわ、あと・・・その前に朝の口づけがまだですわ。」


「あ・・・はい・・チュッ。それでは又後程。」


「フフフ、はい。」


 クラウドは食堂へ向かいながら考えていた。


--奥さん4人ってモテ期どころじゃないよな。エイ・デファーリスの世界に来た頃、何とか手を繋いでくれる彼女が出来たらって思ってたのに。まさか、こんなことになるとは・・・。


 前日に夕食を食べた食堂へ着いて中に入る。そこには昨日のメンバーの他に、より豪華な椅子に座ったヴェルタス国王の姿もあった。


「そなたがクラウドなる者か?」


--あれっ?もしかして王様!?・・・やっぱりそうだ!名前がヴェルタス・サレアスとなってる!」


「はい、そうです。お初にお目にかかり光栄でございます。ウィン・クラウドと申します。」


--こんな挨拶で良かった・・かな?


「私はサレアス、この国の王である。そう固くならなくても良い。ユイアレスの友で煌輝紋章石ホルダーともなれば私の子供も同然、普通に話すがよい。それにユイアレスからは、いろいろ聞いておったので初対面とは思えぬでな・・・クッ、クックッ・・・。」


--確かに親子だ・・・ユイアレス!何を報告したの~!


「はい・・・ありがとうございます。」


「昨日はシルティアも世話になったようだな。これからも娘を宜しく頼んだぞ!」


「はい!」


--王様も知ってるのか・・それもそうか。


「私は、これから所用でエステナ神聖国の聖王と会う為、国を出なくてはならぬ。ユイアレス、留守は頼んだぞ。」


「分かりました!父上。」


「うむ、それではシャアラ殿、グラヌス殿これで失礼する。」


「気を付けてな、王子のフォローは任せよ。」


 シャアラが返事をしてグラヌスが頷いている。国王である筈のサレアスがシャアラとグラヌスに会釈をして部屋から出て行った。グラヌスは前国王とシャアラは2代前の国王からの付き合いで、何度も国を救ってきた英雄である為、礼を欠かさない。


「クラウド、これから重役達との会議へ向かう前に、概要を説明しておく。」


「前に話したグラディアル帝国はエステナ神聖国を越えた更に西に位置する国であるのだが、一月程前に皇帝であったドルストル殿が亡くなり、現在は娘のローラフィナ殿が皇帝であるのだ。」


「連絡係によると、その一か月前より軍の倉庫に大量の食糧と攻撃魔法具などの輸入が頻繁に行われているとの連絡が入った。まさに戦争の準備であるな。」


「しかもそれに留まらず、怪しい動きをしている事で同盟国であるリドバドル王国が再三に渡り皇帝へ、連絡係を向かわせ問い合わせているらしいのであるが、返事はなく連絡係も帰って来なかったそうだ。」


「我が王国の連絡係も危険である為、ヴェルタス王国へ戻るように指示したのだが先程の内容報告を最後に連絡が途絶えてしまった。」


「現在、魔族の住むバルド魔帝国からの圧力が増している中、迂闊に我が国も動けぬ。父上も戦争を止めるため、エステナ神聖国の聖王と会談に向かった。そこでクラウドには済まぬがヴェルタス王国代表として、グラディアル帝国皇帝の真意を聞き出す事と、もし可能であるならば戦争を止めて欲しいのだ。もちろん、自身が危険と判断した場合は戻って来て欲しいのだが。」


「その程度の事でクラウドが危険な状況に陥るとは思えぬがな。」


「確かにそうであるな、シャアラ殿。クラウド君は儂に勝つほどの実力もある。世界は広いし油断は禁物じゃが大丈夫ではないかの。ただ、問題はこれから会う大臣達じゃ。アヤツらはクラウド君がヴェルタス王国代表として向かうことに反対するのではないかの。」


「うむ、その事は私も考えていた・・・。何とかして説得するしかないであろうな。」


「儂らが出てフォローするかの?」


「いやっ、それは私の役割である。シャアラ殿とグラヌス殿には国の結界強化に専念して頂きたい。」


「そうじゃな。強化には、まだ時間が掛かるでな。」


「そろそろ時間だな、クラウド行くぞ。」


「あ、はい。ユリアはどこかで待っててくれる?」


「はい、それではシルティア様の様子をお伺いしてみます。」


「そう、じゃあよろしく頼むよ。」


--喧嘩にならなければ良いんだけど・・・。


 ユイアレスとクラウドはケイシスとアトスの先導で会議室へと向かう。


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