第1話 異世界の女神
佐々木風雲は深い森の薄暗い闇の中で、モンスターと対峙していた・・・。
・・・事の起こりは少し前、地球の少し古びた家が建ち並ぶ田舎町で社会人としてデビューする入社式の日に起こる。
風雲の今までの人生は人から見ると呪われているのではないかと思われる程、不運の連続であった。父や兄弟からも気味悪がられ、酷い扱いを受けた為に身体の傷は父や兄からの虐待で消えない傷として未だに残っている。高校を卒業する前に父と兄は風雲の運の悪さに巻き込まれ無い様に出て行ったが、たまに帰って来ては酷い嫌がらせをして来た。
外を歩くのもかなり大変である!突然、鉢植えや石が降ってきたり寝ているドライバーが沢山の通行人の中、風雲へ必ず向かって来る!野良犬の大群に追いかけられる!不良や、やくざに意味もなく絡まれ殴り蹴られる!知らない人から物をぶつけられる!等々・・・。
家に居れば詐欺の電話や訪問のオンパレードであり、ある時から母親が対策として電話線を抜き、夜は人が居ないと思われる様に出来る限り部屋を暗くして、ひっそりと過ごしていた。
幼稚園、小学校、中学校、高校は同級生や先生からのイジメを受け、一人の友達も出来ず青痣だらけで制服や体操服は汚される。母親は学校に抗議したがそんな事実は無いと学校ぐるみのイジメも受けていた。風雲は、それでも母の言葉を信じて皆勤で通っていたのである。
母親のいつも言っていた言葉であるが、風雲の物心のつく頃から口癖の様に「大丈夫!あなたは今は不運だけど、いつか幸せになれるのよ!だから私と頑張って生きて行こうね!」と励まし続けてくれていたのでした。風雲は愛して守ってくれている母に対して運が無い自分が迷惑を掛けている事を分かっていた・・。
何度も!・・・・何度も!!・・自殺を考えたが、母さんが諦めるまでは何としても明るく生き抜いてやる!と心に誓っていた。
その風雲が晴れて3年の就職浪人を経て252社目に受けた小さな会社に受かり、母親への恩返しを夢見て入社式へ向かう途中の事・・・。*ちなみに入社試験の殆どは意味もなく書類審査で落ちている。
会社の門の直ぐ傍に、風雲の天敵であるバナナの皮が落ちていた。今までの経験から危機回避能力が優れていると自称していた風雲は考える。
--うん!今回の場合は皮を左へ避けた瞬間、道の左端に歩いている女性に見とれたドライバーが後方から来て衝突してくるパターンだな!
そう判断し会社の塀を手でぶら下りながら伝う。周りからクスクスと笑い声が聞こえてくるが命の方が大事と思い、ゆっくりとバナナの皮44枚を過ぎ満足した所、上空から降って来た拳の大きさの隕石が塀にぶら下っている風雲の腹部へ、ピンポイントに直撃してしまう。そのまま風雲は地面に落ちた・・塀は一部、身体を貫通した隕石が衝突して派手な音と共に壊れている。腹部の中心に穴が空き、血液が大量に流れていた。それを見た周りの女性たちが声を上げる!!
「「「キャァ~~~~~!!」」」
--ぐ!・・・・あぁ・・・。
すぅ~っと、力が抜けて地面に倒れていく・・・。自分の遺体の横で母のことが気掛かりながらも来世こそは幸せになりたいと思っていると、頭上の空気の一粒がキラキラと輝き出す。やがてその輝きは風雲を包み込む様に大きくなり、力尽き意識を失った風雲はそれに気付かず目を閉じた。・・意識を取り戻し目を開けると汚れの一つも無い、ギリシャ神話に出てくる様な白一色の神殿へ移動させられていた。痛みが無くなった為に、お腹の辺りを確認してみたが新品のスーツは空いた筈の穴も無く、Yシャツを上げるが傷らしきものは見当たらない。
--どこだ?・・・ここ?綺麗な所だな・・・。天国かな・・・?
目の前にはシースルー手前の薄っすら光る色っぽい浴衣の様な服装で、天女の様な羽衣を纏った美しい女神がいた。女神は風雲へ微笑みかけている。右手には銀色の杖を持ち、上部に付いている玉は柔らかく発光していた。
その女神が美しい声で風雲に話しかける。声を聞くだけで心が休まる様だ。
「私は女神エステナです。ようこそ私が選び抜いた勇者よ。あなたには私の管理する異世界エイ・デファーリスに転生し世界を救って欲しいのです。」
--えっ!?どういう事?不運だらけの自分に世界を救えるような力がある筈ないし・・・。女神エステナ様?
「あなたは今までの人生、不運続きで不思議に思った事はありませんでしたか?あなたは憶えていないでしょうが、現世も前世も更に前々世もそのまた更に・・・・・・・・・・・・・・・も不運の人生で、平均寿命2歳で人生を繰り返してきたようです。」
--短っ!!!?
「1人生において大、小の使える運があるのですが、あなたはその運を使わず転生を繰り返し平均寿命2歳と極端に短い人生を繰り返してきた為、言葉には言い表せない程の大量の使える運の蓄えを持っているのです。今回の人生では、ほんの少し運を使用したみたいですが・・・。」
「うん?でも待ってください!?なぜ私は運を使わず不運まみれの人生を送って来たのですか?」
「生き物の運設定は転生をする際、運で決まるので・・・・・・」
「そこも運ですか!?」
「いやっ!それでしたら今回の転生でも不運になるんじゃ!?」
「大丈夫です。今回は私が運設定等を特別に補助しますので。」
--補助出来るんだ!?
「補助出来るのでしたら、もっと前に補助をお願いしたかったのですけど!!」
「私の管理する世界ではなかったので・・・という訳ですが今回は特別です。私の管理していたエイ・デファーリスの世界には今、危機が訪れようとしています。」
「魔王とそれを裏で操る魔神デクロノギヌスが力を蓄えてエイ・デファーリスの世界と他の異世界をも・・・・そう!あなたの住んでいた地球をも混沌に導こうとしているのです。」
「気付いた時には既に私の力では防げない力となっていました。しかし、あなたが蓄えて来た運を発揮する事が出来れば、神をも超す奇跡を起こせるでしょう!魔神デクロギヌスを救・・・いえっ!倒しに、それではいってらっしゃ~~~~~い~~~~~~~!!」
女神は杖を持つ腕を少し上部に移動させる。杖から出した光る玉で風雲を包んだ。光の玉内で風雲は体が浮いた感じを受けると平衡感覚を狂わせながら消えて行った。女神の言葉が微かだが身体の芯に届く様に聞こえる。
「あっ!!言葉は通じる様になっていますからね~~~~~!!」
「いやっ!!待って!!まだ了解した訳じゃ。アッ!!!わぁ~~~!あぁあ~~~~~~!あ~~~~~~~~~!!」