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プロローグ

変身ものと転生をこの物語に組み込んでみました。

楽しんでくだされば、幸いです。

屋根と言う屋根が吹き飛び、瓦礫が散乱した街の中を、首筋で一つに括った夕日色の髪を靡かせ、一人の女が走っていた。

濃い赤紫色の上着に同色のズボンを履き、足には膝丈ほどもある皮のブーツを身につけている。木でなめした胸当てをし、手には赤い染料で染めた弓を持っていた。まるで戦でも行くようなその格好に、目を向ける者は一人もいない。

それもそのはず、廃墟のような街並みには、まるっきり人の姿がなかったのだ。

「みんな、どこに行ったの?」

女は必死の形相で、故郷の街を見回した。耳をそばたて、目を凝らし、人影がないかを探す。

しかし、聞こえてくるのは、時折吹いてくる風の音と、自身の呼吸の音だけ。

服の切れ端すら見つからない。

「きっとモルフよ!モルフの連中がみんなを攫ったに違いないわ!」

女の肩に乗った、右目が赤く、左目が青いオッドアイの瞳をもつ白い子猫が、確信をもったように言う。

「・・・・・」

女がその言葉に答えることはなく、ただ粉々に砕かれた街並みを見つめる。

その時、人とも獣ともつかぬ金切り声が耳を打ち、女は足を止めた。

「マハ、あれ!」

白猫が前足を空に向ける。女―マハが顔を向けると、鈍色の空を背にして、赤い鱗にびっしりと覆われたドラゴンが、飛んでいくのが見えた。

竜は、マハ達に気づくことなく鈍色の空に消えていこうとする。茫然と見つめていたマハは、はっと我に返り、ドラゴンの後を追おうと走り出す。

「・・・ドラゴンのアルマが現れるなんて。一体誰の・・・」

見上げながら走るマハの耳に、白猫の切羽詰まった声が響く。

「マハ、前!」

その直後、ズンという地響きを伴い、マハの目の前に、黄土色の石の塊をばらばらに繋ぎ合わせたような巨人が現れた。

「ゴーレム!」

巨人―ゴーレムは、瓦礫となった家々を下敷きにしながら、右腕を振りかぶる。それは石の塊を繋げただけに見えるものにも関わらず、ゴムのように長く伸び、真っ直ぐマハに向かって飛んできた。

マハは体を捻り、ぎりぎりでかわすと、弓をつがえ、魔力を込めた矢を放った。

「パージェ!」

矢はゴーレムの額に当たるが、甲高い音をたてて弾かれてしまう。

「スレイダール!」

マハは、間髪いれずに言葉を紡いだ。手にしていた赤い弓は、瞬く間に両刃の長剣へと姿を変える。ゴーレムの伸びた腕を足場にして駆けあがると、マハは、ゴーレムの頭部目掛けて剣を振りおろした

「パージェッ!」

刃はゴーレムの頭に突き刺さる。

すると、ゴーレムは、空気を満杯に入れた袋を地面に叩きつけたような音を響かせ、跡かたもなく消えた。

マハは小さく息をつき、呼吸を整える。鈍色の空を見上げるが、ドラゴンの姿はすでになかった。

「ルーシー、ドラゴンがどこから来たか分かる?」

魔力の塊である長剣を消し、マハは白猫―ルーシーに尋ねた。

「追わなくていいの?」

「・・・モリガン姉さんに任せるわ。これ以上、アルマを出さないように私たちは大本を叩かないと」

「わかったわ。ちょっと待って」

ルーシーはそう言い、何かを探すように辺りを見回した。

「あっちよ!あの城からドラゴンと同じ魔力を感じるわ!」

ルーシーが前足で示したのは、街の中央に鎮座する茶色い煉瓦造りの城だった。

「分かったわ。行きましょう」

マハは頷き、ルーシーを肩から降ろして、その体に触れた。

「メフォーゼ」

そうマハが呟いた瞬間、ルーシーの姿は、オッドアイはそのままの白い毛をもった馬となった。

マハはその背に乗り、城へと向かった。


街の中央に近づいても、人の気配はなかった。綺麗に敷き詰められていただろう石畳の道は、一部が瓦礫で塞がれ、所々にヒビや穴がいくつもあった。

まるで嵐が来たように家々の屋根は飛ばされ、壁はなぎ倒されていた。柱もむき出しになり、

家の中にある調度品が丸見えとなっていた。中には、食事の最中だったのか、皿の上に料理

が残ったままになっているテーブルもあった。

そんな街並みを両脇に見ながら、ルーシーの背に乗り、マハは駆けた。

城に近づいて見ると、跳ね橋は下がり、城門は開け放たれていた。城門の右隣に立つ塔、

その出窓にいるはずの門番もいない。

不思議に思いながら、石橋の上をそのまま進んだが、次の瞬間、マハ達は見えない強い力に弾き飛ばされた。

「きゃっ!」

「くっ!」

マハは、咄嗟に背中を丸め、受け身を取った。同時に、投げ出されたルーシーの安否を確か

める。

「ルーシー、大丈夫?」

衝撃で猫に戻ってしまったルーシーだったが、何事もなかったようで、さっと体を起き上が

らせた。

「平気よ。マハは?」

「私は、つっ!」

背中に引き攣ったような痛みが走り、マハは思わず眉をしかめた。

石造りの橋に叩きつけられた衝撃は大きかったらしい。動くには問題なさそうだが。

「ちょっと、大丈夫?」

心配そうに見上げるルーシーに、マハはひきつった笑みを浮かべた。

「動かす分には平気よ」

肩や手を動かし、問題がないのを確かめてからマハはルーシーに言った。

「ルーシー、肩に乗って。結界を抜けないと」

「・・・えぇ」

ルーシーは不安げな表情を浮かべていたが、マハの言葉を信用することにしたのか、それ以上何も言わず、マハの肩に乗る。

それを確認し、マハは右手を正面にかざし、歩き出した。その時だった。

ドォンッ、というまるで爆発が起こったような音が城の方から聞こえてきた。顔を振り仰げば、城の一角が崩れ、そこには、三つの首をもつ巨大な黒い犬の姿があった。

「・・・ケルベロス」

マハが呟き、ルーシーが目を見開く。

巨大な黒い犬―ケルベロスは三つの首を空に向け、遠吠えをすると、城から飛び降り、周囲の木々をなぎ倒して、西へ向かって駆けて行った。

「どうする?追いかける?」

ルーシーが顔を振り仰ぎ、マハに問う。

「あの方角にはネヴィンがいるわ。それに他のパージェラ達も。心配はいらないわ」

そう言い切りながらも、マハは、不安そうにケルベロスが向かった方角を見ていた。しかし、その思いを振り切るように首を振ると、厳しい表情で再び歩き出した。


右手を正面にかざし、歩を進めると、堅い壁のような感触をマハに伝えた。目の前には、城門が見えるだけで何も映っていない。しかし、手の感触から、ここが結界であるとマハは判断した。

「リース」

マハが呟く。すると、ガラスが砕けるような澄んだ音が響いた。怯むことなく駆けだし、マハは跳ね橋を渡り、城へと入った。


城に入ると、玉座の間に繋がる半円状の階段が印象的に映る大広間があった。そこに広がる光景に、マハは息を呑んだ。

そこには、大広間を埋め尽くすように、多くの人間が倒れていた。皆、一様に血を流しており、大広間は血の匂いでむせかえるようだった。首筋を鋭い刃物で切り裂いたような傷が全ての人間にあった。

マハは、足元に倒れている金髪の女性の首元に触れる。女性は、街で花屋を営んでいたリリーだった。リリーの脈はなく、すでに事切れていた。リリーだけではない。倒れている人間―男も女も子供も老人にも生気はなかった。見渡せば、マハが知っている人達も多くいた。

「なんてことを・・・!」

ルーシーが体を震わせる。

眉を寄せ、拳をぎゅっと握りしめると、マハは静かに口を開いた。

「・・・ルーシー、ネヴィン達に知らせてくれる?」

「え?」

「こんな多くの人間を手にかけるなんて、相手は相当な手練れよ。これは、私の手に余るわ。応援を呼びましょう」

「そ、そうね。じゃぁ、マハも一緒に・・・」

行こうと言うルーシーの言葉を遮り、マハは言った。

「私はここに残って、まだ生きている人がいないか探すわ」

その力強い言葉に、ルーシーは頷く。

「わかった。無茶しないでね」

「えぇ」

ルーシーを安心させるように微笑んでから、マハはルーシーの体に触れ、「メフォーゼ」と言うと、鳩に姿を変えさせた。

「急いで行ってくるわ」

「お願いね」

白い鳩となったルーシーは、飛び立ち、城を出て行った。

ルーシーを見送ったマハは、申し訳なさを滲ませた声音で小さく呟いた。

「ルーシー、ごめんね」

そして、強い光を瞳に宿らせると、大広間を埋め尽くす人々を掻きわけ、階段を上っていった。



「・・・!!」

西へ翼を羽ばたかせていたルーシーは、巨大な魔力を後方に感じ、木の枝に止まった。

すると、マハがいる城が眩いほどの光を放っていた。光は巨大な柱をつくり、城を包み込む。やがて、魔力が消えるのと同時に、光の柱は消えた。だが、そこに聳え立っていた煉瓦造りの城はなかった。

「・・・マハ?」

唖然とした面持ちで、ルーシーは城のあった場所を見つめていた。しかし、見つめていても、城が現れることはなかった。

「マハ!!」

悲鳴のような声を上げ、ルーシーは一本の矢のように城まで飛んでいった。


城があった場所には、何もなかった。城壁の欠片はおろか、埋め尽くすように倒れていた人々も、マハの姿もなかった。まるで、城など立っていなかったように更地が広がっている。

魔法が解け、元の猫の姿へと戻ったルーシーは、ただ更地を見つめることしかできなかった。

「マハー!!」

血を吐くようなルーシーの叫びが、鈍色の空に溶けて消えていった。








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