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異世界人よ、大志を抱け!!!  作者: 植尾 藍
第6章 草原の馬
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6ー15 アルウェルス族集合

 アルウェルス族の一族全体での会議場所というのは、決まった場所があるらしい。

 アルウェルス族の招集の連絡が届いた次の日の早朝、ロトラントさんの宮殿及び後宮にいる人総出で、出発をする。

 私が着替えをして後宮の出入り口に行ったら、馬車4台と荷馬車が12台が並んでいた。荷馬車の荷台には壺が何個も所狭しと積まれている。馬車は、ロトラントの妻に1人1台用意したらしい。そうであるなら、私はロトラントさんの妻ではないから、馬車はプリスキラさん、シエルさん、ワシュテアさんの分の3台でいいんじゃないかと思った。かと言って、では乗馬して行けと言われても、私は困ってしまうのだけれどね。スバルも、荷馬車を引いているらしいから、乗馬していけと言われることはないだろうけど。


 それにしても、荷馬車が12台ずらりと並んでいるのは、前の世界の交通渋滞を連想させた。

「なんでこんなに荷物があるのですか?」とペニナさんに乗り込んだ馬車の中で聞いたら、「会議が行われるのは1週間後ですので、それまでの食料や寝泊まりするテントなどです」という答えが返ってきた。

 会議場所は、距離的に遠いところなのかと思ったが、ペニナさんの話では、馬車でも1日あれば到着できる距離にあるそうだ。

「じゃあ、なんで今日出発するんですか?」と、当然の疑問が湧いてくるので、それを聞いた。6日も前に早々と到着する意味が分からない。


「族長家として、会場の準備をしなければならないのです。私達が早く出発するのは、その準備をおこなうためでございます」というペニナさんの返事が返ってきた。

 会議場の近くには、川が流れており、水の心配はないそうだ。しかし、問題になってくるのが、トイレらしい。10万人のアルウェルス族が集まって、問題になるのが、用を足す場所。その準備を一手に引き受けなければならないらしい。具体的に何をするかというと、10万人が集まる会場内や、早く到着した人が一時的に滞在する場所の地面に、ひたすら深い穴を掘る。要は、トイレ設置工事だ。確かに、10万人という人数の人が一個所に集まって、無秩序に用を足したら、異臭で会議どころの話ではなくなるだろう。とても大事な作業だと私は納得した。

 確かに前の世界でも、お祭りの時や花見の時には仮設トイレが置かれていたなぁ、なんて思い出したりもした。


 途中でお茶休憩を挟みながらののんびりとした移動だった。お茶の休憩は、360度の草原と青空の中、ティーテーブルを荷馬車から出して、そこでプリスキラさん達とお茶を飲みながら談笑をした。ピクニックのような感じだった。

 大変だなぁと思ったのが、召使いの人達。荷台に入っている壺の1つは、薪の火種、燠火(おきび)が入っているらしく、お茶のためにそこから火を起こし、お湯を沸騰させる。魔法瓶とかあれば、後宮で沸かしたお湯を持ってくればいいのだけれど、当然そんな便利なものはないし、ロトラント様の奥様方に温(ぬる)いお茶を飲ませるわけにはいかない、というのが召使いさん達の矜持らしい。そういうわけで、周りは必死にお湯を沸かしたりと忙しそうだった。


 ペニナさんが馬車の中のソファーを模様替えしたら、馬車内が寝所になった。馬車の屋根の上になにか積んであるなぁと思っていたけれど、それはベッドだったようだ。馬車で3日、4日旅をするということも当たり前にあるのだろう。そしたら、眠る場所が必要になるのも分かる。

 でも、一緒の馬車に乗っているペニナさんは、外で寝るそうだ。御者も外で。もう夜は火の近くでなければ寒く、野宿するにはつらい季節だと思うのだけれど、なんとかなるらしい。

「気合でなんとかなるってことですか?」と私はペニナさんに聞いたら、「気持ちの問題ではありません。慣れの問題です」と真面目な顔して言われた。私なりの冗談だったのだけれど、気合でなんとかなるというような精神論は、あまりこの世界の人には通じないのかな、と思った。


 次の日の早朝に会議場所に到着をした。馬車のベッドは意外と快適だった。

 会議場所といっても、草原の真ん中に木で組まれた高い壇上があるだけだった。盆踊り大会のときに作られる盆やぐらに似ていると思った。その壇上を中心に10万人のアルウェルス族が集まり、会議をおこなうそうだ。そして、その壇上から少し離れた場所に川が流れており、その川を越えた場所は、早く会場に着いた人達が会議の日まで過ごす場所。まぁ、そこもただの草原なのだけれど、会議のスペースの場所にテントを張られたりしたら、場所が狭くなって迷惑であるから、テントを張る場所と会議の場所を分けているということだ。

 私達も、到着してまずテントを張り、男手はトイレ用の穴を掘りに出かけた。人が入れる大きさで、深度1メートル程度まで掘るそうだ。男手は、会議が開催されるまでの間、ずっと地面を掘る作業を続けるそうだ。


 ちなみに、科学技術が発達していない世界特有の工夫だと思ったのが、赤い旗を持った人だ。赤い旗を上げたり下げたり、何か大声で話したりと何をしているのかと思って、近くにいたワシュテアに聞いたら、伝達班らしい。伝達班というのは、壇上にいる人が喋ったことをオウム返しする人ということだ。10万人が壇上を中心にして集まるが、壇上にいる人がどんなに声を張り上げても、10万人全員に肉声を届けるのは無理だ。

 東京ドームのグランドの真ん中で、マイク無しで大声で叫んだとしても、東京ドームの収容人数5万人全員が聞き取れるような声量を出せないであろう。

 しかし、それを可能にするのが、伝達班だ。そして、赤い旗を持っているので、赤旗隊と呼ばれているらしい。10万人規模の集会だと、人が多いので、第4次赤旗隊も組織されるそうだ。壇上の人が話した内容を、第1次赤旗隊が聴き、その内容をそっくりそのまま大声で話し、話終わった後に赤旗を揚げる。第1次赤旗隊の人の声が届く範囲に第2次赤旗隊がいて、第1次赤旗隊が話した内容をリピートする。そして、赤旗を上げる。そうすると、第3次の人達が、第2次の人の言葉を繰り返し……、というようなことをして、10万人全員に発言の内容を届けるそうだ。壮大な規模の伝言ゲームだ。マイクで拡声できるって、とてつもなく便利だったんだと私は思い知らされた。

 ちなみに、発言する人も、あまり長く話すと赤旗隊がリピートするのが大変らしいから、途中途中で話を止めるようだ。通訳を介して話すときのような感じになるのだろう。


 肝心の、アヒトフェル族の会議の意思決定方法は、正確な感じではない。賛成だと起立、反対は座るということなのだけれど、ちゃんと数えないそうだ。

「アリサは細かいことを気にするのね。そこは雰囲気よ。10万人の賛成と反対をいちいち数えたら、それだけで1日が終わってしまうわ」とワシュテアさんが言った。まぁ、そうだけれどね。テレビ番組の○×クイズみたいに、賛成の人は右側へ、反対の人は左側へなんてすれば数えるのが楽ではないかと思って、それを言ってみたのだけれど、ワシュテアさんは微妙な顔をした。

 せっかくわざわざアルウェルス族が一か所に集合して会議で決めるのであれば、決議もきっちりと数を数えてやればいいと思うのだけれど、どうもそんな考えはワシュテアやペニナさんにはないようだ。感性の違いだろうか。私は前の世界で成人してから一度参議院選挙があったけれど、投票していないしね。投票率が芳しく無い中で、きっちりと1票を数える日本と、全員がちゃんと会場に集まって話し合うけれど、賛成反対をきっちりと数えないアルウェルス族。まぁ、どっちがいいのか分からない。比較するもの間違っている気がするしね。


 ちなみに、会議の日まで、私は乗馬の練習をして過ごした。私も特にやることがなかったし、それはワシュテアも同じなようで、朝早くから私の馬車の所にやってきて、同じテーブルで朝食をとる。

 私の初日の朝食は、パンに燻製したお肉を挟んだ、ハンバーガーみたいなものだったのに対して、ワシュテアさんは、人参のような野菜が入ったシチューとパンだった。こんな感じで私とワシュテアさんの朝食の内容が毎日違ったので、その理由を聞いてみたら、私には私専用のコックさんがいて、ワシュテアには彼女専用のコックがおり、それぞれがご飯を作っているそうだ。後宮での毎日の朝食もそうだったらしい。どれだけ私に人件費をかけているの、と思わず突っ込みを入れてしまった。ペニナさんという専属の召使いがいるだけではなく、専用のコックまでいたとは……。ちなみに、私の専属料理人は、ペニナさんからの情報や、私が食べ残したものなどから私の嫌いな物や好物を把握しようと日々努力しているらしい。まぁ、あまり食べ残しはしたりしていないけどね。それにしても、最近、パクチーみたいな香料が出なくなったと思っていたら、私がパクチーを嫌いだとコックさんは分かったのだろう。まぁ、皿の端にパクチーだけよけておいていたら、誰だって嫌いなのだとわかるかも知れないけれど……。

 朝食後は、ワシュテアさんに誘われるままに乗馬の練習をする。会議場に到着してから会議の日までの間、ずっと練習をして、最終日には自分で横鞍を装着し、乗馬し、乗馬が終わったら片づけをするという一連のことを全部一人でできるようになった。乗馬のスピードも、自転車と同じくらいのスピードくらいならなんとか乗れるようになった。意外とワシュテアは褒め上手だった。

 乗馬の練習で一番うれしかったことは、4日目くらいからスバルが私のことを覚えたらしく、4日目以降スバルがいるところまで行くと、「ヒィ、ヒン」とうれしそうな声と動作をするようになったことだ。

 ワシュテア曰く「スバルはやっとアリサのことを友達だと認めたようね」と言った。私も、スバルの頭を撫でたりすることに抵抗はなくなったし、可愛いと思うようになった。ペットという呼ぶには大きすぎるのだけれど、私は新しいペットを飼ったような気持ちになった。


読んでくださりありがとうございます。

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