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異世界人よ、大志を抱け!!!  作者: 植尾 藍
第6章 草原の馬
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6ー9 アリサとワシュテア②

 ペニナさんに手渡された提灯を手に、廊下を進む。私の前にはワシュテアさんが歩いている。廊下に飾られてある絵が、提灯の薄明かりの中に浮かんで見える。昼に見たときは女性(ロトラントさんの祖母か曾祖母だったと思うけど、どっちか忘れた)が柔和な笑みを浮かべている、暖かい雰囲気の絵であったが、今見ると恐い。提灯の薄明かりの中で、無気味な笑みを浮かべているし、目とか口とかが今にも動きそう。モナリザとかも、深夜、誰もいない美術館で観賞したとしたら、とても恐ろしい絵だという印象を受けてしまうんじゃないだろうか。


 ワシュテアさんの歩くスピードは速い。足早に移動するのも恐いのだけれど、こんな暗い廊下に1人で取り残されるのはもっと恐いから、必死で彼女に離されないように歩く。絵画に書かれている人物の眼や口が、動かないようにと願いながら、廊下を歩く。提灯が放つ光を、闇は早食い競争のように飲み込んでいく。後ろを振り返っても何も見えない。


 長い廊下を歩き、壁のない、屋根だけの渡り廊下を歩く。私の記憶にはない場所。初めて来た場所だと思う。冷たい風と共に、臭い匂いを感じた。上品に例えると、肥料の匂いとか牧場の匂いとかそんなのだと思う。


 馬が入れられている部屋は、私のイメージと同じだった。馬が入れるだけの正方形の空間が有り、通路側は木の棒が5個ほど掛けてあり、入口を塞いでいる。そして、その手前には飼い葉桶があった。


 ワシュテアさんは、昴が入れられている所に、乗り越えて入っていった。


「もうご飯がないじゃないの。ササキ・アリサさん、そこの藁を昴に入れてあげなさい」とワシュテアさんが言った。馬の入っている部屋の反対側は、藁が山のように積んである。


「それを床に置いて、延焼したらどうするの?」とワシュテアさんが怒り口調で言った。私は、床に提灯を置いただけだったが、怒られた。提灯を持ったままだと、藁を運べないから床に置いたのだけど……。


「柱に引っかける場所があるでしょ。そこに掛けるのよ」と言った。ワシュテアさんが言っていることが分からないので当たりを見回していると、ワシュテアさんは昴が入れられている部屋から出てきて、柱にあるホックを彼女の提灯で照らしてくれた。


「ありがとう」と私はお礼を言った。


「納屋を燃やす蛍というのは、あなたのことね」とワシュテアさんが笑いながら言った。彼女は冗談を言ったのだろう。


 私は、藁を力一杯抱きしめて運んだ。そして、飼い葉桶の中に入れた。放課後の部活動で、お腹を減らして帰ってきた弟が食べていた、特盛りにしたご飯茶碗みたいになった。お腹いっぱい食べてね、と心の中で昴に言った。


「貴女も中に入ってきなさいよ」とワシュテアさんの声。彼女は、手招きまでしている。


 こちらの世界の手招きって手首を上に返すんだぁ、初めて気付いたな、なんて私は考えてしまった。前の世界では、いや、少なくとも日本では、招き猫のように手首は下に返したのに。


「早く来なさいよ。昴だって、主人である貴女から直接食べたい筈よ」とワシュテアさんが言った。


 いやいや、既に昴は飼い葉桶の中の藁を自分で食べているし。別に私が出る幕でもない気が強くする。あ、でもいま、昴が藁の中に口を突っ込む瞬間、私を見た気がする。私と眼があった気がする。たぶん気のせいだろうけど。


「仕方が無いわね。柵越しでもよいから、直接あげてみなさいよ。きっと喜ぶわよ」とワシュテアさんは言った。彼女は、飼い葉桶の藁を食べている昴の頭を撫でている。


 私は再び藁を反対側から取ってきて、昴の前に差し出した。私が勇気を振り絞って差し出した藁に見向きもしないで、飼い葉桶の中の藁を食べ続けてられたら、一応の飼い主として立つ瀬がなかったのだけれど、その辺りを昴は分かっているのか、私の差し出している藁を食べてくれた。馬って、口で藁を咥えるというよりも、舌で絡め取っていくのだと、私は自分の掌をザラッとした昴の舌で舐められてから気付いた。

 背筋がゾワァっとしたので、思わず藁を離して、柵から離れてしまった。私が落とした藁は、飼い葉桶の水を入れる場所に落ちてしまった。私が落とした藁は、当然のごとく桶に入っている水の上に浮いていた。

読んでくださりありがとうございます。

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