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異世界人よ、大志を抱け!!!  作者: 植尾 藍
第6章 草原の馬
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6−6 有沙と馬の靴屋さん

 不機嫌そうだったプリスキラさんは、草原の草を抜いては馬に食べさせるというようなことをしていたが、シエルさんと私の所へ戻ってくるようだ。顔の表情も柔和な感じに戻っている。機嫌が直ったみたい。


「勝負事に負けるといつもああなの。しばらく放っておけば機嫌が直るのもいつものことなのよ」と、シエルさんが小声で私に言った。プリスキラさんと、オセロや大富豪とかすると、すごくめんどくさそう。プリスキラさんが勝負に勝つまで、みんな寝れないような感じになるのではないだろうかと少し思った。


 ワシュテアさんが、馬、一応名前をつけたから名前で言うとすばるでの乗馬を堪能したらしく、そろそろ、馬の靴を買いに行こうということになった。この世界では馬も靴を履くのだろう。前の世界では、アルファベットのUのような形をした鉄を、たしか蹄鉄という名前だったと思うけど、馬はそれを蹄に付けていたような気がする。この世界に馬子にも衣装という言葉があるかは知らないけれど、馬にも衣装はあるのだろう。馬にもお洒落をさせるというのが、お金持ちのたしなみなのかも知れない。



 馬の靴を売っているという場所は、馬主さん達の所から歩いてすぐだった。市場の中心のような、賑わいはなく、40歳くらいのおじさんが、長い茎のようなものを口にくわえて、両腕を枕にして仰向けになって青空を眺めているだけだった。他にお客さんもおらず、馬も居ない。暇だったから、たぶん昼寝でもしていたのだろう。彼の頭の右後ろには、小麦の実を取り除いて乾燥させたのではないかと思われる藁が一山あった。これが材料ですよ、という主張だろうか。馬の靴といっても、私やプリスキラさん達が履いているような木と布で作るのではないのだろう。藁が材料だったら、草履に近いようなものかも知れない。


「一足お願いしますね」と、プリスキラさんが、私達が店先に立っても、興味なさげに相変わらず空を眺めているおじさんに言った。どうでもいいかも知れないけれど、馬の一足というのは、前脚と後脚の両方のことを言っているのかどうなのかが気になった。まあ、馬の靴を作ってもらったらその結果はすぐに分かるだろう。


 店のおじさんは、ペッと口に加えていた茎を吐き出して起き上がった。時代劇の通りすがりの正義の味方が、悪役との殺陣に入る前に、爪楊枝だとか、焼き鳥の串とか、加えていた葉の付いた枝をはき捨てる所作にすこし光景が似ていると思った。まぁ、このおじさんの場合だと、かっこいいとか様になっているとかではなくて、態度悪いなぁとか、汚いなぁという感想しか私から出てこなかったけれど。


「その馬か? 乗らしてもらうぞ」とそのおじさんは言って立ち上がり、昴に乗った。男の人も、馬に跨って乗らないで、横乗りするのかなと思ったけれど、鞍の構造からして跨れないのだろう。


 プリスキラさんとシエルさんは、「馬のことは任せたわ。私達は掘り出し物がないか見てくるわ」と言って、人盛りのほうへ行ってしまった。私も行きたいけれど、一応私の馬なようだから、持ち主としてこの場にいなきゃいけない雰囲気なので、空気を読んでこの場に残る。


 ワシュテアさんは、おじさんが乗る様子を鼻歌を歌いながら眺めている。おじさんは、ゆっくり馬を歩かせたり、走らせたりしている。ワシュテアさんは、何を見てそんなに楽しそうなのだろうか。さっぱり分からん。


 しばらくして、おじさんが昴から降りて戻ってきた。そして、前脚の蹄を片方づつ昴に持ち上げさせて、なにやら観察をしている。そして、後脚の蹄も触ったり、人差し指でトントンと叩いたりしている。馬が怒って、おじさんを踏むか、蹴るかしないか心配だけど、大丈夫だった。


「あんた、体重はいくらだい? 」とおじさんが唐突に聞いた。ちょっといきなり何を質問するのよ、なんて思ったけれど、ワシュテアさんも何も言わないから、仕方なく正直に答えた。半年体、体重計には乗っていないけれど、たぶん体重はそんなに変わっていないと思う。たぶん。


「随分やせてんなぁ。まぁ、その体重なら、いくら乗り回しても大丈夫だ。ちょっとやそっとじゃ割れたりしねぇよ」と、おじさんは言った。


「私の見立てだと、大男を乗せて毎日10キロ走っても大丈夫ね」と、ワシュテアさんが言った。


「ちげえねぇな」とおじさんが同意する。いやいや、大男が乗っても大丈夫ならなぜ私に体重を聞いたのよ、と思ったけれど、まあ気にしたら負けだ。


「いい馬だな」「そうでしょう」と、ワシュテアさんとおじさんが昴について、意見交換を行っている。「いい走りをする馬だが、長距離を走らせるにしては少し後脚を蹴りすぎるな」とか「しばらくの間、塩を少し多めにあげたほうがいいかしら」とか「食事の合間に、少し蜂蜜を舐めさせな」とか、いろいろ話をしているのだけど、私にはさっぱり分からない。


「馬って、人参が大好物なんですよね。馬の顔の前に人参をぶら下げると、すごく速く走るらしいですよ! 」と言って、私も会話に加わろうと思ったけれど、止めた。私は、青空を眺めることにした。


 しばらくして、「そうだわ。引き縄をお願い」とワシュテアさんが注文をした。おじさんは「あいよ」という、いかにも職人さんというような返事をした。ワシュテアさんとおじさんは、だいぶ打ち解けたようだ。

 おじさんは、素早い手つきで、正月に蜜柑と一緒に家の門に飾ってあるようなしめ縄を細くしたようなロープを編み始めた。私が、後ろ髪を三つ編みにしたときの束ねた髪よりも細い縄だ。50センチくらいの藁を、どうやってつなぎ合わせているのかかなり謎。引っ張ったら、簡単にちぎれちゃいそうな感じがする。


「引き縄って、何に使うの? 」と、ワシュテアさんに聞いたら、手綱に結び付けて馬を引っ張るためだそうだ。帰り道、昴に私が乗って帰ることが出来ないから、ワシュテアさんの馬と、昴を結びつけるための縄らしい。確かに私は、市場に来る時に乗った馬車に乗って帰る気まんまんだ。徒歩で帰るのは辛いし、昴に乗って帰るのは無理だし。


「引き縄とかしなくても、付いてきそうですけどね」と私が言ったら、「そこまでの信頼関係を貴女はまだ築けてないでしょ。親密になれば、勝手に馬の方から付いてくるわよ」と、なぜかだかワシュテアさんに怒られた。ちょっと理不尽な気もする。


 それにしても、このおじさん、何メートルの引き縄を作るつもりなのだろうか。馬と馬を結ぶのだったら、相当長い紐が必要なんじゃないだろうか。おじさんの作っている紐は、やっと2メートルに達したかというような長さ。待たなきゃいけないのだろうか? 市場で売っている品物を見て時間を潰したいなぁ。

読んでくださりありがとうございます。

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