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異世界人よ、大志を抱け!!!  作者: 植尾 藍
第5章 後宮の有沙
49/75

5−8

 後宮に戻るとすぐにご飯ということだった。そういえば、後宮についてから随分と時間が経つのに食事は出ていなかった。午前中に後宮に着いてからどたばたして昼食の時間がなかった。この部屋の窓からは夕日は見えないが、この西日の感じからして夕方近い。ザンドロス国が、朝と夜の二食しかしないという食習慣の国だったら嫌だなぁ。


 「夕食の準備をして参ります」と言って出て行ったペニナさんを待つこと暫く、扉からノックの音が聞こえ、彼女が帰ってきた。彼女は大きなお盆を抱えており、そこには料理らしきものと飲み物用の壺が見えた。

 ちなにみ、ハンナさんは私が部屋に戻ると既に部屋のハーブが置いてある所で待機していた。ダンス会場から馬車に乗った私達よりも到着が早いって、ハンナさんはどれだけ行動が早いんだよと思う。「どのような曲をご所望ですか」と聞かれたが、「お任せします」とハンナさんに丸投げした。ダンスの時に違う曲がいいなと内心思っていて、彼女が弾き始めたのは聞いたことがない曲だったので少しホッとした。


「大変お待たせしました」と言って、ペニナさんは窓辺のティーテーブルに皿を置いていく。私は彼女が置いた品を眺めた。良い香り。皿の中は、キッシュのような料理だった。表面には狐色にこんがりと焼けたチーズのようなものが見える。匂いからしてチーズだと思う。それをタルトのようなものが囲っている。おそらく、この皿ごとオーブンで焼いた、いやオーブンはないから竃か何かにいれて焼いたのだろう。大きさは、宅配ピザのMサイズを一回り小さくしたくらいの大きさ。厚みがあるから、一人で食べるには少し量が多いかなと思う。

 

「ササキ・アリサ様、どうぞお掛けください」と彼女が言うので、私は椅子に座る。彼女は、スプーンを私の私の手前の皿に置いた。そして彼女はキッシュを切り分けて目の前の皿の上に取ってくれた。やはりここで食べるようだ。食事って、みんなで食べるような気がするんだけどなぁ。夕食はプリスキラさん達と食べると思っていたけど、この部屋で食べるとはびっくりだ


「どうぞ、暖かい内にお食べください」と、彼女は言う。彼女の様子からすると、彼女は給仕に徹するようだ。私一人でこのキッシュを食べるのだろうか。ずっと、ペニナさんもご飯を食べていないよね。それどころか、私をエステしたりとかしているから、彼女の消費カロリーの方が私よりも多いだろう。胸はそのくせ私よりも大分ボリュームあるけどさぁ。

 それに、ハンナさんもずっとハープを弾き続けるのだろうか。一緒に食べたらいいじゃんと思うけどどうなんだろう。皿やコップは1セットしかないから一緒に食べましょうなんて私が提案したとしても、2人とも困るかもしれないけれど。でも、給仕とかされながら1人で食事をしたりなんかしたら、美味しい料理も美味しいと感じれないと思う。


「ペニナさん、一緒に食べませんか? もちろんハンナさんも」と、私は言った。けっこう勇気を振り絞って言った。ペニナさんに「何をこの人は言っているの? 」と思われるかもしれないけれど、私は言う。


「はぁ」と、困惑するペニナさん。やっぱり彼女の常識から外れることを言ったようだ。


「駄目ですか? 」と私は聞く。


「駄目という分けではないのですが。私はササキ・アリサ様の使用人であって、一緒に食卓を共にする立場ではございません」と彼女は言う。ペニナさんの言い方だと、絶対駄目ということではないのだろう。


「身分とか私、気にしませんから。一緒に食事をしたいんです」と、私は再度念を押す。


「身分ですか? 申し訳ございません。仰っている意味が分かりかねますが」と怪訝な顔で彼女は聞き返えされた。あれ? 族長の妻となる()()()()()()私と、使用人をされているような平民? の人が、同じ席で食事をするという行為が、身分違いで禁忌となっていると思った言ったのだけど、そうではないのだろうか? 


「あの、なんで一緒に食事をすることを躊躇われるのですか? 私、この国のことがよく分かっていないので教えてください」と、教えを請う。タキトス村での記憶喪失設定から、異国出身だから常識が分かりませんという風に、私の常識知らず設定を変更して置く。


「それは、私が勤務中だからでございます。食事の時間は別に設けられておりますので、勤務中は勤務に励みたいと思います」と、彼女から普通の回答。

「そうですか」としか答えようがなかった。


 確かに私も前の世界でバイトをしている時、勤務時間中にお腹が空いたからと言って、隣のマクドナルドへ勝手に抜け出してチーズバーガー単品で食べるというようなことは流石にしていなかった。まぁ同僚はしていたんだけどさ。ラグビー部かなんかの体が大きい食べ盛りのような感じの人だったし、店長も見て見ぬ振りをしていたから別にいいんだけどさ。

 お父さんが「ゴルフは仕事だ! 」とか言って、土日の両方家族サービスしないで遊びに行っていたことを思い出した。ここで、私が「私と一緒に食事をすることこそが仕事です! 」なんて言ったらどうなるんだろう。もしそれを言ったらペニナさん、本気で困りそうだから言わないけどね。


 ・


 結局、夕食は1人で食べた。部屋には私を含めて3人いるけど、私1人で食べた。キッシュを一切れ食べると、ペニナさんがうやうやしく私の皿にお代わりを盛ってくれる。別に自分でやるんだけどなぁと思いながらも、それを言うのは彼女の雇用を奪いかねないから言わないで置く。

 そんな気持ち的には料理を楽しめる環境ではなかったけれど、キッシュはとても美味しかった。前の世界で食べていたチーズよりも臭みがあって、独特なチーズが使われているけど、それは注がれたワインと良く合う。ブルーチーズをおかずにしてワインを飲んでいた父の心境が分かった気がする。確かに旨いわ。使われている油が、オリーブ油なのだけれど、オリーブ臭さも上手に抑えられていてチーズの香りが逆に引き立つ感じ。

 具も最高。たっぷり入った茄子が、なんとも言えない感じになっている。オーブンでじっくりと焼かれて、細切れにされたベーコンの旨み成分をたっぷりと吸い込んだ茄子。それにとろとろのチーズとクリームが絡む。ペニナさんに聞いたら、このチーズとクリームに使われているのは濃縮した山羊の乳らしい。

 

 そしてデザートは、杏子を寒天で固めたゼリーだった。ゼリーよりは歯ごたえがあり、グミを最初に咬んだときのような堅さなのだけれど、舌で転がしている内に柔らかくなり溶けていく。最初はグミのようなんだけど、徐々に寿司のトロが口に広がっていくような食感かな。不思議。

 私は、結局全部食べきった。そして、何だかんだと飲み物として出されたワインも飲んで、すっかり気持ちよくなって、食後にそのままベッドに直行した次第です。


 朝起きると、雨が降っていた。部屋を見渡したが、顔を洗う水桶もないようだったので、目やにの付いた眼を擦りながら、窓辺のティーテーブルに座り、外を眺める。窓から見えるのはぼんやりとしか見えない木々。薄く墨を使っただけで描かれた水墨画のような風景だ。霧のようなものが地面からうっすらと立ち上っていて輪郭が曖昧。ぼんやりとしたもやの中に、木が浮かんでいるようにも見える。ガラス窓を叩く雨粒は大きくはないが数が多い。そういえば、ガラス張りの窓って、タキトス村では見なかったなと思う。

 私は窓を開けた。雨の音が飛び込んできた。放送時間が終わった時間につけるテレビの音を、静かに、そして心地よくしたような音が室内に響いた。冷えた外気が頬にあたって冷たい。着ている浴衣の袖の中から、冷たさが腕と肩に伝わってくる。


 扉が静かに開いた気配がした。私は振り返ると、ペニナさんが銀色のボウルを抱えたまま部屋に入ってきた。左手にはタオルのようなものを腕にぶら下げている。


「おはようございます」と私は言った。


「おはようございます。お目覚めになったのですね」と彼女は言って、ティーテーブルの上にボウルを置き、ボウルの上においていた蓋を取り除く。中には水が入っていた。水には透明感がなく、気持ち茶色なんだけど、もしかして洗顔用かな? と私は思う。


「ペニナさん、これは? 」と聞く。予想通り洗顔用だった。ちょっと濁っているのは、雨水が井戸に流れ込んだことが原因らしい。ああ、雨が降った日の川の水って濁っているもんね、と勝手に私は納得する。


 顔を洗って、簡単に寝癖を整える。昨日、髪を切ってもらって全体的に軽くなった感じになったけど、寝癖はついてしまうものなのだ。


「今日は、どんなことをするんですか? 」と、私はペニナさんに聞く。


「ご朝食後に、ササキ・アリサ様の家庭教師の先生がいらっしゃる予定でございます。ザンドロス国について学んでいただきます。そして、午後からは昨日に引き続きダンスの練習でございます」と、彼女は言う。


 勉強するのかぁ、と少し気持ちが落ちる。しかも、昨日私が到着して、すでに次の日の午前中には家庭教師の先生を既に手配済みということに対して驚く。インターネットもないのにどうやって先生を見つけてきたのだろうか。家庭教師の先生を探すだけでも苦労しそうなのに。まぁ、この世界にはこの世界の情報網というのがあるのだろうから、気にしたら負けだ。


 ペニナさんが朝食を部屋に持って来た。後ろにはハンナさんもいた。


 ハンナさんにも朝の挨拶をすると、昨日と同じようにハンナさんから曲のリクエストを受けた。いつもリクエストがないというのもハンナさんにしてみたら少し寂しいかも知れないと思う。とりあえず、「さくら」でもリクエストしてみようかなぁと思う。


「ララシ、ララシ、ラシドシラシラファ〜」と、私が歌って、ハンナさんにメロディーを伝える。歌詞付きで歌うと面倒なことになりそうだから止めておいた。桜ってなんですか? と聞かれても、この世界に桜があるかも分からないし、説明が大変そうだからね。


「とても弾きやすいメロディーですね。これはイコニオン国の民謡か何かですか? 」とハンナさんが早速私の歌ったメロディーをハープで弾き始めた。一回聞いただけで、さっそく耳コピできちゃうハンナさんは流石として言いようがない。前の世界でも、ピアノとかをやっていた友達とかは曲を聴いただけで、すぐに楽譜なしで弾けたけど、そういう能力はこの世界の人でも共通しているのだろう。ちなみに、私には出来ない。


「そんな感じです」と、私は曖昧にハンナさんに答えておいた。まぁ、イコニオン国の民謡と言っておいてもばれることはないだろうと思う。


「私の方で、アレンジを加えてもよろしいでしょうか? 」と、ハンナさんが聞く。どうぞ、と私は答えた。


「ササキ・アリサ様、朝食の準備が出来ました」とペニナが私に呼びかけてきたので、ティーテーブルの方へと移動し、席に着く。


 朝食は、クロワッサンみたいなパンと牛乳と杏子ジャムだった。普通に美味しい。杏子ジャムは、前の世界のジャムより甘みが少なく、酸味が強い感じがするけど美味しい。クロワッサンは3つだけしか用意されてないのが少し残念。あと2つは食べれるのになぁ。

 ハンナさんは、さくらのメロディーに和音を組み合わせながら弾き始めている。もともとのメロディーが和風なためか、彼女のアレンジを加えた曲もどことなく和風な感じがする。なんとなく前の世界のような感じを受けて、気持ちが落ち着く感じがする。梅昆布茶が飲みたくなる心境になってきた。

読んでくださり、ありがとうございます。

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