表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界人よ、大志を抱け!!!  作者: 植尾 藍
第2章 タキトス騒乱
4/75

2−1

2章スタートです。

 霧の中から出ると、森と草原の境目だった。草原の向こうの少し高い所に村が見える。あれがタキトスという村なのだろう。後ろには森が広がっており、木漏れ日がさしているものの少し薄暗い。すごく虫がたくさんいそうな感じ。入りたいとは思わない。


 私は、とりあえず草原の先に見える村まで歩くことにした。草原を歩きながらこの新しい世界、エクレシアを観察する。まず、太陽は私の頭上に1つしか輝いていない。太陽が2つとかある世界というわけではないようだ。そして、ロゼさんのところでお昼ご飯を食べて、あの白い部屋から出発まで2時間くらいしか経っていないから、午後2時といったところだろう。この世界の1日がどれくらいかは分からないけれど、太陽の高さは地球の午後2時と同じくらいだから、一日の長さは地球と同じくらいなのかも知れない。まぁ、生活しているうちに分かるよね、と思い直して考えるのを止めた。気温は、少しだけ涼しいと感じる程度。前の世界で言えば、夏と秋の間くらいの感じかな。夜になると寒いかも知れない。


 村までの道は、緩やかな登りと穏やかな下りが続いており、重いリュックを背負っているだけあって、すこしきつい。地形でいえば、丘陵ということになるのだろう。疲れたから、リュックを下して、大の字になって草原に寝そべる。正直、もう歩きたくない。



 起き上がる気になれず、流れていく雲を眺めていた。20分くらいだろうか。遠くから動物の足音らしきものが聞こえたので、身を起こす。村の方から、白い馬とそれに乗った人がこちらに向かってくる。とりあえず起き上がり、リュックをまた背負う。やはり重い。馬は相変わらずこちらに向かっている。私を目指してやって来ているということだろう。


 白い馬とそれに乗っている人は、私の3メートルほど手前で止まった。馬に乗っていたのは、兵士風の格好をした男。外見は人類。ロゼさんが言っていたように、人間の外見は前の世界と変わらないのだろう。それにしても、馬を止める時って、想像以上に思いっきり手綱を引っ張るようだ。手綱をあんなに引っ張ったら、馬が痛いだろうに。


「おい、そこのお前、こんなところで何をしている? 」と言って、馬に乗っている人は、腰にぶら下げていた剣を抜いた。


 いきなり抜刀されるとも思ってもいないし、怖い。とりあえず答えないと斬る、みたいな目をしているので、何か言わないといけない。だけど、異世界人ですなんて、言っても信じてもらえないだろう。焦る、思い出せ、私の設定を。


「タ、タキトスに向かっているところです。タキトスの教会で働くことになったので」


「どこから来た? 」


「王都から派遣されてきました」


「嘘を付け! 」


 やばい、いきなり嘘だと断言されてしまった。確かに嘘です。ロゼさんに作ってもらった勝手な設定です。何も言い返せない。


「王都から来たのであれば、北から来るはずだ。南からやって来ておいて、白々しい嘘を言うな!」


 彼の握っている剣に力が入ったのが分かる。既に言い逃れできない状況証拠を掴まれてしまっているようだ。


「ロゼさんという方にあそこまで送ってもらい、そこからタキトスまで歩いてくるように言われたので、歩いて来たんです」


 私が霧から出て来た場所を指でさして、説明した。こんどはある意味嘘はついていない。


「ロゼ? 私を馬鹿にしているのか? 」


 彼は剣先を私の方に向けた。相当怒っている様子だ。私、どんどん墓穴を掘っていっている?だけど、ここは言い切るしかない。


「本当です! 」


「敵国のスパイか何かは知らないが、もっとこの国の勉強をしてから潜り込むことだな。死ぬ前に教えといてやる。ロゼというのは、おとぎ話に伝わる不思議な力を持った妖精の名だ。妖精に連れて来られました、なんて言われて信じる馬鹿がどこにいる? 」


「本当です! 」


「嘘を付け! 」


「本当なんです。信じてください」


「信じられるか」


「教会まで連れて行ってください。そこで私が働くことになると連絡が言っているはずです」


 ロゼさんは、王都から派遣されて教会で働くということにしておくって言っていた。教会になにか連絡が言っていることに望みを掛けるしかない。


 彼はチッっと舌打ちをした。


「教会か、バルナバ神父のところか」



 沈黙。


 

 彼は何かを考え事をしているようだ。


「分かった。教会までお前を連れて行く。教会がスパイの手助けをするとも思えんしな。そこでもお前が何者か分からなかった場合は、分かっているな?」


「はい! その時は、煮るなり焼くなりしてください! 」


「煮るなり焼くなりだと?そんな野蛮な事はせん。さてはお前、ザントロス国のスパイだな?ザントロスでは、人質をそのように拷問すると聞いた事がある!」


 また墓穴を掘った。もう余計なことは言わないでおこう。いきなりカルチャーショックのオンパレードだ。


「全然違います! 教会に連れて行ってもらえれば分かります」


「その前に、背負っているものを置け。中身を検める。荷物を置いて、20歩後方に下がれ」


 私は、言われるままにした。彼は馬から降りて、私のリュックの中をあさり始めた。一応、私の下着とかも入っているのだけれど…… 。



「村へ行くぞ」


 しばらくして、彼は私のリュックを背を背負い馬に乗った。どうやらリュックを運んでくれるようだ。私は、彼の馬の後を着いて行く。


「お前、名前は? 」


 上半身だけ振り返って私を見る。馬を操りながら随分器用だなと思う。落馬とかしないのだろうかと思う。


「佐々木有沙です。あなたは? 」


「私は、ザイン・ライオネットだ」


 彼はそれ以外、私に話しかけることもなく、私は黙々と村までの道程を歩いた。


 私と、ザインと名乗った男は、村への入り口に着いた。村は1メートル位の木の柵で囲まれている。木の柵の先端は尖っていて、木の柵はまるで、鋭く研いだ鉛筆を並べた見たいだ。


 門を抜け、村に入った。どうやらこの村は、丘を丸ごと木で囲んだようなものらしい。門からは一本の大きな道があり、草原からも見る事のできた丘の上の建物の真下まで一直線に続いている。


「このまま教会へ向かうぞ」


 彼は馬から降りて、馬を引き始めた。私も後に続く。


 道の左右には、木造の建物が並んでいる。200メートルくらい歩き、丘の上の建物に登っていく道の近くまでいくと、丘を囲むように作られている環状の道とぶつかった。門からの一本道と環状道路の回りは人通りもあり、どうやら市場になっているようだ。左右には、カボチャみたいな野菜や卵が並べてあったり、毛のむしり取られた鳥がぶら下げられている。


「きょろきょろするな、着いてこい」



 彼は丘の上の建物へ続く石の階段を登り始めた。丘の上にある建物が教会なのだろうか。馬も階段を登れるのかなと思っていたけど、なんなく馬も階段を上がっていく。


「ザイン隊長」


 後ろから彼の名前を呼ぶ声が聞こえ、彼は足を止めた。私も振り返ると、彼と同じような兵士風の格好をした男が階段を駆け足しで登ってきた。


「ダレト副長、どうした?」


 ダレトと呼ばれた人は、階段をダッシュで登って来たせいか、少し息が上がっていた。 


「ザイン隊長、お探しいたしました。ラメド徴税官は、明後日到着するとの知らせが入りました」


「明後日だと? どこで油を売っているのだ。ずいぶん我々を待たせるな」


「まったくです。兵士達のその分の食料の買い付けおよび、我々の宿についても延泊申請をしなければならないのですが、よろしいでしょうか」


「やむを得まい。許可する」


「了解です。手続きをしておきます」


「ラメドめ、余計な公金を使わせおって。ブクブクと太った体では、馬も馬車を引くのも大変ですな、とでも皮肉を言いたいものだ」


「まったくです。ところで、この女性は?」


 話題が私に移ったようだ。


「草原で1人で彷徨いていたから保護した。もっとも、スパイの可能性があるので教会まで連行しているところだ」


 ダレト副長と呼ばれた人は、私に近づいてきた。歳は私より少し上といった感じだろう。身長は、ザインという男よりも高い。


「ご苦労さまです。彼女を教会へ連行した後は宿に戻られますか? 」


「そのつもりだ」


「では、タウは私が連れて行きましょう。タウも、早く水や藁を食べたいでしょうし」


「よろしく頼む」


「では」


 そういうと、ダレトと呼ばれた男は手綱を受け取り、登ってきた階段を引き返していった。ザインと呼ばれる男は、行くぞ、と言って、また階段を登り始めた。



 階段を登りきると、石造りの建物が建っていた。草原から見えた建物だ。石造りでしっかりとした作りのうえ、頂辺には、鐘らしきものが見えた。私たちは、この建物を半周して、入り口の前に立った。この建物がある場所は、村を全て見渡せるようになっているようだ。


「バルナバ神父、いらっしゃるか」


 そう言いながら、彼は扉をどんどんと叩いた。どうやらここが教会ということらしい。中世のヨーローッパはキリスト教の教会が町の中心にあると歴史の授業で習ったことがあったが、この村も同じような構造なのだろうか。


「はい。お待ちください」


 そういうと、教会の扉が開いた。なかからは、50歳位で髭をはやした男性が出て来た。


「これは、ザイン様。いかがなさいましたか?」


「バルナバ神父、突然お伺いして申し訳ない。少しお伺いしたいことがあるのだがよろしいか?」


 ザインと名乗った男は、軽く一礼をした。


「はい。なんなりと」


「王都よりこの教会に人が派遣されてくるというのは本当でしょうか? 」


「はい。そのような旨の書簡が本日届いております」


「その書簡は本物で間違いございませんか?」


「はい。偽物ということはないでしょう」


「どのような者がやってくるかはご存知でしょうか? 」


「ササキ・アリサという名前の女性で、23歳。文字の読み書きができる方、と連絡を受けております。また、記憶喪失で自分の過去が思い出せないとの旨の記載もありました」


 ロゼさん、ちゃんと仕事していてくれてありがとう。記憶喪失という設定もナイスだよ。いろいろと記憶喪失を理由に、誤魔化すのにすごく便利な言い訳だ。頭良い。


「そうですか。バルナバ神父、教典をいますぐここへ持って来ていただけますでしょうか?」


「分かりました。しばらくお待ちください」


 そういうと、バルナバ神父と呼ばれている人は、また教会の中に入っていった。



「どうやら本当に、ササキ・アリサという者が王都から派遣されているようだな」


「はい。それが私なんですが」


「すり替わっている可能性もある」


「でも、佐々木有沙という名前で、年齢も一致していると思うんですけど」


「読み書きができるという点もか?」


「はい。よかったら、私のリュックに本があるので、それを読みましょうか?」


「いや、本を持っているのは確認した。ただ、その本の内容を暗記していて、読んでいる振りをする可能性がある」


「どれだけ疑り深いんですか」と私は呆れ顔でいう。


「これぐらいやらないとな。万が一にも敵国のスパイをイコニオンに紛れ込ませる訳にはいかないからな」


「お待たせしました。教典をお持ちしましたが」と言って、バルナバ神父が戻って来た。


「お手数をお掛けして申し訳ない」


 ザインと名乗った人は、両手で教典を受け取ると、おもむろにページをめくり始めた。


「お前、ここの部分を読んでみろ」


 そういって、教典を私の前に差し出した。バルナバ神父は首を傾げている。私は仕方がないので、指定された部分を音読する。


「神よ、いちじくの木に花を咲かせ、葡萄の枝に実をつけさせてください。田畑に食物が溢れ、牛舎には牛がいっぱいになりますように」


 読みながら、いちじくや葡萄がこの世界にもあるということで、ラッキーと思う。それにしても随分具体的なお願いが書いてあるものだなと思う。


「もう良い、分かった。バルナバ神父、ありがとうございました。教典をお返し致します」


 彼は、私が本当に文字が読めることに驚いているようだ。空いた口が塞がってなくてよ?。彼は続けていった。


「どうやら、彼女がササキ・アリサなようです」


「ような、ではなく正真正銘の佐々木有沙なんですけど」


 すかさず突っ込みを入れる。


「ほう、彼女がですか。ザイン様、わざわざお連れいただいて、ありがとうございます。初めまして、私はバルナバといいます。この教会の神父をしております。あなたがここで働くことは連絡を受けております。よろしくお願いしますね」


 そういって、微笑んでくれた。すごく温かみのある人だ。バルナバ神父か、優しそうな人で良かった。


「よろしくお願い致します」


 私はそういって、深いお辞儀をして、一息ついた。とりあえず、スパイというような疑いは晴れた。


「疑って悪かったな」と、ザインさんが私に向かって頭を下げる。


「あっ、気にしないでください。実は私、教会がどこにあるかも知らなかったので、助かりました」


 私は、なぜか彼をフォローをしている。


「そういっていただけるとありがたい。改めて自己紹介をすると、私の名前はザイン・ライオネット。今回、納税品護衛の任のため、この町に来ておりました」


「ザイン様は、栄えある王国騎士の称号を持つお方です。今回の護衛の任の部隊の隊長も務めていらっしゃるお方です」と、バルナバ神父が補足をした。


 ザインって人、結構、偉い感じの人なのではと思う。


「私こそ、申し訳ないです。そんなすごい方を存じ上げなくて」


「いえ、私などは、王国騎士の末席。ご存じなくて当然です」


「ササキ・アリサさんは、記憶喪失とも伺っていますからね。王都であなたをお見かけしたことを忘れているかもしれませんよ。それにしても、ササキ・アリサさん、草原から教会まで、王国騎士の方にエスコートされるなんて滅多にあることではありませんよ。王都の大貴族の令嬢もこの話しを聞いたら、嫉妬するかもしれませんね」


 バルナバ神父は、冗談っぽく言った。エスコートというよりは、完全に逮捕というか、連行という形だったのだけれどなあ、と思いつつも、バルナバ神父もザインさんのフォローをさりげなくしているということが分かったので、ここは否定せずに笑って流しておく。


「ではお詫びとして、次回、この村をご案内致します。この村に本日来たばっかりとのことなので、村を案内することは必要だと思います。そして今度はしっかりとエスコート致します」とザインさんが言い出した。


 おいおい、真に受けなくていいよと思いつつ、バルナバ神父をちらりと見ると「いいんじゃない?」的な目をしている。さすがにここで断れないだろうと諦める。


「では、少し私がこの町で落ち着いたら是非お願いします」


「承りました。では、私はそろそろ宿に戻らねばならないので、失礼致します。それでは、明後日の礼拝にてまたお会いしましょう」と言って、軽く一礼をして背を向けるザインさん。


「ザイン様は、とても真面目な方なのですよ」と、バルナバ神父が言った。


「そうですね」


 そう言って私は、苦笑した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ