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異世界人よ、大志を抱け!!!  作者: 植尾 藍
第3章 遙かなるイコニオン
25/75

3ー7

「有沙、そろそろ行こうか? 」

 秋祭りから教会に帰って来て、日が暮れる前に終わらせられる礼拝堂の床をモップで掃除し、六時の鐘を鳴らしてすぐに、コルネリウスが呼びかけてきた。


「行くって何処に? 」


 既にコルネリウスは、外套を着ている。そして、その後ろにはバルナバ神父も立っている。バルナバ神父も外套を着て、黒のベレー帽に似た帽子をかぶっている。明らかに、バルナバ神父もコルネリウスも外出する格好だ。私は、掃除などの作業用の服に着替えていた。


「まぁ、無理して参加しなくても良いですよ」とバルナバ神父。


「有沙は、ああ言うの嫌いかもね」と頷くコルネリウス。


 私の反応や格好を見て、二人の間で、私が行かない方向で話が進んでいる。ちょっと待った!


「ごめんなさい。今から何かあるんですか? 」


「秋祭りだけど?」


 コルネリウスが、怪訝な顔をして答えた。


「え? まだ続くの? 」


「コルネリウス、ササキ・アリサさんに、しっかりと説明していませんでしたね? 」

 バルナバ神父がコルネリウスを優しく咎めた。


「申し訳ございません」と、平謝りするコルネリウス。


「あ、私もすみません」

 私も一緒に謝った。コルネリウスは、私に秋祭りについて説明しようとしていてくれたけど、ベト君、ヘト君、メトちゃんの仲良し三人組から概要を聞いていたから、コルネリウスから詳しく話を聞こうとしなかった私も悪い。


 私は、急いで二階に上がり、秋祭りで着ていたディアンドルに着替えた。教会の外で、バルナバ神父とコルネリウスは待っていてくれた。そして、二人は私を街ながら、眼下の村を眺めていた。

 教会の南から見える市場は、ぼんやりと明るかった。その明るさは、炎の明るさだった。階段を降りると、キャンプファイヤーのように組まれた薪が燃えていて、その廻りを囲むように車座になって人が座っているのが見えた。耳をすませば楽器の音も聞こえる。弦楽器の音だと思う。この音色は、教会の礼拝でも使われている馬頭琴だろう。


「そういえば、有沙、七竈の実は持って来た? 」


 私はもちろん、持って来ていなかった。自分の部屋の窓辺に飾るように置いていた。七竈の実を広場のたきぎで燃やすという風習があるらしい。それを早く言って欲しかった、と少しコルネリウスを恨む。


「すぐ取ってきます。先に行っていてください」と、軽く会釈して階段をダッシュで登る。

 結構急勾配な階段なので、息がすぐに上がってしまう。前の世界で、電車の発車ぎりぎりに駆け足で登った駅のホームへと続く階段とは比べものにならない。そして極めつけが、私が着ているディアンドルが、もの凄く走りにくいということだ。スカートの丈が足首近くまであって、階段を駆け上がる足に、容赦の無い摩擦抵抗と重みを加えてくる。運動には向かない服だ。ペティコートを着ていれば、少しは走りやすくなるのかなとも思うけど、ペティコートの素材になるような生地の布を、この村で見たことがない。そもそも、ペティコートがないのかも知れない。メルさんは、スカートの下に何かはいているか、聞いて見るのも一つの手かも知れないけど、変な子って思われる可能性もある。「ちょっとすみません」とか言って、スカートめくりするのは論外だしな……。

 

 そういえば、メルさんが今日来ていたディアンドルは、華やかだったなぁ。お祭りなどの、ハレの日に着る用だったのだろう。薄紅色の天鵞絨のボディスと、エメラルドグリーンのエプロンの組み合わせが素敵だった。

 私の持っている服は、全て黒を基調としている。ボディスも黒、エプロンも黒だ。これを用意した、ロゼさんのセンスの無さに、憤りを感じる。


「貴方がこの世界に来た時着ていた服を見る限り、ファッションに気を使っているようには見えなかったので」


 そんなロゼさんの言い分けが聞こえてきたような気がした。空耳だろう。


 私が広場に着いた時には、秋祭というか、宴会は既に始まっていた。バルナバ神父とコルネリウスの後ろ姿を見つけたが、男達だけで炎を囲んで車座になって、大きな杯を回し飲みしている。はっきり言ってあの男達の輪の中に入りに行くのには抵抗を感じる。体育会系の飲み会の雰囲気を感じ、既視感が漂うからだ。

 前の世界のバイトの経験でも、体育会系らしき人から、十人以上のアルコール飲み放題コースの予約があると、バイトのシフト人数を増やしていた。飲み物を注ぐ専用の係がいないと、回せないからだ。それと同じくらい、飲みが激しそうだ。あの環に強制参加させられたら、二日酔い確定だろう。君子危うきに近寄らず、が一番だ。


 私は、広場の中央にくべられた薪の灯りを頼りに、辺りを見回して、知っている人を探していると、メルさんがいた。メルさんは、かごを抱えて、炎を囲んで座っている人達に、食べ物を配っているようだった。


「こんばんは。メルさん。手伝いますか? 」


「こんばんは。助かるよ。酒場に焼いたパンがあるから、それを取って来て」


 私は、パンやお酒を酒場に取りに行ったり、パンを配って回ったりなどして、しばらくメルさんの手伝いをした。

 パンを配っている最中に、コルネリウスに呼び止められて、七竈の実を炎の中に投げ込むということを教えてもらい、私は実を無病息災を祈願しながら炎の中に投げ入れた。コルネリウスは、もう既にお酒が回っているようで、少しふらついている。かなり早いペースでお酒を飲んでいるようだ。


「この実を投げ入れた後は、他にやることってあるの? 」


 秋祭り関係で、無知をさらけ出さないように、まだやるべき行事が残っていないかをコルネリウスに聞いておく。人は学習する生き物なのである。


「うーん、人それぞれかな。俺は、あとお酒を飲むだけかな? 」


「なんで私に聞くのよ。バルナバ神父も飲んでるし、飲めばいいと思うよ。私も、これ配り終わったら、夕食を食べようかな。お腹空いたし」


「あ、まだ食べてないんだ。良かったら来る? バルナバ神父もいるし」


「あー。止めとこうかな。メルさんと食べるよ」


「そっか。じゃあ、俺はまた戻るよ」


「ありがとうね」


 パンは、一個を残してそれ以外は配り終わった。残り一個は、自分が食べるようにちゃっかりとキープ。

 メルさんを探して声を掛けると、私達もゆっくりしようか、ということで、私とメルさんも空いている場所に座った。風が吹いているとは感じないけれど、どちらかというと風下に座ったらしく、少し煙の臭いが流れてくるように感じる。地面はひんやりとした感触だけど、炎の暖かさで、寒いとは感じない。炎の向こう側では、馬頭琴を弾いている人と、その馬頭琴の音色に合わせて歌っている人がいる。歌詞の内容は、甘い恋の歌だ。


「アリサちゃんも飲む? 」


 メルさんは、革袋に入っているのをそのまま飲んでいた。ラムネやビール瓶でのラッパ飲みはもちろん見たことあるけど、革袋に入った液体をコップに注がずに、そのまま飲むのを見たのは初めてだった。メルさん、豪快。


「せっかくだから飲みなよ」


 少し唖然としていた私に、更に勧めてくるメルさん。せっかくだから私もいただくことにした。

 少しだけ飲むつもりが、口いっぱいにワインが流れ込んできた。どれだけ袋の底を持ち上げれば、ワインが口へと流れてくるかの調整が難しい。持ち上げ過ぎたせいで、どばっと口に流れ込んでしまった。しかも、少し服にワインがこぼれてしまった。まぁ、生地が黒だから染みになっても目立たないだろうとは思う。


「アリサちゃんは、面白いね」


 ワインでせた私を見て、メルさんが悪意なく笑った。少し決まりが悪かったので、もう一回飲んだ。今度は慎重に、ゆっくりと袋の底を持ち上げて、口に流れ込んでくるワインの量をうまく調整した。


 ワインをメルさんと交互に飲みながら、私はメルさんの昔の話を聞いた。メルさんは、やはりこの村の出身ではないようだ。若い時からシルティスさんと知り合いだったらしい。そして、もしかしたら、シルティスさんと結婚をしていたかも知れないという関係だったそうだ。シルティスさんと、今の亭主がメルさんの争奪戦を繰り広げ、メルさんは今の亭主を選んだらしい。

 私は、失礼だとは思いつつも、あの影の薄い人が、シルティスさんを退けて、見事にメルさんのハートを射止めたことに驚いた。宿で手伝いに行っても、いるかいないかも分からない位の存在感だし、調理場で静かにジャガイモを洗っている後ろ姿しか私の記憶には無い。

 結婚後の村での生活のことなども聞いた。無事に大きく育ったお子さんも一人いたとのことだったが、あまりメルさんが話したくなさそうだったので、詳しく聞かなかった。炎を見ながら話し込むと、しんみりとした話しになっていくのは、人のさがかも知れない。


 ワインも、いつの間にか二袋目に突入していた。話題も多岐に渡った。


「年一回の無礼講の日ってのは分かりましたけど、秋祭りで七竈の実を交換したり、燃やしたりするのは何でなんですか? 」


七竈ななかまどの木はね、燃えにくい木でね、ちょっとやそっとでは燃え尽きないんだよ。それにあやかってね、村も、そこに住んでいる人も、簡単なことでは滅んだり、死んだりしませんようにってね。そう願うのさ」


 それって、火事があったりとか、何らかの不幸がある前提での話のような気がして、少し複雑な気持ちになった。大きな不幸ではなく、小さな不幸が来ることを願い、そしてその小さな不幸を、さらに村人全員で分け合って、一人一人に降りかかる不幸をさらに小さなものにする。無病息災を祈った私は、贅沢なのかも知れない。


「さて、私の昔話もしたし、次はアリサちゃんが白状する番だね」


 え? 私? と思いながらメルさんを見た。メルさんの目は据わっていた。

読んでくださりありがとうございます。

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