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異世界人よ、大志を抱け!!!  作者: 植尾 藍
第3章 遙かなるイコニオン
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プロローグ

第3章に突入します。

 王都に帰ってからの1週間、ダレトは忙しかった。ラメドの不正に関する報告書作成、タキトス村への補償案やラメドの財産の処分案、ラメドの屋敷の使用人達の再雇用斡旋の準備などである。本来であれば隊長であるザインの仕事であるが、肝心のザインは、呼吸よりも多いんじゃないかと思うくらいため息をつき、ぼんやりと窓の外の小鳥か何かをずっと眺めている。本来のザインは、事務能力も高いが、今のザインは、まったく役に立たない。むしろ、邪魔である。ザインが隣でため息は吐く音が聞こえてきて、何万回目のため息だろうか、俺まで気力がなくなってしまう、とダレトは心の中で思った。


 ラメドの不正に関する報告書も、今日の昼までに提出しなければならないが、清書がまだ終わっていない。ダレトは必死に筆を走らせていた。報告書の草稿は、王都に帰った次の日に書き上げてザインに提出していた。草稿の確認をザインに頼んでから丸五日経っている。しかし、このザインという男、その草稿すら読んでいなかった。

 ラメドの不正を確定させる証拠資料として、この報告書の提出がないと、罪の確定がなされず、裁判も進まないし、その後に残っている後処理も進めることができない。

 ダレトは、正式資料として充分に通用する内容の草稿を仕上げていた。しかし、正式な文章報告用の羊皮紙を使っていない。よって裁判所の報告用として紋章の焼き印のされた羊皮紙に、必死に書き写していた。ちなみに、正式な報告書を書くのは、本来であれば、ザインの仕事である。

 ザインがまったく、報告書に手を付けていないことを早朝に発見し(ダレトには、悪い胸騒ぎがしていた)、ザインを叱咤し、ザインを見張っていたが、ザインの持った羽ペンが、まったく動かない。今のザインには、集中力も気力もなにも無かった。恋に破れて、山河のように静かに物言わなくなった、情けない男である。



 王都への帰り道でも、様子がおかしかったもんなぁ。失恋したことのない奴って、打たれ弱いなぁ。俺は、いつも振られてばっかりだけど…。ダレトは、ザインに報告書を書かせることを諦めて、自分が書くことにした、という過程を二時間前に経て、今に至るのであった。

 

 何が哀しくて、自分で書いた草稿を、筆写しなければならないのだろうかと、ダレトもため息をついた。


「こうなったら、あの手札を切ろうか」と、ダレトは独り言を言った。もちろん、それにザインは反応しない。


 ザインは、窓の外に置いたパン屑を食べに来た白い小鳥をぼんやりと見ている。


(ザインはきっと、その小鳥を鳩のように飼い慣らし、遠方への軍隊への画期的に連絡手段へとその小鳥を昇華させようと、聡明な頭脳を駆使し、頭の中で試行錯誤しているのだろう、そのザインを邪魔をするなんてことは、このイコニオンの損失につながり、敵国を利することとなる)

 そんなあり得ない想定をして、ザインの事を気にしないようにしてから二時間、提出をしなければならない正午が刻一刻と迫ってくるというプレッシャーと、ダレトは一人で戦っていた。


 ・


 無事にラメドの不正に関する報告書が無事に受理されてから、ダレトは、一人で昼食を取っていた。一人で考えなければならない事が多いからだ(いつもは、ザインと雑談をしているうちに、対応策の詳細まで決まっていく)。 


 そもそも、あの佐々木有沙って女は何なんだ! そもそも、彼女が不正の暴露なんてことをやらなくても、ちゃんとラメドは逮捕した! あんな形で不正を暴いたら、問題になるに決まっているじゃないか。道理を理解しない、あの田舎娘め。余計なことをしやがって。事後処理をする人の気持ちになってくれよ。

 ダレトは心の中でそう悪態をついた。


 タキトスにザイン達の舞台が行く前の、事前のラメド逮捕の作戦では、ラメドがタキトス村で徴税した後、王都に到着する直前でその事を指摘し、逮捕する計画だった。しかし、佐々木有沙の、村人の前での不正暴露によって、その不正は、村人達にも知れ渡ってしまった。

 村人にラメドが不正をしていたことを知られさえしなければ、補償という行為も必要なかった。補填をするという寛大な処置をするにしても、来年、再来年に、税率を意図的に下げるなどして、ラメドの不正によって搾取された分を、秘密裏に補填するということもできた。


 村人にも不正が知れる、それによって、村人達への補償をしなければならなくなる、それには補償を行う財源が必要になる。そして、その財源は、当然、ラメドの私財からという話になる。だから、ラメドの財産を処分するという仕事もしなきゃならなくなるし、屋敷(徴税官には身分不相応なほど大きい)なども処分して換金しなければならない。そうしたら、ラメドに雇われていた使用人などが失業してしまうので、それに対する対応もしなければならない。しかも、ラメドは、愛人を大量に囲っていた。それもどうするかをこれから考えなければならない。完全な悪循環である。


「こうなったら、あの手札を切ろうか」と、パンにバターを塗りながら、ダレトは先ほどと同じ独り言を言った。


 手札というのは、タキトス村への補償案に関する事項だ。

 税の徴収に関する不正、これは王国の威信を大いに傷つけるし、この事が知れ渡ってしまった場合、徴税官が不正をしているかも知れないというようなことを村人が言い出し、納税を渋るということも、今後はあり得ると、ダレトも、そして税の管理をしている戸部の役人達もそう考えているようだ(ザインはこのことに関して沈黙を守っている、というか何も考えていないとダレトは思っている)。

 つまり、タキトスの村へ、噂が広まらない内に、補填の品を持って謝罪をしに行く必要があるのだ。


 その謝罪に、ザインがタキトス村へ行くように根回しをする。これが、ザインを正常に戻す、ダレトの手札だった。少なくとも、佐々木有沙にまた会えるという再戦の機会を与えれば、ザインも元気になるのではないかと、ダレトは考えていた。

 ただし、それを実現するのも、結構手間がかかる。

「国王の懐刀である王国騎士が、辺境の村に、詫びを入れに行くなどもっての他だ。王国騎士の威信を傷つける行為だ。そんな細事は、人を雇って、小麦を返すだけで充分だ」というような反対意見が兵部辺りから出るのは簡単に予想される。だから、それを抑える根回しをしなければならない。五月蠅い人だと、「そもそも、王国騎士が、徴税官の護衛などというような任務をしていた」なんて言って、ザインのザントロス国との国境を見てみたいという我が侭を無理矢理通して任務に当たったという事まで、話をぶり返してくる可能性もある。


「面倒だなぁ」

 ダレトは、そう独り言を言って、昼食を終え、また報告書作成に戻るのであった。


3章もよろしくお願いします。

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