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異世界人よ、大志を抱け!!!  作者: 植尾 藍
第2章 タキトス騒乱
17/75

2ー14 エピローグ

 ザイン隊は、今年の徴税した物資と、連行したラメドとその一味を連れて、王都への帰路についている。タキトスから王都までは、盗賊などがでることは滅多にない。今、一番襲ってくる可能性が高いのは、ラメドの一味の残存勢力がラメド救出を目論んでいる場合だろうが、だれも取り逃がしていないので、その可能性も薄いとダレトは考えている。


 ・


 村から出発する手前、今回の主犯であるラメドは他の者と一緒に歩かせていたが、あまりにもラメドの歩行スピードが遅く、1時間も歩いていないうちに、歩けなくなり、地面に座り込んでしまうということを繰り返していた。全体の移動に差し障るため、苦肉の策として、ラメドは馬に縛り付けて移動させる形となった。縛り付けている関係上、ラメドは馬の体の揺れにうまく対応することができず、激しい乗り物酔いに襲われる。さらに、手首足首を縛っている縄の摩擦により手首足首の皮が向けて血が滴れているという痛々しい状況ではあるが、犯罪人に与える境遇としては破格の高待遇だ。ラメドが曲がりなりにも国王の信任を受けた徴税官であることがこの異例の対応を行わせていた。普通の犯罪人であれば、行軍途中で座り込んだりなどしても大抵は無視され、他の囚人が運ぶか、引きずるしかない。タキトスから王都までの道は、砂利や小石が少ないため、或る程度は引きずられても死ぬ事はないが、それでも半日も引きずられれば死に至る。今回のラメドは、国王の信任を受けた徴税という任務での不正ということで、裁判を行ってから処刑を行った方が後の憂いがないと、ザインは判断したようだ。

 



 隊列の後ろで、ダレトはため息をついていた。ザインは、馬上で居眠りをしているのではないかとさえ思う。ザインは通常であれば、移動した時間、道の歩き易さや傾斜などを考慮しながら、愛馬のタウのスピードを微妙に調整していた。馬に乗ることに慣れてしまうと、歩いて移動する兵士の体力や気力への配慮が薄くなりがちだがザインは基本に忠実に、行軍スピードを地形に合わせ緻密にコントロールし、適切な間隔で休憩を入れるという行軍術を体得している。行軍術というのは地味で注目されない科目であり、真面目に受ける学生は希であった。騎士養成学校を卒業すると、騎士見習いとして乗馬での移動が当たりまえになるし、乗馬での移動が当たり前になると、歩兵は黙って俺に着いてこい、というようなエリート意識が邪魔をして、歩いて移動している兵士のことに考えが行かなくなってしまうし、そんな騎士は実際に多い。しかし、ザインは、疲れが蓄積したり、士気の下がっている部隊がいかに脆いものかを父であるハイン・ライオネットからきつく教えられていた。このためザインは騎士養成学校でこの科目の勉強にあたり、自主的な実地訓練を行っている。実地訓練というのは、ダレトに馬に乗ってもらい、自分自身が実際に一兵卒の装備や荷物で何日も行軍するというもので、ザインが自分自身の体でその一兵卒の苦労を経験していた。ダレト自身にとっては、その実地訓練中は、馬に乗って移動しており、仲の良い友人と数日間のキャンプ旅行に行ったという楽しい学生時代の大切な思い出の一つとなっている。


 しかし、いまのザインの行軍術は、落第も落第。ザインは、タウが進みたいように進ませ、本人は、ただ馬に乗って放心状態。原因は、十中八九、ササキ・アリサだろうな、と考えまた、ため息を着いた。ザインの今の心境を分からないでもないが、副隊長としての任務をおろそかにすることはできない。


「隊長たる者、後方の隊の人間のことも考えてほしいものなのだが」


 後方の兵士の疲労を看過できなくなったダレトは、隊を先導するザインの横に馬を着け、小言を言った。先頭、つまりザインが上手に速度を調整しないと、しわ寄せは後方部隊に大きく来る。先頭の速度が遅くなれば、後方になるほど間がつまり歩き難くなり、先頭の速度が早ければ、後方は走らなければならない距離が長くなる。


「ダレトか。なにか報告か?」


 軍の最後尾を警戒する副官が、定時報告以外で隊の先頭まで来ることは、平常時では珍しいことだ。


「豚野郎が吐き出した汚物の上を通らなければならないのが我慢できなくなって、直訴しにきたのさ。10分置きに吐かれても困りもんだ。よくあれだけの量を吐き出せると感心してしまうよ」


 ラメドは、移動している部隊の中間に配置されている。よって、ラメドが吐いた汚物の上を、それより後方の人間は避けながら歩かなければならない。


「王都に着くまでに人間らしい体型に戻ることを祈ろう」


「それはそうと、村でのお前の決め台詞が、部隊の中でも噂になっているぞ?」


「なんのことだ?」


「ササキ・アリサ、忘れるな!私が、万難を乗り越える騎士であることを、だったか」


 ダレトは、ザインの口調を真似てその台詞を言った。ザインとダレトは、士官学校からの知り合いで付き合いも長い。ダレトは、よくザインの口調の特徴をよく抑えていた。部隊の宴席などでこのモノマネを披露すれば、盛り上がる事間違いなしだろう。


「昨夜も野営で、兵士達がザイン隊長、かっこ良かったとか、憧れると話していたしな。これはきっと、王都でも話題になるだろうな。人の噂には戸は立てられない。民を悪の徴税官から守る王国騎士か。さすがは白騎士の血を受け継ぐ者だな」


「当然のことだ」


 褒められているはずのザインは、そっけなく、どことなく不機嫌な返事をした。


「少し気になる点があってな。それだったら、普通は、我は万敵から臣民を守る騎士であることを!の方が言葉として適切じゃないか?村人を救ったのだからな」


 ザインは、なにも言わない。


「ササキ・アリサに振られたのか?」


 さらに追い打ちをかけてみる。ザインはなにも答えない。


「天下の王国騎士様の負け犬の遠吠えだったか。そうかそうか。つまり、一旦は退却するが、どんなことをしても、貴女を手に入れますという意味だった。そういう解釈で概ね合ってるな」


「ダレト、貴様。要件はそれだけか?」


「もちろん。それを確認しに来た。向かうところ敵無しの王国騎士様に、恋人ができるのはまだまだ先のようだな。このお粗末な行軍も、失恋の傷心であれば已むなしということで大目に見るとしよう」


「ダレト、昔からお前は性格が悪い奴だと思っていたが、今日確信したぞ。お前の性根は腐っている」


「今頃気付いたか?。まぁラメドの汚物の所為で鬱憤が貯まっていたのでその気晴らしさ。さてさて、ダレト王国騎士様は、万難をどのように乗り越えるのやら。恋の道は険しいな」


 その瞬間、ザインは左脇から剣を抜き、ダレトに向かって斬撃を飛ばした。しかし、ダレトは上手に馬を操って間合いを取り、ザインの剣が届かないような距離を取っていた。ザインのタウも、ダレトの乗っている馬も驚いている気配はない。ザインの後方すぐを歩いている兵士も、知らん顔をしている。この2人にとってはいつものことらしい。


「おっと、危ない危ない。では、本気で切りつけられないうちに、また後方警戒の任に戻るとするか。しっかりと次のササキ・アリサ攻略の戦略を考えておけよ。酒場でその戦略を拝聴してやるよ。もちろん、お前の奢りでな」


「だれが、お前に相談するか」


 剣先をダレトに向けながら叫ぶザイン。


「相談という言葉がでるということは、悩んでいるということだ」


 ザインはなにも答えない。しかし、悩んでいたことは図星だったと、ダレトは確信した。


「それにしても、お前の行軍を何度も見て来たが、ここまでひどい行軍は初めてだぞ。20人以下の行軍で、こんなに隊列を伸ばしてどうする。俺がもしあの丘で待ち伏せをしていれば、騎兵5名で、簡単に隊を分断させ、各個撃破できる自信があるぞ」


「そうはさせないさ」


「いつものお前だったらな。今日のお前になら戦をしても勝てそうな気がしただけだ。そろそろ俺は戻るぞ。俺が後方で警戒しているから、お前はせいぜい、失恋の苦みを噛み締めておけ。はは」


 そういって、笑いながらダレトは隊列の後方に馬を走らせた。


 ・


 ・


 ・


 ダレトが最後尾に戻ってすぐに、行軍速度の調整が、後方にも波及してきた。


「やっと正常の行軍に戻ったな」


 とダレトは呟き、そして大きなため息を着いた。もともと、今回の任務は、ラメドが税の着服をしているという疑いが濃厚であったものの、王国騎士という高い身分であるザインが監査官として来るほどのことではない。仮にダレト自身が隊長としてこの任務に着いたとしても、騎士仲間から「ダレト、何かやらかしたのか?左遷任務か?」などと心配され、噂されるような程度の低い任務だ。ザンタロス国との国境隣接地域を一度は視察してみたいというザインの強い希望が無ければ、今回の任務など新米騎士が任務にあたっていたであろう。王国騎士が来ているのにも関わらず、何も警戒しないで堂々と不正を働くというような暴挙をした、危険察知能力が欠けているラメドであれば、新米騎士でも証拠を押さえ、ラメドを捕縛することはできたであろうな、とダレトは密かに思っている。むしろ、今回の裏の任務をザインから説明されたときには、王国騎士が監察官となったらラメド自身が警戒して、今回不正を行わず、取り逃がしてしまうのではないかと、ダレトは心配をしたほどだった。酔いつぶれたラメドを宿の食堂から寝室に運んだ後、徴税指令書の内容を確認して、ラメドが今回も不正をしていたことに呆れ驚いたものだった。個人的には、本気で酔いつぶれていたザインにも呆れていたが……。

 ここまで今回の任務を振り返り、ダレトはまた大きくため息をついた。ザンタロス国との国境を視察しに行ったと思えば、女性をスパイ容疑とかで連れてきて、挙げ句の果てにその女性に恋をしたという結末は、副官としても、友人としても、ため息しかでない。


 今後も、あの寂れた村に行く機会があるような予感がして、またため息をつくダレトであった。

読んでくださり、ありがとうございます。

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