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異世界人よ、大志を抱け!!!  作者: 植尾 藍
第2章 タキトス騒乱
14/75

2−11

 収穫が終わった麦畑で、ベト君、ヘト君、メトちゃんの3人が、麦の細かい穂を集めていた。


「ベト君、ヘト君、メトちゃん、何やってるの?」


「落ち穂を拾っているの」


 メトちゃんが教えてくれた。私も手伝っていい、という質問に快諾してくれたので、私も3人と一緒に落ち穂を拾うことにした。今日は、遊んでいた訳ではなく、3人で村の仕事をしているのだろう。


 ベト君とヘト君の2人は何かに取憑かれたように麦集めに没頭していた。そんなに楽しいものかなぁと思いながら私も穂を拾い集める。

 私も1時間くらい落ち穂を集めた。ベト君とヘト君は相変わらず真剣に落ち穂を集めていた。正直、腰を曲げなきゃ行けないし、結構辛い体勢を強いられる。腰が痛くなってくる。1時間ずっと正座をさせられるのと、どっちがきついだろいうか。

 黙々と作業を行い、3人が持っていた袋が穂で一杯になった。


「ベト君、ヘト君、メトちゃん、お疲れさま」


 私は立ち上がって腰を回したりと、簡単なストレッチをして、服に絡みついた麦の穂を払い落とした。


「お姉ちゃんも手伝ってくれてありがとう」

「ありがとうな」

「ありがとうございました」

 

 メトちゃんだけでなく、ベト君もヘト君もお礼を言ってくれた。

 

「ササキ・アリサさんは、まだ時間ある? 」


 ベト君は、綺麗な青色の瞳で私を見つめた。教会の広場で前一緒に遊んだときとはまるで違う大人びた目だった。そしてその綺麗な青色の瞳は微かに黒ずんでいた。私は、今日は特に予定はないから大丈夫だよ、と答えた。


「じゃあ今日のうちにもっと穂を集めたいから手伝ってくれない? 午後から雨が降ってきそうなんだ」


「雨? 」


 私は、空を見上げたが、南の山の向こうに少しだけ雲があるだけで、それ以外は雲一つない晴天。雨が降りそうな気配がない。降りそうも無いけどなぁと思いながらも、引き続き手伝うことにした。


「ありがとう。じゃあ、俺とヘトは、村長さんに集めて分を届けてくるよ。姉ちゃんの分も袋貰ってくるからなぁ」


 そういって、ベト君が2袋、ヘト君は自分が集めていた1袋を持って、東門の方に走っていった。子供って元気がいいなって思う。



 ベト君とヘト君が村に行っている間に、メトちゃんは麦の茎でティアラを作ると言い始めた。私は、シロツメクサでティアラを作ったことはあったけれど麦では作ったことはなかった。メトちゃんは、上手に麦をつなげて一つの輪にした。さらにその輪に他の麦の茎を絡めながらどんどん輪を太くしてく。

 私の方はというと、なかなか最初の輪が作れずにいた。いくつもの麦の茎を切ったり、ダメにしたりしながらやっと輪が一つができあがった。メトちゃんをみると、メトちゃんは、すでに一個の冠を完成させていた。私が作った輪だけのものとは違い、何本もの麦の茎がその輪に織り込まれて、直径2センチくらい太さで、輪は充分に頭に乗せることのできる大きさの冠が出来ていた。技量の差を見せつけられた。私は作る事をやめて、メトちゃんが作るのを見学することにした。本当に手が器用な子だ。刺繍とかもきっと上手なんだろうなぁって思う。ちなみに私はボタンを縫い付けることぐらいしかできない。


「おねえちゃん、はい、メトのティアラができたよ」


 完成したようだ。完成した麦のティアラを手に持って観察してみる。はっきりいって、せっかく一生懸命メトちゃんが作ったものだし、悪く言うつもりはまったくないし、上手によく出来ているとは思うけれど…… 特に綺麗という分けでもなく、何となく不吉な感じだった。シロツメクサでつくったティアラのように「花」となるようなものがないからかもしれない。装飾品であるはずのティアラなのに、麦の茎だけで織られた質素なティアラは、私に不吉な物であるかのような印象を与えた。なんとなくかぶってみる気にもなれず、ティアラの作りを一通りみて素敵なティアラだね、とだけ言ってメトちゃんに返した。


「ベト君、ヘト君、遅いなぁ」


 メトちゃんは、麦畑に大の字になった。服が土で汚れるだろうが、メトちゃんはそんなことは気にしていないようだ。


「村長さんの家はそんなに遠くないから、もうすぐ帰ってくると思うよ」


 駐屯地の方を見ると、今度は兵士たちが上半身はだかで走っていた。ちょっとした丘陵の坂道を利用して走り込みをしている。50メートルくらいの緩やかな登りを本気で走り、下りは少しゆっくり走る。そして下に着くとまた全速力で走って登る。インターバルトレーニングの一種かも知らない。素人の私でもすぐ分かるくらい厳しいトレーニングだ。


「ベト君、ヘト君、遅いなぁ」


 また、メトちゃんが呟いた。


 ・


 ・


 しばらくして、ベト君とヘト君は帰って来た。東門からここまでも走ってやってくる。本当に子供は元気だ。


「お待たせしました」


 先に口を開いたのはヘト君だった。上半身をかがめ、両手を肘の上に乗せて呼吸を整えている。


「はい、これお姉ちゃんの分」


 ベト君は息を切らしながら袋を渡してくれた。これに落ち穂を入れて行けばよいのだろう。そして二人はすぐにまた落ち穂を拾い始めた。二人で競争かなにかをしているのだろうか。真剣そのものだ。


 私もまだ落ち穂が集められていない場所に行き、落ち穂を集める。落ち穂も沢山、というわけではないが或る程度落ちている。麦を刈ったあと、地面に突き刺さっているあのでかいフォークみたいなので麦を集めるから、細かいのは集めきれず残ってしまうのだろう。ほっとけば鳥がきて食べるか、動物が来て食べるかどちらかになってしまうのだろう。


 3人と私は、また無言で落ち穂を拾い始めた。あまり麦粒がよく実っていないやつもあったりするけど、それは仕方がない。麦が一粒でもついている穂はとりあえず袋に入れて行く。




 1時間くらいの作業で私の袋の8分目くらいまで穂を詰め込むことができた。ベト君、ヘト君、メトちゃんの袋も大分膨らんで来ている。そして私は、そろそろ教会に戻って昼の鐘をならさなければならない。


「ベト君、この袋、どうしたらいいかな? そろそろ私は、教会に帰らなきゃならないんだ」


「お姉さん手伝ってくれてありがとうね。そこに置いていてくれれば俺が持って行くよ」


 ベト君は、落ち穂拾いの作業の手を止めないまま、私にそういった。


「ヘト君、メトちゃん、私は教会に戻るね!」


 私は、少し離れたところにいるヘト君とメトちゃんにも私が帰ることを伝えた。メトちゃんは、バイバイと顔を上げて手を振ってくれたが、ヘト君は顔を一瞬上げて私を見ただけで、また顔を下に戻してすぐに作業に戻った。


「あっ、そうそう。メトちゃんが作ったティアラ、良く出来ていたわよ。後で見せてもらったら? 」


 相変わらず落ち穂拾いに夢中のベト君に言った。するとベト君の手が止まり、顔を上げた。目が大きく開いて、ベト君の目は、虹彩が真円であることが確認できるくらい大きく見開いていた。そして瞳孔は、暗くそして大きく開いていた。ベト君の目は、真ん中に大きくて深く暗いクレーターのある青い月が二つ並んでいるみたいだった。私が聞き取れたのは「メトが…… 」だけだったけど、そのままベト君はメトちゃんの方に走り出した。ベト君が手に持っていた落ち穂が宙に舞った。


 メトちゃんの所に走って行ったベト君は、怒鳴り始めた。そして、麦のティアラを抱えるようにして地面にうつ伏せになるメトちゃん。ヘト君も異変が起こったことを察知してか、メトちゃんの所に向かって駆け出していた。


 おいおいベト君、初恋にして最初の修羅場か? なんて思いながら、私もメトちゃんとベト君がいるところへ走った。ベト君は、強引にメトちゃんから奪った麦のティアラを、引き裂いた。いや、文字通り八つ裂きにした。そして、八つ裂きにするだけでなく、八つ裂きにされて無惨に散った、ティアラであった物を踏みつけ始めた。力の限り、思いっきり。


「ちくしょう、ちくしょう」と叫びながら、そしてありったけの憎しみを込めているように見えた。ヘト君も、メトちゃんとベトちゃんの所へ到着すると、一瞬動きが固まったが、すぐに、ベト君と一緒に落ちている麦を手当たりしだい踏みつけ始めた。「そこは止めに入るところなんじゃないの? 」と息を切らせながら思わず叫んじゃった私。


 現場についた私は、メトちゃんに、ベト君とヘト君がティアラを踏みつけている光景を見せてはいけないと反射的に思った。地面に座り込んで泣いているメトちゃんの顔を自分の胸に沈め、左手で背中を摩り、右手で頭を撫でる体勢をとった。メトちゃんも両手で私を力強く抱きしめてきた。

 私は大きく息を吸ったあと、


「ベト君、ヘト君、止めなさい!」と叫んだ。


 だけど効果はなかった。彼ら二人は、度の超えた冗談とかでやっているのではないことは分かるが、何が起こっているのかがよく分からなくなった。


 ベト君もヘト君も、罵りの言葉を叫びながら、地面を踏みつけることを止めようとはしなかった。どんどん泣き声が大きくなるメトちゃん。そして、ベト君も、ヘト君も泣いていた。泣きながら地面を踏みつけながら泣いていた。わたしは、この状況が怖くなった。一心不乱に汚い言葉を叫びながら地面を踏みつける男の子2人と、泣き叫ぶ女の子。そして、私は、まったくこの状況が理解できなかった。そして、どのように収拾させればいいかも分からなかった。そして私もメトちゃんを強く抱きしめながら泣き始めた。


 教会の昼の鐘が鳴ってもその状況は続いた。

読んでくださりありがとうございます。

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