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異世界人よ、大志を抱け!!!  作者: 植尾 藍
第2章 タキトス騒乱
13/75

2−10

 私は、朝起きると、ベットの上だった。昨日の歓迎会の内容を思い出す。バルナバ神父の歌での盛り上がり。そして、そんな歓迎会の雰囲気が吹き飛んじゃうようなコルネリウスの暴露話。ああ、頭が痛くなる。



 ・



 ・

 

 ・





 私が質問したからなのだけれど、酔いながら語るコルネリウスの生い立ちは、不幸にして最低だった。しかし、コルネリウスはその過程と今の現状に感謝していた。王都ではない、コへレミアという都市で9歳で父母を病で幼くして無くし身寄りのない孤児となったこと。そして、孤児としての暮らし、そして死んで行く孤児の子供達。自分より小さく体の弱い子供から死んでいったとのことだ。その理由は、より年上の孤児達が、獲物をより弱い孤児から奪っていくからだそうだ。孤児としては年長な10歳くらいの時、自分が生き残れたのは孤児のグループを組織したからだそうだ。

 ここからは、私の前の世界の常識と照らし合わせて異常だった。その組織のリーダーとしてのコルネリウスは、孤児の女の子の売春斡旋をしているならず者集団を組織した悪のリーダーとしか言えない。孤児の女の子を、その都市の廃屋で売春をさせる。そして、自分は、誰も他の大人が来ないように見張る代金としての仲介料、とはいっても、一人分の一食分の食事も整えることのできない金額だったらしいが、そのお金を貰う。そして、コルネリウスの表現を借りれば「実質的に実りの大半を稼いだ子」、私から言わせれば犠牲者となった子からも仲介手数料なるものを徴収して、コルネリウがなんとかお腹を満たせる一食をやり繰りしていたとのことだ。そして、その組織の女の子達は大抵が亡くなっていったそうだ。餓えの為とか、病気のためとか、そんな理由は聞きたくなかった。私は、「そんなの最低」と吠えた。

 生き残るためとはいえ人間とは言えぬ最低のことをした、と真顔で返答するコルネリウスに、私の頭の糸の一本、ではなく束がばさりとぶっちぎれたのをうっすらと憶えている。









 二日酔いの頭が痛い中で思い出す頭が痛くなるような記憶。自己紹介というか、歓迎会なのだから生い立ちとかを聴くよい機会と思った私も愚かだったかもしれないが、歓迎会の席で話す内容ではないとは思うけど。とりあえず今日は、コルネリウスは見たくない。


 服を着替え、身だしなみを整えて、一階の食堂に降りる。食堂に置いてある置き時計で時間を確認すると、まだ6時まで少し時間がある。食堂の食卓は綺麗に片付けられていた。コルネリウスがおそらく片付けをしてくれたのだろう。

 まずはバルナバ神父にお礼、というか謝らなきゃいけないと思う。人として。

 そんな事を思い、バルナバ神父の書斎をノックする。返事があったので部屋の中に入る。既にバルナバ神父は机に向かって何かの紙を読んでいた。私は、昨日の歓迎会のお礼と、そして粗相を謝る。


 バルナバ神父曰く。コルネリウスは昔の自分がしていたことはとても悪いことだったと理解しているし、反省をしている。そして、それを償おうとしている。決して開き直っている訳ではないということを分かってあげて欲しい。そんな趣旨のことを言われた。そして、当時のコルネリウスの置かれた状況や、当時のコルネリウスが生きて行く術は、ひどく限定的だったということを理解してから、私はコルネリウスを責めるべきだったのではないか、と諭された。



 朝の6時の鐘を鳴らしながら、確かに少し頭ごなしにコルネリウスを叱責しちゃったな、ヒステリーに近かったな、と反省をする。鐘の音は、ロープのつながっている煙突を通して、大きく教会の中にも響く。いつもよりも私の心臓に鐘の音が響いてくる気がする。


 やはりコルネリウスに謝罪するべきだろう。納得は出来ていないけれども、少なくとも歓迎会という場をわきまえての言動ではなかったと思う。お酒も入っていたから尚更だろう。そして、コルネリウスは、ローストチキンなど手の込んだ美味しい料理を作ってくれた。考えれば考えるほど、落ち込んで行く。


 ・


 二階に上がり、コルネリウスの部屋をノックする。返事はない。悪いとは思いながらもそっと扉をあけて部屋を除く。コルネリウスはいなかった。コルネリウスの部屋は、ベットと机とタンスくらいしかないシンプルな部屋だった。

 鐘を鳴らしたとき、礼拝堂にもコルネリウスはいなかったので、きっと、教会の建物の外にいるのかと思い、外に出ると、井戸の方から水が流れ落ちる音がしたので、そちらに向かってみる。


 コルネリウスが井戸で水を汲んだいた。


「おはよう、コルネリウス」


 コルネリウスは、水を引き上げている途中なのだろう。右手に力を入れたままこちらを振り返る。


「アリサ、おはよう」


 コルネリウスと私の目は一瞬だけあったが、すぐにコルネリウスは目をそらした。そして、地面を見つめている。


「昨日はごめん。言い過ぎました」


 私は、深々と頭を下げる。

 

「俺の方こそごめん。アリサ。いや、謝っても、俺のして来た過去は変わることはないか」


 コルネリウスは、そういって、井戸の方を向いて、また水を引き上げ始めた。私はコルネリウスの背中を見つめて何もいうことができなかった。コルネリウスもそれ以上なにも言わなかった。暫くの間、滑車のギシギシという音だけしかしなかった。

 井戸から、バケツが顔を出した。コルネリウスが引き上げた水を、桶の中にいれる。そしてまたバケツを井戸の中に放り込む。コルネリウスは、朝から何回この作業を繰り返しているのだろうか。


「私も手伝うよ」


「ありがとう」


 重い低気圧が私たちの周りを囲んでいた。その中で私たちは作業をした。


 大きな桶に水がいっぱいになると、それをコルネリウスと一緒に台所間で運び、そこに置いてある大きな水壺に水を満たした。


「あとは、仕事残っていないかな? 」


 台所から出て行こうとするコルネリスに尋ねた。


「特に今日はないよ。お昼の鐘、お願い」


 振り向きもせず、台所を出ていこうとするコルネリウスにもう一度謝る。


「コルネリウス、昨日は本当にごめんなさい」


「アリサが謝ることなんてない」


「私、言い過ぎたと反省してる」


「あれは言い過ぎではないよ。的を得ていたし、アリサが怒るのも当然のことだと思う」


「それでも…… 」


 なんて言えばいいか分からない。


「私は軽蔑されるべき人間だ。それは分かっている」


「そんなことはないと思う。今は立派に教会の仕事をしているし」


「贖罪としては不十分だ。一生かかっても償えるものではないって分かっている」


「そんな風に考えたら、コルネリウスはずっと心が不幸なままだよ? 一生その過去の傷を負って生きていくのは、すごくきついことだと思う」と私は言う。


「それは分かっている。俺が幸せになれることなんてない。ただ、俺は、自分と同じような人間がまた生まれないようにしたい。バルナバ神父が俺を救ってくれたように、俺も多くの、俺と同じような境遇の子供を一人でも多く救い出すんだ。俺みたいなやつは、俺1人で充分だ。」


 そういうと、台所からコルネリウスは出て行った。


 コルネリスを追いかけようとおもったけれど、彼はそうしてほしくなさそうな背中をしていた。いや、私が彼を追いかけたくなかっただけかも知れない。




 私は、南階段を抜けて、ザインさんがいる宿屋に行く事にした。昨日の飲み方だと、まだ寝ているだろ。そして、頭痛を抱えているのではないだろうか。

 しかし、予想に反してザインさんは、宿には居なかった。宿の女将のメルさんの話だと、朝早くにダレトさんと出て行ったそうだ。朝の訓練場だろうか。



 東門を抜けて訓練場に向かうと、兵士達がペアを作って、組み手をしていた。後ろから首を絞めて固めたり、投げ飛ばしたり、組み伏せたり。畳のないところで柔道のようなことをやっている感じだ。ダレトさんは、組み手をしている人達になにか大声で指示をだしている。ザインさんは、腕を組んで組み手をどことなく見ている。

 私は、ザインさんの事まで行き、昨日のお礼を述べた。「こちらこそ迷惑をかけた」の一言で、また組み手を見始めた。ダレトさんも私を一瞥しただけだった。訓練中に話しかけるなということだろうと空気を読んで、その場を退散することにした。


 なんか、みんな仕事をしていて、私だけ暇人みたいだ。教会に戻って、なにか仕事があればそれをするんだけど、そうするとコルネリウスと一緒にいるということになるし、それはなんだか気まずいからパスしたい。


 駐屯所から東門に帰る途中、刈り終わった麦畑で、ベト君たちが袋を持ってなにかやっているのを見つけた。また何か遊んでいるのだろうか。とりあえず行ってみよう。

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