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ワイン2袋を持って教会の南階段を登っていくのはきつかった。ザインさんが持ってくれたららくだったのになぁと思うけれど、まぁ、もともと自分で持って帰って帰ってこなきゃいけないものだったから贅沢は言えない。
「ただいま」と言って、私は、教会の裏口から中に入る。もうここが私の家なのだから「ただいま」と言っても良いだろう。少し気恥ずかしい感じがするけどね。中に入ると香ばしい香りがした。
「アリサ、お帰りなさい」
コルネリウスが、厨房に立っていた。
「ごめんね。遅くなって。手伝うよ」
「もうだいたい出来上がったところだから大丈夫だよ。それよりワインは買えた ?」
コルネリウスは、私を振り返らずに葉っぱを手で裂いている。香辛料かなにかだろうか。
「2袋買って来たよ。ザインさんに手伝ってもらってだけどね。ワインとおつりはどうすれば良い? 」
「2袋もワインがあるのはうれしいな。重かっただろう。ありがとうね。ワインはそこの机に置いておいて。お釣りは、バルナバ神父に返しておいてくれれば大丈夫だよ」
どうやら2袋は適量であったようだ。コルネリウスのワインへの反応をみて安心をする。
「そうだ、じゃあ、私は、シーツにアイロンをかけておくね。中途半端に任せてしまってごめんね」
「シーツのアイロンももう終わっているから大丈夫だよ。いろいろ村を廻って疲れただろうから、部屋で休んでてくれ。後、30分くらいしたら呼びに行くから」
さすがは、私がここに来るまでは教会の雑事を全て1人でこなしていただけのことはある。仕事が早い。
「さすがにそれは悪いでしょ」
「いやいや、アリサの歓迎会だからね。今日は特別。明日からはしっかりと働いてもらうから気にするな」
「じゃあそういうことならお言葉に甘えます。じゃあお願いね」
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自分の部屋に帰り、まず服を着替えることにした。ザインさんと川で水遊びをしてしまったし、体温で服を乾かしたせいか、少し生臭い。服を着替えたあとは、未だにしっかりと見ていないロゼさんから貰った本を鞄から取り出し、窓の前に並べていく。その本の中に、今日ザインさんとの話で出て来た『白の騎士と悪魔』もあった。やはり有名な話だったのだろう。
「語り継がれているところでは、イコニオンに1人の勇敢な若者がおりました」という下りで始まっている。まるで「むかしむかしあるところに」で始まる昔話と構成が似ている。「語り継がれているところでは」という下りから始まるということは、この本は口伝されていたものを本に書き記したものだろう。口語体で書かれている。来週の礼拝後にでも、ベト君達がいたら読んで聞かせてあげようと思う。
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しばらくして、誰かが屋根裏への階段を登る音が聞こえてきた。そして部屋がノックされた。
「アリサ、食事の準備ができたぞ」
コルネリウスが呼びに来てくれた。
食堂に行くと、既にバルナバ神父は席についていた。食卓には大きな鳥の丸焼きと、皿に野菜の葉っぱがたくさん積んであった。バルナバ神父が正面に座り、その近くにコルネリウスと私が向かい合うように座る。
「全員そろいましたね。ではお祈りをしましょう」
そういって、バルナバ神父もコルネリウスも頭を垂れてお祈りを始めた。
「天におられる私たちの父よ、御名が崇められますように。御国が来ますように。御心が行われますように。私たちに必要な今日の糧を与えてくださり、まことに感謝致します。私たちの教会に、ササキ・アリサさんを仲間に加わえていただきました。この村に来たばかりの彼女ですが、どうぞ主がお導きになり、豊かな平安をお与えください」
他人が自分の為にお祈りをしてくれるのを直に聞いたのはこれが初めてだった。きっと高校や大学受験のときや採用試験の前なんかに、お父さんやお母さんは、合格祈願をしてくれただろう。しかし、それを私が直接知ることはなかった。私自身も、神社で友達の健康回復を祈願したことはあるけど、その祈願を誰かに話したりしたことはない。このように「祈り」というものを共有するのは、私自身初めての体験だと思った。まぁ、受験の当日なんかに、「合格できますように」なんてお父さんやお母さんが祈っているのを聞いたら、逆にプレッシャーになって力が入りすぎてしまうとも思うけどね。
「それでは、夕食をいただきましょう」
そういって、バルナバ神父が銀色のデカンタから、コップに継ぎ始めた。全員分のコップに注いだ。
「それでは、ササキ・アリサさん、ようこそ我らの教会へ」
そういってコップを合わせて乾杯をした。前の世界のワインよりも苦みや渋みが少なく、甘ったるいような感じを受けた。砂糖が加えられているワインかもしれない。前の世界の飲み物で例えるならば、炭酸の抜けたワインカクテル、キティーといった感じだろうか。これは飲み易くて美味しい。私がワインを堪能している間にバルナバ神父がローストチキンをナイフで切り分けていた。ローストチキンの中には、ジャガイモが詰まっていた。きっと味が染み込んでいて美味しいのだろう。
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「すごくおいしいです。これ、コルネリウスが作ったの? 今度教えて! 」
あまりの美味しさ。コルネリウスは、自分が作った料理が絶賛されてうれしそうだ。
「タスの葉に包んで食べるともっと美味しいよ」
コルネリウスが、チキンとジャガイモをタスという葉っぱに包んでくれて、それをテーブル越しに私の皿に置いてくれた。タスの葉に包んで食べると、かすかな苦みが口に広がり、またさらに美味しかった。このタスの葉は、美味しいパセリ?と言った味だ。レタスのような葉っぱなのに、味はパセリに近いが、苦みもそこまでではない。前の世界では食べたことがなかった味だ。とりあえず、このタスの葉に包んで食べると、うっすらとした苦みが、チキンの染み込んだジャガイモの味を引き立てる。
「まだたくさんありますからね。ワインも口に合いますか?」と、優しく訪ねるバルナバ神父。
お昼を抜いた分、たくさん食べれてしまいそうだ。料理に大満足の私の歓迎会はまだまだ続きそうだ。そして私の胃袋に料理はまだまだ入るだろう。
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