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ロゥカス!  作者: 結倉芯太
1章
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7.試験結果発表


 パティは人波を押しどけ、中央掲示板前まで辿り着く。人の多さによる熱気で発生した汗の臭いと、息苦しい空気が漂う。途中、リオを探すと言って、アリエルは人混みに姿を消してしまった。

 アリエルがリオと見つけたとしても、この人だかりの中、パティ達と合流できる保証はない。仕方が無いので、フランとパティは掲示板の前に行き、自分達の番号を探す事にした。

「とにかく自分の合否を確認しなきゃね」

「そうだな。しかし、私は貴女が合格している場合にしよう。貴女が受かっていなければ、私が受かっているはずはないからな」

 横でフランが腕組みしつつ、相槌をうつ。

「あら、プレッシャーをかけるのが上手いわね」

 掲示板で番号を追いながら、パティは口元を緩ませる。そして、暫く掲示板と見詰め合う。

 B―7、B―7、パティは掲示板の右から順に目を配る。すると、掲示板の中央付近にパティの番号がしっかりと記載されていた。

 ――よしっ! パティは心の中で手を叩いた。本当は飛び上がるほど嬉しいが、隣の友人の結果がまだである。今は表に出して喜んではいけない。パティは「あったわよ」と一言小さく呟くと、フランに番号を探すようにウィンクして促す。フランはそれに頷くと、自分の番号を確認を開始する。パティは腕を組んでその様子を見守る。

 左から右、上から下へと忙しく動かしていたフランの眼が途中、ピタリと止まりたちまち表情がぱぁっと明るくなる。

「よかったっ! 合格だったよぉ!」

 フランから突然飛び出た少女のような声色と底抜けの笑顔を向けられ、パティは目を丸くして驚いた。

 一瞬時間が止まったような、そんな錯覚をパティは受けた。フランからそのような表情を向けられるとは思ってもいなかったし、それがとてつもなく可愛らしかったからだ。整った目鼻や、生真面目なへの字口は喜色に満ち、完全に崩れてしまっていて、フランの女の子らしさを十分に表現してくれていた。

「……へぇ、そんな顔もできるのね。……驚いたわ。でもまぁ、おめでとう」

「い、いや、これは違うんだ! つい嬉しくて我を忘れてしまったようだ。見苦しいものを見せてしまってすまない……」

 パティから少し遠慮がちな引いた声でそう言われ、フランは顔を真っ赤にして弁解する。

「御馳走様、とても女の子らしくて可愛かったわ。いつもそんな顔していれば、絶対にモテると思うわよ」

「……勘弁、してくれ」

 パティにからかわれて、顔も上げることも出来なくなったフランは短く許しを請う。

これで遠慮なく喜べる、そう思ったがまだ早い。

「アリー達は受かったのかな」

 パティは自分でも気づかないうちに、そう口にしていた。




 アリエルはリオを探す為、人ごみの中をかき分けながら、掲示板付近をうろついていた。右も左も前も後ろも人、人、人、ウンザリするほど人をチェックしているが、彼女は一向に見つからない。いい加減諦めて、自分の合否だけでも先に確認しようかと、アリエルは掲示板へ視線をやる。すると前方の人だかりの隙間から、銀色の長い髪が馬の尻尾のように揺れているのが見えた。

また見失っては厄介なので、急ぎ人を押しのけながらアリエルは目的の場所を目指す。人ごみを掻き分け、リオの傍に行く。すると、リオが真剣な眼差しで掲示板を凝視している。

「やっと見つけたよ~。どうだった? 受かってた?」

 リオの背中を軽く叩きながら、アリエルは横に立つ。リオは、ちらりとアリエルを見ると、直ぐに掲示板に目を戻す。

 どうやら邪魔をしてはいけないようだ。仕方が無いので、アリエルも自分の番号を探すことにして、掲示板の番号を追う。前に立っている大柄の男のせいで、下の方の番号が確認し辛いが、この状況ではそれも仕方ない。

「E―15、E―15」

 アリエルがE欄の番号を掲示板の上段列から確認していくと、四段目に自身の受験番号が記載されているではないか。歓喜の感情が溢れ、狂喜乱舞しそうだ。

「やったぁっ! あった、あったよ! 合格だぁ~!」

 抑えきれず、近くにいたリオに跳びつく。

 しかし、アリエルは直ぐに我に返る。そう、リオの合否はまだ判明していないのだ。アリエルはぎこちない動作で首を動かすと、抱きついた彼女を見やる。なんと、彼女はポロポロと大粒の涙を流しているではないか。アリエルは慌てて、リオの首に巻きつけていた両腕を離す。

 アリエルは冷や汗を垂らしながら考える。勢いに任せて飛びついてしまったが、リオはもしかすると試験に落ちているのかもしれない。だとしたら、とんでもなくデリカシーのない行動をとってしまったのではないだろうか。しかし、やってしまったものは仕方ない。彼女の泣き顔の理由は、試験の結果によるものに間違いないだろう。ならば、思い切って聞くしかない。

「ゴメンっ! あの……、リオの気持ちも考えずに抱きついちゃって……。その、駄目だったの?」

 アリエルは自分に出来る、ありったけの謝罪の気持ちと勇気を出して尋ねてみる。すると、リオは涙を拭いながら、首を振る。そして少し口の端を上げて答えてくれた。

「違う。合格してた」

 その返事を聞き、アリエルは再びリオを抱き締める。きっと神様がアリエルの心境を見ていたのなら「こらこら、先ほどまであんなにデリカシーがないことに懊悩(おうのう)していたのではないですか?」と注意するような変貌振りだろう。しかし、そんな神様からの忠告も通じない。今のアリエルの気持ちは山の天気より、はるかにうつろいやすかった。アリエルはその忠告を蹴り飛ばして、心の内で反論する。「今なら大丈夫、デリカシーなんて知るもんか」と。

「よかったぁ~! 一緒に合格だ! やったねぇ~!」

 アリエルは歓喜の声を上げる。それに対して、リオから「苦しい」と小さく返事が返ってきたのだが、アリエルは全く気にしなかった。



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