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ロゥカス!  作者: 結倉芯太
1章
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6.合格の行方


 受付会場にある休憩所ではパティとアリエルに加え、フランとリオも同席していた。リオは以前無愛想で無口だが、試合の後フランに促され、渋々同席している。

 後数刻もすれば、試験の結果が受付会場の掲示板に貼り出される。その間の時間を使って親交を深めようという事で、パティが提案したのだ。

「そっかぁ、フランはトラヴァーリ出身なんだ~。バーゼルからも近いよね」

「あ~、確か鉱石の産地で有名の」

「うむ、ロマリエの影に隠れた小国ではあるが、いい国だ。暇ができたら、是非遊びに来るといい。歓迎するよ」

 後ろで束ねられたピンクの長い髪、整った目鼻と生真面目そうな口から発する言葉からは、高貴なオーラを感じる。パティと同じで良い家柄だというのが、自然とわかる。

 普通、貴族の連中はアリエルのような一般の民衆を見下すような喋り方をする人が多いのだが、フランは彼らとは違った。フランは誰に対してでも対等な関係を築こうとしてくれる。さっきの試合後の会話の中でリオの事を気にしていたことからも、フランが誠実で優しい人であることが良くわかる。

「うん、絶対行くよ」

 そんな女騎士からの招待をアリエルは期待の笑みで受ける。そして、アリエルはそのままリオへ話題をふる。

「リオはどこ出身なの?」

「……スーペル」

 アリエルに聞かれたリオは、無表情を崩さずに小さな声で答える。

 無口ではあるが、嫌々とまではいかないようだ。先ほどから、突っ込んだ質問以外、声は小さいが答えてはくれている。アリエルとしてはもう少し表情を崩して欲しいのだけれど。でも、これ以上立ち入った話を聞くと、失礼な奴と思われるかもしれない。

 そもそも、アリエルはリオ達に勝ち、彼女達よりも合格に近い位置にいるからこそ、こんなに落ち着いていられるが、逆の立場ならどうだろうか。フランのように毅然に振舞えるだろうか。リオのように黙ってこの輪に加わる事が出来ただろうか。それは無理だとアリエルは思った。きっと落ち込んで、悔しくて堪らない。それこそ幼子のように喚き散らすかもしれない。そう考えると、フランやリオはアリエルよりも数段立派だろう。

「でも、フランの国の情勢はまだ安定してはいないわよね……」

 まるでアリエルの心を映すかのように、気まずそうな表情で口を開いたのはパティだった。

 先ほどの話の続きらしかった。それに反応したフランは、眉を沈めて答える。

「そうだな。私の国は未だ内乱が続いていて、正直とても人を招待できる状況ではないな。だが私が魔闘士になれば、国の内乱を治める事に微力ではあるが、協力できるようになる。だから、もしそうなって内乱が治まったら、貴女達には是非来て欲しいと思っているよ」

 胸の辺りで拳をつくって言うフランの言葉が、今までと違って少し弱々しく感じられた。その理由はアリエルにも分かっていた。

 世界消滅戦争から五年経った今でも戦争は続いている。バーゼル、ロマリエ、イングリド、スーペルといった、ビッグ4と呼ばれる先進国の治安は安定しているものの、その周りをとり囲む小さな国々では国力が足りないせいで、盗賊等の不当な輩から国民を守れていない国も多い。

 食料は奪われ、家を失い、民は路頭に迷う。その所為か、国は防衛の為に他国から有能な魔闘士を招いたり、魔闘士資格を持った傭兵を雇うなどして、そういった事態に対処している。

 しかし、魔闘士を雇うことで国庫の金が流出し、ますます国力が低下してしまい、いずれ国は滅んでいってしまう。ここ二、三年で国ができては直ぐに潰れていくという事が多いのだ。フランの国はそういった小国家の一つだった。だからフランのような自国の、しかも高貴な家柄から魔闘士がでれば、国としては人材の確保ができ、経済的にも大いに助かるのだ。

 パティは勿論、その情勢が分かっている。その証拠にパティは肩を落として伏し目がちになっている。明らかに気落ちしていた。

 しかし、アリエルにとってそんな事は関係なかった。友達から「家に遊びに来てくれ」と誘われたのだから、アリエルは笑顔で遊びに行くのみだ。フランの手をとり、笑顔で応える。

「その時は御馳走用意してねー。約束だかんね」

 その台詞にフランは驚きながらも明言する。

「ああ、必ず」

「……ったく、底抜けに陽気なんだから」

 パティはホトホト呆れるような表情で独りごち、こちらを見やる。アリエルが「貸しだからね」と言わんばかりに舌を出して返事をしてやると、パティは「はいはい」とため息混じりに首肯する。

 そんな態度をとってはいるが、パティは心の中でアリエルに感謝していることだろう。でも、絶対にそれを口には出さない。なぜなら、アリエル自身が調子に乗ってしまうからだ。

 会話が滑らかになり、場の空気も明るくなる。そんな中、アリエルがテーブルに置いてある紅茶に手をのばそうとしたその時だった。

 受付事務所から大きな紙を抱えた二人の試験官が出てきた。

 会場の視線が一斉に、彼等に釘付けになる。試験官は人混みを掻き分けながら、受付会場の中央にある掲示板へむかい、手にした紙を掲示板へと貼り付ける。既に掲示板の周りは人だかりができていて、近寄ることも困難な状況になっている。

「っ!」

 メンバーの中で一番に興味を示したのは、意外にもリオだった。今までの無表情が崩れ去っていた。目は大きく見開き、掲示板の前で合格発表の紙を広げる試験官を凝視している。腕を真直ぐ机につき、腰が椅子から少し浮いたようになっており、今にも飛んでいきそうな姿勢だった。

「リオ?」

 アリエルの呼びかけに応える気配は無く、リオは椅子から立ち上がると、猛烈な勢いで人だかりに突っ込んでいく。アリエル達は一瞬呆けていたが、直ぐにリオを追うために席を立った。




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