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ロゥカス!  作者: 結倉芯太
2章
43/45

9.魔闘士初任務



「さて、こいつが認可証と魔計器(スケール)だ。ちなみに魔計器はレンタルじゃから失くすでないぞ」

 渡された認可証と魔計器をみる。魔計器は中央に硬貨程度の丸い緑の球が設置され、上下にバンドが付けられており、腕章のように装着する仕様らしい。

「……この機械は?」

「おや、嬢ちゃんは初めてかい? そいつはね、監視装置みたいなもんさね。ここスーぺルでは必要以上に魔力を使う魔闘士は懲罰の対象になるのさ」

「懲罰?」

 爺の只事ではない発言に対して、リオは思わず聞き返す。

「そう、懲罰さ。この土地はあまり『精』が豊富な場所ではないからね。魔力を使い過ぎると土地が枯れてしまうじゃろう。そうならない為、登録された魔闘士達の使用する魔力を協会が監視する必要があるのさ」

 なるほど、そういった理由があるのか。

「じゃあ、どうなんのよ? 違反した場合ってのは」

 そこでアツトが口を挟む。しかし『色無』の彼が知る必要はあるだろうか。属性のないアツトがいくら念気をおこない、魔力を蓄えたところで使用できない事をリオは知っている。

「まぁ、度合いによるじゃろうな。その魔計器、普段は今のように緑色をしておるが、魔力を使い過ぎてこいつが橙色になると警告じゃ。更に赤に変わると、ここからが懲罰対象になる。赤は魔闘士の資格休止処分じゃな。こいつを喰らうと一カ月スーぺルで仕事が出来んようになる。更に魔計器が赤色になっても魔力を使い続ければ、球は黒く染まる……」

 赤に染まるだけでもかなりのペナルティを科せられるのに、黒く染まれば一体どんな罰が下るのだろうか。

「黒く染まれば、このスーぺルで魔闘士をすることが出来ん。いわば資格剥奪と同意じゃな。もちろん、他国での評価も失墜するじゃろうて。これが意味する事はわかるじゃろう?」

「だねえ。そうなると、まともな仕事は廻ってこないだろうな。俺みたいな『色無』タイプと同等の扱いになっちゃうだろうな」

「いやいや、御主は腕が良い、そこまで困る事はなかろう。だが信頼となれば話は別じゃ。スーぺルの魔闘士協会は大陸中に顔が利く。その協会から問題アリと判断された魔闘士に他協会も依頼はせんじゃろうて」

 なるほど、十分に理解できる。一度大きな問題を起こした人間は次も同じ過ちをするかもしれない。定められたルールを守る事の出来ない魔闘士は信用も出来ない、そういったところだろう。

「へえ、おっかないねぇ」

「そう、怖いもんよ、組織というもんはさ。そうそう、魔計器は橙色になっても時間が経過すれば緑色へと回復するが、赤、黒へと変化した場合は回復はせんぞ。一月に一回、協会で魔計器のチェックをするからな。隠し通せるとは思わん事じゃ」

「いやいや、俺がそんな事するわけないじゃない」

「御主ではないわ。儂はその嬢ちゃんに言っとるのじゃよ」

 皺くちゃに動く口から発せられる言葉には、多少なりとも重さを感じる。伊達に長く生きてきたわけではない彼の忠告は、けっして聞き流すわけにはいかない。

「……肝に銘じておきます」

 そう言ってリオは軽く頭を下げる。それを聞いた爺は厳格そうな目尻をたらり下げる。

「じゃあ、ドルチェから今回の依頼と支度金を受け取ってくるといい。くれぐれも『規則ルール』は破るんでないぞ」

「よし、じゃあ行くか。確かあのお姉さん二階で待ってるんだろ? 早くいこうぜ、フフフ」

 アツトが浮ついた様子で階段を上っていく。軽やかに消えていった背中には、羽でも生えていたのではないだろうか。

 ……しかし、なんだろう?

 心内に何かが引っ掛かった様な、不思議な気持ちをリオは感じた。

「……あの兄ちゃん、腕はたつが性格に難がありそうじゃのう」

 その気持ちは十二分に理解できる。

 爺が呟くように言った独り言にリオは激しく同意したのだった。

 リオがアツトの後を追い、二階へと上がると翁の言う通りそこではドルチェが待っていた。

「あら、意外に遅かったですわね。改めまして宜しくお願いしますわ。私はこのスーぺル魔闘士協会所属、三級魔闘士のドルチェ=パッカードと申しますわ」

 小さな会議室の窓際に腰を下ろしていたドルチェが、入ってきたリオとアツトに対して挨拶をする。

「……リオ=メッシェルダーです。よろしく」

「おお、さっきはどうも、お姉さん。俺はアツト=オサナイってんだ。これからよろしくお願いする」

 二人はドルチェに軽く挨拶と自己紹介をすると、部屋にある椅子に腰を下ろす。

「早速ですが、これから貴方達にお願い致します依頼の内容と支度金の支払い手続きを行います。少し話を聞いて頂けますでしょうか?」

「ああ、そのつもりでここに来たんだしな。問題ないぜ」

 リオも小さく頷く。

「日没まで時間もあまりありませんので、出来るだけ簡略に説明させて頂きますわ」

 ドルチェはコホンと一つ咳払いをする。そんな彼女の綺麗な横顔が、窓際から差す陽光によって更に魅力的なものへと昇華させられていた。そんな外見を持つドルチェを見て、アツトが浮かれるのも無理はない。

「……綺麗な人」

「ん? 何か?」

「あ、あう……、い、いえ、なんでもないです」

「なにかあれば質問は都度受け付けますわ。まず私達が請け負う仕事は最近スーぺルの中でも問題となっている『児童誘拐犯の確保』になります」

「へぇ、物騒な依頼だねぇ。お兄さん怖くて夜道歩けなくなっちゃうわぁ、こりゃあお姉さんの護衛が必要かも知れないねぇ」

 リオも他人事ではない。身内にも、知り合いにもまだ児童と呼べるような人達がいるのだ。

 後、こんな時でも下らない冗談を口走っているアホは一回死ねばいい。

「そうですわね。大変危険な任務である事に間違いはありませんわ。それと私を圧倒した貴方に護衛は必要ないかと思いますが……」

 ドルチェは遠慮がちな口調でアツトの申し出をやんわりと往なす。さすが断り方も大人だ。

「話を戻しますが、この誘拐犯はこれまでの情報から複数犯の可能性が強く、最低でも二人組(ツーマンセル)を作る必要がありますわ」

「で、ここにいるのは三人だろ? いったい誰と誰が組むのよ?」

「ですからアツトさんとリオちゃん、お二人にはスラム街の北側を担当していただきますわ。失礼ですけど、リオちゃんがここスーぺルにおいて、スラム出身である事を考えれば住居周辺の地理に明るく、捜索も捗るでしょう。加えてアツトさんは逆にこの街の情報に疎いと思われます。協会として、お二人を組ませる事が効率が良いという考えに達した次第ですわ」

 正直、自宅近辺の捜索なら、ディエゴ達を見守りながら仕事もこなす事が出来る、有り難い条件だった。

 しかし――

「えー、俺はお姉さんと組みたいよぉお~」

 餓鬼のように駄々をこねる二十歳過ぎの成人男性(アツト)を見ると、上手くやっていける自信は到底ない。

 ――まったく。

「……ドルチェさん、支度金はそこの机の上にある袋であってますか?」

「……え、ええ、そうですけど」

 リオはドルチェの返事を聞くと、机の上にあった支度金を右手でさらい、逆の手でアツトの袴の奥襟を掴むと、引きずる様にして部屋を出る。

「オ、オイ、オマエ、なんでそんなに怒ってんの……? ちょ、俺まだここにいたいのに!」

「……五月蠅いっ、今考え事してるから黙ってて」

「……っ! ……わかりました」

 リオの言葉にアツトがビクついた表情で返事をする。大人しくなってなによりだ。

 まずは武器の調達。

 一応この阿呆アツトからのアドバイスを貰いつつ、武器の選定と物資の調達をしよう。支部の外に出ると、日が傾き始めている。今日は買い物をして、実際に行動に移るのは明日からになるだろう。

「……あのぅ、リオさん? 流石に外をこんな情けない状態で引きずられるのは、ちょっと……」

 リオは「……はぁ」と一つ溜息を吐き、アツトの奥襟から手を離す。

 全く、この男がいつも模擬戦の時のように頼もしければ問題ないのに、思わず愚痴がこぼれそうになってしまう。しかし、少なくともこれからは一緒に仕事をするパートナーである。

「まずは武器屋に行きたい。……手伝ってくれる? 出来ればそのあとに物資の方も」

「あー、いいぜ。俺も必要な物があるからな。場所はオマエ、知ってるんだろ? 日が暮れる前にサッサと済ましちまおうぜ」

 アツトはそう言い、リオに先導を促す。

「じゃあ、行くから」

「へいへい、わかったよ」

 何ということない、気兼ねのないやり取りに、僅かながらリオは心地よい気配を感じていた。





「ディエゴ、今日はもう上がっていいぞ」

 日が隠れ始め、もうひと頑張りで仕事も終わり、帰ったらすぐに夕飯の手伝いだ。

 そんな事を考えながら作業しているところで荷仕分け場の棟梁がそう言ってきた。

「え、いいんですか?」

「お前の所、昨日姉ちゃん帰ってきたんだろ? 今日くらいは早く上がっても問題ないさ」

「ありがとう、おっちゃん!」

「ああ、早く帰って姉ちゃん孝行してあげな」

 ディエゴは素早く帰り仕度を整えると、通りに躍り出る。

 今から帰れば、夕飯を作って姉の帰りを待てる。幸い食材は昨日大量に買い込まれてある。今日もリエラ達を呼んで楽しい時間が過ごせるだろう。

 ディエゴは商店通りの人混みを搔き分けながら家路を急ぐ。こういう時、人より小さな身体が便利だと感じる。

 スイスイと人や障害物をかわしつつ、大通りから裏路地、つまりはスラムの入り口に差しかかったところで、ディエゴは足を止めた。

「……リエラ?」

 そこにはリエラと怪しげな黒衣を羽織った人がいたからだ。

 二人は何やら言い合っているように見える。

 ――まさか、今巷で話題になっている誘拐犯か!

「オイッ! 何やってんだよ!」

 大声で黒衣の人間に駆けよる。

 二人が顔見知りである可能性もない事もないが、万が一リエラが攫われでもしたら、カーラに合わせる顔がない。間違いであったのなら、相手に一発や二発殴られたって構わない。

「俺の家族に何か用か! それになぁ用があるなら、まず俺に言えッ!」

 路地に響き渡るほどの声量で言い放つと、黒衣はそそくさと去っていった。やはり(ろく)な人間ではなかったようだ。

「……大丈夫か?」

「う、うん、大丈夫、……ありがとう」

 リエラは俯き加減のまま、一向に顔を上げようとしない。

「本当か? 何かされたんじゃあないのか?」

 さすがにいつまでも俯かれていては、何かあったのではないかと不安に駆られてしまう。

「……な、なんでもない、……なんでもないよっ! ……でも、もう少し待ってて。今は……、ちょっと見せられないよ」

「……? なんだよ、一体」

「いいからっ……」

 意味がわからない。リエラの反応にディエゴは戸惑いつつも、黙って待つ事にする。

 それから十数分ほどだろうか、辺りがもう暗闇に染まった頃「もう大丈夫」とリエラは顔を上げて歩き始める。

「もうすっかり暗くなっちまったな」

「……ごめんなさい」

「あ、いやそういうつもりで言ったわけじゃない。まぁ、なんだ、何事も無くて本当良かった。それにほら、今日は月明かりがあるから問題無し!」

 スラム街には、当然街灯などが設置されているはずもなく。

 幸い、今夜は丸い月が綺麗に出ており、夜道を歩くのに不自由することはなかった。

「うん、今夜は明るいし、星も綺麗だね。それに帰りが一人じゃないし寂しくなくて、ちょっと得した気分」

 二人は同じ夜空を見上げる。見上げた空には雲一つなく、星々が煌めき色だっていた。

 ディエゴ自身、星空をこんなに穏やかに見上げる日が来るとは思っていなかった。

 この世に産まれて物心つく頃には既に孤児だった。姉と二人で泥に塗れ、人の生活とはかけ離れた、家畜の様な暮らしをしながらスーぺルに流れついた。ここでようやく職と住処を確保し、なんとか人らしい――いや、最低辺の生活を出来るようになった。

 そんな苦しかった人生にようやく転機が、そう光が差したのだ。

 姉の魔闘士試験の合格、依頼報酬、全てが夢であるような、そんな幸福な出来事が自分の身に降り注いだのだ。

 ディエゴには、夜空に輝く星達がそんな自分を祝福してくれているように見えた。

 そして――

「あ、流れ星!」

 ひとすじに流れた星を思わず指差してしまう。そして最初に流れた星を追うように星達が次々に流れていく。

「確かよ、流れ星に願いを込めたら叶うって話があったよな?」

「……うん」

「じゃあ、願ってみようぜ」

 己の『希望』が叶った今、それは無意味な行為かもしれない。でも、長年持ち続けた望みが叶った今、幸せになる事を望んでもいいのではないか、ディエゴはそう思っていた。

「……私は、いいや」

「えっ?」

 リエラから意外な言葉。彼女も自分と似たような暮らしを続けてきた。今もきっと何かにすがりたいほど悩みや辛さを抱えているはずだ。言葉に出せば、少しは楽になるかもしれないと思ったが、どうやら見当違いだったらしい。

「うん、……私、流れ星って好きじゃあないんだ」

「そうなのか?」

「……じつはね、お父さんとお母さんが死んだ夜もこんな流星夜だったんだ。それからしばらくは星を見上げる事もしなかったの。辛くて、哀しくて、淋しいのに、なんでこんなに綺麗に輝いているのって、憎かった」

「…………」

 リエラも孤児だが、生まれながらというわけではない。彼女とカーラは両親の死を境にここスラムに墜ちてきた。元は一般階級の家庭に育ち、それなりの教育を受け、ここに比べれば不自由なく育ったと聞いていた。しかし、両親の死に関してリエラが喋る事は今までなかった。

「戦争だったから仕方ないって事はわかってるの。でも、あの日、私の両親を含め、たくさんの人が亡くなったの。とても数え切れないほど。そんなたくさんの死体に囲まれて、両親の遺骸にすがって泣いている私を、嘲笑うかのように降り注いでいるのが、なんだか許せなくて、……ね。……その時、思っちゃったんだ、人が死んだ時に星が流れるのって本当なんだって……」

 ディエゴも知っている。人が亡くなった時、星が流れるという、伝承のような話を。

 そう言いながら、夜空を見上げるリエラの瞳は細やかに揺れているように見えた。

「もちろん、今は平気。リオさんやカーラ、それにディエゴがいる。厳しい暮らしだけど、私は一人じゃないって思えるんだ」

 リエラは鼻を鳴らして笑って見せる。無理して笑っている事はバカでもわかる。

「――ったく、しょうがねえ、そんなしんみりした面すんじゃねえよ。今日も俺んちで飯にしようぜ。あの計算高い守銭奴のリオが買い過ぎた食材がまだ余ってんだ。腐らすのはもったいないからよ、協力してくれよな。……まあ、リオはお前らの分もきっちりとってくれてるからな、家に着いたらカーラ連れてウチに来いよ」

 元気づけるつもりで言うと、ディエゴでも少し気恥ずかしい。

 投げやりに言い放つと、夜道を大股でズンズンと進んでいく。

「……うん、ありがとうっ」

 リエラはディエゴの後を小走りで追っていく。夜空には数多の星が輝き、そして流れていった。




どうも、結倉です。

なんとか月一更新を頑張ろうとしております。 汗

続きを待たれている方には申し訳なく思いつつも、拙作をここまで読んでくださっている事に感謝です。

次回もなるべく早く掲載できるように頑張りますので、見捨てずお付き合い願いますー


ではではー

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