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ロゥカス!  作者: 結倉芯太
2章
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8.模擬戦闘 リオ編


「さて、次はアンタの番だ」

 先ほどまで、アツトの戦いぶりを一緒に見ていた所員が、リオにそう告げる。

「武器は?」

「ロングレンジのライフル……」

「確認しておくが、模擬戦だから弾はゴム製になるぞ?」

「……構わない」

 『ゴム弾』――金属製ではない、それは即ち弾に魔力を込める事が出来ないという事だ。

「まあここだけじゃないが、アンタ結構有名だぞ。受付の爺は憮然としてるが、あの『トラヴァーリ内乱』での活躍はもちろん、『光属性』の少女は大陸のギルド間では既に拡まっているからな。光弾となると、模擬戦闘の意味がなくなる。それにこっちもドルチェに怪我されると困るんでな」

 そう言い残すと、所員は武器庫へライフルを取りに向かう。

「へえ、オマエ光属性だったの?」

 所員と入れ違いに話しかけてきたのはアツトだった。どうやら先ほどの会話を聞いていたようだ。

 リオが小さく頷くと、アツトは意外にも無関心な表情で「そうか」と呟くだけにとどまった。 アツトの事だから『光属性』と判明した時点で大仰に驚くぐらいはしそうなはずなのだが……。

「おい、出番だぞ」

 そう言われ、武闘場を振り返ると、先ほどアツトと激闘を繰り広げていた人形達が手招きしている。

「え……? だって――」

「『さっき壊されたはずじゃ』って思ったのかしら?」

 リオの言葉尻の詰まりを対戦相手であるドルチェが艶やかしい口調で紡ぐ。

「私の可愛い子供達は何もさっきの三体だけじゃないわ。勿論、壊れた子達は愛情を込めて修復いたしますわ」

 その声に反応して現れた人形三体は、ついさっき壊された人形達と見分けがつかない。

 一体、ドルチェは後何体の予備(スペア)を持っているのだろうか。

「武器は公平を期す為に、こちらも棍を使用いたしますわ」

 リオがゴム弾を使用する代わりに、ドルチェ側も危険度の少ない武具を使うようだ。

 『勝負は公平に、そして誠実に』とも言いたげに、涼しげな表情でドルチェは三体の人形と共に身構える。

「……構わない。で、その人形達を倒せばいいの?」

 リオもそれに応えるように静かに言い放ち、背中に背負ったライフルに手を掛ける。

「ええ、では始めましょうか。華麗な舞踏会を!」

 ドルチェは頭上で鮮やかに指を鳴らし、人形達に合図する。

その華美な合図を皮きりに人形達は一斉に散開した。結果、リオはドルチェ達に四方を囲まれる。

 ――さて、どうする? アツトは見事な剣さばきを以って、敏捷性の高い人形達を殲滅せしめたが、リオにはそういった技術は一切ない。一体に的を絞ってからの個別撃破が精一杯といったところだ。

「さぁ、私の可愛い子供達、遊戯の時間ですわよ。構えなさい!」

 リオをトライアングルの中央に置くように人形達が位置を変える。そこから見せる投てきの構え。

「……くっ」

 三方向からの同時攻撃。これを全てかわしきるのは厳しい事は重々承知だ。

 しかし、今は手持ちのスキルと武器でなんとかするしかない。

「放ちなさい!」

 ドルチェが右手を突き出し、一斉投てきの指示を下す。

 リオも人形達の仕草から、ある程度の予想は出来ていた。身を低くし、ライフルを盾にして投てきをやり過ごそうとした。

「っ!!」

 脇腹に痛みが走る。いくら予想できたからといって、全てを防ぎきれるものではない。これも想定内、痛みは残るが大した事はない。

「アラアラアラアラ、そんな亀のように丸くなってはこの子達からの攻撃から逃れられなくってよ。さぁ、どうするのかしら? いつまでもそんな体勢ですと、大怪我をしてしまいますわよ」

 手の甲を口にあて、ドルチェは高らかに笑う。

 ……アツトとの戦いとはテンションが違う?

 リオは少し違和感を抱いたが、今はそんな事を考えている場合ではない。目の前の人形達がドルチェの指示の元、正確な軌道で棍を投げてくる。それを三度、四度喰らうたびにダメージは蓄積されていく。そのうち立っているのも辛くなってしまいそうだ。

 このままではマズイ事くらい理解している。しかし、対処法が思い浮かぶはずもなく――

「おい! 俺が実践で見せた事を思い出せ! 直ぐに諦めんな、この野郎!」

 俯き加減だったリオの頭に飛び込んできたのはアツトの声だった。怒声にも罵声のようにも聞こえたが、その言葉は少し前、フランの故郷が壊滅的な打撃を受けた際、アリエルから言われた事と何ら変わりなかった。

 違う、私はあの頃とは違う! そして――

「私は『野郎』じゃないッ!」

 リオは手に持ったライフルの銃身部分を両手で握る。

 そして三方向から同時に投げつけられる棍を標的に豪快な素振り(スウィング)を見舞った。

「おお! ナイスバッティング!」

 アツトの冷やかしが腹立たしいが、彼の助言が現状の打開に繋がったのも事実、ここは堪えておく。

「あら、これではもう遠距離からの攻撃は通用しないようですね。では、そろそろ接近戦といきましょう。準備はよろしいかしら?」

 ドルチェは仕草や言葉で次に何を行うかを明確に知らせてくれる。それは彼女が試験官故の発言なのか、それとも性格によるものかは分からない。後者であれば、彼女は清廉な人なのだろう。

 さて、ここから先はどうやら接近戦主体の戦いになるようだ。こちらとしても一気に片を付ける好機だ。実質三対一と同じようなもの。長期戦は明らかに不利だ。ならば、あちらの思惑に乗るのも悪くない。

「まずは一人!」

 標準を正面寄りやや右、ツインテールの人形へと合わせすかさず引き金を引くと、弾は人形の左肩へと当たる。

 しかし、その為に犠牲にした時間がリオを更なる窮地へと誘う。ゴム弾の為、薬莢の排出は無いがそれでも装填、閉鎖の作業工程が発生する。既にその時間はないほど他の二体はリオに接近してきている。落とした一体も致命傷とまではいかない、少し時間が経てば復活してくるだろう。

「なら、逆に今がチャンスと思えばいい……」

 アツトの戦闘は良い見本だった。彼は無防備だった状況から、鞘を刀代わりに使用する事で危機を回避した。

「先ほどは不覚をとりましたが、今回はそうはいきませんわ! ついんっ」

 転倒しかけながらも、ツインテールの人形は主人の言葉に従い、棍をリオ目掛けて投げつけてくる。

 リオは自身に強く語りかける。

 冷静に。あくまで冷静に対処するんだ。頭の中で想像した通りの動きが出来れば、この危機は乗り越えられる。

 ――だから、強く思え、私は出来ると!

「私だってやれるッ」

 リオは向かってくる棍と人形を引きつける。

 そして、二体の人形からの突進を身を屈め、突進をかわす際に二体の間に持っていたライフルをつっかえ棒のように割り込ませる。

「ウソ、武器を捨てたッ!?」

 驚きを見せるドルチェを後目に、二体はお見合いをするようにライフルに激突する。

 リオはすかさず、飛来した棍を右足で蹴り飛ばすと、直ぐに右側方のポニーテール人形に全力で体当たりをぶちかます。

 流石に質量はふわふわと浮いている人形よりもリオの方に軍配が上がるのは誰の目に見ても明らかだった。

「……ラスト一体」

 ここまでくれば、もう勝ったようなものだろう。リオは片方のサイドテールの人形の懐から外れかけているライフルを掴む。そして、素早く銃身部分を握り、残った一体目掛けてアッパー気味のフルスイングを見舞い打ち上げた。そこからトリガーに指を引っ掛けると銃身から握り柄に持ち替える。

 最後は弾の装填を行い、上空に舞った人形にゴム弾を発射した。

「……よし」

 リオが小さくガッツポーズをとったと同時に模擬戦闘の終わりが告げられた。




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