表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロゥカス!  作者: 結倉芯太
2章
35/45

1.プロローグ



 町の入り口に近づくと、活気のある商人達の声が聞こえてくる。この住み慣れた町を出て二週間程しか経っていないのに、やけに懐かしい気分になる。

 しかし、このような気分になるのも無理はない。

 リオはここ二週間近く、人生において最も濃密で大切な事を経験してきた。魔闘士試験を受験し合格すると、いきなりの『フラッグ』という名の魔闘士戦闘に参加した。魔闘士同士の六対六の旗取り戦。生と死が隣り合わせの戦いにリオは絶望を感じ、間違いなく死を覚悟した。しかし仲間の協力もあって、その絶体絶命のピンチをなんとか凌ぎ、こうやって五体満足のまま、この懐かしき故郷に帰って来られた。

 あの時の経験はリオにとって何物にも代え難いものとなった。そう、ここで得た友情(もの)はリオにとって大切な宝物になったと断言できる。

 両眼に当てていたゴーグルを外し、見慣れた街中を歩き始める。町の入口にある大きな石門をくぐり、路上狭しと(ひし)めく出店通りを通る。

つい最近までは自分も弟もこの路上で雑貨売りの仕事で生計を立てていた。

「お、リオじゃねえか。どこ行ってたんだ?」

「え? まじか? しばらく見ねえから、どっかで娼婦にでも成り下がっちまったかと思ったぜ」

「そりゃねえだろうが、ディエゴがいるんだぜ。リオが弟残してどっかに消えちまうなんざ、絶対ありえねえ」

「そうだそうだ」

 当然、顔見知りの店主達が口々に声を掛けてくる。パン屋、肉屋、果物屋の主人の三人は見た目もがっしりとしていて口も悪い、でも性格までねじ曲がった人達ではない。

「……魔闘士試験、行ってました」

「な、なんだとおっ!? 大丈夫だったのか? どっか怪我とかしてねえか?」

「ううん、大丈夫」

 大袈裟に声をあげる店主に首を振って答える。

「……お前、よく生きて帰って来れたな」

「いや、そんな事より無事で何よりだ! 本当無理すんなよ……」

 その言葉から親身に心配をしてくれているようだ。皆、根は優しい人達なのだろう。

 しかし、リオが魔闘士試験に合格したとは誰も思っていなかったようだ。

「これ」

 リオはパン屋のカウンターに置かれた小麦のパンを指差す。

「……ん?」

「このパンを下さい」

 怪訝そうな顔で見返すパン屋の主人にそう言ってやると、笑い飛ばされる。

 リオが指差したパンは、普通の家庭でも滅多に口にする事が出来ない上質な小麦で作られたパンである。それにリオ自身、一般家庭で食べられる大麦の固いパンですら、買った事がないのだから、笑われても不思議ではないし、リオもそう思っている。

「このパンを下さい」

 だからこそ、もう一度繰り返す。今度はその小麦のパンに見合った硬貨を取り出して。

 そして精一杯の笑顔を込めてもう一度。

「このパンをわたしに下さい」

 店主達は先ほどの様にわたしを笑う事はなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ