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ロゥカス!  作者: 結倉芯太
1章
32/45

30.ソーザとミシェル


 意識が遠のき、体が軽い浮遊感に包まれる。

 気がつくと、一面に広がる白い雲の上に立っていた。

 空は極めて蒼く、風は爽やかで、とても心地よかった。

 そんな雲上の中、一人ポツリと行き先の分からない一本道を歩く。

 自分は何を目指していたのだろう。ふとそう思い考える。

 何かが欲しいわけでもないし、今更やりたいこともない。

 自分の人生は、彼女の為に費やすと決めたのだから。

 そういえば、彼女は何処にいったのだろう。

 辺りをキョロキョロと迷い犬のように見渡すけれど、誰もいやしなかった。

「参ったな」

 独りごち、雲上に敷かれた真っ白な道を進むと、道は少しずつ上り坂になってきた。

 それをさらに進む。

 しばらくすると、雲の丘の上に一軒の小さな小屋が見えてきた。

 この小屋……。何か、懐かしい気持ちになる。

 親しみの持てる外観と、嗅ぎなれた匂い。

 自然と扉をノックする。

 コン、コン、コン

「はーい」

 聞こえてきた女性の声に胸の奥が熱くなり、心拍数が跳ね上がる。

 更にノックする。

 コン、コン、コン

「はい、はーい」

 涙が溢れる。今度は眼の奥が熱くて堪らない。

 その声が聴きたくて更にノックを重ねる。

 コン、コン、コン

「ちょっと待ってくださいねー」

 明るく、透きとおった声が返ってくる。

 そして、その声を追うようにトタトタトタ、と可愛らしい足音が聞こえてくる。

扉をゆっくりと開き、彼女が顔を出す。

「お待たせ。よく来たね。泣き虫アレックス君」

 そう言うと、彼女は彼の涙を華奢な指で拭う。

「……参ったな」

 腰の辺りまでのびた長いカラメル色の髪と、空のように蒼い眼、スラリとした純白のサマードレスを着た彼女は、女神のような微笑で出迎えてくれた。

「約束、守ってくれたんだ」

 小さく頷く。

「手のかかる妹だったよ。お前と一緒で」

「それは心外だな~。私のほうがしっかりしてたよ。そうでしょ?」

「ははっ、どうかな。お前に似て、お転婆で底抜けに情熱的で行動派。長所ではあるんだけど、もう少し自重して欲しいといったところかな」

「……ひどいなぁ」

 彼女は唇を尖らせ、拗ねるようにそっぽを向く。

 そういうところが姉妹そろって似てるんだよ。

思わず笑ってしまう。

「で、俺は死んでしまったのかな?」

「そうね、半分正解で半分は不正解」

 彼女は意地悪そうに、人差し指を顔の前で小さく振る。

「私としては、貴方といられるのは幸せだけど、ここにくるのはまだ少し早いみたい。あの子達も淋しがってるしね。しょうがないから、私の魔法で貴方を下界にワープさせてあげようか」

 彼女の冗談にしかとれない言い回しに、軽く肩をすぼめて溜め息をつく。しかし、彼女ならやりかねない。きっと、彼女は生前に魔石か剣にこっそり細工でもしたのだろう。

 彼女はその態度が気に喰わなかったらしく、頬を膨らませる。

「そんな態度だと、無事に帰してやらないよ~」

「いいよ、帰らなくても」

 即答する。これには彼女も参ったようだ。

 こんなに素直に反応されるとは思っていなかったようで、彼女は顔中真っ赤になる。しかしそれも一瞬で、直ぐに嬉しそうに鼻筋に皺を寄せ、笑みを浮かべる。

「残念、貴方にはまだまだ私との約束を守ってもらわなくっちゃね。手のかかる妹にもう少し貴方を貸しといてあげる」

「俺は物かよ」

「あれ? 私のものでしょ」

「ちっ、手のかかる姉妹だな」

「ふふっ、全く」

 二人はそう言うと、小さく笑い合う。

「またね」

 彼女は彼の背後に両手を回し、顔を彼の胸にぎゅぅっ、と押し付ける。

「ああ、またな」

 ソーザはミシェルを抱きしめ、右手で彼女の頭を優しく撫でる。

 ソーザの意識は深く沈んでいく。

 でも、懐に残ったミシェルの感触は絶対に忘れないと心に誓った。



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