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ロゥカス!  作者: 結倉芯太
1章
29/45

27.闇の死神



 アリエルは周囲を見渡す。先ほどまで一進一退の攻防を繰り広げていたホアンは、アリエルの風弾を受けながら、リオの方向へと突進していった。

 コーラーは怪我の為、サミーと一緒にフィールド外へと運ばれた。

 しかし、中央のフラッグが破壊されたことで、パティがダニエルの相手が可能になり、それまで相対していたフランがリオの援護が出来るはずだ。それにアリエルはもう一仕事任されている。

 アリエルは右サイドを疾風のごとく、駆け上がる。目の前にはリオと同じくらい小柄な少女が、スリングショットの紐をギリギリ引いて待ち構えている。土属性の強化玉ということは前半の中央フラッグ破壊で分かっているので、発射のタイミングを見極めて剛玉を避ける。

 アリエルは変速反射した光の弾の軌道すら読みきった経験があるのだ。強化されただけの直線動作するだけの玉など容易にかわせる。

「分かり易いんだって!」

 マイコは素早い動きから、パチンコ玉を連射して放ってくる。

 アリエルは右手の(サン)を真横にぶっ放す。入っている弾は風弾。踏ん張りを効かせずにいると、体はその反動でふわり、と左に動く。

 一つ目の玉を避け、次は左手の(クレッセント)を左下へ打ち込む。浮いた体は、更に右上へ浮き上がる。次にサンを、クレッセントを、交互に撃ちながら空中でマイコの攻撃をさらりと躱していく。

 アリエルは不覚にも楽しいと感じていた。大空へと羽ばたくような浮遊感と、自分の意思の通りに空中を散歩しているかのような開放感は、今まで感じたことが無かった。

 加えてマイコの挙動が上から手に取るように分かる。下からでは見えないものが、上からでは良く見えた。

 アリエルは空中を踊りながら、マイコの目の前まで接近すると、風弾を下方に向けて連射する。当然のことながら、二人の間で土煙が騒然と巻き起こる。

 これが合図だ。

 そして、更に地面に風弾を撃つ。その反動でアリエルはマイコの頭上に飛び上がる。そしてあろうことか、上空に上がったアリエルは逆サイドにいるフラン目掛けて引き鉄を引いた。

「フラン、頼むよっ!」

 アリエルの放った弾は反射特性のある光弾。合図を確認したフランはリオに目配せして、敵陣左サイドを滑走する。そして彼女が煙の中から上空に現れると、水の魔力を込めたチャクラムを目の前にかざす。

「フラン! 少し右っ!」

 上空から見ると、リオがホアンのダガーをライフルの銃身で叩き落しながら、フランへと指示を送る。言われたとおり、フランはチャクラムを少し右に移動させる。そしてアリエルの砲撃は一瞬の光と共にフランを直撃した。

 アリエルの放った光弾はフランの水のチャクラムに反射して、左フラッグを見事貫通する。

 ダニエルはパティの相手をしており、かつ逆サイドから予想外の軌道で襲来した一撃を防ぐことは不可能だった。

 前半、敵に同じような作戦で中央フラッグを一瞬にして破壊されたが、今見た一撃は正にというか言葉通りの『光速』の一撃だった。

 これで第三段階完了した。




「見事に出足を挫かれたぜ。流石だな死神さんよ」

「そりゃどうも」

 にたにたと不気味に唇を歪ませたエステシオに、ソーザは穏和な表情を崩さず対応する。

 この黒人のパワーと技術には恐れ入る。間断なく流れるような攻撃と、しなやかな足捌きでソーザを翻弄する。

「やっと、俺にもそれなりの相手がマッチアップしてくれて嬉しいぜ」

 エステシオの風圧だけでも吹き飛びそうな右アッパーをソーザは紙一重でかわす。

「今までは手抜きだったのかい?」

「いやいや、そんな事はなかったぜ。ただ物足りなかっただけだ。俺が少し本気を出したら、きっと前半で勝負はついてただろうよ」

 確かに言うとおりである。エステシオの戦闘能力は、ここにいる全メンバーの中でも群を抜いている。ソーザも対峙して分かるが、スピード、パワー、経験全てにおいて、魔闘士トップクラスの実力を感じる。『黒豹』の異名は伊達ではないという事を、身を持って実感させられる。もし、エステシオが試合開始から全力で戦闘していれば、この試合は一瞬でケリがついていただろう。

「しかし、こんな辺鄙な場所であんたみたいなビックネームとやれるなんて、俺もついてるじゃねえか。『闇の死神』と呼ばれた凄腕の魔闘士、アレックス=シエロ。てっきりどっかで野垂れ死んだかと思ってたからなぁ」

 ソーザはエステシオの繰り出すワンツーのコンビネーションブローをかわすと、懐に潜ろうと試みるが、エステシオの手の戻りが早く断念する。戻した拳の近くで唇が歪に動く。

「なぁ、なんであんた魔法を使わないんだ? 俺の拳をさっきからずっと避けてるのは、その剣に魔力を注入してねぇからなんだろ?」

 エステシオの言っている事は正解だった。土属性によって強化されたエステシオの打撃を、魔法で強化していないソーザの剣で受ければ、破壊されるのは明白である。

 自身の魔法は極力使用したくない。出来るのであれば、使用せずこの男を撃破したかったのだが……そういう思いがソーザにはあった。

 しかし、このままでは体力的に劣るこちらが不利になる。数的有利な現状であるが、絶対的な存在であるエステシオは絶対に撃破すべきだ。出来なければ、ソーザを殺った後、この男はアリエル達まで、確実に手をかけるだろう。

 ソーザは腹を括る。




 ――だから貴様エステシオも覚悟しろ




「……じゃあ、覚悟は出来ているんだろうな? 俺の属性が何かは分かっているんだろう? なら案内してやるよ。恐怖と絶望の世界にな」

 そう言い放つと、ソーザは魔力を解放する。肩越しに黒く禍々しいオーラが、噴煙のようにたちこめる。魔力を解放したソーザはエステシオに向けて忠告する。

「今から繰り出す俺の剣撃をお前は受け止めないほうがいい。……いいか受け止めるなよ。こいつは最初で最後の警告だ。まぁ、自信があるのなら受けてもらっても結構だがな。そっちの方が俺も助かるしな」

 黒の死神は冷酷な笑みを浮かべ、エステシオと対峙する。


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